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塵も積もれば山となる

2016年12月20日

 12月も半ば過ぎ、すっかり冬を迎えました。冷たい空気が肌を刺し、外へ出るのがためらわれるような寒い日が続きますね。そんな中、18日に閉幕を迎えた全館コレクション展にはたくさんの方に足を運んでいただきました。ありがとうございました!
 次回の展覧会は年が明けた来年の1月3日(火)から、「ゴッホとゴーギャン」展が始まります。こちらの準備も着々と進んでいます、みなさま、どうぞお楽しみに。


 さて、年末が近づいてそろそろ大掃除の準備を…なんて考えている方もいるかもしれません。美術館のお掃除はというと、展示室は毎朝開館前に清掃スタッフの方がすべての部屋をきれいにしてくださっています。学芸員だけでは手が回らないところを補っていただき、お客様を気持ちよくお迎えする準備ができているのです。さらに、ほこりや塵は虫を呼び寄せるエサにもなります。美術品をまもるという意味でも掃除はとても大事なのですね。


 しかし収蔵庫など、限られた職員しか入ることのできないエリアの日々の掃除は、学芸員でやらなければなりません。「収蔵庫」とは、展示していない作品たちを保管しておくための部屋で、ここに虫やカビなどが発生してしまっては大変です。日頃から気付いた職員が掃除をするようにはしているのですが、やはり行き届かない所があったり、期間が空いてしまったり・・・ということがしばしば。しかし掃除を怠って作品になにかあってはいけません。なので収蔵庫については、業者の方に本格的な掃除をお願いすることがあります。(各方面のプロの方々の手を借りながら、美術館は成り立っているのです。)
 

 今回は、本格的な掃除に先駆けておこなわれた「清浄度調査」について、ご報告しようと思います。


 「清浄度調査」は、掃除の前と後に一回ずつ実施していただきます。その空間がどのくらい汚れているのかを調べるもので、掃除前後の結果を比較すれば、掃除による効果を可視化させることができます。収蔵庫内のさまざまな場所(人が通るところ、すみっこのところ、棚の上など)、数十か所の地点を調査していただくのですが、これは収蔵庫の中の汚れやすい場所を把握するためで、わたしたちが日常でおこなう掃除のときに役立つ情報となるのです。


 さて、調査実施日の朝。まずは収蔵庫前で作業リーダーによるあいさつと本日の作業工程の説明です。


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 作品を移動させることもあるので、美術品の輸送・展示専門の作業員さん達も一緒に入っていただきます。作品が置かれている空間での作業は気を使いますし、限られた時間内で調査をおこなうためにはチームワークが大事です。打ち合わせはしっかりと。

 


 今回の調査では掃除機と粘着フィルム、そして綿棒の3つの道具を使って収蔵庫内に堆積している埃や塵、そして菌類の量や種類をしらべます。どのくらい塵埃が溜まっているのか、どんな菌類が見つかるのか・・・美術館の職員としてはドキドキします。

 

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掃除機をつかって1平方メートル内の塵埃を採取します。
 

 

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塵埃が本体まで入ってしまわないよう、延長管の途中で不織布をかませてキャッチできるようになっています。こまかい工夫がされています。

 

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粘着フィルムを床や棚の上にぺたんと貼ってはがすと、塵埃がくっ付いてきます。このフィルム、実は医療の現場で使われる滅菌フィルムなんだそうです。
 

 

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 棚の上も忘れずに。吸引調査は約50箇所、フィルム調査は約70箇所でおこないました。

 


そして、綿棒を使って床面に付着した菌類を採取します。
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 美術品に悪さをする代表的な菌にはカビなどがあり、環境条件によっては紙の作品に茶色いシミを発生させてしまうといったことがあるのです。なので、菌類の生息状況を把握しておくことも重要です。綿棒で床面を撫でる、というこの作業。掃除機やフィルムと違って、綿棒を扱う人の力加減が重要になります。収蔵庫内の約50か所の地点でおこないますが、力の入れ具合が変わると正確に比較することができなくなってしまいます。すべての地点において、同じ力加減で綿棒を扱わなければならない、集中力と根気の要る作業です。

 

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 今回、採取したものは業者さんに持ち帰っていただき、美術館には後日、各地点における塵埃の量や種類、菌類の生息状況などを一覧にしたものが送られてきます。


 一日がかりだったこの作業、実はさまざまな苦労がありました。まずは服装。不織布でできた使い捨ての保護服を着て、頭にはヘアキャップ、口元にはマスク、さらにゴム製の手袋も装着して全身を覆います。伸縮性の無い防護服で動きは制限され、マスクのせいで息苦しさもあります。しかしこれは人の服や髪の毛に付着した埃や塵、菌などが結果に影響を与えてしまうのを防ぐためです。このような装備にくわえて、作業中は埃を舞い上げないために常にゆっくりとした動作を強いられます。走ることはもちろん厳禁、歩くときは足の上げ下げに注意を払い、できるだけ空気を乱さないようにそーっと動きます。自然と全身に力が入ってしまい、体が強張ります。そしてさらにもうひとつ、収蔵庫の中は作品にとって最適な気温が常に保たれています。この部屋の温度は22℃ほど、いつもは暑くも寒くもありませんが、洋服の上に保護服を着て体を強張らせながら重たい作品を運んだりすると、じんわりと汗をかいてくる温度です。一日中、この状況下で黙々と頑張ってくださった作業員さんには本当に頭が下がります。

 

 無事に作業が終了し、収蔵庫の外に出て様々な制約から解放されたわたしたちは全員、ホッとした表情になりました。みなさん、本当にお疲れさまでした。今回の調査結果を受けて、いよいよ次に掃除をおこなうのは、来年の2月頃の予定です。


 このように、作品を良い状態で保存しておくために、長い時間をかけてこつこつとおこなっている裏側の仕事は他にもたくさんあります。どれも根気のいる地味な作業ばかりで、展覧会の華やかさとは結び付かないかもしれません。しかしこうした地道な努力の積み重ねによって、これまでも、そしてこれからも長い間、美術品はまもられてゆくのです。(Ay.K)