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ロダン《歩く人》...ブロンズ鋳造作品として

2012年03月05日

現在、当館で開催中の「フランス物語 ふたたび」では、オーギュスト・ロダン(1840-1917)の《歩く人》を展示しています。

今回は、主としてブロンズ鋳造という側面からこの作品をご紹介しましょう。

 

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↑ オーギュスト・ロダン 《歩く人》 1900年

 

ロダンの作品の多くは、彼自身が制作した石膏像(石膏原型)をもとに、そこから金属に移し替えた「ブロンズ鋳造作品」です。

その工程をごく簡単に説明しますと、まず、石膏原型から雌型(外型)と呼ばれる凸凹逆の型を取り、これに溶けた金属が流れ込む隙間ができるように中型(中子)を作って組み合わせます。ここに高温で溶かした銅合金を流し込み、冷えて固まったら型を壊してブロンズ像を取り出します。これに細部を調整を行った後に、パティナと呼ばれる着色をしてブロンズ像ができあがります。

そのため優れたブロンズ作品を作るためには、実際に鋳造ならびに着色に携わる人たち高度な技術が必要になります。当館所蔵の《歩く人》は、この鋳造と着色が特に優れたものとして高く評価されています。

美術館での収蔵以前にこの作品に添えられた鑑定書(1991年作成)で、エルセン(A.Elsen)という著名なロダン研究者が「《歩く人》のオリジナル・サイズの最も優れた鋳造の一つ」と評価し、「生前鋳造の可能性が高い」と言って賞賛しています。

生前鋳造という意味は、ロダンのブロンズ鋳造作品は、現在でも国立ロダン美術館での管理の下で、作品ごとに鋳造可能な数を決め、厳しい管理のもとではありますが新しい鋳造が行われています。

ですから、同じ作品のブロンズ鋳造でも、ロダンの生前のものから没後の、それも近年のものまで、さまざまな時代に鋳造されたものがあるわけです。

それを専門家は区別し、また、没後のものでも、何時ごろどこで鋳造したかを留意しています。

 

では、この《歩く人》の鋳造に関する幾つかの特徴をご紹介しましょう。


まず、作品の台の部分には「Alexis.Rudier.Fondeur.Paris」という鋳造銘があります。

 

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↑ 《歩く人》の台に見られる鋳造銘。


このアレクシス・リュディエ鋳造所は、ロダン生前から親子二代に渡り、彼の作品の鋳造を中心的に行ってきたことで知られています。この銘があることでロダンの生前から、没後の1952年までの間に鋳造されたことが確実になります。


次に、台の裏側には「A.Rodin」という文字がレリーフとしてつけられています。

 

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↑ 《歩く人》台の裏面に見られる「A.Rodin」の銘。


これはロダン没後まもなくの1918年から19年にかけて、不法な鋳造が横行したために、それと区別するためにアレクシス・リュディエ鋳造所で付けるようになったと言われていますが、それ以前のものにもこの「A.Rodin」の付けられたものもあるとのことです。

 

そして、このブロンズ鋳造作品の顕著な特徴として、《歩く人》を表した身体部分(立像部分)と、台の部分が、実は分割して鋳造され、後に金具で接合されているということです。

 

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↑ 《歩く人》台の裏から見たところ。

 

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↑ 左足が台と接合されている部分を拡大。


通常のブロンズ鋳造では、身体部分(立像部分)と台は一体のものとして鋳造されます。

ところが、この《歩く人》は、このように、とても手間がかかり高度な技術が必要な鋳造方法が採用されているのです。

それは像の脚部と台の接合部を強化し、取り扱いの際などに力のかかるこの部分に、長い年月を経ても亀裂が生じないための配慮だと思われます。

この接合部分は、おそらく鋳造されてから1世紀近い時間を経ていますが、それでもなお外からの観察では、ほとんど痕跡すら見つけられないほどの仕上がりなのです。

このような台と身体部分を接続する技法は、1920年代までに鋳造されている国立西洋美術館、松方コレクションのブロンズ鋳造作品と共通するとのことです。

そしてパティナと呼ばれる着色も、やはり松方コレクションのなかでも、優れた着色のものと同じような色合いや質感をそなえています。

以上のことから、この当館所蔵の《歩く人》は、ロダンの生前か、没後もそれ程時間を経ていない、1920年前後に鋳造されたものと推定できるわけです。

 

現在開催中の「うつし、うつくし」展では、戸張孤雁の代表作《煌く嫉妬》の石膏原型とブロンズ鋳造作品が比較していただけるように展示されています。

それも参考にしていただき、この機会に当館自慢のロダン《歩く人》を、ぜひご覧ください。


(M.M.)