みなさん、「さらし」ってご存知ですか?「さらし」は日本の伝統的な「並幅」という単位で織られた白無地の木綿布のことです。ちなみに「並幅」とは約36cm弱、手機で織るのに一番都合が良い幅とされています。日本の着物はその「並幅」を基本に構成されているんですね。普通はこの「さらし」も着物1着分、つまり一反という単位で売られています。昔は赤ちゃんのおむつや、妊婦さん達の腹帯といったものから、生活の様々な場面で使われていた、日本人の生活にはなくてはならないものでした。
ところで、現在の日本人の生活ではあまり見かけなくなったこの「さらし」、美術館の裏方では大活躍なんですよ。
1、 収蔵庫の中で作品を収納する時、このように「さらし」を縦に裂いたもので、縛っています。

2、 作品を移動するときも、台車に固定するのに使います。
3、 箱だって、中に作品が入っていれば、念のための転倒防止のため、このように「さらし」で縛ります。
さらしは広げて使えば、紐の様に一部分だけに食い込むのではなく、圧力を分散させることができるのです。ビニール紐の様に滑ることもありません。
またダスターが無い時はダスターの代わりに、敷物が無い時は敷物の代わりにと、時に応じて学芸員や保存担当のその場の機転で、様々な使われ方をします。
あれ!?これはうちの副館長室の白板です。
白板消しに「さらし」を使うのは、さすがにうちの副館長ぐらいのものでしょう。・・・副館長、返してよ。
(N.N.)
愛知県には、美術館、歴史博物館、科学館、それから動物園にいたるまで、多種多様な博物館が数多くあります。それらの施設には学芸員、または研究員と呼ばれる専門職員がいるわけですが、県内の近くにいる同じ専門職員なのに、一緒に仕事をしたり、交流を持つ機会はなかなかありません。当館でいえば、展覧会を共同で開催する他県の美術館の学芸員さんや、展覧会を共催で運営する新聞社やテレビ局の事業部の方との仕事のほうが圧倒的に多いです。
愛知博物館協会は、まだ当館が愛知文化会館だった時代、そして博物館が少なかった時代の1964年、学芸員の交流の場として加盟館11館で愛知地区博物館連絡協議会を発足し、なんと40年以上の歴史があります!現在、加盟館は約130館を数え、研究会を開いたり、その成果として合同で展覧会を行ったり、講演会・研修会を開催して知識、技術を共に学び、情報を交換しています。
本年度から新たに、調査・研究、教育・普及、修復・保存という学芸員の日常の仕事区分別の研修会をすることになり、先日の2月5日、調査・研究部門の研修会が「ワークシートの作成・活用術」というテーマで行われました。
ワークシートは、展示物への理解を深めるため、単なる解説ではなく、クイズがあったり、観察して絵を描いたりと、展示を見ながら使用するものです。このワークシートの多くは学芸員お手製です。研修会場には加盟館のワークシートが展示されていましたが、デザイナーやイラストレーターに作ってもらうことは予算が許さず、試行錯誤の様子。

↑会場内に設けられたワークシートの展示コーナー 色とりどりなワークシートが並んでいます
今回の研修会では、日本全国の博物館のワークシートについて研究を重ね、ワークシート作りの仕事もされているデザイナー木下周一氏をお招きし、ワークシートのあり方や自らのワークシート作成経験などをお話いただきました。

↑木下氏ご自身が作成されたワークシート(千葉中央博物館生態園)を一例として示してくださいました
その後、碧南海浜水族館・碧南市青少年海の科学館、徳川美術館、愛知県美術館のワークシートの実践例を報告しました。碧南の水族館では、小中学生の理科の授業の一環としたカリキュラムが定められ、それに即したワークシートが作成されていました。徳川美術館では美術館キャラクター「よしなおくん」が登場する子供を対象にしたガイドが月ごとに発行され、これを集めている子供もいるそうです。
当館については、教育・普及を担当しているK学芸員が、所蔵作品のワークシート、美術館と県内の学校の先生で組織された美術鑑賞教育のワーキンググループによって作成されたワークシートや展覧会の鑑賞ガイドを紹介しました。

↑当館からの報告 K学芸員の分かりやすい説明は普段の団体鑑賞対応の賜物!
所蔵作品のワークシートは木下氏にも評価されていました(嬉しい!!)ので、皆さんもぜひ手にとって見てくださいね。学芸員はついつい情報を詰め込み、文字が一杯のガイドやワークシートを作ってしまいがちですが、当館のワークシートは、ひとつひとつの作品の見てほしいところ、知ってほしいことが、きちんと絞りこまれた優れものなのです!

↑クリムト《人生は戦いなり(黄金の騎士)》のワークシート 切り抜かれた穴でポイントになる画面の細部を示しています

↑展示室にワークシートのラックがあります ぜひ手に取ってみてください!
さて、次回の調査・研究部門の研修会は2月18日(木)13:30?17:30 愛知芸術文化センター12FアートスペースEFにて行われます。テーマは「事業としての調査・研究―博物館のあるべき姿を探る―」。事業の実施ばかりに重点を置くのではなく、調査・研究という博物館学芸員本来の仕事の重要性を見直す研修会です。学芸員だけではなく、特に文化行政に関わる人にも参加してほしい研修会。一般の方も含め、まだ参加人数に余裕がありますので、ご関心がある方は当日直接会場へお越しください。
問い合わせ 愛知県美術館企画業務課森(tel:052-971-5511 内線325)
また修復・保存部門の研修の一環として歴史講演会が行われます。こちらは一般の方も参加可能。
3月6日(土)15:00-16:30 愛西市佐織公民館3階研修室 「廃藩置県と近代日本」講師松尾正人氏(中央大学教授)
要入場整理券(佐織公民館にて2月13日(土)9:00-整理券配布 一人3枚まで)
問い合わせ 愛西市教育委員会社会教育課 tel 0567-37-0231(内線181)
(MRM)
作品を収納している裏のエリアの掃除には、いくつか注意点があります。
作品が置いてある訳ですから、作品にぶつからない様にすることは、まずその筆頭と言えるでしょう。収蔵庫や撮影室、修復室などでは、一般家庭のものとは異なる、クリーンルーム用の特別の掃除機を使用しています。
↑クリーンルーム用掃除機
空調機と同様、カビの胞子程度の物も除去する特殊なフィルターがついているタイプです。
これを扱う時には二人一組が原則です。一人は通常通りに掃除に集中すればいいのですが、もう一人はコードや掃除機の本体が作品にぶつからない様にコントロールを行います。これは二人の息が合わないとなかなか難しい作業です。
時には掃除機を持ち込むのが難しい場合もあります。例えば調査日程、撮影日程が詰んでいて、一方では調査、撮影を行い、その傍らで清掃を平行して行わなければならないような時です。その場合は、昔ながらの「茶殻とほうき」の現代版を行います。湿らせたシュレッターゴミをほうきで転がしながら掃除する方法です。

↑「茶殻とほうき」ならぬ「シュレッターの紙くずとほうき」
これなら音も埃も、両方、立てずに行えますね。大きな面積を掃除する日は、シュレッターゴミを要らなくなった黄袋に入れ、水につけてから洗濯機で軽く脱水をかけて準備します。
いずれにせよ床に落ちたゴミや塵を集めるだけなく、裏のエリアでは空気中の埃もできるだけ少なくする目的で清掃を行なわなければなりません。カビの胞子はだいたい3ミクロン内外だと言われています。塵埃の挙動を研究した人がいるのですが、3ミクロンの塵埃は、舞い上がるとすぐには落ちて来ず、数時間かけて沈降してきます。特にカビ処理が続いた部屋などを清掃した日は、一通りの掃除を終えた後も、翌日、誰も入らないうちに手前からそっとモップがけを行い、この沈降した埃を除去してゆきます。机の上など、前日に一度拭いた所でも、朝には結構ざらついているのがわかります。特にカビがひどい時などは、逆制石けんを使用する事もあります。
この塵埃の挙動とモップがけの関係は、ご家庭での掃除についても、少し念頭に置いておかれるといい情報だと思います。

↑カビ対策用
(N.N.)
11月26日(木)と28日(土)、「視覚に障害のある方へのプログラム」を開催しました。今年3月15日ブログのワイエス展鑑賞会とあわせてお読みいただきたいのですが、今回は所蔵作品展の鑑賞です。
現在の展示では、視覚障害をおもちの方に手で触れていただけるブロンズ彫刻が14点。特に展示室入口では若い女性(戸張孤雁の《をなご》)と壮年男性(中原悌二郎の《平櫛田中像》)、そしてベートーヴェン(ブールデル《両手のベートーヴェン》)という頭像を集めました。

↑戸張孤雁 《をなご(頭部)》 1910年

↑中原悌二郎 《平櫛田中像》 1919年

↑エミール・アントワーヌ・ブールデル 《両手のベートーヴェン》 1908年
モデルの顔立ちの差に加えて、卵型の粘土を柔らかく変形した戸張、土台となる骨格に土を付けていく中原、大きな四角い塊から刻み出したようなブールデルと、作り方による造形の違いが現れています。丹念に触れていくと、こめかみや頬骨の下のくぼみに自分の指がぴたりとはまり、作者の手跡を感じとることができます。

↑コルヴィッツ《恋人たち?》の鑑賞
顔で感覚をつかんだあとは、男女が溶け合うような複雑な彫刻に挑戦したり、絵画の鑑賞に進みました。

↑小出楢重《蔬菜静物》の鑑賞
今回の参加者は4回のべ27人で、うち初参加が5人。ガイドボランティアも4月におこなった養成講座で新人が増え、お一人に2名つく時も。付き添いのご家族やヘルパーも加わってかなりにぎやかでした。毎回思うのですが、一つひとつの作品についてこんなに語り合える鑑賞会もめったにありません。

↑川瀬巴水《馬込の月》と立体コピー
名古屋YWCAのボランティアに作っていただいた立体コピーの新作。試作で細かく表していた松の枝葉や右下の屋根藁は本番で単純化し、逆に省略していた、満月をよぎる薄い雲はこの版画の風情に重要だということで復活しました。
4回とも皆さん1時間半を休憩もなく鑑賞され、さらに後日個人的に来館された方もありました。ブログをお読みの方で、このプログラムを紹介したいお知り合いがおありでしたらご連絡ください。次回の開催時(まだ未定ですが)にご通知させていただきます。
(TM)
芸術文化センターの吹き抜け空間に、巨大なオブジェが吊り下げられているは皆さんもご存じのことでしょう。このオブジェは、竹と和紙による立体造形で知られる現代アーティストの北山善夫さんの制作によるもので、「私」と書いて「あなた」と読ませるというちょっと意味ありげなタイトルが付けられています。
この作品は、実は人のかたちをしているのですがお気づきだったでしょうか。大ホールの入口あたりから見上げたとき、そして上層階へと移動するシースルーエレベータから眺めたとき、巨大なオブジェは刻々とその姿を変えていきますが、全体は両手を広げて左足を後に曲げて、飛び立つようにも、舞い降りるように見える人の姿が表されています。
この作品、芸術文化センターの開館に合わせて設置され、これまでずっと皆さまにご覧いただいてきましたが、さすがに近年は汚れが目立つようになり、また、軽やかに曲げた左足には少しゆがみが出てきていました。そこで今回、一度作品を降ろして化粧直しをすることになり、12月8日(月)にその作業を行いました。制作者の北山善夫さんにお越しいただき、再設置のための記録や目印を付けながら20人近いスタッフが慎重に作業を進め、夕方には無事にすべてを分解、搬出して、保管場所まで運び終えました。これから洗浄作業や、紙の貼り替え作業を行い、再来年には再設置の予定です。


ところであのオブジェですが、ご覧いただくと竹と紙でできているように見えますが、基本はすべてガラスでできています。もちろんガラスといっても特殊なもので、繊維状のガラスを束ねて棒にしたものと、同じく紙のように薄くしたものを使っているのです。
作品がなくなった吹き抜け空間は、ちょっと寂しい感じがしますが、現在は幾何学的な構成による建築空間そのものの美しさをご覧いただけます。そして、来年に迫った「あいちトリエンナーレ2010」では、まったく違った作家による作品が設置されるようになるかも・・・。いずれにしても一年半ほどかけて化粧直しが終わって、開館した時のように美しく軽やかな姿に戻ったあの「私(あなた)」との再会をどうぞお楽しみに!
(MUM)
日本で文化財を保存してゆく上で、一番問題になるのが「カビ」そして「虫」です。江戸時代、江戸の大火は有名ですが、その頃ですら貴重本が失われる原因は「火事」よりも、これら生物被害によるものが多かったと試算されています。

↑カビ
美術館でもカビ処理は非常によく行う作業です。文化財によらずカビの生えた物の最初の処置はよく乾燥させることですが、文化財の場合、やみくもに乾燥させるとひび割れなど違う弊害が起こります。ただ幸いにして文化財によく使用される素材の保存適正湿度は、カビの発育適正湿度より、ほとんどが低いので、まずはその素材の保存適正湿度に馴染ませてやります。そうすると生えたカビは非常にもろい状態になり、少しの衝撃でも粉砕されるようになります。そういう状態にしてから乾式クリーニング、つまりカビ払いを行います。

↑カビ払いの様子
筆で払ったり布で拭いたりといった作業ですが、私たちはちょっとした作業に学童用の化繊の筆をよく使います。化繊の筆は乾燥した状態でこすられると静電気が起きやすいので、胞子などが筆側にひっついてくれるからです。このように先を様々な形状に自分でカットして使います。

↑カビ払いで使用する化繊筆
小さいものですと修復室のフーバの下で行いますが、大きい物はそういうわけにいきません。これはあくまで殺菌処理ではないので、飛び散った胞子などを吸い込まない様、作業をする職員もマスクをし、ひどいものは白衣を着て作業をします。またしょっちゅうクリーンルーム用の掃除機でまわりを掃除しながらの作業になります。

↑白衣とマスク

↑掃除機がけの様子
余談ですが、お着物などに茶色いシミが、「そばかす」というか「ジンマシン」の様に出てきてしまったというご経験はありませんか?一般には「ほし」とかとも呼ばれ、私たちは専門用語として「フォクシング(foxing)」と呼んでいます。あれの原因もカビであることが非常に多いのです。あまり知られていないことですが、実際にカビが生え出してから、あの「シミ」が出るまでには結構、長い時間(環境にもよるが年単位)が必要です。タンスを開けて少しでも「カビ臭いなあ」と感じたら、すぐ良く乾かして乾式クリーニングを行って下さい。今ではお着物用のブラシなども市販されているようですが、柔らかい毛のものでしたら刷毛のようなものでも使えます。あの「シミ」は一度出来てしまったら、ほとんどの場合、染み抜き出来ません。出来ないばかりか、時として分泌されたものによって次の染め替えの邪魔をする、実に厄介者です。
昔の日本人の暮らしに「虫干し」という行事は欠かせないことでした。近年、「虫干し」という年中行事も科学的な裏づけがされ、その有効性が再認識されてきています。「虫干し」にはいろいろな類語があるのですが、その中に「目通し、風通し」という言葉があり、まさしく「虫干し」のメカニズムを言い表した言葉だと言えます。上記Foxingなどの症状を予防するにも、この「目通し、風通し」が一番有効なのです。
美術館の収蔵庫は温湿度管理がされ、いわゆる四季のない空間なのですが、早期発見、早期予防はしっかり継承しなければならないことです。みなさんも自分にとっての宝物は、時々取り出し、眺め、慈しんでやって下さいね。
(N.N.)
愛知県美術館…皆さんはどんな印象をお持ちですか?
企画展に足を運ばれることが多い方は、古美術から現代美術まで、時代も地域も幅広く多様な展覧会をお楽しみいただいていると思います。
でもやっぱり、美術館の顔はコレクション!このブログでも、作品の保存や管理から展示の仕方など、学芸員が日ごろより良いコレクション形成のために努力を重ねているところをご紹介しています。
そして、その努力がいくつかの実を結ぶことがあります。その一例として、個人で所蔵されている作品を、美術館に預けていただくこと(寄託)があげられます。美術館の作品管理や活動を評価してくださっているからこそ、所蔵家の方は安心して作品を美術館に預けてくださるのだと思います。私たちはその信頼に答えられるよう、また日々精進していかなければなりません。
さて、寄託された作品は美術館の管理の下で展示され、たくさんの方にご覧いただくことができます。現在所蔵作品展の展示室7では、当館のコレクションにはないモネやシャガールなど、日本で特に人気のあるフランス近代画家の寄託作品が展示されています。当館のコレクションの特徴は、クリムト、キルヒナー、ノルデ、クプカなど、日本ではあまり見られない作家の作品にあります。もちろん20世紀の巨匠ピカソやマティスの作品もありますが、近代美術の展開をたどるならやはり印象派やその周辺もほしいところです。しかしこうしたモダンマスターの作品の入手は困難を極めるため、今回展示されているような寄託作品が、もとあるコレクションの幅を広げてくれるわけです。

↑クロード・モネ 《セーヌ河の湾曲部 ラヴァクール、冬》 1879年
この作品は、かつて松方コレクションに入っていたもの。1878年からセーヌ川沿いの町ヴェトゥイユに移住したモネは、セーヌ川を挟んだ反対側にみえるラヴァクールの町の眺めを描きました。この作品が描かれた1897年の冬は厳しい寒さのためセーヌ川の水が凍ったそうです。作品に描かれたラヴァクールの景色も寒々しい感じがします。

↑マルク・シャガール 《オペラ座》 1953年
赤く染まったパリのオペラ座と、そこから延びる黄色い花を咲かせた木(幹に見える部分は数人の人物の身体が折り重なるように描かれています)、そして手前には白いコスチュームに身を包んだダンサーが描かれています。この作品を描いた10年後に、シャガールはオペラ座の天井装飾の制作を行いました。
これらの作品が展示されている展示室は、企画展の展示室に比べ空間が小さいので、作品との距離がぐっと近くに感じられます。その分、作品に親しみを持つことができる展示空間で、ゆっくりと作品をご堪能ください!
(M.M.)
美術館の中には、学校でいう保健室のようなところがあります。それが修復室という所です。作品も物質によって出来ている以上、劣化は免れません。文化財とはいえ、時に対して免罪符を持っている訳ではないからです。病気もすれば怪我もする、人間と同じです。
↑これは外部の修復家にお越し頂き、館内で所蔵作品の保存処理をお願いした時の写真です。
人間でいうところの往診ですね。修復室はこのような作業を想定して外光が入る様に設計されています。この時は画面の張りの調整と洗浄、剥落留をお願いしました。
また修復室は強い溶剤を使ったり、カビの生えたものの乾式クリーニングを行う事を想定して、大きなフーバー(吸い込み装置、換気フードのようなもの)がついています。


時々誤解されることですが、愛知県美術館の保存担当学芸員は修復家ではありません。修復家がお医者様だとすると、保存担当は学校の養護の先生のようなものです。作品が傷む・・・、劣化するといっても、突然、本格的な修復をしなければどうにもならないというような状態に、一足飛びになるということは非常にまれです(まったくないわけではありませんが)。人間と同じく少しずつ老いてゆくのが普通ですし、日頃はそれができるだけ緩やかになるよう、むしろ作品環境の方を厳しく管理しています。作品は常に観察がされ、具合が悪い所は早め早めの処置を心がけています。
作品を保存してゆくのに一番大事な事は修復に先立つ予防です。だから近現代美術が多い愛知県美術館の保存担当は、修復作業は外部の専門家にお任せし、予防のための活動の方を中心に行っているのです。
(N.N.)
展示室もそうですが収蔵庫の空気は厳密に管理されています。
みなさんは展示室でこういうものをご覧になったことはありませんか?

この中には「自記温湿度記録計」という温度と湿度の変化を1週間分記録する計測器が入っています。

もちろん空気調和設備(家庭でのエアコンに該当する機械。以下、空調と略す)に直結した電気的なセンサーはあるのですが、展示室も収蔵庫も、その電気的なセンサーとこの記録計と、常に2本立てて温度湿度はモニターされています。
空気成分や塵埃も管理対象です。空調機の中のフィルターは3層有り、カビの胞子レベルも有害なガスもここで除去されます。
これはプレフィルターといって空調機の一番手前に入っている、おおまかな塵埃除去目的のフィルターです。
左の真新しいものと比べるとかなりの違いがわかりますね。空中浮遊塵の数は収蔵庫の場合、人が作業を始める前、空気がかき乱される前は病院の手術室と同じレベルの清浄度です。ちなみに私は花粉症ですが、収蔵庫での作業が続く日は、帰る頃には花粉の季節だという事を忘れるぐらいになっています。外に出て、くしゃみをして始めて思い出す・・・といった具合です。
もちろん掃除もしますが、できるだけ埃を作らない様に、また持ち込まない様にするための工夫もします。
これはまるでエレファントマンのようですが、カバーのかかった彫刻です。
こういった長期保存のためのカバーには絹が使われます。絹は木綿などと違って長繊維なので埃が出にくいのです。だから収蔵庫内では強度を必要としないものに関しては絹が積極的に使われています。
また入り口には足拭き用の粘着シートが敷かれ、スリッパや台車の車輪についた埃を取る様なしくみになっています。
これは汚れて来たので一番上を、半分めくった所です。

真新しい時は結構粘着が強く、うっかりすると転びそうになるくらいです。これを「人間ごきぶりホイホイ」と命名した学芸員がいます。
余談ですが、先程、絹は長繊維なので・・・と書きました。ご存知のとおり絹はお蚕さんの繭なのですが、お蚕さんは繭の作り始めから終わりまで、休むことなく・・・つまり繊維を切らすことなく吐き続けます。なんとまゆ1粒は1500mの長さの1本の繊維でできていると言われているのです。木綿がわが国に普及したのは江戸時代以降です。羊毛が普及したのはもっと新しいことです。昔は絹かこれまた長繊維の麻しかありません。昔の人の暮らしにはほとんど「綿ホコリ」というものがなかったものと推定されています。
(N.N.)
7月に、博物館実習を実施しました。大学等で博物館学芸員資格取得を目指して講座を受講している学生が、美術館の現場で実習を行うものです。今年も愛知県内やそれ以外の地域の様々な大学から、芸術を中心とした諸専攻の、男性1名、女性8名が受講しました。
実習の基本的なプログラムは、美術館の概要に始まり、収集、保存、展覧会企画、ドキュメンテーション、教育普及、広報などの各講義に加えて、作品の点検・取り扱い、展示実習などにより行われます。愛知県美術館の学芸員が、各分野を担当します。
毎年、実習時に開催される展覧会の事業や館内の仕事の流れによって、重点的に行われる実習が変更されます。夏場の実習ということもあり、過去には、屋外展示作品の洗浄を行ったこともありますが、今年は、夏休みの子ども向け鑑賞会に参加・実施してもらうことにしました。

↑子どもの好奇心におどろき
実際、子どもを対象としたイベントに慣れていない学生も多く、作品鑑賞に導くことはもとより、子ども相手への戸惑いも見られました。けれども、子どもというフィルターを通して、語らいながら作品を鑑賞することの楽しさ、または作品への子どもの素直な反応に、作品が持っているエネルギーをあらためて感じたようでした。

↑実物の作品での展示実習に緊張気味
こうした現場の生の声による講義や実習を通して、各自が、来館者としてそれまで抱いていた展覧会を開催する場としての美術館像から、作品を中心とした活動を展開する美術館像に転換させている様子がみえてきます。毎日提出される実習日誌からもそれはうかがえるのですが、最終日に受講者に課される課題発表に、その成果が現れるように思います。毎年、発表の日は、皆さん寝不足のようです。それだけに、展覧会企画・ワークシート等の鑑賞補助資料作成・教育事業企画等々に取り組まれた発表は、(限られた予算で)いかに魅力的な美術館にするかということへの、学生らしい斬新な提案ばかり。美術館も、初心に返って、こうした企画を実現できるよう活動していけたらと思わず感じざるを得ませんでした。
受講生の皆さん、5日間お疲れ様でした!

↑自分たちで行った展示に感動、満足
なお、来年度は、「あいちトリエンナーレ2010」開催のため、博物館実習は行いません。学生さんたちとの交流は、トリエンナーレなどの開催を通して、別のかたちで行っていけたらと思っています。
(M.F.)
美術館では毎年夏休みの期間に小・中学生を対象としたプログラム「夏休み子ども鑑賞会」を実施しています。美術館や作品鑑賞に慣れ親しんでもらおうと、毎年様々なテーマを設けています。今年は【めざせ!!美術館マスター】です。美術館長から、マスターになるための3つの指令が出され、それをクリアすると美術館マスターになれるというものです。今回の鑑賞会には、美術館のスタッフの他、鑑賞学習ワーキンググループの有志の先生方や芸術系大学の学生などに、プログラムの企画から参加していただきました。
プログラムでは、4から7名のグループに分かれ、サポートスタッフが2名つき美術館長からの指令をクリアしていきます。低学年(小学1年生から4年生)と高学年(小学5年生から中学生)と指令の内容が異なり、対象年齢に合わせた指令が出されています。

▲「指令できそうなひとーっ」の掛け声に元気に手を挙げてくれています。
まだ、鑑賞会実施期間中なので全てご紹介できませんが、指令を1つご紹介したいと思います。
指令 「ピッタリの作品をさがせ」 では、色カードと言葉カードを使って、そのカードとピッタリ合う作品を探し出し、その作品の特徴などを鑑賞していきます。
カードホルダーに3枚までカードを入れることができるので、色を3色入れてその作品を探し出すわけですが、参加者にカードを選んでもらうと、金色はみんな好きなようで、必ずといっていいほど手に取ります。

▲金色がホルダーに入っていますが、作品のどこにあるのでしょうか?

▲グループのみんなでピッタリ合っているか検証中
また、言葉カードでは「あたたかい」「どろどろ」「シュッ」「つるつる」などのカードから作品を探します。

▲どの言葉でピッタリを見つけようか相談しているようです
この「ピッタリの作品を探せ」では、実施前3色の組み合わせだと、見つからない作品が出てくるかと思いましたが、作品をじっくり観察してみると、見つかるものでたくさんピッタリの作品を発見することができます。
たとえば、金色・ピンク色・緑色だと、どんな作品を見つけられるでしょうか。来館の際に探してみてください。
(R・K)
華やかな美術館の表側と異なり、裏側には関係者しか入れない大変厳しいセキュリティーエリア(警備強化範囲)があります。さらにその奥に日頃作品が眠る「収蔵庫」があります。
↑収蔵庫前室

↑収蔵庫の内部
「収蔵庫」は、私たちが中で調査や作業を行う時だけ、また必要なところだけ照明を点けることになっています。光も作品の劣化を促進してしまうからなんですね。
額に入った作品は、「絵画ラック」というものに掛かっています。このラック自体、必要な時に引き出せる様、モノレールのように上からつり下げられた構造になっています。

↑ラックにかけられた絵画 落下防止のためさらしで留められています
収蔵庫は分厚い断熱材を内張りしたコンクリートの箱の中に、その壁からは独立した別個の木造の家を建てた様な、完全な二重構造になっています。その木のお家とコンクリート躯体との間には巨大なゴムが噛ませてあり、劇場やコンサートホールから、もし重低音振動が伝わってきたとしても、そこでシャットダウンできるようになっています。複合施設なので他の美術館博物館施設にはない工夫がされたのですね。でも近年それが地震対策にも有効に機能するということがわかってきました。
収蔵庫は年間を通じて22度55%の温度湿度に保たれ、空気成分の各種ガスや固形物である空中浮遊塵に至るまでモニターされ、管理されています。
(N.N.)
華やかな美術館の表側と異なり、裏方にはちょっと変わった世界があります。学芸員(curator)はこの表と裏の両方を行き来する研究者ですが、この美術館には、ほとんどこの裏方ばかりにいる保存担当学芸員(conservation staff)という職種のメンバーもいます。この裏方より、このあまり知られていない裏方の世界を紹介させて頂こうと思います。
美術館の裏方は防犯上お見せできない部分もあり、この裏方通信シリーズには意図的にぼけさせた写真を使わざるえない場合も出てくると思います。そこらへんはどうかお許し下さい。
現在、この主に保存業務を中心に頑張っているメンバーは3人います。今日はアートドキュメンテェーションという、これまた裏方チームのアシスタントさん1名にも手伝ってもらい、4人で屋外彫刻の洗浄です。この立体作品がセンターのどこにあるか、ご存知ですか?
まず床面に堆積した泥を集めます。かなりこびりつきが激しいのでデッキブラシでこそげ落とします。
いよいよ作品にかかりました。まず十分に水で流します。次の段階では洗剤を使って表面を洗うのですが、この時、泥が残っているとかえってその泥が表面を傷つけてしまうので、最初の水洗いは丹念に行います。ここらへんは車の洗浄と同じですよね。

次に中性洗剤で洗います。表面のコーティングがかなり弱っているので、優しく、赤ちゃんの体を洗うように・・・、「こする」というより「なぜる」という感覚で、洗ってゆきます。

そしてまた水で洗剤を流し、流した洗浄液を排水溝に集めながら、床面も磨いて終わりです。この作品は大きいので丸一日の仕事となりました。

翌日には全員(?)ふくらはぎに激しい筋肉痛が起こりました(注:若干1名の筋肉痛は1日遅れましたあ!!)。ツルツルの曲面から滑り落ちないように、かなり筋肉を緊張させていたのですね。
(N.N.)

まずは、上の写真をご覧ください。フカフカの座布団のようなものですが、これが美術館の収蔵庫(作品を保管する所)にたくさんあります。何に使うものかお分かりになりますでしょうか。
この写真に写っている布団のサイズは、大体A4サイズぐらいで、大変上質なビロードでできています。厚さも結構あり、枕にすると気持ちよさそうなかんじです。実際、触っていると気持ちが良くて、抱きかかえていたくなる感じなんです。

▲たくさんの赤い座布団的なもの
これは、私たちが[ヤワラ]とか[布団]と呼んでいる美術館で使う道具です。ヤワラは基本的に、展示作業中に使っています。作品を移動させる際、台車に乗せて運んでいるのですが、作品をそのまま台車に乗せる事はまずありません。作品を乗せる部分に、ヤワラを敷いて、その上に作品を乗せます。移動の際にかかる負担や衝撃を和らげるため、さらに、装飾的な額の場合、突起している部分にだけ重力がかからないように、床面から離すために使っています。

▲絵画用の台車に乗せています。真横から
▲前から見るとこんな感じで乗せています。
さらに、このヤワラには、色々な種類があります。先に紹介した赤いかわいいヤワラもあれば、美術作品の輸送や展示に携わる業者の方が持ってきているグレーの長いタイプのもの、さらに綿を薄い紙で巻いたものなどのヤワラがあります。

▲ひとまとめになっていますが、これが業者の方がお使いになっているヤワラです。
▲こちらが、薄い紙に巻かれたタイプのヤワラ
最初の写真のヤワラは、当館専用のヤワラです。作っていただいたのは、美術館友の会のサポート部会の方々っ! 赤いヤワラ以外にも、白いヤワラも存在します。下の写真にある白いヤワラは、すっごく綺麗ですべすべです。ちりめんやりんずといった着物用の絹地でできています。
▲綺麗な模様もはいっています。

▲この写真では、作品を裏返しておく際に、作品の画面が直接あたらないよう浮かせるために敷いています。
ご来館の方々には、お見せすることができないものですが、美術館が閉館中の展示替え作業中などで、大活躍してくれる道具です。
(RK)
美術館に展示されている作品のそばには、作品の作者やタイトルなどが表示されています。この表示をキャプションと呼んでいます。(図録などに載る図版の横にある表示もキャプションと呼びます。)
美術館によって、また企画展によってキャプションの形や大きさ、表示されている内容は異なります。愛知県美術館所蔵作品展示室で使用しているキャプションは約15×15cmの正方形。上半分は日本語による表記、下半分は英語による表記で、1作家名、2作家の生没年と生没地、3作品名、4制作年、5技法材質、6その他(寄贈者のお名前、木村定三コレクション、寄託作品など)を表示しています。

実は、以前のキャプションはもっと小型で、表示されている情報も少なかったのですが、年齢や居住地、職業などより幅の広いお客様にご来館いただけるように、と改良を重ねてきました。

↑上が現在所蔵作品展で使用しているキャプションの一般的なかたち。下は以前使用していたもの
(注:それぞれ違う作品のキャプションです)。文字が大きくなり、生没地が表示されるようになりました。作家の出身地が自分のふるさとと同じだったりすると、なんだか親近感がわいてきませんか。
そして、キャプションを掲示するために欠かせないのがキャプションケースとアクリルピンです。
キャプションケースは透明なアクリル製で、キャプションを差し込めるようになっています。キャプションケースを使えば、キャプション自体には汚れや傷が付きにくいので、展示替えで作品や作品の位置が変わっても、一度作ったキャプションを繰り返し使うことができます。また、簡単にキャプションを差し替えることができるため、作品が変わっても、同じキャプションケースが使用できるので効率的です。
キャプョンケースには、床や展示ケースに置くことできるスタンド型のものと壁付け型のものがあります。壁付け型のキャプションケースを壁に固定するために使うのがアクリルピンです。キャプションケースに空けられた2つの穴にピンを刺して壁に固定します。アクリルピンとは呼んでいますが、頭部分が透明アクリルになっている、いわゆる画鋲のことですので、みなさんのお宅や職場にもあるかもしれませんね。
↑スタンド型のキャプションケース

↑キャプションケースとアクリルピン
作品を展示する作業よりも先にキャプションを付けてしまうと、作品や作品を持った作業員さんの体にキャプションケースが当たって作品を傷付けてしまう可能性があるため、キャプションを掲示する作業は作品自体の展示が終わってから行います。展示室の壁は堅いので、画鋲を使うようにはいきませんが、同じ壁に掛かっている作品に振動を与えないよう心がけて作業をしています。
※本文中で所蔵作品展でのキャプションを紹介しました 熊谷守一《土饅頭》、ヴィルヘルム・レームブルック《立ち上がる青年》、パブロ・ピカソ《青い肩かけの女》は東京都美術館にて4月25日より開催の「日本の美術館名品展」に出品予定です。企画展ではどんなキャプションが付けられるのでしょうか。
(MI)
去る2月26日(木)と28日(土)、「視覚に障害のある方へのプログラム」を開催しました。これは所蔵作品展の鑑賞を主として10年以上続けているものですが、今回は「アンドリュー・ワイエス 創造への道程」展が対象。2日間を午前午後に分けた4回で、のべ42人が参加されました。

「目の見えない人がどうやって美術鑑賞を?」と思う方も多いでしょう。彫刻なら手で触れてもらうこともありますが、絵画の場合は言葉で説明し、頭の中に絵を思い描いていただきます。初めに学芸員の私から画家ワイエスや彼の絵のテーマなどについてお話ししたのち、参加者一人ずつにガイドが付き添って展覧会場をまわります。ガイドは「名古屋YWCA 美術ガイドボランティアグループ」の皆さんです。
さて、言葉で絵を描くにはどうしたら? 客観的な説明法としては、例えば「雪景色の中に二人の人がいる絵」と主題を伝えた上で、絵の大きさや縦横の比率を話し、続いて画面のどのあたりに道や木や人が配置されているのか、そして人の性別や年齢、衣服、ポーズや表情など細部へと進めていくのがいいようです。でもこれだけでは絵が芸術作品になりません。その風景や人物と画家との関係といった情報を加え、構図や色彩・光・筆のタッチなどの効果を読み取り、画家の表現意図を解釈する必要があります。ちょっと難しそうですが、そこまで話そうと思うと、説明する人にも絵がどんどん見えてきます。さらには自分自身がその絵をどう感じたか、個人的な思い出なども交えて会話ができると楽しいですよ。このブログをお読みの皆様も、一度お好きな絵の説明を考えてみてください。

絵の説明の補助として、黒で描いた部分が盛り上がって手で触れられる「立体コピー」も用いています。今回はWYCAの方々が4点のコピーを作ってくださいました。ところどころ線の太さを変えたり、網がけで面の手触りを変えたりといった工夫がされています。これら4点には私が解説文を書いてガイドの資料にするとともに、参加者にお持ち帰りいただけるよう点字にもしてもらいました(点訳にはボランティアグループ「六点会」のお世話になっています)。
↓立体コピー (手前に描かれているものと、遠くに描かれているものが、手触りで違うことが分かります!)

参加者は1時間半のプログラムが短く感じられるほど熱心に鑑賞され、後日「美術ボランティアのかたがたのおかげで目の障害があっても見えてきます」、「ワイエスの小説の中に入り込んで、ワイエスの視線で作品を見せていただき、私の脳裏に強く残り深く鑑賞する事ができました」といった感想が寄せられました。 (TM)
4月にYWCAのガイドボランティア養成講座がひらかれます。お問い合わせは
電話052-961-7707 メールyyy@nagoya-ywca.or.jp
白手袋(しろてぶくろ)は短く略して白手(しろて)とも呼んでいます。
直接素手で作品を取扱うと、汚れや手跡が残ることや、サビなどの原因になることがあります。そのような可能性が懸念される場合には、白い綿手袋を付けて作品を取扱います。手袋を着けることで手が滑りやすくなったり、手袋の繊維が作品に引っかかったりして逆に作品を傷めてしまう危険がある場合や、指先の微妙な感覚が必要とされる作業には白手袋は使いませんが、他の美術館などからお借りした作品を取扱う場合は、所蔵先と相談して作業時に白手袋を着用するかしないかを決めています。
↑ライオネル・ファイニンガー展(2008年10月17日?12月23日)展示より
一方の黄袋(きぶくろ)とは、素描や版画作品を箱に入れて収納する場合に使う袋。その大半が黄色の布で出来ています。
↑黄袋は作品より少し大きめ。口の部分を折り返して箱に入れます。
黄色の理由は、昔から黄色の染料として使われていたウコンに防虫効果があったからとも言われています。黄袋に使用されている黄色染料の種類やその防虫効果については不明ですが、額縁や額縁に装着されているガラスやアクリルの傷を防ぐことができ、振動や温湿度の変化を緩和する効果もあります。
↑いろんな黄色、いろんな大きさの黄袋があります。色はともかく、大きさは作品(額の寸法)にあわせて作られています。
白手袋も黄袋も作品に直接触れるもの。白手袋が黒手袋になる前に、黄袋が茶袋になる前に、洗濯して繰り返し使っています。(作品への影響に配慮し、洗濯には蛍光剤などの添加物が少ない洗剤を使用しています。)
そして、お洗濯にご協力をいただいているのは愛知県美術館友の会サポート部会の皆さん。お洗濯だけでなく、手袋の縫い目のホツレや黄袋の破れなど繕いまでして下さっています。いつもありがとうございます。
(MI)
さて、そろそろアーツ・チャレンジ本番の時期になってきました。アーツ・チャレンジとは若手アーティストをサポートするために愛知県が主催しているアート・コンペティションです。多数の応募者の中から厳しい審査を勝ちぬいた若手アーティスト19人が2月中頃から愛知芸術文化センターで作品を発表します。美術館側もいそいそとお手伝い。

そういうわけで、美術部門に選ばれたアーティストの作品をいかに展示するか最終調整が進んでいます。上の写真は、先月末、選出されたアーティストの一人、田中香奈さんが、キュレーター、加藤義夫さんといっしょに現場で展示方法を考えているところです。
上の写真を見てお気づきのとおり、このアーツ・チャレンジがユニークなのは、展示室だけではなく芸術文化センター内の色々な公共スペースにも作品を展示するところです。地下2階の廊下などもぞくぞくと展示スペースに変身します。田中さんの作品は11階の展望回路(10階レストラン横の階段の上)に展示予定。栄の景色も活かした作品になるとか…。

ちなみに展望回路、夜はこんなふうになります。ロマンティック!
アーツ・チャレンジにかこつけて、芸術文化センター内の隠れ素敵スポットめぐりもできちゃいますね。
(FN)
みなさま、愛知県美術館が実施している団体鑑賞をご存知でしょうか。
当館では、美術館に親しんでもらいたい、本物の作品のよさを多くの方に味わってもらいたいと考えて、学校行事や地域の催しなどでの団体鑑賞を受け入れています。
どんなことをするかというと、申し込まれる方のご要望をお聞きして、企画展または所蔵作品展の解説をしたり、美術館でのマナーをお伝えしたりすることもあれば、美術館の仕事について紹介や学芸員に対する様々な質問にもお答えしています。

▲見えませんが、作品の前に学芸員が立ち解説中です。
先日来た中学生からの学芸員に対する質問で、びっくりしたのが「月給はいくらですか?」といったものでした。さらっとお伝えしましたが、そんな普段では知ることのできないことも、できるかぎりお答えしています。
学校行事でのお申込みが大半ですが、美術部での申し込みや地域の絵画教室、美術サークルなど、一般のお客様でも、もちろんお申込可能です。

▲一般の方へのレクチャー。人数が多かったので別室にて
団体鑑賞のお申し込みは20名からとなります。20名を超えると、観覧料金が割引にもなるし、お得です。よろしければ、みなさまもお誘い合わせの上、団体鑑賞に参加されてはいかがでしょうか。
↓団体鑑賞のお申込み方法などについては、こちらから↓
(RK)
美術館で気になる画家を見つけて、その画家についてもっと知りたくなったら、とりあえず画集や他の展覧会のカタログを見る。基本的かつ手っ取り早い調べ物の方法です。
作家の全貌を知りたいときに一番便利なのは、「カタログ・レゾネ」と呼ばれる本を見ることです。意外と知られていないこのカタログ・レゾネ、いったいどんなものなのでしょうか?
カタログ・レゾネ(Catalogue raisonné)とはフランス語で、「論理的思考にもとづいて編まれたカタログ」という意味です。大抵の場合、特定の作家の全作品について、図版、制作年、来歴、サイズ、所蔵者、言及論文などの情報が網羅的かつ編年的に記載されています。作品数が多すぎると複数巻になったり、絵画だけの巻、彫刻だけの巻などとジャンル別に分けられたりします。
ちなみに愛知県美術館の入っている愛知芸術文化センターの一階には、アート・ライブラリーがありまして、様々な芸術家の資料がそろっています。例えばピカソのレゾネを見てみると…
なんと全33巻!当館所蔵の《青い肩掛けの女》ももちろん記載されています(Z155)。貴重書なので、傷まないようにストレージ・ボックスに入れて保管してあります。
最近では存命の作家のレゾネが出版されることもあります。この場合は、○○年から○○年までというように時期を区切っていることが多いです。しかしレゾネだからデータは完璧、というわけにもなかなかいきません。レゾネ発行後に新しく作品が見つかったとか実はあの作品は偽物だったとか所蔵者が手放してからあの作品は行方が分からない…なんてこともありますしね。そういえば先日スペインのプラド美術館所蔵のゴヤの作品《巨人》が、実は弟子の作かもしれないというニュースがありました。そんなわけで、作家によってはレゾネが何ヴァージョンも刊行されていることもあります。先ほどのピカソのレゾネはクリスチャン・ゼルヴォスという人の編纂で、通称「ゼルヴォス・レゾネ」と呼ばれています。ですが、すでに刊行されてから30年以上経っており、情報が古い部分もあるので、その後も時期を絞ってレゾネはいくつか刊行されています。
レゾネを探すときに注意しなければならないのは、これらの本には必ずしも「カタログ・レゾネ」という名前がついているわけではないというところです。通称みたいなものです。日本語なら「全作品集」とか、フランス語なら「Oeuvres Completes」とか、そういう名前のことが多いです。

上からアンディ・ウォーホル、アントニ・タピエス、パウル・クレーのレゾネです。他にもいろいろな作家のレゾネがあるんですが、特に見た目がきれいなものを選んで撮ってきました。表紙カバーは外してありますけれど。ウォーホルは《ブリロ・ボックス》を彷彿とさせるような(?)装丁。タピエスは背表紙がつながって絵になりそうです(実際にはつながっていませんが)。クレーはとてもカラフルで、並べているだけで愉しくなります。
そうそう、それからピカソのレゾネと言えば、オンライン・ピカソ・プロジェクトというウェブサイトがありまして、膨大な資料や図版を見ることができます。サム・ヒューストン州立大学とテキサスA&M大学の助成金で、学術研究目的で行われているようです。
また、現在当館で展覧会開催中のアンドリュー・ワイエスのお父さん、N.C.ワイエスのオンライン・カタログもあります。こちらはブランディワイン・リバー美術館が運営している模様。
このようなオンラインのデータベースはとりわけ検索性に優れている点が強みでしょうか。今後どんどん増えていくと良いんですけれど。
さて、長くなりましたが、愛知芸術文化センターのアートライブラリでは、レゾネは貸出しができないものが多いですが閲覧することはできますので、○○の作品をたくさん見たい!という方は是非探してみてください。下のリンク先から所蔵資料の検索ができますよ。
(KS)
ただいまワイエス展真っ最中の愛知県美術館ですが、展示室が美術館の全てではありません。バックヤードでも日夜、さまざまな活動が行われています。
先日は、NPO法人・文化財保存支援機構の装こう師(*注1)の先生方をお招きして、木村定三コレクションの近現代日本画(明治・大正時代の掛け軸など)の調査が行われました。大和なでしこからは程遠い私もちょっと見学!
例えば、かけ軸は箱から取り出して壁にかけるのですが、その過程には細やかな手順があります。軸と箱の向きのそろえ方、圧力をあまり紙にかけない軸の持ち方、特殊な紐のかけ方、等々。全て、かけ軸を最も安全かつ簡潔な手順で扱うために必要なのです。

一つ一つの所作振る舞いが何だかお茶席みたいだなーと思いきや、やっぱり掛け軸の扱いはお茶と同じ起源をもっているそうです。どちらも、大切なものをできるだけ丁寧に扱う、という心に基づいており、その作法の美しさをより洗練させたのがお茶と言えるかもしれません。
↓きれいに巻いて紐をかけた掛け軸は、それだけで美しいですね!
調査の終わりに、先生方から直接、掛け軸の扱い方を指導していただけました。先生方はすっすっと自然な手つきなのですが、先生の前で緊張している私の場合「あれ、手が足りない…」「紐がびよーんとなっているんですが…」となります。。。
長い時間を超えて受け継がれる作品にはきちんとした作法で接したいもの。そして、そうした作法は日々の鍛錬があって初めて身につきます。時には先生方に基礎から教わり、自分の「手」を見つめなおすことが学芸員として何より大事ですね。
*注1 装こう師とは、掛け軸や屏風など日本の伝統的な形態のものを修理したり仕立てたりする技術者の方です。今回いらした方は、いずれも日ごろは国宝などの修理をされている工房の皆さんばかりです!パパーン!!
(FN)
愛知県美術館では、主に日本画や工芸品などを展示する場合、作品の状態や安全を考えて、作品を展示ケース内に展示しています。美術館によく足を運ばれる方は「展示ケース」と言ってもいろいろな種類があることに気付かれるでしょう。愛知県美術館で「あんどんケース」と呼んでいるのは、そんな展示ケースのひとつ。(※当館以外では通用しないことがありますのでご注意下さい。)4面ともガラス張りなので、作品を前後左右から鑑賞していただくことができ、単独で照明を調節することも可能なため、比較的小型の彫刻や工芸品を展示するのに効果的です。「あんどんケース」と呼ぶ理由は、木の枠に和紙を貼って中に火を灯した「あんどん」(行灯・行燈)に形が似ているから。何種類もある展示ケースを区別してこう呼んでいます。

呼べば呼ぶほど癒される(?)「あんどんケース」。現在、愛知芸術文化センター地下2階南通路『フォーラム・プロジェクト:小さな彫刻展』で使用しています。
(MI)
今年ももう12月にはいり、寒い毎日が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。自転車通勤の私は手袋とマフラーが欠かせません。
さて、愛知県美術館にはミュージアムショップが併設されています(ロビー内にあるので美術館にいらっしゃったことのある方は御存知だと思いますが...)。ミュージアムショップでの買い物は、美術館めぐりのひとつの愉しみですよね。美術館ごとに商品のラインナップが全く違うので、初めて訪れる館のショップには色々と期待してしまうものです。愛知県美では、過去の展覧会カタログやポストカードなどの一般的に販売されているものの他に、当館ならではのオリジナル・グッズを取り揃えています。

その中でも「しまマフラー」(各5,670円税込)は、この季節にぴったりの人気グッズのひとつです。製造元は、群馬県桐生市の繊維メーカーさんで、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のミュージアムショップでも同社のマフラーが販売されています(なんと4年連続の売上数量第一位だとか)。

実はこのマフラー、それぞれに愛知県美所蔵のある作品の色を参考にした配色になっています。元ネタの作品がなんだかわかりますか?(答えはこの記事の右下の「続きを読む」に隠してあります笑)。これまで2パターン販売してきたのですが、今週から店頭に新色が登場しました。

こちらも同じく当館所蔵作品が元ネタなので、どの作品か考えてみてください。
この他にも熊谷守一の猫を象ったキーホルダーやピンズなど、所蔵作品に関連した様々なグッズがあります。また芸術文化センターの地下二階にはアートショップNADiff愛知が入っており、アート関連書籍や雑貨がたくさん。「ちょっと美術館へ買い物に」というのも美術館の愉しい利用法かもしれません。

▲スタッフにマフラー付けてもらって撮影してたら、お前が全色同時につければいいじゃないかと言われたので付けてみました...。
(KS)
愛知県美術館ブログを始めてもうすぐ2ヶ月になろうとしています。ふと他館のブログはどういう記事を掲載しているのだろう、と思いたったので探してみました。
青森県立美術館ブログ | 青森県立美術館
東京都現代美術館: MOT STAFFブログ
東京都写真美術館: みっちゃんの写真開拓日記(^-^)
セタビブログ - 世田谷美術館
横浜美術館: AIMY+NAPブログ
館長ブログ | ウェブマガジン | 川崎市市民ミュージアム
活動レポート | ウェブマガジン | 川崎市市民ミュージアム
新潟市新津美術館 NAFによるブログ【NAFLOG】(ナフログ)
金沢21世紀美術館のポッドキャスティング まるびぃ on the RADIO
八ヶ岳美術館だより
和歌山県立博物館ニュース
神戸ファッション美術館BLOG
島根県立美術館
高知県立美術館: 美術館日記
愛媛県美術館のブログ
クラブログ 徳島県立近代美術館
HEARTにART | HEART | 山口県立美術館
熊本市現代美術館|CAMK
見落としているものも多いと思いますが、ざっと確認できたのは以上の館です。思っていたより...少ないです。印象としては、現代美術を取り扱っている館が多く、逆に東洋の古美術専門の館はこのような形での情報発信があまりないようです。
色々と読んでみたなかで、特に東京都写真美術館のブログは来年度の展覧会に向けた調査を学芸員の方が詳細に報告するもので、大変読み応えがありました。どうしても催事情報ばかりになってしまいがちな館ブログのなかで、これだけしっかりした内容を発信できるのは凄い...(あとお昼ごはんが毎回美味しそうです)。
それから館のブログではありませんが、九州国立博物館がブログ企画をやっていたので紹介しておきます。
九州国立博物館: BLOGREPO ぶろぐるぽ
展覧会のレポートをブログ記事にして、アドレスを館に送るとプレゼントがもらえる、という仕組み。ブログ記事に九博研究員がコメントするかも知れない、とあります。展覧会ごとにこういったブログ・マーケティングが行われるのは最近では珍しくありません。ただ、美術館・博物館では写真撮影を禁じているところが多いので、ブログ記事にしてもらいにくいという難点があります。作品画像の撮影や掲載には著作権の問題が常についてまわりますので、そういった意味では現代美術専門の館よりも、古美術専門の館の方がフットワークが軽いと言えます。その点、この九博の企画はwebサイトで提供する画像を利用できるのはすばらしいですね。
(KS)
今日は、当館でおこなわれている教育普及活動の一つ[先生方との鑑賞学習ワーキンググループ]についてご紹介します。
先週の18日(土)に、[先生方との鑑賞学習ワーキンググループ]がありました。ワーキンググループとは、登録制の研究会で、鑑賞学習に関心のある先生方が月に1回のペースで集まり、鑑賞教育の事例研究や、美術館で実施する事業への協力、学校と美術館をめぐる鑑賞教育の課題についての討議などを担当の学芸員と共におこなっているものです。
今回のワーキンググループでは、次回開催の「アンドリュー・ワイエス –創造への道程-」に合わせて、実施予定の関連ワークショップとセルフガイド、鑑賞補助教材についての話し合いがおこなわれました。

▲美術館の会議室にて
ワークショップについての意見交換では、どのようなアプローチが小・中学生に有効なのか、美術館ですべき活動はどのようなことなのかなど、先生の側からみた意見も多く出て、活発な意見交換ができました。今後も話し合いを重ね素敵なワークショップ、セルフガイド、鑑賞補助教材にしていきます。

▲ワーキンググループ終了後も、多くの先生方が残り意見交換をしていました。
ワークショップの内容や日程は未定ですが、近日中にお知らせしたいと思いますので、ぜひ参加していただきたいと思います。先生方との協力によってどのような内容のワークショップやセルフガイドになるのか、楽しみにしていて下さい。
(RK)
美術館の展示室にいるあの人はいったい何をしているのでしょうか・・・?


あの人は「案内監視スタッフ」と言いまして、作品とお客さんの両方を、美術館の最前線で守るお仕事をしています。例えば、誰かがちょっと触れただけで傷んでしまうデリケートな作品を見守ったり、「展示室を歩いているうちに気分が悪くなってきたんだけど…」など美術館内で困っているお客さんのケアをしたりしています。
あと、見逃せないのは椅子の後ろの透明ボックス。あの中には、展示作品についての資料が入っています。どのスタッフも、所蔵作品について実は色々知っているのです。



また、避難経路の地図や虫捕獲グッズが入っている点も要チェック。紙の作品を食べて壊してしまうこともある虫は、美術館にとって厄介ものの一つ。そこで虫の被害を最小限に食い止めるため、案内監視スタッフは美術館内で虫を発見すると、すぐに捕獲してその侵入ルートを書き込むわけです。 学芸員が一生懸命展示した作品でも、案内監視スタッフがいないと多くの方に気持ちよく見てもらえません。スタッフいわく、美術鑑賞のパートナーとして何かありましたら気軽に声をかけてくださいね、だそうです。
(FN)