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 かつてと言っても1980年代のことですが、「ふくい国際ビデオビエンナーレ」で初期ビデオアート作品を回顧する特集が組まれたことがあります。ビデオが個人でも扱える新しいメディアとして普及し始めたのは1970年代で、80年代当時から見て約10年前を振り返り、その意義を検証する試みでした。80年代はナム・ジュン・パイクが来日するといった出来事もあり、ビデオアートが一種の社会的ブームとなって、広く一般からも注目されていた時代です。しかしながら初期作品を見る機会はほとんどなく、この特集は非常に貴重なものとして高く評価されました。

 70年代の作品は、ビデオテープの編集がまだ一般向けの機器では困難だという、技術的な限界はあるものの、それを逆手に取り事件現場を長廻しで延々と撮り続ける等、より根源的にメディアと向き合う姿勢が鮮明に表れていました。しかし作品の中には、画像が激しく乱れ、ほとんど何が写っているのかも分からず、残っているのはほぼ音声のみといったものもあり、約10年というそれほど遠くない過去なのに、映像が消滅しつつある状態を目の当たりにして驚かされたのです。

 この時、先端的なメディアを用いた表現として、華やかな存在であったビデオアートも、10年くらい経ったら画像が消滅して、見ることすら出来なくなってしまうのだろうか、そんな不安が頭によぎりました。面識のあるビデオアーティストに、ビデオテープはどれくらい先まで残るのだろうか尋ねた際、70年代はテープの素材があまり良くなかった事情もあるので、20年くらいは持つのでは、という答をいただいたこともあります。

 当館が開館して25年の節目を迎えた今、縁のある方々からのお祝いのメッセージもいただきました。

http://www.aac.pref.aichi.jp/25th_interview/

 しかしこの25年という歳月は、ビデオ作品の保存という観点からは、テープの状態はどうか、画像には乱れがなく正常か等々を検証してゆかねばならない時が来たことも意味しています。

 その一環として現在取り組んでいるのが、岩井俊雄『愛知芸術文化センター・シンボル映像』(1992年)の、リマスター版作成です。この作品は地下2階のマルチビジョン等で正時ごとに放映され、来館者に時刻を知らせる役割を持った、一種の環境映像です。開館当時この作品はレーザーディスク(LD)とβカムで納品されましたが、実は完成原版(マスター)はD2というフォーマットでした。このD2マスターから新たに館内放映用のデータを作成すれば、現状より美しくより鮮明な画像でご覧いただけることになります。

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 しかしながら制作より25年以上が経過したD2テープは、まだ再生可能なのかという不安があります。また当館にはD2を再生するデッキがなく、新たなコピーを作成する作業は外部のスタジオで行わねばなりません。調査の結果、名古屋では対応できる会社は見つからず、映画フィルム修復等で高い評価を受けている、大阪のIMAGICAウェストにお願いすることになりました。大阪までテープを搬送し、まずはD2の状態確認です。幸い今も再生可能で、目立った画像の乱れもありませんでした。リマスター作成後は、館内の放映システムに画像を取り込んで...、とまだまだ作業は続きますが、いずれより美しくなった本作を皆様にご覧いただけそうな見通しです。

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(T.E)

 11月21日(火)-24日(金)、26日(日)に開催した「第22回アートフィルム・フェスティバル」で、目玉となる作品の一つにクリス・マルケルの『レベル5』(1996年)がありました。プログラム上は〈渡辺真也『Soul Odyssey ユーラシアを探して』名古屋初上映 パイクとボイス、そしてマルケル〉を構成する一本となるのですが、この上映会で二回上映するのも、海外作品で新規に日本語字幕を作成したのもこの作品のみなので、上映スケジュールに目を通した方であれば、本作が特別な扱いであることは分かるでしょう。

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クリス・マルケル 『レベル5』 1996年 Level5

 上映前のアナウンスでも伝えたことですが、この映画の日本初上映は「山形国際ドキュメンタリー映画祭1997」でした。この映画のナレーションを翻訳された、クリス・マルケル・ファンクラブの福崎裕子さんから、この時マルケルの指示により、事実関係を正す意図で翻訳に際し修正した箇所が二つほどある、という興味深いエピソードを伺うことができました。つまり日本語字幕の方が内容的には正確、ということになるのだそうです。

 今回『レベル5』に新たに字幕を付けて上映することになった経緯として、渡辺監督が『Soul Odyssey』の制作に際し、マルケルが創始した「フィルム・エッセイ」の手法を参照していたという影響関係に加え、作中に『レベル5』を引用していて、その引用箇所使用に際し、『レベル5』を制作・配給したフランスの映画会社「アルゴス・フィルム」とのつながりができたことが挙げられます。つまり渡辺監督を通じて交渉することで、今回、本作上映への活路が見出せるのでは、という読みがありました。

 

 現在開催中の企画展「長沢芦雪展」では、和歌山県にある無量寺が所蔵する障壁画を展示しています。この障壁画は、1786年10月頃に、芦雪が師の円山応挙の名代として作品を届けに南紀に赴いて翌年2月中旬まで滞在した折、現地の寺院や個人のために制作した作品群の1つで、芦雪33歳の作品です。今回の展覧会では、この無量寺の仏間を中心とした寺院建築を再現し、障壁画を展示しています。

 この再現にあたっては、施工を請け負ったディスプレイ会社が、建物の約10分の1の縮小模型を作りました。現場でも模型を見ながら再現に取り組みました。

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施工風景

 愛知県美術館では、長沢芦雪展会期中の11月に各種教育プログラムを実施します。そこで、精巧に作られたこの建築模型を、視覚に障害のある方との鑑賞会で活用する案が浮上しました。コレクションの彫刻作品を直接触察する従来の鑑賞に加えて、模型に触れながら芦雪の作品の鑑賞が出来たら、臨場感ある鑑賞が出来るに違いありません。

 そこで、現在、高校生プログラムを準備中の高校教員と大学生にも協力を依頼し、コラボすることにしました。実は、この高校生プログラムでも、障壁画の虎図を参考に水墨画を体験し、襖と仏間に見立てた紙材で、ミニチュアの空間を再現することにしています。

 こうして、高校教員の指導の下で大学生が集まり、模型を作りこむことになりました。

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ささくれをサンドペーパーでとる作業

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欄間の取り付け

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仏間の飾りつけ

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紙粘土による仏間の欄間

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襖の引手部分

 模型に貼られた襖の画像は、無量寺で発行している図録の付録にあった展開図を模型に合わせて拡大しています。襖を模型にはめ込む作業は苦労したとのこと。合板のままの模型では木のささくれなどで触察が厳しいことが問題でしたが、サンドペーパーをかけ着色して滑らかな手触りにしています。また、仏間の欄間は紙粘土で成形して色彩とニスを塗るなどして、手の込んだ作業となっています。紐飾り、畳など、100均ショップで集めた材料ながら、見かけは本物に迫る出来栄えです。4時間ずつ3日で作業し、見事仕上がりました。先生、大学生の皆さんご協力有難うございました!

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完成

 せっかくの出来栄えなので、是非、ご来館の多くの皆様にも見ていただきたく、フォトスポットに設置することにしました。展示室では実物を撮影できませんが、展示室外のこの模型なら撮影OKです。写真に撮ってみると、本物に見まごうばかり。是非フォトスポットにお越しください!(M.F.)

 大変有難いことに、近年多くのお客様に愛知県美術館に来て頂いております。その中には愛知県外からのお客様も多く、中には最寄り駅である栄駅からの行き方が分かりにくかった、というお声も頂いております。

 おそらく当館が単独の施設ではなく、「愛知芸術文化センター」という複合施設の中にあることにも起因しています。なので、駅からの案内に愛知県美術館という表示がない場合は、

愛知芸術文化センター」を示すルートに従って頂ければと思います。

 とはいえ、遠方から初めての方には難しい点もありますので、ここでは写真付きでその詳細をお伝えいたします。

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 地下鉄の栄駅に着いたらオアシス21へ向かう「4A出入口」方面の「東改札」を目指してください(名古屋駅から東山線でいらっしゃる場合は、進行方向に向かって一番先頭の車両に乗ると便利です)。

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 そのまま階段を上って正面にある改札を出て直進します。

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 すると左手に、下に降りる階段とエスカレーターがあるので、下りてください。

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 さらに進むと広い場所(オアシス21)に出ます。右手にマクドナルド、正面に観光案内所があります。その間の道を、カーブを描く建物に沿って反時計回りに歩きます。

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 しばらく歩くと三菱東京UFJ銀行のATMの脇に連絡通路があるので、通路を奥へ進むと愛知芸術文化センターの地下2階に到着します。そこからエレベーターで10階に上がると愛知県美術館です。

皆様のご来場を心よりお待ちしております。(T.I)

 7月1日より開催している大エルミタージュ美術館展も間もなく終盤。すでに10万人の方々にお越しいただいております。

 さて、今回は展覧会の関連イベントとして催された二つの記念講演会についてレポートします。

 7月22日に開催された一つ目の記念講演会は、本展監修者で、成城大学名誉教授の千足伸行先生による「名画と出会う日:エカテリーナ2世とエルミタージュ美術館」です。

 千足先生は名古屋に巡回した過去の2回の大エルミタージュ美術館展(2006-07年、2012年)の監修者でもあり、エルミタージュ美術館の膨大な絵画コレクションに精通されているのはもちろんのこと、長きにわたりエルミタージュ美術館と深い信頼関係を築いてきた方です。本講演では、エルミタージュ美術館のコレクションの成り立ちや展覧会の出品作について、じっくりと1時間半ほどお話しくださいました。

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 また本展覧会の図録には、論文として「オールドマスターの世紀:バロックからロココへ」と「コレクターとしてのエカテリーナ2世とその周辺」をご執筆くださいました。いずれも本展をより深く理解するうえで欠かせない内容が論じられています。

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 さらに8月19日には、二つ目の記念講演会として大阪大学名誉教授の生田美智子先生に「エカテリーナ2世の時代――光太夫のみたロマノフ王朝」という題名で講演をいただきました。

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 両氏の講演会の題名にも登場するエカテリーナ2世は、エルミタージュ美術館のコレクションの礎を築いた18世紀後半のロシア皇帝です。大黒屋光太夫は現在の三重県を拠点として、同時代の江戸後期に活躍した船頭で、当時ロシア領だったアラスカ沖の島に漂着し、ロシアを横断して首都サンクトペテルブルクでエカテリーナ2世に謁見、交渉の末に帰国の船を出させたという驚くべき日本人です。日本史の授業でその名を耳にした方も多いのではないでしょうか。本講演会では、『大黒屋光太夫の接吻 異文化コミュニケーションと身体』の著者でもある生田先生に、光太夫が未知の国ロシアで発揮した類稀なコミュニケーション力や、彼が見た18世紀後半のロシアについて詳しくお話をいただきました。

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 愛知県美術館では学芸員による解説だけでなく、ゲストをお呼びした多彩なラインナップの講演会などを開催しております。さまざまな分野の専門家たちが、それぞれの視点で愛知県美術館の展覧会やコレクションについて語ってくださいますので、ぜひチェックしてみてください。(K.K.)