2012年11月123456789101112131415161718192021222324252627282930

ニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催されている展覧会「TOKYO 1955-1970―新たなる前衛」展に愛知県美術館の所蔵作品、中村宏《内乱期》)を貸し出すため、クーリエに行ってきました。

「クーリエ」とは、これまでもこのブログをご覧の方はご存知のとおり、貸出作品が安全に取扱・輸送されているかを監督し、無事に展示される(返却される)までを見守る、作品の随行者のこと。


しかし今回のクーリエ、初冬のアメリカ東海岸を襲ったハリケーン「サンディ」に巻き込まれるという前代未聞の事態になってしまいました・・・。

 

展覧会の始まる数週間前、作品と私を乗せた飛行機はひとまず無事ニューヨークに到着。

空港から美術館まで作品を運ぶトラックに積み替え作業を終えたところで、現地の輸送業者の方から「ハリケーンが来ているから、今日の夕方から地下鉄とか止まるよ」という一言が。

事前にニューヨークの天気予報で、「雨」になることは確認していましたが、まさかそんな大規模なハリケーンとは・・・。

とにかく作品を美術館内に搬入して、その日の作業は終了。


その日の夕方からは交通機関も運行休止、街のお店も閉店しただけでなく、NY証券取引所も翌日から2日間休場するなど、ニューヨークの都市機能はほぼストップ。

 

courierNY01.jpg

▲MoMAも臨時閉館。エントランスのシャッターが閉まってます。

 

 

美術館の職員さんも集まることが難しい状況で展覧会の展示作業はできず、翌日の作業は中止が決定。

私もどこに出かけることもできず、とにかくホテルで待機しながらハリケーンの通過を待つのみでした。

 

courierNY02.jpg


▲普段は写真撮影する人々でにぎわうロバート・インディアナ《LOVE》。周囲に人の姿がありません。

 

 

courierNY03.jpg


▲「世界の交差点」と呼ばれるタイムズ・スクエアもこの日ばかりはご覧のとおり寂しい人通り。

 

 

上陸から一夜明けたNYでは、各所でその爪あとが見られました。

 

courierNY04.jpg


▲メトロポリタン美術館やグッゲンハイム美術館など、NYでも屈指の美術館が並ぶ「ミュージアム・マイル」と呼ばれる道路でも数箇所で倒木がありました。

 

 

 

courierNY05.jpg


▲建設中の高層ビルのクレーンが強風のため崩壊してだらりとぶら下がっています。
  落下の危険があったので、周辺の道路は封鎖されて異様な雰囲気です。

 

 

幸いにして、愛知県美術館から輸送した作品を搬入し保管していたMoMAでは、浸水や停電などの被害はありませんでした。

しかし、もしそのような危険が見受けられた場合、安全な場所に作品を移動させるなど、被害を未然に防ぐための何らかの対応をとらなければならなかったかもしれません。


とにかく何とか作業が再開できるほどには状況が落ち着き、展示作業そのものは無事に終了、貸出のクーリエの役目は終わりました。

 

courierNY07.jpg


▲輸送中に傷みなどが出来ていないか、作品木箱から開けて点検中の様子。

 

 

しかし、美術館の担当者の方の一人は、ハリケーンの被害の酷かった地域に住んでいらっしゃったそうで、何日か自宅に帰れず、館内に泊まっていらっしゃったそうです。

また、NYのギャラリー街として有名なチェルシーなどでは、ギャラリーも軒並み浸水の被害がありました。


▼チェルシーの被害状況についてのニュース記事。

http://www.artinfo.com/news/story/837978/all-of-chelsea-has-to-rebuild-galleries-face-grueling-recovery

http://www.artinamericamagazine.com/news-opinion/news/2012-10-31/chelsea-galleries-hit-hard-by-storm-sandy/

 

 

作品を貸し出すためには、貸出契約の事務手続きや輸送の現場作業など、それだけでも多くの人々の手間と長い時間が必要になります。

展覧会の準備にトラブルはつきものとはいえ、今回はこのような出来事が重なり、スケジュール変更などのためにさらに多くの苦労が払われることになりました。

また、自然災害から美術品をどのようにして守っていくべきか、という危機管理の問題が重要なものになっているのは昨年3月11日以降の日本でも同じことだな、と考えながらニューヨークをあとにしたのでした。

 

 

今回愛知県美術館の作品を貸し出している「TOKYO 1955-1970―新たなる前衛」展は、来年2月25日まで開催。

ニューヨーク旅行へ行く機会のある方など、どうぞご覧下さい。

(S.S.)

 

courierNY06.jpg

▲MoMAも開館し、多くのお客さんが作品を楽しむ普段どおりの展示室に。

おや、へんなトラックが。

後ろにドラム缶が積まれています。

ドラム缶の周りにはホース。これはいったい・・・。

 

kokufu-drumcar.JPG

 

実はこのトラックには色々な秘密があるのです!

 

kokufu-speaker.JPG   kokufu-handle.jpg

kokufu-inside.jpg   kokufu-guitar.JPG

 


左上:ドラム缶の中を水が流れているので、耳をすますと洞窟の中のような水音がします。

右上:これを回すとドラム缶がぐるぐる回る!

左下:一見普通の車内なのに、ウィンカー、アクセルなどを押すと色々な音が・・・。

右下:途中からドラム缶の一部にギターも装着されてパワーアップ。

 

こちらのトラック《ドラム・カー》を作ったのは、アーティストの國府理さん。

國府さんは、この作品に限らず、車両やパラボラアンテナなどの工業製品を用いた作品を制作しています。

 

kokufu-portrait.jpg

 

先日、このトラックを直接、愛知県内の盲学校に運んでワークショップを行いました。

アーティストとヘンテコなトラックの登場に盲学校の生徒は大喜びです。

給食時間を惜しんで遊ぶ姿や、学校から帰るときに嬉しそうにトラックのことをお母さんに報告する姿が見られました。

 

愛知県美術館では今年度、文化庁の助成金をうけて視覚に障がいのある方に向けた鑑賞学習の普及活動に取り組んでいます。

このイベントもその一つです。

多くの方が、美術と触れあうきっかけ作りになればと思います。

 

そして國府さん、このトラックを運転して京都のアトリエから名古屋までお越し下さり本当にお疲れ様でした。

「ドラム缶の中の水が揺れると車が揺れるんですよ・・・」とおっしゃっていましたが、無事で何よりです。


(F.N.)
 

美術散歩(2)からちょっと間が空いてしまいましたが、芸術文化センター内のちょっと目立たない場所に展示されているものに焦点を当てる今回の美術散歩(3)は、地下1階の踊り場にある固定ケース内をご紹介します。

 

aP1080175.jpg


場所は、オアシス21の地下通路を入ってきて、エスカレーターに乗って上に向かうと、ちょうど死角になってしまいますが、1階からエスカレーターで下ってきて地下1階に降り立つと丁度正面に見られる固定展示ケースです。

 

aP1080173.jpg


 ここには、愛知県美術館とは兄弟の関係とも言える愛知県陶磁資料館(もうじき名称が変更になります)の紹介専用のコーナー「愛知県陶磁資料館ミニギャラリー」となっています。 
 

aP1080178.jpg 

 

サテライト展示としていつも資料館の作品が展示されています。

現在は、陶芸分野で愛知県唯一の人間国宝・三代山田常山の世界が紹介されています。

常山の作品は急須が主ですが、小ささの中にも「茶」を取り巻く雄大な世界観が込められており、中国など、諸外国との影響関係の中で育まれてきた日本人の生活の豊かさを再発見させてくれます。 

 

 aP1080179.jpg      aP1080180.jpg


エスカレーターに乗ってしまうとつい通り過ごしてしまうことが多いとは思いますが、一度地下1階で立ち止まってゆっくり見てみてください。新しい発見があると思いますよ。

 

aP1080177.jpg

 

現在、瀬戸市の愛知県陶磁資料館では、「アール・デコ 光のエレガンス」展が開かれています。

アール・デコのガラスを楽しむことができます。

クリスマスイヴまでの会期、ロマンティックな気分でお出かけになっては如何。

(S.T.)

 今年度から始まりました企画展の期間に合わせて展示室6で開催するAPMoA Project, ARCH、早いもので次回はもう第4弾です。vol. 4は奥村雄樹「善兵衛の目玉(宇宙編)」で、先日この展示のための撮影を、大阪府貝塚市で行いました。

 なんで愛知で発表する作品を大阪で撮影しているのか、には深い訳があります。「善兵衛の目玉(宇宙編)」とは、愛媛県南予地方に伝わるとっぽ話(ホラ話)に基づく昔話「善兵衛ばなし」に、主人公と同名の、江戸後期に貝塚で活躍した望遠鏡制作者にして在野の天文学者・岩橋善兵衛嘉孝(1756-1811)の物語の要素を加えた創作落語です。奥村雄樹さんの依頼で、東京で活躍する上方噺家・笑福亭里光さんがつくってくださいました。そんな内容なので、貝塚まちなかアートミュージアムの一環として、岩橋善兵衛の業績を紹介している貝塚市の博物館兼天文台「善兵衛ランド」さんで落語会を開催して、そこで披露することになったというわけです。

yukiokumurarakugo.JPG
▲落語会の様子。

yukiokumurazenbe.JPG
▲善兵衛ランド自慢の口径60cmニュートン・カセグレン式反射望遠鏡!

 どんなお話なのかは展示をみてのお楽しみ!と言いたい所ですが、簡単に筋だけご紹介。善兵衛は、自分の目玉を取り外して遠隔視(リモートビューイング)ができる男という設定で、その目玉を使って空からの景色や自分の体内、果ては宇宙までもみる羽目に…という突拍子もないお話です。江戸時代と遠隔視と望遠鏡…ってなんだかアナクロな世界にも見えますが、江戸時代にも天体観測が行われ、太陽の黒点や月の表面などかなり詳細に観察されています(最近話題の冲方丁『天地明察』などでご存知のかたも多いかもしれません。善兵衛は渋川春海からおよそ100年のちに活躍した人物です)。

 ちなみにこの「善兵衛の目玉(宇宙編)」は次回企画展「生誕150年 クリムト 黄金の騎士をめぐる物語」展と同時開催になりますが、実はそのさらに次の企画展「円山応挙」展の円山応挙(1733-1795)と岩橋善兵衛は同時代の人(無理矢理つなげますが笑)。善兵衛は、大阪の文化人・木村蒹葭堂や京都の医師・橘南谿、画家の皆川淇園や、応挙が若い頃に奉公していた玩具商・尾張屋中島勘兵衛などと交流がありました。善兵衛から応挙周辺の文化人たちの手に渡った望遠鏡は、当時流行した南頻派様式と並行して、実証的な写生精神の隆盛に一役買ったものと思われます。そんな江戸時代の視覚補助装置に思いを馳せながら、めくるめく視覚の旅をお愉しみくださいませ。「善兵衛の目玉(宇宙編)」の会期は、2012年12月21日(金)?2013年2月11日(月・祝)です。

 会期が始まってすぐの12月22日(土)には、ワークショップ「くうそうかいぼうがく」も予定しています。会場が当館ではなく長者町のアートラボあいちなので、ご注意を!詳しくはアートラボあいちのウェブサイトをご覧ください→アートラボあいちのワークショップ 特別企画 くうそうかいぼうがく(KS)

愛知県美術館のコレクションを県内各地で公開し、これに講演会やギャラリートークなども実施する移動美術館

本年度は東浦町郷土資料館(うのはな館)での開催です。

 

blog_ido2012_1s.jpg


↑ 東浦町郷土資料館(うのはな館)の入り口。

 

「日本洋画と近代陶芸の名品」と題して、当館のコレクションに愛知県陶磁資料館からの作品も加えて、名品の数々によって日本の近代美術の特質とその魅力に触れていただけるよう構成しています。

岸田劉生や大沢鉦一?などの写実的な表現の作品から、林武や里見勝蔵といった、より自由で個性的な作品へと、近代美術の展開をごく概略的にご覧いただけるものです。

 

blog_ido2012_2s.jpg


↑ 開会式の様子。 

 

開会式後に開催した記念講演会「美術の楽しみ」では、展示作品を中心に、写実的な絵画が対象の色や材質感、空間の再現などを基本としていたこと、それが印象派以降、しだいに再現することから自由になり、フォーヴィスムの絵画などが生み出されていったことなどをご紹介しました。

つまり、20世紀の絵画は、何が描いてあるかを気にしすぎないで、どう描いてあるかという面からアプローチすると、意外に楽しく鑑賞することができるということです。

会場は、東浦町の歴史資料などを展示している場所で、パネルの上から屋根瓦が見えていたりして、ちょっと面白い空間になっています。

 

blog_ido2012_3s.jpg


↑ 会場内の様子。 愛知県美術館とは違う雰囲気。

 

そんなこともあってか、美術館の展示室で観るより、作品が身近に感じられるようです。

東浦町をはじめ近隣の皆様はもちろん、知多半島にお出かけの時には、ぜひお立ち寄りください。

(M. M.)
 

ようやく秋も深まってきましたが、書斎で静かに読書を楽しむ方もいらっしゃるでしょうか。

今回は、現在コレクション展の木村定三コレクション室でご覧いただける文房具たちをご紹介します。

木村氏は文人と呼ぶにふさわしい方で、文人には欠かせない文房具についても豊かなコレクションをお持ちでした。

文房具とは文房=書斎で使うものという意味であり、文房具の中心をなす四つを指して、文房四宝と呼びます。

それは、筆 墨 硯 紙 のことで、このうち硯が最も重んじられ、文人の愛玩の対象となりました。

硯の中でも中国の端渓の石で作られたものが有名です。

 

では、展示しているものから2点の硯をご紹介します。


まずは、端渓の《日月硯》です。

 

kimura_bunbogu1.JPG

 

「眼」(がん)と呼ばれる石の中の斑点を太陽と月に見立てた硯です。

カメラマンの腕が悪いため良さが伝わりませんが、石眼を含めて石の材質感や右下の凸凹としたところの様子などがとても素敵な硯です。

 

この硯には、もう一つ素敵なポイントがあります!

それは硯箱です!

 

kimura_bunbogu2.JPG

 

整った瓜の形をしており、よく見ると蛍がとまっています。

なぜホタル・・・・・?

この硯箱の作者は石眼を蛍の光に見立てたため、硯箱の蓋に蛍を登場させたのでした。

硯では太陽と月に見立てられている石眼を、硯箱では蛍の光に見立てるとはなんと面白い演出でしょうか!

文人はこうした演出を好み、仲間とともに愉しみました。

 

次に紹介するのは、猿面硯です。

 

kimura_bunbogu3.JPG

 

こちらは和硯の一つで、陶硯といって陶器に漆を塗って硯にしたものです。

日本風の呼び名は、「さるおもてのすずり」といいます。

確かに猿顔ですね!

この硯の周りには螺鈿が施されており、装飾的な美しさも兼ね備えています。

 

kimura_bunbogu4.JPG

 

陶硯には硯にすることを目的に焼かれた陶器を用いたものの他に、甕や食器といった須恵器を整形・研磨して硯に仕上げたものがあります。

これらは転用硯と呼ばれます。

 


今回の文房具の展示では、硯の他に水滴(硯に水を注ぐための容器)や硯箱も展示しています。

 

kimrua_bunbogu5.JPG

↑ 水滴たち

 

kimura_bunbogu6.JPG

↑ 水滴を収める箱

 

kimura_bunbogu7.JPG

↑  硯箱

 

kimura_bunbogu8.JPG

あっ!かまきりが水滴を狙っている!!

 

kimura_bunbogu9.JPG


実はこれは工芸品の一つで、自在置物といいます。

本物そっくりの形は当然のこと、関節部分も本物同様に動かせるよう精巧に作られたものもあります。

江戸時代に入って戦がなくなると、武具などの需要が減少したため、甲冑師の中にはこうした精巧な工芸品に自らの技を活かす者もいました。

写真には写らない美しさがあります。

どうぞお越しいただき、間近でご覧いただきたいです。

 

今回の文房具の展示をご覧いただいた方から、「木村定三さんって本当に広い見識を持っていらして、コレクションの底が知れないね」というお言葉をいただきました。

みなさんも木村定三コレクションの世界に足を踏み入れてみませんか?

さあ、恐れないで・・・。

(Y.H.)

長久トーク.jpg 

 「美しき日本の自然」展開催中の関連イベントとして、「ギャラリー・トーク」と「学芸員おすすめの一点」があります。

11月3日には、愛知県陶磁資料館(もうすぐ名称が変わるそうです)の長久学芸員によるトークがありました。

普段、愛知県美術館では聴くことの出来ない「美しき日本の自然」展に出品されている陶磁器を中心にしたお話を展開していただきました。

トーク終了後、参加者からは「とてもわかりやすくて、陶磁器の見方も頭が整理された感じです」と好評でした。

終了後も個人的に長久学芸員質問されている参加者もあり、満足度の高いトークとなったようです。

長久トーク2.jpg

(撮影者の技量不足で長久学芸員の顔がはっきり写せませんでした。手前のケースには長久学芸員の指導の下、当館館長が展示した織部の向付が見られます。展示風景は9月30日のブログで見られます。)


 ギャラリー・トークとおすすめの一点はすでに終了した回もありますが、会期残り期間中には、17日(土)に「美しき日本の自然」展のギャラリー・トークが、この展覧会の担当の平井学芸員による最終回と、そして「学芸員おすすめの一点」については、下記の4回があります。

「学芸員おすすめの一点」はこの展覧会にの出品作に限らず、現在コレクション展に展示されている作品からも選ばれています。

毎回のように聴きに来られるお客様もいらっしゃいます。

それぞれの学芸員のキャラクターも窺い知ることができ楽しみにされているようです。

トークを聴きに来てブログに感想を書かれている方もありました。

残念ながら私の回はすでに終わってしまっていますが、11月中の5回のうちいずれかでもお聴きいただければ幸いです。

(S.T.)
 

「学芸員おすすめの一点」の今後の予定

11月9日(金)  19:00-19:30  中村岳陵《芦に白鷺鶺鴒図》     長屋菜津子
11月10日(土) 11:00-11:30  杉戸洋《The Second Lounge》    塩津青夏
11月11日(日) 11:00-11:30  アンリ・マティス《待つ》         大島徹也
11月18日(日) 11:00-11:30  リュシアン・クートー《干潮の帽子》  副田一穂

※申込不要。観覧券をお持ちの上、開始時刻に美術館ロビーにお集まりください。