ピエール・ボナールの《子供と猫》(1906年)という作品、ご存知でしょうか。当館のコレクションの1点、小作品ですが、少女と2匹の猫が描かれたかわいらしい作品です。
この作品が、フランスのラングドック地方にある山間の小さな集落、ロデヴという町の美術館の展覧会へ貸し出されました。

↑町の周囲を川が流れる
ボナールのナビ時代から晩年までの作品を70点ほど集めた「ボナール、日常のすぐれた観察者」という展覧会です。
この展覧会は10月29日で終了し、クーリエとしてこの美術館へ出かけました。クーリエとは、作品の搬送に付き添い、作品状態を確認するという仕事です。
ロデヴ美術館に着いて最初に驚いたのは、建物が非常に古い造りだということです。美術館として使用されている建物は、ルイ15世の司祭を務めたフルリー家の邸宅です。中央の庭を四角く取り囲むこの建物は16ー17世紀に建造されたものです。


展示室に入り、ボナールの作品と対面。

↑黄色い壁に掛けられて、普段とは少し違った表情
まだ学芸員になって間もない頃、作品の貸し出し業務を担当していたのですが、先輩から「作品を貸し出すときは、自分の子供をよその家族に預けるような気持ちで」といわれたことがあります。こうやって他の美術館で久しぶりに作品を見ると、普段以上に親しみ深く感じます。
感慨にひたるのもつかの間、早速クーリエの仕事に取りかかります。まずは展覧会の担当者の方と展示中の様子を聞きながら、作品の状態チェックをします。それが終わると、作品を運ぶための木箱に納めます。この木箱は今回の輸送のために特別に制作されたものです。的確な素材を用い、寸法も完璧で、安全面でもしっかりしたこの木箱に、ロデヴ美術館のスタッフは感心しきり、「素晴らしい!」と大絶賛でした!
↑本来はセキュリティー上お見せできない木箱の中身。今回は一部ご紹介。箱の中の銀色のシートは、水漏れ防止、断熱、気密性を保持する優れもの。
さて、今回のクーリエ業務、ここからが大変でした。
朝7時美術館から作品を搬出。そのため早起きしてホテルを出ようとしたら、なんとホテルの玄関が閉まって出られない!受付には人がいないし、美術館に電話しても誰も出ないし、ホテルの中をおろおろ行ったり来たり。ようやく7時になってホテルの従業員さんが出てきて、玄関を開けてもらい、美術館へダッシュ!搬出が終わるとすぐにトラックに乗り、パリへ向かいました。フランスを南北へほぼ横断し、なんと12時間にも及ぶ道のりでした。パリに着いたのは夜の9時、美術品輸送会社の倉庫に作品を搬入し、近くのホテルへ直行、翌朝は6時45分ホテル発という、なんともハードなスケジュール(涙)。再び作品を倉庫からトラックに乗せ、空港へ。ここで飛行機に乗せる荷物と一緒に作品が荷造りされるのに立ち会うのですが、作業が一向に始まらない!結局1時間半も待機状態でした。理由は、飛行機会社のスタッフたちが朝食に出かけていたとのこと…(またまた涙)。12時ごろ作品を飛行機に乗せて、ようやく一息。
翌日関西国際空港へ到着(本当は中部国際空港へ到着したかった…。出発のまさに5日前にパリ名古屋間直行便が閉鎖という不運…)、半日かけて名古屋へ移動。こうして、長い輸送にも耐え、作品は元気に美術館に戻りました。
このように、とんだハプニングにも遭遇してしまう大変なクーリエ業務ですが、よい事もあります。普段個人では行けないような美術館では、情報の少ない希少なコレクションを知ることができます。ロデヴ美術館には、パスキン、スーチン、キスリングなど特にエコール・ド・パリや、デュフィの作品がありました。また美術館との交流も生まれます。今回はロデヴ美術館館長でフォーヴィスムの専門家マイテ・ヴァレ=ブレッド氏と面識を得ることができました。今後、当館との協力関係にプラスになることと思います。
(MRM)