2014年04月123456789101112131415161718192021222324252627282930

前回に引き続き「学芸員は見た」的、シャガールコンサートのレポートです。前半の自分の出番が無事に終わりホッと一息。後半は客席で鑑賞させてもらいました。

後半は有名な曲が多いので、自然と会場も盛り上がります。大音量の《白鳥の湖》を聞きながら、ふとシャガールとチャイコフスキーは、美術と音楽におけるそれぞれの立場が何だか似ているなーと思いました。二人ともロシア出身ですし、大衆から愛されるがゆえに、通の方からはやや軽視されがちな感じとか。あとはやっぱり作品の中で、ここ一番の盛り上げ方というか、フィニッシュホールド(必殺技)が近い気がします。単なる思いつきに過ぎませんが。

最後の曲は、シャガールとは最も縁の深い《ダフニスとクロエ》。指揮者の時任康文さんはMCで、《ダフニスとクロエ》は合唱付きの方がラヴェルの意図がよく伝わると仰っていましたが、実に聴きごたえのある演奏でした。

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▲指揮者の時任さんのお話もありました(撮影:中川幸作)

今回の展示ではよく知られた同名の版画集は勿論のこと、《ダフニスとクロエ》の舞台美術と衣装デザインは必見です。というのも、これらの作品は《火の鳥》のためのデザインと並んで、シャガールがどのようにバレエ・リュスを継承し、乗り越えようとしたのかがよく分かる資料だからです。現在まで広く知られているバレエ・リュスのレパートリーの多くは、ロシア時代のシャガールの師であった画家、レオン・バクストが初演の舞台や衣装をデザインしています。当然、シャガールはこれらの舞台美術と衣装を手がけることになった際に、バクストの仕事を意識したことでしょう。

バクストの《ダフクロ》はギリシャの設定にちなんで、いわゆるギリシャっぽい衣装(テルマエロマエをイメージしてください)になっていますが、シャガールのデザインでは半分肩を出す着こなしが残っているものの、もはや特定の地域をイメージした形跡は見られません。一方、《火の鳥》ではバクストのオリエンタルな装飾性を、シャガールも引き継いでいるように思えます。

このように先人の作例に学びつつ、新しいものを生み出そうとするシャガールの意気込みは、オペラ座の天井画にも見られるものです。本展のカタログの中で佐藤幸宏さんが詳細に論じているように、シャガールの天井画はジュール=ウジェーヌ・ルヌヴによる元の天井画を損なわないように、埋めてしまうのではなく覆う形で設置されています。のみならずシャガールは、いくつかのモチーフはルヌヴの絵から着想を得ています。こうして古い作品に学びながらも、自分のオリジナルな世界観を作り上げることに成功したシャガールの努力の跡に注目すると、シャガール展をより楽しめるかもしれません。

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▲合唱の皆さん、アンコールではオペラの芝居で歌ってくれました(撮影:中川幸作)

…というような話をコンサートの時に話そうと思っていたのですが、7分間という出演時間ではそこまで話が到達できなかったので、こちらのブログに書いている次第です(笑)実は井上さんとの事前打合せでは、もっと興味深い話に展開する予定だったんですが…、まあそれはまた、別の機会に。
(TI)
 

皆さんこんにちは。さる4月23日、ここ芸術文化センターのコンサートホールでは、シャガールコンサートと題した珍しい演奏会が行われました。

現在当館で開催中のシャガール展は、教会や劇場、大学など、多くの人々が集まる公共的な空間のために制作された、大規模な作品を紹介するのが中心的なコンセプトなのですが、その中でも特に重要なのがチラシやポスターでも使われている、パリ・オペラ座の天井画なのです。この日のコンサートは天井画に描かれている14の曲目の中から、9曲(アンコールも含めると10曲)をオムニバス形式で演奏するというとても欲張りな企画でした。

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▲合唱付きの編成です(撮影:中川幸作)

当然、1,800席もあるホールを使った大がかりなコンサートを、美術館が単独で企画できるわけはなく、全てを取り仕切ってくれたのはこの4月から愛知芸術文化センターの指定管理者となった愛知県文化振興事業団です。劇場の専門スタッフならでは企画力で、今回のコンサートが実現しました。

さて、シャガールの巧みな構成のおかげで、天井画の中では違和感なく収まっているこの曲目ですが、国や時代の異なる作曲家の作品を縦横無尽に駆けめぐるラインナップなので、実は演奏者の方々にとってはかなり負担がかかるそうです。楽器の編成も大分違いますし、気分を入れ替えるのも大変なのでしょうね。これって例えば上野や六本木の美術館を4つも5つもはしごして、全くジャンルの異なる展覧会を見まくった後のあのボーゼンとした感じに、少し似ているのではないかと勝手に想像しています(やったことのある方は共感してくれるはず)。

コンサート全体のMCは井上さつきさんが担当されて、曲の合間に解説などをしてくれました。実は恥ずかしながら展覧会担当のワタクシも、シャガール展の宣伝を兼ねて舞台上にちょっとだけ登場して、オペラ座の天井画について簡単なお話をしてきました。美術館で働いていると、ギャラリートークや団体鑑賞のガイドなど、人前で話す機会は結構あるのですが、舞台上でスポットライトを浴びつつ喋るのは、これまた全然違うなと実感した次第です。

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▲展覧会を宣伝中(撮影:中川幸作)

流石はプロ、と妙に感心してしまったのはリハーサルで綿密な打合せが行われる事。時間配分がきっちり決められているのは序の口、立ち位置に向かって歩き出すタイミングや声の出し方まで細かいチェックをするんです(この打合せが余計な緊張を誘っていた気もしますが・笑)。舞台裏で名フィルの皆さんが思い思いに音出しをしている姿を横目に、気分はすっかり「にわか関係者」です。「イチベル」だの「カゲアナ」だの知る限りの業界用語を駆使して、アイアム関係者アピールをしてみたい誘惑にかられます。

ただ一つ残念だったのは、自分がMCで喋った前半は舞台裏にいて、原稿を頭に入れていたので(ええ、完全アドリブはちょっと無理でした)、演奏を聴く余裕が全くなかったこと。やはり人間、心に余裕がないと芸術を楽しめませんね、と言いつつ長くなってしまったので続きは次回に。

(TI)