2014年08月12345678910111213141516171819202122232425262728293031

 

さて、前回はカメラ・オブスキュラについてご説明しましたが、続いて今回はヨウ化銀を塗った金属板を露光させてイメージを直接、板に刻み込むダゲレオタイプについてです。企画展「これからの写真」では、新井卓さんがダゲレオタイプを使った作品を出展しています。

arai(blog).jpg

 ↑新井卓《2012年1月16日、新田川、南相馬市》2012年
光の当て方や眺める角度によって、見え方が変わるのが面白いですね。驚くほど細かいところまでしっかりと写っているところも特徴です。新井さんの詳しい制作過程は、10階ショップのモニターにて紹介しています。

さて、このダゲレオタイプ、もっとも古い写真技法の一つと言われています。カメラ・オブスキュラ等に写し出される像を何とかそのまま固定したいと考えた多くの人々が試行錯誤を繰り返し、ついに、フランスのルイ・ジャック・マンデ・ダゲールが、感光性を持つ金属板の露光、現像、そして像の定着に成功します。1839年にダゲールはこの技術をパリの科学アカデミーに報告し、この技法は「ダゲレオタイプ」という名前で世に広まりました。

ダゲレオタイポマニー001.jpg

↑テオドール・モーリセ《ダゲレオタイプ狂》1839年
Henisch, Heinz K., POSITIVE PLEASURES (The Pennsylvania State University Press,1998)より転載

 上記の絵からも伝わるように、ダゲレオタイプは熱狂的に社会に受け入れられ人気を博したようです。ダゲールは早くも同年に市販用のカメラも発表し、名誉と報酬を手にしました。

しかし、実際のところ、ダゲールただ1人が写真技術を発明したわけではありません。同時多発的に各地で写真技術は追求され、少なからぬ人々が一定の成功をみていました。例えば、イポリット・バヤールはダゲール同様、1839年には紙陰画による写真技術の発明に至ります。しかし、ダゲールのダゲレオタイプが公式に認められた後だったため、バヤールはダゲールほどの評価を得ることはできませんでした。
そこでバヤールは翌年、抗議の意味を込めて一風変わったセルフ・ポートレートを撮影、発表します。

イポリット・バヤール001.jpg

↑イポリット・バヤール《溺死者に扮したセルフ・ポートレート》1840年
ジェフリー・バッチェン『写真のアルケオロジー』(青弓社、2010年)より転載。

自分の発明が軽視されていると悲嘆したバヤールは、自ら溺死者に変装して写真を撮り、それを科学アカデミーに送ったのでした。すごい当てつけ・・・。写真技術誕生からわずか1年、演劇性、自意識、ロマン主義、宣伝効果など写真の様々な力が(非常に奇妙な形で)すでに発揮されているようです。
(F.N.)

 

先日、オープンした企画展「これからの写真」。9名の出展作家による力の入った個展形式の展示となっています。個々の作品については、会場のパネルやカタログ等でお話しているので、ブログでは、コラム的なお話をしていきたいと思います。
さて、「これからの写真」と銘打ちながら、実は、過去の写真技法に関する作品も少なくはない本展覧会。今回は前編と後編に分けて、それら紙にプリントされる以前の写真について振り返ってみましょう。

まずは、田村友一郎の茶室型の作品のモチーフともなっている「カメラ・オブスキュラ」についてご説明しましょう。

T氏の部屋.JPG

↑田村友一郎《T氏の部屋》。 T氏とは今回のモチーフである徳川慶勝の名字のTであり、田村のTであり、さらに英語にするとT's Roomとなって茶室(Tea Room)とダジャレになっているという・・・。

カメラ・オブスキュラは、小さな穴から暗い箱に光が差し込むと、外側の風景が逆さまになって映る仕組みを利用した視覚装置です。この仕組みは、写真技術が誕生するはるか昔 の紀元前には発見されていましたが、ルネサンス期に改良されて広まったそうです。このカメラ・オブスキュラがカメラの原型になったと言われています。

Camera_Obscura_box18thCentury.jpg

↑こちらが携帯用のカメラ・オブスキュラ。画家はカメラ・オブスキュラに現れるイメージをなぞって描きました。手でなぞって描く代わりに、感光によって像を焼き付けようとしたのが写真の始まりです。
 

Optic_Projection_fig_89.jpg

 

一方、大きなカメラ・オブスキュラの場合、箱の中に人が入って風景を楽しむことができました。エンターテイメントとして人気があったようです。

今回、田村友一郎の制作した茶室も、人が入室できるタイプのカメラ・オブスキュラを彷彿させる作りとなっています。

なお、国内だとなんと東京○ィズニー・シーの火山のふもとに人が入れる大型のカメラ・オブスキュラがあります。しかし、東京○ィズニー・シーで「なるほど、レンズをはめ込んでカメラ・オブスキュラに写る像を明るくしたのはルネサンス期のミラノの数学者、カルダノと言われているので、それが大航海時代をテーマの一つにしたこのテーマパークに設置されているのは合点が行くね。ところで大航海時代とカメラ・オブスキュラと言えば、当然、フェルメールが想起されるわけだが云々」と語り始めると、絶対、モテません!
(F.N.)

夏本番の今日この頃ですが、皆様は猛暑対策にいそしんでらっしゃいますでしょうか。この夏の愛知県美術館は本丸で行われる「これからの写真」展以外にも、各所で同時多発的に熱い戦い、もとい当館所蔵品のお披露目が続いております。既に終了した茶臼山での移動美術館、田原市博物館でのサテライト展示、さらには貸出でご協力した展覧会を含めればきりがありませんが、今日ご紹介するのは大口の陣、もとい大口町歴史民俗資料館でのサテライト展示です。

大口町歴史民俗資料館

 

移動美術館とサテライト展示は、本丸になかなかお越しいただけない方々に、当館の作品をお見せする貴重な機会ですが、同時に日頃あまり名古屋を出ない我々が、様々な地域の文化状況を知る絶好の機会でもあります。また、普段とは勝手の違う空間で、展示に工夫を凝らすのもなかなかの楽しみです。

移動美術館とサテライト展示

 

大口町、私は今回初めて訪れたのですが、昔の市長が企業の工業誘致に力を入れたそうで、資料館に向かう間にも有名企業の大きな工場を目にします。資料館と同じ建物の中にはトレーニングセンターや会議室などもあり、入口は常に人でにぎわっています。曜日によっては館内で市も開かれるようで、展示作業の日には地元で取れた野菜や、焼き立てのパンなども売っていました。ちなみに2005年の移動美術館はここで行われました。

 

今回のサテライト展示は「創作のヒミツ」というタイトルで、制作のプロセスが分かるような資料を集めてきて、作品と一緒に展示しています。現代の美術作品には特殊な技法や素材を使ったものが数多くありますが、一見突飛に見えていた作品も、どうやって作っているのかを知ると、新しい楽しみ方が発見できるのでは?…というのが担当者の目論見です。

 

IMG_3797.jpg

 

展示内容をいくつかご紹介しましょう。まずは今回の目玉と言えるのが、本邦初公開となる浅野弥衛のフロッタージュ台です。実は今年2014年は、浅野弥衛の生誕100年という記念の年。東海地方の戦後美術を支えてきた巨人の偉業を称えるために、この展覧会でもささやかな展示を行っています。それが当館所蔵のフロッタージュと共に展示されている、フロッタージュ台です。フロッタージュというのは凹凸のある所に紙を乗せて鉛筆でこすることで、下の凹凸を写し取るという技法です。2年前のエルンスト展では、ロビーにフロッタージュのコーナーもありましたので、ご記憶の方も多いのでは。浅野弥衛はフロッタージュを作るときに、自分でそのための台を作っていました。この台、勿論作品を作るための単なる道具といえばそうなのですが、台そのものも作品のような魅力を放っているから不思議です。これは是非会場で見てほしい作品ならぬ貴重な資料なのです。

 

今回はエルンスト展の真似をして(それは言うな)、会場にご来場の皆さんにも気軽にフロッタージュを体験して頂けるコーナーを設けました。とはいっても流石に浅野弥衛のフロッタージュ台は使えないので、画家の佐藤克久さんに新たにフロッタージュ台を作って頂きました。浅野弥衛の闘魂を受け継ぐ佐藤さんならではの、素敵な台を用意してもらいましたので、こちらもお見逃し、おこすり逃しなく。

 

IMG_3770.jpg

 

他にも森田浩彰、設楽知昭、山田純嗣、白髪一雄、多和圭三、染谷亜里可、北山善夫、クリストの作品と、資料と共に展示しています。ちなみに大口町歴史民俗資料館は、昨年「アイチのチカラ」展にも出品された倉地比沙支さんの個展を過去に開催したこともあり、館内には倉地さんの作品も展示されています。また、近くには愛知が生んだ建築界の巨人、黒川紀章が設計した大口中学校がありますので、遠目で見学することも出来ます。また、会期中には社本奈美さん(8月24日)、大田黒衣美さん(9月15日)というアーティストによるワークショップ(対象:小学校4年生から中学生まで)もあります。

 

最後に重要な情報を。資料館へはお車が便利ですが、公共交通機関でお越しの方は名鉄柏森駅からコミュニティバス(基幹ルート、もしくは北部ルート反時計まわり)をご利用ください。本数が少ないので事前に時刻表を確認されることをお勧めします。(TI)


大口町コミュニティバス時刻表・乗り換え検索