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現在開催中の企画展「『月映』」展とともに、当館展示室6では、APMoA Project, ARCH vol.14として名古根美津子さんの写真作品<New Self, New to Self>シリーズを展示しています。このシリーズは名古根さんのセルフ・ポートレートなのですが、すべて顔が隠されています。その隠し方が絶妙で、ほうきやアイロン、バスタオルなどの日用品を用いながら、ちょっと面白い、可笑し味のあるポーズで撮影されています。

先日の5月2日には、名古根さんによるアーティスト・トークが行われ、このシリーズが生まれるきっかけや制作方法など、いろいろなお話をうかがうことができました。1点の作品を制作するために、まず自宅のアパートの一部のスペースに壁紙を貼ったりしてセットを作り、セルフタイマーを用いながら自らポーズを取って、何十回、何百回と納得がいくまで撮影を繰り返すのだそう。ただポーズを取るだけではなく、体の各部分の力の入れ方によって、筋肉や筋の緊張感なども違ってくるらしく、そうした力加減を調節するのが難しいようです。

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▲「#34」<New Self, New to Self> 2011年
片足を上げたポーズがとてもつらかったのだそう…

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▲展示室で参加者の方からの質問に答える名古根さん

顔を隠してセルフ・ポートレートを撮影する理由は、学生時に与えられるセルフ・ポートレートの課題をこなしながら、「自分とは何か」ということを追究するのに限界を感じたから。今の自分より、自分がどうしたいのか、どうなりたいのか、現在ではなく未来を志向しながら、自己を作り出すことのほうが、楽しいと思えるから。
名古根さんの作品に出会って、APMoA Projectで紹介したいと思ったのも、この自己を創造する、というコンセプトに共感したからかもしれません。(あぁ、展覧会の準備で疲弊していた頃…(笑))

New Self, New to Self ― 新しい自分、自分にとっての新しいこと。
そんなワクワク、ドキドキを展示室でぜひ実感してほしいと思います。

(MM)

芸術家はどこにいる?

2015年04月02日
 APMoA Project, ARCH vol.13伊東宣明の個展「アート」も会期がわずかとなりました。そこでここでは、新作《アート》について、制作の裏側も含め少しお話したいと思います。
 この作品は伊東宣明本人が日本各地を移動して少しずつ自画撮りを行い、編集で各場面を繋げると、「アートとは何か」という一つの壮大な語りが生まれるというものです。違う場所、違う時に撮影したものを繋げて一つの動画とする方法は、様々なPVなどで既にお馴染みのものです。例えば、こちらファレル・ウィリアムスの”HAPPY”
 しかも、アマチュアであっても、この撮影方法、編集方法を使えば、何だか楽しい動画が作れてしまう。動画投稿サイトで目にすることも多いかもしれません。

 伊東もこの方法にならって、様々な場所で撮影を行っています。北は青森の恐山、森美術館や国立西洋美術館、豊田市美術館等の施設内、そして直島行きの港まで、皆様もご存じの場所が登場するかもしれません。撮影にご協力いただいた皆様には、本当に感謝、感謝です。

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↑佐久島の浜辺にて。南川祐輝《おひるねハウス》で楽しむ方々を横目に撮影に励む。

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↑ヴィルヘルム・レームブルック《立ち上がる青年》の前にて撮影。レームブルックの彫刻がなんだか迷惑そう・・・。

 さて、このように伊東の映像は背景がくるくる変わるので、キャッチ―でとっつきやすく感じられます。しかし、語られる内容は「アートとは何か」という極めて壮大な問い。しかも、その問いに対して伊東は答えまで用意しています。それに対して「なるほど、なるほど。そうだったのか!」と納得してもOK。はたまた、露悪的な教養番組のパロディとして笑いとばしてもOK。
それにしても、美術館の展示室をめぐると「芸術とは何か!表現はどうあるべきか!アートとは何なのか!」という悩める声が聞こえてくるようです。愛知県美術館に並ぶ作品も、作り手それぞれが悩み奮闘した成果と言えるかもしれません。
けれども、反対に言うと、その悩み闘う姿に芸術家らしさを見出すという面もあります。「凡人には到達できない高みを目指して戦う」人物こそ、芸術家らしい、というわけです。THE 芸術家神話。そして、そんな人物が動画投稿サイトでセルフィーするとはいったい…!?
 映像内には、岡倉天心、高村光太郎など、日本の近代美術の成り立ちに貢献した人物や彼らの作品も随所に出てきます。彼らの唱えた芸術の理想を少し思い浮かべながら見てみてもいいかもしれません。
(F.N.)
 
 

 

 今期のAPMoA Project, ARCH、末永史尚「ミュージアムピース」では、当館のコレクションに付けられた額縁をテーマにした展示を行っています。この展示についてのお話は、会場で配布しているリーフレットをご一読いただくとして、ここではリーフレットに書ききれなかった額縁をめぐるアレコレのお話をしたいと思います。

 油絵具で描かれた多くの絵画は、物理的には布や紙といった薄っぺらなものを「□」か「田」のようなかたちの木枠にピンと張って、そこに絵具が載っているだけ、という大変壊れやすいつくりをしています。額縁はこのような絵画をがっしりとホールドしてくれるので、絵画を現在の状態で保つためにはとても有用です。同時に、額縁は絵画を取り囲んでいるものなので、絵画を見るうえで否応なく目に入ってきて、よくも悪くも絵画の鑑賞に干渉してきます。ちなみにこの干渉は、日本画の軸装だともっと強いものになります。というのも軸の場合、絵画の部分(本紙)の面積よりもそれ以外の表具の部分の方が面積が広いことがざらにあるからです(もちろん面積の多寡だけで干渉の強弱が決まるわけではありませんが…)。ちなみに、今期の木村コレクションの特集展示では、「表具—掛軸の美—」と題して日本画のコレクションのなかから変わった表具を集めて展示しています。

 ところで、絵画というものはよく窓に例えられることがあります。そうすると額縁は窓枠ということになります。窓から見える景色は(当たり前のことですが)見えない部分も含めた広大な景色のなかから四角形に切り取られた一部分です。これを絵画に戻して考えてみると、絵画の世界は額縁の向こう側にあって、額縁に隠れた部分やその外側にも本当は広がっているんだ、ということになりますよね。もちろん現実には絵画はそこで途切れてしまってそれ以上の部分は存在しないわけですが、絵を見る私たちの想像力は、絵の外側の世界を補う力を持っていることもまた事実です。言い換えれば、額縁はそのような私たちの想像力をかき立て、助けてくれる存在でもあるわけです。

 ですが、全ての額縁が常にそういった想像力に対してプラスに働くというわけではありません。例えば、当館のコレクションのひとつ、モーリス・ルイス《デルタ・ミュー》は、購入時についていた金縁を、数年前に取り外すことにしました。その時の様子はこのブログの別の記事でご紹介しています(モーリス・ルイス 《デルタ・ミュー》 の秘められた部分が露わに!|愛知県美術館ブログ)。ここで「広々とした感覚を害してしまっている」と書かれているように、額縁が絵画の世界の広がりを阻害してしまうこともあるのです。当館では他にも、パウル・クレー《蛾の踊り》やジョアン・ミロ《絵画》の額縁が、保存の観点から不十分な構造である上に、見た目にも作品とうまくマッチしていないという判断によって、新たにデザインし直した経緯があります。また、現在展示室7で展示中の志賀理江子〈螺旋海岸〉シリーズも、あいちトリエンナーレ2010/2013ではパネルにプリントを直貼りしたかたちで展示されていた作品ですが、昨年度当館のコレクションに加わった際には、保存のことを考えて新たに額装を行いました。さらには、やはり近年コレクションに加わったゴーギャンの表裏の作品《海岸の岩/木靴職人》についても、すでに何度か展示はしておりますが、やはり保存上の問題と見た目の問題から、現在進行形で額縁の付け替え計画を進めています(志賀とゴーギャンの額装については、それぞれ直接担当している学芸員が詳しいブログ記事を書いてくれることでしょう、きっと)。

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▲ クレーの額のためのラフ(すぎる)スケッチ(左)/ミロの額の仕様(右)

 額縁と絵画との関係の良し悪しは、なかなか一概に判断するのが難しいところがあります。ですので、私たちは新たに額縁を作らねばならないときは、画家がどのような額装を望んでいたか、描かれた当初に流行していた額縁はどのような形状か、同じ画家の別の作品はどのような額装がなされているか、などについて可能な限りリサーチした上で、保存と見た目の両方の観点から最善の額縁を探ろうと日々努力しています。
(KS)

2012年に始まったAPMoA Project, ARCH。今回で10回目となりました。
今回ご紹介しているのは、愛知県で制作を続ける丹羽康博さんの作品です。

タイトルは「詩としての行為」。

2007年に制作された作品から新作にいたるまでを通して、丹羽さんという作家を知っていただこうというものです。


まず、コレクション展の展示室を通って展示室6に近づくと、左手の壁にこんな作品が。
 

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なぜカンヴァスが裏返しになっているのでしょうか?
作品のタイトルにヒントが隠されています。ぜひ会場で考えてみてください。


展示室の中には、さまざまな作品が点在しています。
 

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こちらは、愛知県立芸術大学大学院の修了制作として発表されたシリーズ〈詩としての彫刻〉(2007-2009年)です。
 

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このシリーズでは、自然の中から採取したものが、ほとんど手を加えられることなく作品として提示されています。


例えば、この《I caught a falling-leaf.》(2008年)。
 

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紙の箱に納められた葉は、一見落ち葉のようですが、「落ち葉」ではありません。
「落ち葉」は英語で"fallen leaf"と言いますが、この作品のタイトルでは"falling-leaf"となっています。訳すなら「落ちていく途中の葉」となるでしょうか。
丹羽さんが、木から落ちる葉を一生懸命掴もうとしている姿が思い浮かびませんか?

このシリーズの作品を観るということは、自然が作り出したものを見つめることであると同時に、自然の中からそれらを取り出した作家の行為そのものに思いをはせる、ということにもつながっていきます。


他の作品も見てみましょう。

一部が焼け焦げたソファの前に、何やら立方体が…
 

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この立方体の正体は、この展示室にもともとあったものです。
丹羽さんの手にかかると、彫刻作品のように大変身しました。


しかし、なぜこのような積み方をしているのでしょうか?
よく観察すると、作品と空間との関係が見えてくるかもしれません。


さて、その向こう側の壁にあるのは今回初めて発表される作品です。

 

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壁に留めてある紙の一枚一枚には、数字が描かれています。

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これらの数字は何を意味しているのでしょうか?
一緒に展示されたものをよく観察していただくと、作品がどのようにしてできているのか分かっていただけるかもしれません。
丹羽さんがどうしてこのような作品を作ったのか、ぜひ考えてみてください。


さて、今回も、展示室の外に展示された作品があります。
 

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えっ?作品が見えない?
確かにこの距離ではよく見えませんが、この通路の奥にも作品があります。
ぜひ会場で見ていただきたい作品の一つです。


さて、ロビーに出ると、瓶がたくさん並んでいます。
これも丹羽さんの作品、《Three minutes breathing》(2011年-)です。
 

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タイトルは「3分間の呼吸」という意味で、瓶の中で3分間呼吸をして封をしたものを集めた作品です。
一つ一つの瓶のふたに記された日付を見ていくと、やがて並べ方の規則性が見えてきます。

 

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この規則性が、作品の重要なポイント。作品の周りをぐるぐる回って見つけてみてください。
呼吸とは日々生きることそのものですが、皆さんが生活する中で感じていることを、この作品に感じ取ることができるかもしれません。


何だか「考えてみてください」が多いブログになってしまいましたが、実際に、この展覧会では、一見何の変哲もないように見える作品が少なくありません。
しかし、ちょっと眺めただけで通り過ぎてしまってはもったいない!
なぜこの作家はこんなことをするのだろう?この作品は何を意味しているのだろう?と考えてみると、皆さんの中にも共感できるものが見つかるかもしれません。


そして、そこで考えたり感じたりしたことが、作品の前を立ち去った後も皆さんの中に思考として残っていくことで、作品は生き続けると言えるのではないでしょうか。

一度読み終わった詩を反芻しているといろいろな解釈が生まれる、この展覧会では、そんな体験を楽しんでいただければと思います。



APMoA Project, ARCH vol.10 丹羽康博「詩としての行為」は7月21日(月・祝)までの開催です。

ぜひご来場ください!
(S.N.)
 

 みなさん「冬芽」ってご存知ですか?冬芽(ふゆめ/とうが)とは、樹が休眠・越冬する時期にみられる、葉や花を準備する芽のことです。寒さや乾燥を防ぐために毛や鱗で覆われた冬芽を帽子や角に見立て、その下にある葉柄の維管束の痕を目や口に見立てると、樹木ごとに違った表情の顔が現れます。

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▲筆者が実家で撮影したアジサイの冬芽。顔文字( ´・_・`)みたいでかわいい。

 と、まるで植物園のブログかのように書き出してしまいましたが、実は現在開催中のAPMoA Project, ARCH vol. 9「山内崇嗣 くるみの部屋」では、オニグルミの冬芽をめぐる展示を行っています。なんといってもオニグルミの冬芽は柔らかな毛に包まれた大きく立派な顔(よくヒツジに似ていると言われます)なのです。

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▲オニグルミの冬芽、矢印部分全部顔。実際に展示されています。

 山内さんは、地元の自然観察会に参加した際にこの冬芽に出会い、植物なのに顔に見えるという不思議さに惹かれて、それを作品制作に取り入れています。オニグルミの冬芽をクロースアップで捉えた絵は、植物画や静物画のようでもありますが、同時に誰かの(ヒツジの?)肖像画にもなっている、というわけです。

 さらに、山内さんの興味は冬芽だけに留まらず、オニグルミそのものにも向かいます。先日行われたアーティストトーク&記念座談会「くるみ会議」は、その名の通りくるみについてひたすら掘り下げるという美術館らしからぬイベント。ゲストに、東谷山を中心に野生のニホンリスの保護や調査研究をされているボランティア団体「守山リス研究会」の会長・北山克己さんと、滋賀県甲賀市で木工作家として活躍されている川端健夫さんのお二人を招き、リスとくるみの関係、くるみの形質変化と淘汰、くるみ材の性質や特徴、日本各地の城にくるみが植樹されている理由などなど、2時間にわたってまさにくるみ尽くしの話をしていただきました。
 
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▲左から北山さん、川端さん、山内さん、わたし。

 この展覧会の準備を始めてから、わたしも家のまわりの街路樹や実家の庭にそれまでとは違った眼を向けるようになりました。ほんの少しのきっかけで、それまで気にもかけなかったものがとても魅力的な存在に思えてくる、展覧会を通じてそんな体験ができたことが新鮮でした。展覧会会場では、いつもの展覧会リーフレットにくわえて、東谷山のくるみマップも配布しています。展覧会はシャガール展と同じ6月8日[日]まで。美術館で樹木観察、してみませんか?
(KS)

 昨年から始まったAPMoA Project, ARCH。今年度の第一弾としてご紹介しているのは、藤永覚耶(ふじなが・かくや)さんです。

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(撮影:林育正)

 藤永さんは、滋賀県大津市生まれ。京都嵯峨芸術大学で学ばれた後、愛知県立芸術大学大学院に進まれました。現在は、大津市のアトリエで作品制作を続けています。このブログでは、藤永さんのアトリエの様子をお伝えしつつ、藤永さんの独自の制作手法をご紹介します。

 藤永さんは、写真のイメージを元に平面作品を制作してきましたが、近年は、アルコール染料インクで画像を描き、そのインクを溶かすという方法により、独特の揺らぎを感じさせる絵画を作り出しています。その制作手法ではまず、ある写真のイメージを、アルコール染料インクを用いて、点描で綿布に移し変えていきます。点が打ち易いように、ペンタイプのものを選び、さらにペン先のスポンジを自分で成形して使っておられます。

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△藤永さんの使うアルコール染料インク。

 また、既成のインクだけでなく、これらをさらに調合して、よりイメージに合った色を作ります。

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△こんな風に色の調合もされています。

 藤永さんによると、制作のほとんどの時間が、この点描のプロセスに費やされるとのことです。今回は、美術館の展示室に合う大画面の作品を制作してもらったので、さぞかし時間がかかったことでしょう

 点描ができたら、最後の工程へ。ここで、インクの溶剤であるアルコールを霧吹きで上から吹きかけます。そうすると、アルコールがどんどん綿布に浸透して、インクが溶け出していきます。画面の上から吹きつけたアルコールが重力によって下へ落ちてくるに従い、インクもそれに応じた動きを見せます。インクを溶かす途中の様子は、藤永さんのブログでご覧いただけます。

 このアルコールを吹き付ける工程で、作品の様子はまさに一変。興味深いのは、同じようにアルコールが通過した部分でも、使うインクの色や組合せによって、溶け方が異なってくることです。藤永さん曰く、何度もこの手法を研究する中で、どの色やどの組合せが溶けやすく、また溶けにくいかということがだんだん分かるようになってきたとのこと。その過程を垣間見せるのが、アトリエにあるたくさんのサンプルです。実作品を制作する前に、小さな綿布に点描を施してからアルコールで溶かしてみて、どのような溶け方をするか、また色が混ざってどんな色になるか、ということを見るためのものです。

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△微妙に異なるサンプルがたくさん。

 もちろん、このようにサンプルをたくさん作っても、溶かす過程で思いがけない結果が現れることもあります。最終的な作品の外観は、制御された色の配置と偶然による効果の合わさったものとなります。こうして完成する作品は、どこか焦点の定まらないイメージとなります。近づいてよく見ようとするほど、イメージはぼやけていき、一瞬めまいのような感覚さえ覚えることでしょう。逆に、作品から離れてみると、馴染みのイメージが見えてくるものもあり、「見る」という行為に改めて考えを至らせてくれます。 

 さらに、藤永さんは、こうしてできた作品を壁にかけて展示するだけでなく、敢えて裏から光を透過させて見せることにも取り組んできました。今回は、展示室5、6、7、8をつなぐ前室の奥に、このタイプの作品を展示していますので、ここにも注目です。


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△前室の作品《foliage[1302]》(撮影:林育正)

 ここでは、作品の背後がガラス壁になっているため、自然光が入り、天候や時刻によって、作品の色が変化します。通常美術館の展示室では、作品保護の必要から自然光を排除していて、作品がよく見えるようにと工夫された人工的な照明も、結果的には作品に一定の「見え方」を与えていると言うこともできます。これに対して、藤永さんの作品は、作品が与えられた空間に存在する「もの」であり、そうした環境の影響を受けて見え方も変化する存在であることを積極的に示しています。「実際にそんなに見え方って変わるものなの?」と思った方、ARCHで展示中の《foliage [1302]》をインターバル撮影し、動画化したものをこちらからご覧になれますので、ぜひ見てみてください。

 これらの経験は、小さな作品画像を見るだけでは、決して得ることができません。ぜひとも会場に足を運んでいただき、作品を前にして、皆さんの眼がどんな変化を捉えることができるか、経験してみてください。また、藤永さんご自身の最新のブログ記事では、作品のコンセプトや展覧会タイトルへの思い、また展示作業の様子について書かれていて、盛りだくさんな内容となっています。ぜひこちらもご覧ください!
(SN)

 

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 △ 「佐藤香菜―森の中へ」展アーティスト・トーク
 
 
 
現在開催中の「APMoA Project, ARCH vol. 5 佐藤香菜―森の中へ」展のアーティスト・トークが本日行われました!
 
 
 
 
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△ 大学卒業制作《物語の生まれる場所》(2007-08年)について語る佐藤香菜さん。
 
佐藤さん(名古屋市生まれ)は、沖縄県立芸術大学に学びました。愛知県内の大学では得られなかっただろう広い制作空間、沖縄独特の自然環境や色彩感覚などが自分の制作に与えた影響などについて最初に語っていただきました。
 
 
 
 
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△ 「シェル美術賞展2008」で本江邦夫審査員賞を受賞した記念碑的作品《始まりの予感》(2008年)。
 
大学を卒業し、沖縄から愛知に帰ってきて最初に描いた作品の一つです。佐藤さんは大学時代からずっと動物をモチーフにしてきていますが、人間を描くと自分の感情や思いがどうしてもそこに入ってきてしまうので、そういうことを避けるために動物を描いているのだそう。
 
 
 
 
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△ 「Dアートフェスティバル2009」にも出品された《森にしずむ》(2008年)[左]と《あんまりおぼえてない》(2007年)[右]。
 
2点とも、画面にはところどころ絵具が生々しくのっています。大学を卒業したばかりのこの頃、それまでの描き方をどこか壊したくて、画面に絵具を投げ付けたりすることを試みたとのこと。これら2点では、それがいいアクセントになって、含蓄深い空間が生み出されています。
 
 
 
 
 
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△ 本展のために制作された最新作《落下する空、昇る海》(2013年)。
 
この作品は展覧会展示作業開始の直前に完成されました。
死産した子象のホルマリン漬けを東京大学総合研究博物館で見、その子象への手向けとしてこの絵を描いたそうです。
佐藤さんの絵には通常、地平線や水平線が描かれることはなく、漠とした浮遊するような空間が広がっているのですが、この新作では落下と上昇という垂直方向の動きが新たに加わっているところも注目です。
 
 
 
本日は、佐藤香菜さんご本人に、会場で自作を前に40分間たっぷり語っていただき、50名近いお客様にお越しいただきました。トーク終盤にはご参加のお客様からも質問がいくつか出て、とても盛り上がったアーティスト・トークになりました。
「佐藤香菜―森の中へ」展は、大学卒業制作から最新作に至る油彩画約20点によって、佐藤香菜さんの現在までの仕事を回顧できる貴重な機会となっています。会場は愛知県美術館展示室6ほか、会期は4月14日(日)まで。円山応挙展と一緒に、ぜひご覧になってください!   (T.O.)

 

 

準備中2

2013年02月24日

 いよいよ本年度の最後を飾る企画展、円山応挙展の準備も最終段階になってきました。そうです、作品が展示室に並び始めました。数年前に企画案が館内会議に提案され、内容はもちろんのこと、どのような枠組みでやるのか、時期はいつか、予算はどうするかなどについて検討し、開催する方向になってからも、どのような人たちの協力が得られるのか、借用先の協力は得られるのかなど、様々な問題を解決しながらようやく作品展示まで至りました。担当者は展示作業が始まってからも、ぎりぎりで作品借用に出かけたり、もちろん図録制作と並行しながらの作業、また、音声ガイドの原稿チェックやグッズ販売についても目配せしながら、さらには協賛者への対応など、本当にいつもながら舞台裏では様々な作業が進められています。

 

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 今回の展覧会の見どころのひとつに、重要文化財である大乗寺の障壁画の展示があります。前のブログでもお伝えしましたが、単にケース内に並べるのではなく、実際の客殿のような再現展示をめざし、こだわりのディスプレイがなされています。さらに照明についても、単一ではなく、朝、昼、夕の自然の光の違いを体感して頂けるように、パナソニックの協力によりLEDライトを使用した変化にとんだ照明を準備しています。

 

 


 企画協力をいただいた明治学院大学の山下裕二教授も述べられていましたが、じっくり見ていると光の変化が孔雀の立体感をより増して、応挙の狙いが分かる気がします。

 

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 写真は天井部分にある今回の為の特別な照明設備で、郭子儀図襖を照らすところです。郭子儀図襖といえばちょうど2月22日付の新聞各紙には、小学館の日本美術全集の発売の大きな広告が出ていました。そこにこの襖絵の写真が使われていました。ご覧になった方も多いと思いますが、今は愛知県美術館で本物を見ることができます。

 

 

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 ほかにも、作品保存には細心の注意を払い、たとえば、密閉のケースでは調湿剤といって、ケース内の湿度を一定に保つ役割を持ったものを来館者の目に届かないところに入れています。もちろん展示室そのものは全国の美術館の中でもトップクラスの空調管理を行っていて、温度、湿度を一定に保っています。

 

 

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 さて、円山応挙展の準備ばかり取り上げてきましたが、愛知県美術館では企画展ごとにコレクション展の展示内容も大きく展示替えをしています。次のブログでその紹介もしたいと思いますが、ここではまず昨年の4月以降はじまった若手作家を展示室6で紹介するシリーズAPMoA Project, ARCHのことに触れておきます。

 

 

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 今回の作家は佐藤香菜さんです。愛知県生まれで、沖縄県立芸術大学で学んだ彼女の作品は一見するとオーソドックスな平面作品ですが、よく見ると刺繍も使われ、ペインティングの強さと装飾性とが融合した独自の世界を作っています。

 

 

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 展示では、担当の大島学芸員といっしょによりよい展示を目指して、数センチ単位の微妙な移動を重ねながら位置決めをしていました。出来上がりは是非会場でご覧になってください。お楽しみに。(ST)

 


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2013年特別開館

2013年01月03日

皆さま、明けましておめでとうございます。


愛知県美術館は、本日1月3日、特別開館しました。

 

開催中の「クリムト 黄金の騎士をめぐる物語」展を見たいと、新春の朝早くからたくさんのお客様にご来館いただきました。

 

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先着100名様にご用意したプレゼントの引換券はあっという間に配布終了。

(入手できなかった方々、申し訳ございません!)

 

その後の展示室は、初詣さながらの盛況となりました。

 

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さて、今年の干支は「巳」ですが、本展の主役《人生は戦いなり(黄金の騎士)》においても、実はヘビが重要な役割を果たしております。

ぜひ会場で確かめてみてください。

 

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一方、こちらは新春の寄席に集うお客様…?

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いえいえ、こちらも、愛知県美術館の展示室で上映中の映像作品です。

若手作家を紹介するARCHの4回目、奥村雄樹さんが落語を通じて提示する作品を紹介しています。

あさっての5日には、作家によるレクチャーも開催いたします。

詳しくは、こちら

新春の寄席とは一味違う雰囲気ですが、こちらもお見逃しなく。

 

「騎士」に込められた戦う芸術家クリムトのスピリットをご紹介する「クリムト 黄金の騎士をめぐる物語」展。

新年は、ぜひ「黄金の騎士」に会って、2013年を生き抜く勇気を受け取っていただければと思います!


本年も、愛知県美術館をどうぞよろしくお願いいたします。

(S.N.)

 

 APMoA Project, ARCH vol. 4の作家・奥村雄樹さんを講師にお招きして、アートラボあいちでワークショップ「くうそうかいぼうがく」を行いました。

 くうそうかいぼうがく(空想解剖学)とは、奥村さんの造語で、身体の内側のことについての解剖学的な知識が欠落している部分について、普段の生活のなかでの経験を通じてわたしたちが作り上げているイメージに基づいた解剖学のことです。たとえば、走ると心臓がドキドキする、転んだら血が出る、口から食べ物を入れたらお尻から出てくる、といった日常的な経験によって、どこにどのように内臓や器官が配置されているかについての精確な知識がなくても、自分の身体がどんなふうにできているかについて、わたしたちははっきりとイメージすることができます。普段あまり意識することはないけれど、皆それぞれに持っている体内のイメージを描き出してみよう、という趣旨のワークショップです。普段は子ども限定で行われることが多いこの「くうそうかいぼうがく」ですが、今回は通りがかった方でも気軽に参加できるように、と年齢制限ナシ。

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 皆さん描きながら色んなことを説明してくださいます。

 「ここまで毒が入ってるの!」え?え?

 「タバコを吸うからか、どうしても肺に意識が行くんだよね。肺に対して後ろめたい気持ちがあるのかな(笑)」わかります。。

 「お腹の中に、ごませんべいを溶かしてくれる人がいるの」ごませんべい限定なん?

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 自分で自分のお腹を切って手術したブラックジャックのように、自分の身体の中を開いて見たことのある人は殆どいないと思います。もちろん胃カメラやCTスキャン、エコーなど、技術的に体内の様子を探る方法はいくつもありますが、それらを使わなくても、わたしたちは普段から自分の身体のなかのことを想像で豊かに補いながら生活しています。そんな自分の想像力に気付かせてくれる、楽しいワークショップでした。

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 ご参加いただいた皆さんのステキな体内(ある意味ヌードより赤裸々です)は、2月11日までアートラボあいち1Fに展示されていますので、美術館での展示「善兵衛の目玉(宇宙編)」と合わせて、是非足をお運びくださいませ。(KS)

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アートラボあいちの場所はこちら↓


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 今年度から始まりました企画展の期間に合わせて展示室6で開催するAPMoA Project, ARCH、早いもので次回はもう第4弾です。vol. 4は奥村雄樹「善兵衛の目玉(宇宙編)」で、先日この展示のための撮影を、大阪府貝塚市で行いました。

 なんで愛知で発表する作品を大阪で撮影しているのか、には深い訳があります。「善兵衛の目玉(宇宙編)」とは、愛媛県南予地方に伝わるとっぽ話(ホラ話)に基づく昔話「善兵衛ばなし」に、主人公と同名の、江戸後期に貝塚で活躍した望遠鏡制作者にして在野の天文学者・岩橋善兵衛嘉孝(1756-1811)の物語の要素を加えた創作落語です。奥村雄樹さんの依頼で、東京で活躍する上方噺家・笑福亭里光さんがつくってくださいました。そんな内容なので、貝塚まちなかアートミュージアムの一環として、岩橋善兵衛の業績を紹介している貝塚市の博物館兼天文台「善兵衛ランド」さんで落語会を開催して、そこで披露することになったというわけです。

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▲落語会の様子。

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▲善兵衛ランド自慢の口径60cmニュートン・カセグレン式反射望遠鏡!

 どんなお話なのかは展示をみてのお楽しみ!と言いたい所ですが、簡単に筋だけご紹介。善兵衛は、自分の目玉を取り外して遠隔視(リモートビューイング)ができる男という設定で、その目玉を使って空からの景色や自分の体内、果ては宇宙までもみる羽目に…という突拍子もないお話です。江戸時代と遠隔視と望遠鏡…ってなんだかアナクロな世界にも見えますが、江戸時代にも天体観測が行われ、太陽の黒点や月の表面などかなり詳細に観察されています(最近話題の冲方丁『天地明察』などでご存知のかたも多いかもしれません。善兵衛は渋川春海からおよそ100年のちに活躍した人物です)。

 ちなみにこの「善兵衛の目玉(宇宙編)」は次回企画展「生誕150年 クリムト 黄金の騎士をめぐる物語」展と同時開催になりますが、実はそのさらに次の企画展「円山応挙」展の円山応挙(1733-1795)と岩橋善兵衛は同時代の人(無理矢理つなげますが笑)。善兵衛は、大阪の文化人・木村蒹葭堂や京都の医師・橘南谿、画家の皆川淇園や、応挙が若い頃に奉公していた玩具商・尾張屋中島勘兵衛などと交流がありました。善兵衛から応挙周辺の文化人たちの手に渡った望遠鏡は、当時流行した南頻派様式と並行して、実証的な写生精神の隆盛に一役買ったものと思われます。そんな江戸時代の視覚補助装置に思いを馳せながら、めくるめく視覚の旅をお愉しみくださいませ。「善兵衛の目玉(宇宙編)」の会期は、2012年12月21日(金)?2013年2月11日(月・祝)です。

 会期が始まってすぐの12月22日(土)には、ワークショップ「くうそうかいぼうがく」も予定しています。会場が当館ではなく長者町のアートラボあいちなので、ご注意を!詳しくはアートラボあいちのウェブサイトをご覧ください→アートラボあいちのワークショップ 特別企画 くうそうかいぼうがく(KS)

西岳拡貴 「ROAD OF SEX」

2012年10月29日

現在、当館ではAPMoA Poject, ARCH の第3弾となる西岳拡貴さんの「ROAD OF SEX」を開催しています!

西岳さんは2009年、フランスのナントで「ROAD OF SEX」の最初のプロジェクトを開始しました。

それは、ナントからサン=ナゼールという約50キロの区間で、ラテックス(液状のゴムの原料)を塗り、近くに落ちているものを拾いながらそれに巻き取っていく、というものでした。

 

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↑ 最終的に出来上がったラテックスの塊。


(残念ながら、この塊はフランスで行方不明になってしまっていますが、今回の愛知県美術館での展示ではプロジェクト実行中の映像を上映しています。)

 

そして今回、西岳さんがAPMoA Project, ARCHのために制作したのが、「ROAD OF SEX」のシリーズ最新作となる《ROAD OF SEX  Tokyo >> Aichi》です。

 

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↑ 《ROAD OF SEX  Tokyo >> Aichi》の一場面。


タイトルからお分かりになるとおり、彼は今回、東京から愛知までの区間で、ラテックスを塗り、巻き取ってきました。

ゴールデンウィークに東京を出発し、神奈川、静岡、そして愛知の各所で延々とラテックスを転がすこと約4ヶ月。

展示開始直前の9月に、ゴールである愛知県美術館にたどり着きました!

 

展示室では、最終的に生まれたラテックスの塊と、実行中の映像、東京から愛知までの地図を展示しています。

それにこの《ROAD OF SEX  Tokyo >> Aichi》の映像、なんと約2時間(=116分)におよぶ大作!

しかし、映像はどのタイミングで見ても内容はお分かりいただけるものなので、いつでもお気軽にご覧下さい。

 

それから、もう展示をご覧になった方も、「西岳拡貴オフィシャルサイト」をチェックしてみて下さい。

西岳拡貴オフィシャルサイト→ http://nishitake.jp/

 

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↑ オフィシャルサイトのトップページ。西岳さんの過去の作品なども見ることができます。

 

展示は11月25日まで。 どうぞお見逃しなく!

(S.S.)
 

ARCH vol.2 荒木由香里

2012年08月22日

APMoA Project, ARCHは、若手アーティストを継続して紹介するプロジェクトです。


"APMoA" は愛知県美術館の英語名 "Aichi Prefectural Museum of Art" の頭文字、ARCHは、このプロジェクトがアーティストと鑑賞者の皆様をつなぐ架け橋となるようにとの思いが込められています。

 

2回目となる今回は荒木由香里さんに展示をお願いしました。


荒木さんは三重県の出身で名古屋芸術大学を卒業し、この地域を拠点に活動をしています。

その制作の特徴は、私たちの身の回りにあるごくありふれたものを素材として、これを一つの立体作品とするものです。

これまではコンパクトで洗練された美しさが何よりの魅力でした。

それに加えて近年は、屋外の広い環境の中に作品を設置したり、より大きな規模の制作を志向するようになってきました。

また、それまでの豊かな色彩によるものから、ホワイト、イエロー、ブルーといったモノトーンによる制作を展開しています。

そんな荒木さんが、美術館の空間を使って大きなスケールでの展示を行っています。  

 

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↑ 《Yellow》 2012年         撮影:尾崎芳弘

 

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↑ 《White》 2012年         撮影:尾崎芳弘

 

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↑ 《Blue》 2012年         撮影:尾崎芳弘

 

8月11日の土曜日には、荒木さんによるアーティスト・レクチャーが開催されました。

これまでの作品写真を見ながら「何故、このようなものを使って制作するようになったのか」、「これまで制作活動をどのように展開してきたのか」といったことを話されました。

はじめの頃、靴にそれを履いていた人の物語があると感じて、それを作品に使うようになったこと。また、ある時から、宇宙に浮かぶさまざまなものが集まって星ができたように、自分の制作を意味づけるようになったこと。そして具体的な目的や機能をもって作られたものが、作品となった時にそれを失って形だけが残るということへの関心から、今回の「何ものでもある 何でもないもの」というタイトルに結びついているといったことなど、作者本人からでなければ聞けない興味深い内容の話を伺うことができました。

レクチャーが終わってから、場所を展示室に移して、荒木さんを囲んで実際に作品を観ながら、質問をしたり、個々の作品について話をしたりと、参加された皆さんには荒木さんの制作と作品を知る上でまたとない機会になりました。

 

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↑ レクチャーの後、展示室で荒木さんと一緒に作品を鑑賞。


荒木さんはまた、仲間のデザイナー、写真家の3人で「MYY BOOKS」という私家版の本を作っていて、その3冊目として今回の展示に合わせた『何ものでもある 何でもないもの』を制作したことも紹介されました。

この本は100冊余りしか作られないとのことで、それも表紙の色や用紙を止めているゴムの色がさまざまで、楽しみながら作られた私家版の魅力を味わうことができるものです。

 

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↑ オリジナルの本『何ものでもある 何でもないもの』。

 

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↑ 中には、作品の写真が。


9月9日までの展覧会会期中、美術館のショップで販売しています(1冊1,000円)。

こちらもどうぞお見逃しなく!


(M.M.)

 

APMoA Project, ARCHの第1弾を飾ってくださった吉本直子さんのレクチャーが、4月28日に行われました。
このレクチャー、これが単に過去の作品の紹介にとどまらない、ものすご?く深くいい内容。それをこの場で余すことなくリポートすることは筆者の能力ではいかんともしがたい...ですが、ともかくがんばってその一部でも皆様にお伝えできれば、と思います。

吉本さんはもともと大学で心理学を専攻され、卒業後は臨床心理士になる予定でしたが、在学中に旅行したインドで、染織工芸品と出会います。それをきっかけに吉本さんは染織を学び始めました。この時期から、今回の出品作にも共通する、「存在の痕跡」や「記憶」をテーマにした作品を発表するようになりました。最初の作品は、桜が散って地面を桜の花びらが覆う様子からインスピレーションを得た染織の作品を制作しました。満開となった後にその残骸として残る花びらは、桜の最も美しい姿を思い出させるとともに、すぐに散ってしまう命の儚さをしみじみと伝えます。
その後ハンカチや古着といった古布を通して、記憶と触覚の関係を辿ろうとします。

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プロジェクターで映る作品《Memory Miles in My Hand/ 掌中の記憶》を解説する吉本さん

例えば上の作品は、イギリス旅行中に見つけた古着に写真が転写され、さらにその古着の糸が解かれています。転写された写真は自らの記憶にあるイメージであり、それは時間とともに薄れていきます。一方、糸が解かれても古着は布の形態を留め、その手触りを確かめることができます。触感はあいまいなまま記憶に残り続けることをこの作品は教えてくれます。また解かれた糸は再び紡がれ、丸められています。ここには、消え去る記憶を繋ぎ止めたい、という吉本さんの願いが込められています。

私的なテーマから、より普遍的なテーマを求めた吉本さんは、白いシャツと出会います。白い古着に残る染みや汚れは、人が生きた痕跡や人生の記憶をなまなましく物語ります。
こうして白い古着シリーズの作品が生まれ、現在当館で展示されているわけです。

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展示室で実際の作品を前に聴講者の皆さんと話をする吉本さん

時に抽象的な質問にウ?ンと考え込んだり、また冗談をまじえたりしながら、集まった皆さんとほのぼのとコミュニケーションをとられていた吉本さんでした。

さらに、吉本さんの制作活動の中で特筆すべき作品をご紹介!
2008年国際芸術センター青森で開催された展覧会「月下の森」へ参加するために、吉本さんは同地の「川倉賽の川原地蔵尊」を訪れました。この地蔵尊では、亡くなった人の衣服を預かって祈祷をおこない、死者の霊を慰める慣わしがあるそうで、その場所を訪れた吉本さんは「不気味というよりは、何だかあったかくてほっとする空間だった」と話し、生と死の間で記憶をつなぎとめる衣服の存在に強く心惹かれたそうです。生と死の間にある衣服は、三途の川で死者の衣服を奪う「奪衣婆(だつえば)」と、この世で初めての命を取り上げて産着を着せる「取上げ婆」によっても、日本の文化において象徴的に表されています。国際センター青森で展示された作品は、《river of oblivion/ 忘却の川》というタイトルで、少しだけオリジナルの色を残して白く漂白された衣服が天井からつるされています。永遠へと旅立つ魂の浄化と、また残された衣服に亡き存在の記憶を抱いたまま生きる人々がやがてその記憶から解放され、川のように人生が流れていくことへの祈りが込められた作品となっています。

そして昨年の大震災の経験から、吉本さんは東北への想いをさらに強められたようで、作品制作のかたわら、東北に残る古い伝統ある儀式やお祭りを取材し、伝統を育む東北の風土、人々の生活と向き合うようになりました。
これらの吉本さんの活動、また過去の作品の詳細に関心のある方は、吉本さんのウェヴサイトへGO!

以上、レクチャーのご報告でした。開催からずいぶんと時間がたってしまい、申し訳ございません!! BUT!! 展覧会は6月24日(日)まで開催しています!まだ作品をご覧になっていない方は十分間に合いますので、ぜひ展覧会にお越しください。
(MRM)

APMoA Project, ARCH(アーチ) vol.1 として、吉本直子「Reflection Space―鼓動の庭」が始まりました。


といっても、皆さんの頭に一杯??マークが浮かんでしまうといけないので、ひとつひとつ順番に説明していきますね。


まず「APMoAって何?」って思われますよね。これは愛知県美術館の英語での名称Aichi Prefectural Museum of Art の単語の頭文字をとっています。これで「アプモア」って呼びます。ニューヨーク近代美術館(Museum of Modern Art)が「MoMA モマ」と呼ばれているのと同じ発想です。これからはどうぞ気軽に「アプモア」と呼んでください。


続きまして、「アーチ」というプロジェクトですが、名称は愛知県の「アイチ」と橋をかけることを意味する英語の「Arch(アーチ)」がかけられています(笑)

昨年まではテーマ展として、年に一度東海地方にゆかりのある作家さんを紹介する展覧会を行ってきました。このテーマ展を本年度リニューアルさせたのが、「ARCH」です。この新しい名前には、このプロジェクトが作家の表現活動をサポートし、作家、美術館、鑑賞者の架け橋になれば、という想いが込められています。紹介する作家さんは東海地方に限らず、日本全国、可能であれば海外の作家さんでも展示を行い、当館学芸員と作家さんが協同して展覧会を作ります。

またこのプロジェクトは企画展の会期にあわせて開催されますので、本年度はなんと5本!の展覧会が行われることになりました。


さて、前置きが長くなりましたが、ここからが本題!


このプロジェクトの輝かしい第1回を飾ってくださったのが、吉本直子さんです。

京都在住の作家さんで、白い古着を用いて作品を制作されます。今回吉本さんは「古着を用いた作品の集大成を見せたい!」とおっしゃってくださり、結果ものすごくパワフルな展示となりました!!

 

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↑ これは古着をのりで固めたパネル。ものすごい数です!

 

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↑ このパネルを壁にかけて、古着による巨大な壁面を作りました。

 


吉本さんは白い古着に露わになった染みや汚れに、人が生きた痕跡、いのちの証を見出して作品を制作します。展示室とガラスケースのインスタレーション、さらに美術館ロビーに立体3点が展示されています。実物はぜひ美術館に足を運んでご覧ください!


また4月28日には吉本さんご自身によるレクチャーを行います。

古着を用いて作品を作るようになったきっかけや、今回の展示に込めた想いなどを語っていただきます。時々関西弁をまじえてお話されるチャーミングな吉本さんに、ぜひ会いに来てください。


(余談ですが...)展示中からずっと「あんかけスパ食べたい!」とおっしゃっていた吉本さん。展示作業で時間がなく、残念ながらあんかけスパ屋さんにはいけなかったので、皆様レクチャーにお越しいただき、おいしいあんかけスパが食べられるお店を吉本さんに教えてあげてください!

(M.MR.)