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そして『レベル5』の上映は続く

2017年12月05日

 11月21日(火)-24日(金)、26日(日)に開催した「第22回アートフィルム・フェスティバル」で、目玉となる作品の一つにクリス・マルケルの『レベル5』(1996年)がありました。プログラム上は〈渡辺真也『Soul Odyssey ユーラシアを探して』名古屋初上映 パイクとボイス、そしてマルケル〉を構成する一本となるのですが、この上映会で二回上映するのも、海外作品で新規に日本語字幕を作成したのもこの作品のみなので、上映スケジュールに目を通した方であれば、本作が特別な扱いであることは分かるでしょう。

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クリス・マルケル 『レベル5』 1996年 Level5

 上映前のアナウンスでも伝えたことですが、この映画の日本初上映は「山形国際ドキュメンタリー映画祭1997」でした。この映画のナレーションを翻訳された、クリス・マルケル・ファンクラブの福崎裕子さんから、この時マルケルの指示により、事実関係を正す意図で翻訳に際し修正した箇所が二つほどある、という興味深いエピソードを伺うことができました。つまり日本語字幕の方が内容的には正確、ということになるのだそうです。

 今回『レベル5』に新たに字幕を付けて上映することになった経緯として、渡辺監督が『Soul Odyssey』の制作に際し、マルケルが創始した「フィルム・エッセイ」の手法を参照していたという影響関係に加え、作中に『レベル5』を引用していて、その引用箇所使用に際し、『レベル5』を制作・配給したフランスの映画会社「アルゴス・フィルム」とのつながりができたことが挙げられます。つまり渡辺監督を通じて交渉することで、今回、本作上映への活路が見出せるのでは、という読みがありました。

 


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渡辺真也監督による講演

 『レベル5』はマルケルの代表作の一つで、かつ日本を舞台にした作品であるにも関わらず、限られた形でしか鑑賞できなかった理由に、この作品が沖縄戦の忘却というデリケートな主題を扱っているのに加え、ナレーションの情報量が多くそれを字幕に落とし込むのが難しい点がありました。今回は上述の「山形」や「オールピスト東京」等での上映で、福崎さんが作成された同時通訳原稿を元に、渡辺監督が字幕を作成しています。福崎さんは今回の字幕チェックもされており、97年の初上映からこれに携われいるので、実に20年を要した訳です。上映が困難であるが故に、この映画がより強く人を惹きつけ、動かしてきたのだと言えるかもしれません。今回の上映が、こうした流れに連なるものだと思うと、実に感慨深いものがあります。

 しかし、こうした思いだけで映画の上映が成立する訳ではないのです。字幕制作にはそれなりに費用がかかり、当館単独では経費的に難しいというもう一つのハードルがありました。そこでこの作品に興味を持ちそうな他地域の上映施設に声掛けして、字幕制作費を分担することで、予算内に収めることが出来ないかと模索したのです。結果的に同志社大学、神戸映画資料館、そして東京のアテネ・フランセ文化センターの賛同を得て、全国4ヶ所での上映という形での実現に到りました。

 上映会という鑑賞形式の醍醐味の一つに、映画上映終了後に、本来は見知らぬ他人どうしの観客が共感して、不思議な一体感に包まれるという体験があります。実はこうした体験は、優れた映画に出会うことが前提であるのはもちろんですが、それだけで毎回起きる訳でもなく、観客の皆さんが作り出す高揚感がないと成立しません。愛知での『レベル5』上映後には「今まで見たドキュメンタリーの中で最高だった」、「DVDは入手できないのか」等々の声をいただき、久しぶりに企画者としてその空間を共有する幸福を味わいました。

足を運んでくださった皆様に感謝申し上げます。そしてこの波動が京都、神戸、東京に広がることを願っています。

(T.E)