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シャガールコンサート体験談(後編)

2014年04月26日

前回に引き続き「学芸員は見た」的、シャガールコンサートのレポートです。前半の自分の出番が無事に終わりホッと一息。後半は客席で鑑賞させてもらいました。

後半は有名な曲が多いので、自然と会場も盛り上がります。大音量の《白鳥の湖》を聞きながら、ふとシャガールとチャイコフスキーは、美術と音楽におけるそれぞれの立場が何だか似ているなーと思いました。二人ともロシア出身ですし、大衆から愛されるがゆえに、通の方からはやや軽視されがちな感じとか。あとはやっぱり作品の中で、ここ一番の盛り上げ方というか、フィニッシュホールド(必殺技)が近い気がします。単なる思いつきに過ぎませんが。

最後の曲は、シャガールとは最も縁の深い《ダフニスとクロエ》。指揮者の時任康文さんはMCで、《ダフニスとクロエ》は合唱付きの方がラヴェルの意図がよく伝わると仰っていましたが、実に聴きごたえのある演奏でした。

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▲指揮者の時任さんのお話もありました(撮影:中川幸作)

今回の展示ではよく知られた同名の版画集は勿論のこと、《ダフニスとクロエ》の舞台美術と衣装デザインは必見です。というのも、これらの作品は《火の鳥》のためのデザインと並んで、シャガールがどのようにバレエ・リュスを継承し、乗り越えようとしたのかがよく分かる資料だからです。現在まで広く知られているバレエ・リュスのレパートリーの多くは、ロシア時代のシャガールの師であった画家、レオン・バクストが初演の舞台や衣装をデザインしています。当然、シャガールはこれらの舞台美術と衣装を手がけることになった際に、バクストの仕事を意識したことでしょう。

バクストの《ダフクロ》はギリシャの設定にちなんで、いわゆるギリシャっぽい衣装(テルマエロマエをイメージしてください)になっていますが、シャガールのデザインでは半分肩を出す着こなしが残っているものの、もはや特定の地域をイメージした形跡は見られません。一方、《火の鳥》ではバクストのオリエンタルな装飾性を、シャガールも引き継いでいるように思えます。

このように先人の作例に学びつつ、新しいものを生み出そうとするシャガールの意気込みは、オペラ座の天井画にも見られるものです。本展のカタログの中で佐藤幸宏さんが詳細に論じているように、シャガールの天井画はジュール=ウジェーヌ・ルヌヴによる元の天井画を損なわないように、埋めてしまうのではなく覆う形で設置されています。のみならずシャガールは、いくつかのモチーフはルヌヴの絵から着想を得ています。こうして古い作品に学びながらも、自分のオリジナルな世界観を作り上げることに成功したシャガールの努力の跡に注目すると、シャガール展をより楽しめるかもしれません。

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▲合唱の皆さん、アンコールではオペラの芝居で歌ってくれました(撮影:中川幸作)

…というような話をコンサートの時に話そうと思っていたのですが、7分間という出演時間ではそこまで話が到達できなかったので、こちらのブログに書いている次第です(笑)実は井上さんとの事前打合せでは、もっと興味深い話に展開する予定だったんですが…、まあそれはまた、別の機会に。
(TI)