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《黄金の騎士》お出迎え日記―クーリエの仕事―

2008年09月21日

 愛知県美の看板作品、グスタフ・クリムトの《人生は戦いなり(黄金の騎士)》は、5月から8月末日までイギリスのテート・リヴァプールで開かれた展覧会Gustav Klimt: Painting, Design and Modern Life in Vienna: 1900に出かけてお留守でした。

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▲テート・リヴァプールの外観

 海外の美術館などと作品を貸し借りする場合、所蔵館の人が輸送や展示作業などに立ち会うことがよくあり、その人たちをクーリエ(courier)といいます。このたび私がクリムトをお迎えに行ってきましたので、裏方の仕事としてちょっと詳しくご紹介します。

 9月2日朝セントレアを発ち、飛行機と鉄道を乗り継いでリヴァプールに着いたのは22時半頃(日本時間3日6時半)。翌朝さっそく仕事です。ビートルズ誕生のこの市は世界遺産に登録された港町で、テートはドックにある古い煉瓦造りの倉庫を改造した美術館。展示室の壁の上にも煉瓦が見えます。《黄金の騎士》は黒く塗られた壁にカッコよく飾られていました。日本からもう1点の貸出者、豊田市美術館の学芸員K氏も点検・梱包作業中。

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▲展示の様子

 テートの保存担当者と一緒に絵と額縁を懐中電灯で照らしながら、貸出し時に作った調書と見比べて新しいキズや絵具のひびなどがないことを確認。壁からはずした作品を包み、輸送用のクレート(木箱)に収めます。箱の中は作品を衝撃や空輸時の温湿度変化から守るため、紙・ウレタンやスポンジのクッション・木製内蓋・発泡スチロール板・断熱防湿シート・摩擦防止シートなどで何重にもなっています。現地の習慣では、クレートも作品も立てたままで作業をするよう。なるほど、キャンバスがたるんでいる場合などは立てたままがよさそうですが、今回はクッションの中に作品をグイグイ押し込んだりしないよう、収納時には水平に寝かせてもらいました。

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▲木箱に収納された《黄金の騎士》

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▲収納完了!


 4日は空港があるロンドンまでトラック輸送。発着や急ブレーキ時に画面が揺れないよう進行方向と平行に向けて積み、ベルトで固定し ます。同じ車に豊田市美とニューヨーク近代美術館、オーストラリアの国立ヴィクトリア美術館の作品が積まれ、米・豪からは若い女性が来ていました。この展 覧会では約50館からクーリエが来たらしく、往復のべ100人!!作業時間や輸送ルートなどの調整だけでも大変ですが、借りる側は作品の輸送・保険料のほ か、クーリエの渡航・滞在費も負担しなければいけないわけです。展覧会で1点の作品を借りるために、出品交渉から始まってどれだけ手間と時間と人手と経費がかかっているか考えると、地味(?)な作品でも素通りしては申し訳ない気持ちになりますよね。

 この日作品はロンドンの美術品輸送業者倉庫で一晩泊まり、翌5日ヒースロー空港へ。愛知・豊田の2点は、安定のため他の大きな箱と一緒にビニールシート や網をかけられ、貨物専用のカーゴ便に。機体は747ですが座席は最前方に6席だけで、K氏と私、イギリスの添乗員の3名が乗り込みました。クリムト2点の保険評価額は合わせて約35億円、私たちの生命保険額より遙かに高い主客です。約11時間の航行で日本時間6日の16時に成田到着、18時トラックに積 み替えてようやくホッとしました。東京の美術品倉庫に仮置きし、翌朝またトラックに積んで豊田市美を経由し愛知県美に帰還しました。

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▲トラックに積み込み/右の女性はテートの担当者さん

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▲貨物便用の梱包

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▲成田での積み替え作業

 帰ってきた《黄金の騎士》は、10月17日からの所蔵作品展で約7ヶ月ぶりに展示されます。どうぞまた会いに来て、長旅をねぎらってあげてください。

(TM)