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プーシキン美術館展を振り返って(2)

2013年07月07日

(前回の記事:プーシキン美術館展を振り返って(1)

 さて、巡回の第一会場となった愛知県美術館、大きな責任を負うことになってしまいました…。通常、大型の展覧会を巡回させる場合はまず東京など関東の会場からスタートさせ、全国ネットの広報によって情報がある程度浸透してから、地方の会場へと巡回させるのが一番効率的だと考えられています。ですから、延期前の予定では、横浜→愛知→神戸の順に組まれており、作品の輸送という点でも無駄がない理想的な順番でした。しかし、実際には延期を受けて当館が第一会場へと変更になり、さらに復活開催ということで展覧会としてのハードルも上がるなかで、この一大プロジェクト全体が成功するか否かが、まずは当館に重くのしかかったわけです。関係者の冷や汗の理由はここにありました。この重責をいかに乗り越えたのか、について、展覧会開催に至るまでの第二段階にあたる巡回会場での運営の仕組みに触れながら、書いてみたいと思います。

 愛知県美術館での企画展開催の方法には様々なバリエーションがありますが、多くの場合、美術館と主に新聞社やテレビ局などのメディアとが共同で事業運営にあたります。この運営組織を「実行委員会」と呼んでいます。今回の展覧会の場合、全体の運営は朝日新聞東京本社が行いますが、愛知会場の運営については、朝日新聞名古屋本社とメ?テレと当館とで行いました。展覧会全体の運営から各会場での開催まで新聞社やテレビ局が大きく関わるこのやり方は、日本独特のものです。日本では、欧米に比べて博物館や美術館の歴史が浅く、現在のような博物館・美術館が開館するまでは、新聞社がその情報収集能力と発信力とを活かしながら、文化事業に携わってきました。このような展覧会開催のノウハウの蓄積が、現在も新聞社と共同で展覧会を開催する際に活かされており、またメディアとしての情報の発信力も重要になってきます。

 その情報発信力が最大限に生かされたことが、今回の展覧会で大変多くの方にご来館いただく結果につながりました。同じように新聞社やテレビ局と実行委員会を組む場合でも、当館のスタッフが広報の役割を担い、展覧会グッズ開発からPRまでを取り仕切ることもありますが、プーシキン美術館展では、朝日新聞社名古屋本社とメ?テレのスタッフの方々が、従来のやり方や考え方にとらわれない斬新なアイディアで様々な広報活動を展開してくださったおかげで、担当学芸員は作品のディスプレイや展示作業、展示内容についてのレクチャーなど、本来の専門業務を中心に行うことができ、また事務スタッフも事務手続きをスムースに進めることができました。

 個人的に印象に残っている広報活動をいくつか挙げてみたいと思います。今回はSNSを最大限に活用して様々な展開が行われました。たとえば、展覧会開催一ヶ月前から毎日Facebookに出品作にまつわる選択式のクイズがイラスト付きで掲載された「教えてジャンヌ・サマリー」。このイラストは、てっきりSNSの運営を依頼した会社で制作されていると思い込んでいたのですが、何と絵の得意な朝日新聞名古屋本社のスタッフが描いていたそうで、これにはさすがにびっくりでした!

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△ロシアのコレクター、シチューキンの職業を質問するクイズのイラスト、独特なタッチがかわいい!

 また若い世代への働きかけを狙った「ナナちゃん衣装コンテスト」では、Facebookを通じてコンテストを行い、延べ何百人もの方が「いいね」を押してくださいました。最終審査に残った方々のデザインを見ながら、スタッフ一同どのプランにもデザインをした人の想いが込められているのを実感し、結局最優秀賞だけでなく、当初予定になかった特別賞まで設けてしまいました(笑)

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△デザインされたドレスを実際に着たナナちゃん、注目度抜群でした!

 朝日新聞名古屋版には、会期中ほぼ毎日のように展覧会の記事が掲載されました。出品作の解説が連日一面を飾ったのは前代未聞のことだそうで、担当者の方はこの記事のために毎回編集局からの深夜の問い合わせに対応しなければならなかったそうです。また、夕刊にも様々な切り口の連載記事が掲載されました。こうした記事を学芸員が書くと、作品解説ばかりのお堅い内容になってしまいがちですが、担当の記者さんは、額の歴史や動物のモティーフなど面白いポイントを見つけ出し、学芸員の解説や関係者の取材だけで記事にするのではなく、ご自身でも関連図書を探して勉強されるほどの熱心さでした。

 メ?テレでも、何度もプーシキン展のCMが流れていましたよね。展覧会のCMは大抵クラシック音楽をBGMに上品にまとめられることが多いですが、今回はアップテンポのポップスがバックに流れ、今っぽい感じに仕上がっているのが個人的にはお気に入りでした。ツイッターなどでも話題になっていました。

 このように、愛知会場の運営にあたった現場スタッフが連携を強め、チームワーク良く前向きに事業に取り組めたことが、展覧会の大きな成果につながったのだと思います。

 美術館に就職して間もない頃、先輩学芸員から「現場スタッフがチームワーク良く楽しんで仕事がやれると、嫌々やるより、ずっと良い成果が得られる。何かを生み出す仕事にはそうした要素が最も重要だ」と言われたのを思い出します。今回の展覧会を通じてその実感を強く得られたように思います。この展覧会に関わった多くの人々のかけがえのない努力と仲間のチームワークに感謝しつつ、そして皆様が作品との出会いを楽しんでくださったことに感謝しつつ、ちょっと長くなってしまったこのブログ記事を終えたいと思います。
ありがとうございました。
(MRM)