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刀剣の手入れ

2014年12月11日

 今回は、学芸員も江戸時代の武士のごとく刀剣の手入れをします、というお話。
 相手を断ち斬る「武器」であり「武士の魂」である日本刀は、美術館や博物館で展示される美術品の一つでもあります。当館の木村定三コレクションのなかにも槍が含まれているのですが、美しく保存しておくためには定期的に手入れが必要。そこで京都国立博物館名誉館員の久保智康先生を講師にお迎えして手入れの方法を伝授いただくことに。
 手入れの内容は大まかには、刀に塗られた古い油を拭い取ることと、新しい油を塗ることです。油が少なくて揮発してしまったり、逆に塗りすぎたまま放置したりするとサビの原因になってしまうので、定期的に古い油を拭い、きれいな油を薄く引いておくことで、研ぎ澄まされた刃文や輝くような地がねの美しさをいつまでも保つようにするのです。

 

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▲まずは鞘を抜いて状態をチェック。美術品といえども刀は刀。手にしてみると独特の重みが感じられ、なかなかに緊張感があります。

 

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▲古い油を拭い取ります。昔は和紙を使っていたそうですが、現在はキズがよりつきにくいということでちょっと高級なタイプの極柔ティシューを使用。親指と人差し指で刃を挟んで、すーっ、すーっ、と手を動かして拭っていきます。しかし切れ味鋭い刀剣、ここで手の動かしかたを少しでも間違えると簡単に手を切ってしまうので、注意が必要です。
 

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▲次に「打粉」を打っていきます。ろうそくを灯した部屋で、口に紙をはさんだ武士が丸いふかふかした玉で刀にポンポンポン…、と時代劇で目にするシーンのアレです。打粉というのは砥石を粉末状にしたもので、これを薄く付けることで油を吸収する効果があります。(ちなみに口に紙をはさむのは、刀に唾が飛んでしまってサビるのを防止するため。)この後、もう一度打粉ごと古い油を拭い、きれいに拭えていることを確認して新しい油をひき、元の通り柄に戻し、専用の袋に仕舞って手入れは完了です。

 一つ間違えると事故になりかねず、緊張しながら手入れをするので、一通り作業を終えると「ふぅ」と一息つきたくなるような疲労感があります。しかしそれだけに、余計なことを考えずに目の前の刀だけに意識を集中して精神を統一する修行、という感じで心がなんとなく落ち着きます。

 

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▲今回手入れをしたのはこちらの槍。与謝蕪村や浦上玉堂などの江戸絵画、熊谷守一や小川芋銭をはじめとする近現代美術、古代遺物、茶道具、仏教美術…と非常に幅広い時代と地域の作品からなる木村コレクションですが、じつは刀剣類はこの槍が一振りあるだけです。木村氏がこの槍を買い求めたのは、「柄」の螺鈿細工の装飾を気に入ったからだそうです。究極的には人を殺すための道具である刀剣に関心があったのではなく、あくまでも自身の価値基準に照らして美しいと判断したものを収集していったという木村氏らしいコレクションの一つです。一点だけなのでなかなかコレクション展の構成に組み込むのが難しいところですが、いつか展示してご紹介したいと思っています。(S.S.)

▼螺鈿の装飾が美しい槍の柄

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