2012年03月12345678910111213141516171819202122232425262728293031

 「魔術/美術」展の担当者は先日、お休みを利用して野外民族博物館リトルワールドへ行って来ました。東海地方の方々にはお馴染みの場所ですね。

 なぜ「魔術/美術」展でリトルワールドへ、と疑問に思う方も多いかもしれませんが、その大きな目的は「博物館の展示メソッドを学ぶ」です。いわゆる美術作品だけではなく、古遺物や民族学的資料も多数展示される魔術展。通常の愛知県美術館の展示方法とは異なる展示に挑戦するべく、リトルワールド見学というわけです。

  実際、意識してみると近代美術館の展示スタイルと文化人類学に基づく博物館の展示スタイルは意外と違うことに気づかされます。例えば、美術館では立体物を展示する場合、一点一点を独立して見られるよう適度に間隔をあけて横に並べることが多いです。

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↑現在開催中の「うつし、うつくし」の展示風景です。銅鐸や瓦も台に並べています。
 
 
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↑こちらは所蔵作品展の様子。作品それぞれのベストアングルを見せられるように、立体と平面の配置を考えています。
 
 
一方、博物館の場合は空間全体を意識した展示を行います。文化というものを総体的に見せることが目的だからでしょうか。
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↑リトルワールドの展示風景。左右だけでなく、上下、手前と奥など三次元を活かした展示になっています。迫力がありますね。
(*リトルワールドより許可をいただいて写真を掲載しております)。
 
 
もちろん、こうした展示方法に対する挑戦も最近では数多く行われています。その筆頭がパリに2006年にオープンしたケ・ブランリ美術館。アフリカ、アジアなどヨーロッパ以外の地域の装飾品や民具などを数多く所蔵している施設ですが、施設名からも明らかなように博物館というよりも美術館に近しい展示方法をとっています。その結果、これらの展示物は「民俗学的資料か、それとも美術作品か」をめぐって議論が起こりました。その論争も含めてとても興味深い施設です。http://www.quaibranly.fr/
 
ちなみに担当者二人は、リトルワールドのお土産にアフリカのお面フィギュアを購入。お面に展覧会の成功をお祈りしたいと思います。
(F.N.)
 

*ブログ編集担当者より

リトルワールド本館展示のテーマ別ビデオは必見です。

うつし、うつくし展が始まって1ヶ月を過ぎ、展覧会をご覧になられたお客様からは、たいへん好評をいただいております。


「うつし」ということに焦点を当てて展覧会を構成するという発想のもとになったのが銅鏡だというと驚かれるかもしれません。
木村定三コレクションにはまとまった数の銅鏡があり、現在7面を展示しています。

(木村コレクションの銅鏡については、2012年2月21日のブログ記事でも紹介しています。)

 

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↑ 展示中の銅鏡(一部)


門外漢ながら銅鏡のことを調べていく中で、鏡背が同じ図柄のいわゆる同型鏡の中に「同笵鏡」と呼ばれる類の鏡があることを知りました。

「同笵鏡」というのは、同じ雌型から鋳出された鏡のことで、展示中の三角縁神獣鏡にも同笵鏡が一面あることが確認されています。

 

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↑ 三角縁神獣鏡(部分)。いちばん外側の縁の断面が△の形をしています。


この「同笵鏡」をつくるのと同じような工程・作業が、近代彫刻の世界では石膏原型からブロンズ彫刻をつくる場合でもおこなわれていることに気がつきました。  

(  ブロンズ彫刻の鋳造については、2012年3月5日のブログ記事で詳しく説明しています。)

 

考古遺物としての銅鏡も近代の美術作品としてのブロンズ彫刻も、つくられる過程で「うつし」という行為が介在しているという点で共通しているのです。

 

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↑ 戸張弧雁の石膏原型(真中の2体)とそれぞれのブロンズ作品


これを出発点として、版画はもっともわかりやすい「うつし」の例になるとか、絵画の場合はどのような「うつし」があるのかとか、発想を広げていってできたのがこの展覧会です。


昨年島根県立美術館で開催した「ふらんす物語」や杉本健吉による「新・平家物語」挿絵も展示していますが、すべてがワンコイン(500円)でご覧いただけます。

 

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あと2週間で終了しますので、早目のご来館をお待ちしております。


(H.F.)

現在、当館で開催中の「フランス物語 ふたたび」では、オーギュスト・ロダン(1840-1917)の《歩く人》を展示しています。

今回は、主としてブロンズ鋳造という側面からこの作品をご紹介しましょう。

 

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↑ オーギュスト・ロダン 《歩く人》 1900年

 

ロダンの作品の多くは、彼自身が制作した石膏像(石膏原型)をもとに、そこから金属に移し替えた「ブロンズ鋳造作品」です。

その工程をごく簡単に説明しますと、まず、石膏原型から雌型(外型)と呼ばれる凸凹逆の型を取り、これに溶けた金属が流れ込む隙間ができるように中型(中子)を作って組み合わせます。ここに高温で溶かした銅合金を流し込み、冷えて固まったら型を壊してブロンズ像を取り出します。これに細部を調整を行った後に、パティナと呼ばれる着色をしてブロンズ像ができあがります。

そのため優れたブロンズ作品を作るためには、実際に鋳造ならびに着色に携わる人たち高度な技術が必要になります。当館所蔵の《歩く人》は、この鋳造と着色が特に優れたものとして高く評価されています。

美術館での収蔵以前にこの作品に添えられた鑑定書(1991年作成)で、エルセン(A.Elsen)という著名なロダン研究者が「《歩く人》のオリジナル・サイズの最も優れた鋳造の一つ」と評価し、「生前鋳造の可能性が高い」と言って賞賛しています。

生前鋳造という意味は、ロダンのブロンズ鋳造作品は、現在でも国立ロダン美術館での管理の下で、作品ごとに鋳造可能な数を決め、厳しい管理のもとではありますが新しい鋳造が行われています。

ですから、同じ作品のブロンズ鋳造でも、ロダンの生前のものから没後の、それも近年のものまで、さまざまな時代に鋳造されたものがあるわけです。

それを専門家は区別し、また、没後のものでも、何時ごろどこで鋳造したかを留意しています。

 

では、この《歩く人》の鋳造に関する幾つかの特徴をご紹介しましょう。


まず、作品の台の部分には「Alexis.Rudier.Fondeur.Paris」という鋳造銘があります。

 

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↑ 《歩く人》の台に見られる鋳造銘。


このアレクシス・リュディエ鋳造所は、ロダン生前から親子二代に渡り、彼の作品の鋳造を中心的に行ってきたことで知られています。この銘があることでロダンの生前から、没後の1952年までの間に鋳造されたことが確実になります。


次に、台の裏側には「A.Rodin」という文字がレリーフとしてつけられています。

 

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↑ 《歩く人》台の裏面に見られる「A.Rodin」の銘。


これはロダン没後まもなくの1918年から19年にかけて、不法な鋳造が横行したために、それと区別するためにアレクシス・リュディエ鋳造所で付けるようになったと言われていますが、それ以前のものにもこの「A.Rodin」の付けられたものもあるとのことです。

 

そして、このブロンズ鋳造作品の顕著な特徴として、《歩く人》を表した身体部分(立像部分)と、台の部分が、実は分割して鋳造され、後に金具で接合されているということです。

 

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↑ 《歩く人》台の裏から見たところ。

 

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↑ 左足が台と接合されている部分を拡大。


通常のブロンズ鋳造では、身体部分(立像部分)と台は一体のものとして鋳造されます。

ところが、この《歩く人》は、このように、とても手間がかかり高度な技術が必要な鋳造方法が採用されているのです。

それは像の脚部と台の接合部を強化し、取り扱いの際などに力のかかるこの部分に、長い年月を経ても亀裂が生じないための配慮だと思われます。

この接合部分は、おそらく鋳造されてから1世紀近い時間を経ていますが、それでもなお外からの観察では、ほとんど痕跡すら見つけられないほどの仕上がりなのです。

このような台と身体部分を接続する技法は、1920年代までに鋳造されている国立西洋美術館、松方コレクションのブロンズ鋳造作品と共通するとのことです。

そしてパティナと呼ばれる着色も、やはり松方コレクションのなかでも、優れた着色のものと同じような色合いや質感をそなえています。

以上のことから、この当館所蔵の《歩く人》は、ロダンの生前か、没後もそれ程時間を経ていない、1920年前後に鋳造されたものと推定できるわけです。

 

現在開催中の「うつし、うつくし」展では、戸張孤雁の代表作《煌く嫉妬》の石膏原型とブロンズ鋳造作品が比較していただけるように展示されています。

それも参考にしていただき、この機会に当館自慢のロダン《歩く人》を、ぜひご覧ください。


(M.M.)
 

愛知県美術館では、現在「うつし、うつくし」展を開催中ですが、次の企画展の準備も着々と進んでいます。


4月から開催予定の「魔術/美術――幻視の技術と内なる異界」展の前売券が本日販売開始となりました。

前売ですと一般は700円、高校・大学生は400円でチケットをご購入いただけます。(それぞれ当日より200円お得です。)

販売は4月12日までとなりますので、お早めにお求めください。


前売券発売と同時にポスター・チラシも作成しました。

巷で「かわいい!」と話題の魔術展ポスター・チラシ、全部目にすることができたらラッキーかもしれません!

 

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↑ 「魔術/美術」展ポスターとチラシ。

 

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↑ チケットはこれまた雰囲気が違います。券種によって色が違うので、全部集めたくなる??

 

さてさて、宣伝ばかりでなく、ここでこの展覧会をきちんとご紹介したいと思います。

この企画は「愛知・岐阜・三重三県立美術館協同企画」の第6回目となります。

2004年に三重県立美術館で開かれた「20世紀美術にみる人間像」展から始まったこの協同企画は、地理的に近いこれら3つの県立美術館が協力し、互いの所蔵作品を活用しながらより魅力的な展示を考えるというもので、愛知県美術館の企画としては、2007年の「20世紀美術の森」展以来2回目となります。

一言でいいますと、担当学芸員にとっては、「ほら、他の2つの美術館の作品が自分の美術館の作品になったと思って、自由に所蔵作品展を企画してご覧なさい!」という課題を与えられたことになります。

担当学芸員2人が持ち寄った企画案の中にあったのが、「魔術」をキーワードにした展覧会。

他にも案があった中でこれが最終案となったのは、「魔術」というのがとても魅力的なことばである一方で、美術においてとても広がりを持ったテーマであるところにその理由があったと思います。


芸術家という概念の歴史は、人の創造行為の歴史に比べるとはるかに浅いものですが、その始まりは、さまざまな技術を駆使して人々に驚きを与え、現実と幻想の境界を揺るがしてきた人々にあったと言うことができます。

平面的な画面の上に奥行きを再現したり、「ない」はずのものを「ある」かのように見せる技術は、まさに魔法のように人々を魅了してきました。そして、それらの技術は、やがて美術という制度の中で継承されていきます。


一方、世界各地の信仰や宗教儀礼と密接に結びついた創造行為というものがあります。呪術の道具や、祭事に用いられる仮面といったものは、異界へアクセスし、超常的な存在と交流するための道具として大変重要なものです。それらは制度としての美術の外側で生き続けてきたために、その造形の魅力は、反対に「美術」に影響を与え、その権威を脅かしさえすることもあります。


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↑ 《ヨルバ・スタッフ》 愛知県美術館(木村定三コレクション)
  ナイジェリアで病気の治療を目的に行われる呪術の道具。


愛知県美術館の所蔵品の過半数を占める木村定三コレクションの中には、そうした民俗学的資料とも呼べるような造形物がたくさん含まれています。今回は、これらを美術品として生み出されたものと同じ空間で展示することにより、人間の創造行為を幅広い視点から見つめるきっかけとなるようにしたいと思っています。


さらに、近代以降の傾向として、科学技術の急速な進歩に抵抗するかのように、多くの芸術家が不可視の世界を積極的に表現してきました。とりわけ19世紀末のヨーロッパでは、幻想的世界を表現した版画作品が数多く制作されました。


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↑ オディロン・ルドン〈夢のなかで〉より《VIII. 幻視》 1879年 岐阜県美術館

 
また、神秘主義的な要素や神話の主題といったものは、現代作家の作品にも受け継がれていますし、また現代生活の中の非日常を表現するアーティストも少なくありません。

最後の章では、彼らを「現代の魔法使いたち」として紹介する予定です。

 

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↑ 中澤英明《子供の顔――クマ》 2001年 愛知県美術館
  大人の世界を外側から見据える子供の視線は、大人の日常に裂け目をもたらすかのようです。

 

こんな風にざざっと「魔術/美術」の予告をしてみましたが、なんとなくイメージを持っていただけましたでしょうか?

本展は、あくまで美術館での展覧会ではありますが、技術や主題といった部分にのみ「魔術」を読み取るのではなく、「作る」という行為そのものへと人々を駆り立てる不思議な力を探る展示にできればと思っています。


担当学芸員としては、この展示を通してご来場の皆さん自身の中の隠された感性が刺激されればという願いを込めて、キャッチコピーを「あなたの魔性、めざめます」としました。

この春、ぜひ愛知県美術館で”魔性デビュー”してみてください。


「…と言われても何が展示されるのかさっぱり…でも何だか気になる!」と思ったあなた、すでに魔法にかかっているのかも知れません…。


(S.N.)