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林望氏講演会「私にとってのアーツ&クラフツ」レポート!

2009年07月05日

 6月26日(土)に行われた、林望氏による講演会「私にとってのアーツ&クラフツ」のご報告です。
「リンボウ先生」の愛称で有名な林氏は、近世書誌学が専門の日本文学者であり、またケンブリッジ大学・オックスフォード大学で研究のためイギリスに滞在した体験から、イギリスの食文化・イギリス人の食生活に関する著書を発表するなど、イギリスに造詣が深い方です。というわけで、今回の記念講演会が実現しました。

さて、先生は演壇に上がるとすぐに、集まった多くの聴講者の心をつかんでしまいました!先生はなにやら鉄でできたものを、控え室から講演会会場までずっと大切そうに、まるで犬を連れて歩くかのように持ち歩き、壇上に置きました。イギリスのとある骨董屋で出会ったこの鉄の代物は「フット・スクレッパー」といって、靴の裏についた泥を落とすために使うもの。シンプルで美しいデザインだけれど、日常の生活にとても便利そうです。骨董屋の店主に「アーツ&クラフツのフット・スクレッパー」という説明を受け、アーツ&クラフツに関心を持ち始めたそうです。

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↑フット・スクレッパーを持ち上げて説明する林先生 鉄製なので結構重いです!

講演の内容は、アーツ&クラフツ運動が抱えた矛盾に焦点が当てられました。デザイナー、ウィリアム・モリスを中心に始められたアーツ&クラフツ運動は、機械生産による日用品を、中世の職人のように手仕事によって芸術性の高い品へ変えることを理想とし、そうした装飾品によって囲まれた精神的に豊かな生活、そして社会を目指しました。しかし、技術や素材のよさにこだわったばかりに、制作された品は非常に高価なものになり、結局裕福な人の生活にしかアーツ&クラフツ運動は及ばなかったのです。

一方、アーツ&クラフツが果たせなかった理想を昔から実現していたのが日本であり、食器や伝統的な日本の住空間の図版を通して、大衆の生活にいかに芸術が根付いていたかを示してくださいました。またこうした日本の芸術が19世紀に西洋に伝わり、「ジャポニスム」として、日本の芸術の本質である「生活の中の美」が影響を及ぼしているという興味深いお話でした。

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↑本阿弥光悦の舟橋蒔絵硯箱

江戸時代初期の書家、陶芸、漆芸、出版、茶の湯などにも携わったマルチアーティストの本阿弥光悦とウィリアム・モリスとの共通点を指摘!

展覧会では日本の芸術とアーツ&クラフツの関わりについては民芸運動を中心に紹介していますが、林先生のお話ではアーツ&クラフツ運動の問題点や限界に言及し、日本のより本質的な美学に踏み込み、アーツ&クラフツ運動との関係や比較をご紹介していただきました。先生のお話を聞いて、日本人として誇らしい気持ちになりました。


(M.M.)