2015年12月12345678910111213141516171819202122232425262728293031

ピカソの里帰り(スペインまでの長旅編)

2015年12月26日

 ピカソ展を直前にして、9月にバルセロナのピカソ美術館へクーリエ(作品随行員)として出張したことをご紹介します。このクーリエ出張は201613日から始まる「ピカソ展、天才の秘密」展の準備の一環でした。というのはバルセロナのピカソ美術館との出品交渉をしている中で、条件として出てきたのが愛知県美術館所蔵のピカソ青の時代の名品《青い肩掛けの女》を貸してくれるならバルセロナから複数の作品を貸してもよいというものでした。美術館どうしの関係はお互いの信頼関係はもちろんのこと互いに借りたい作品を持っているのかといったことも影響し、展覧会の成否にも関わってきます。大前提としては、展覧会そのもののコンセプトが相手の館に理解されること、空調を始め保安上なども含め美術館の基本条件をクリアしていることなのですが、借り出しが難しいものを借りるためにはこうした条件が示される場合があるのです。

というわけで美術館の実力を測る物差しの一つには他館が借りたい所蔵品をいかに多く持っているのかがあるわけです。つまり優れた所蔵作品を持てば持つだけ美術館活動をやりやすくなります。もちろんの博物館の一種である美術館は作品を始めとする美術資料を収集し保存して後世に残していくという本来的な役目があるのですから常に収集し続けることが自明であることはいうまでもありません。ですから一定程度収集すれば展示室に並びきらないほど集めなくてもよいのではなどという乱暴な議論は美術館を単なるイベント会場として認識するような的外れなものです。
 
さてバルセロナへのクーリエ業務ですが、残念ながら観光旅行のような気楽なものではありません。日本からバルセロナへは直行便がないので、どこかで乗り継ぎをするかヨーロッパのハブ空港に降りて陸送するかしかありません。当初は乗り継ぎで行った方が時間的にも体力的にも楽なので、それを希望していました。しかし、最も早く行けるのはドバイ経由でしたが、作品の積み替えのことを考えると環境条件や安全性の点で不安があるということで、結果としてはパリまで直行し、パリからは陸送ということになりました。

まず、作品を入れた木箱を愛知県美術館から東京まで空調の効いた専用のトラックで7時間ほどかけて陸送し、一旦倉庫で一泊、翌朝7時前には再度トラックに積み込み羽田空港へ。貨物を積み込む専用の所で慎重にアルミ製の箱に木箱を梱包するのに立ち会ったのち自分は旅客ターミナルへ。パリまでのフライトはおよそ13時間、夕方についてトラックに積み替えパリ市内の専用倉庫へ入れて一泊し、再び翌朝の7時にバルセロナへ向けて出発。ドライバーは交代要員として併せて二人が乗車し、一人は後ろの席で仮眠が取れるようになっています。私は助手席にただひたすら座り続けて地図と対照しながら道々に現れる景色と道路標示に目を向ける事およそ14時間、その間わずかにトイレ休憩2回とごく短い昼食とガソリン給油のみで、6年ほど前に落馬で骨折した腰が再び痛みだしてしまいました。

12_sunrise.jpg

 

▲朝日が昇るとともに出発です。

 

日本を出発前に輸送業者からは所要時間を7時間ほどと聞いていたので、なんとその倍かかるとは大変な誤解でした。思えばパリからバルセロナまでの距離を確認すればとんでもない間違いだと分かったはずですが、トラックに乗ってからドライバーから所要時間を聞いたので、はじめは冗談かと思ったほどでした。 

10_in_the_road.jpg

▲ガソリンスタンドで給油中

 

さて、フランスとスペインの国境にはユーロのマークがあるだけで特別なパスポートチェックのようなものは何もありません。ユーロ統合以降陸路で国境越えをしたことがなかったので、一応のチェックぐらいあるのではないかとこれも誤解していました。

11_line.jpg

▲国境付近 

 

バルセロナ市内へ入った頃には当然夜になっており、景色を眺めるようなこともなく旧市街地にあるピカソ美術館へ到着。ピカソ美術館は路地に囲まれた中にあり、大きなトラックは直接近づくことはできません。路地の入口には警察官が待ち受けており、一般車の通行を一時的に遮断し、路地に駐車したトラックからの荷卸しを警護してくれていました。愛知県美術館のように4トントラックごと建物の搬入口へ入れるなんてことは到底できないわけです。スペインへ入ったころは少し雨模様でしたがありがたいことにピカソ美術館へ着いた時には雨は上がっており、小さな台車に乗せ換えた《青い肩掛けの女》の入った木箱を作業員が美術館まで運びます。美術館脇の小さな広場を囲む店先のテーブルには飲食を楽しむ人々がいて、その脇をガラガラと台車を押していくのを見るのは不思議な感じでした。そして、美術館内に入りエレベーターで収蔵庫まで運んだのでした。

1_in_front_of_museum.jpg

▲夜の搬入です。

 次回は美術館での出来事についてお伝えします!

(S.T)