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展覧会はその時、その場でしか体験できませんが、カタログは後まで残ります。そこで考えた「これからの写真」のカタログコンセプトは、読み物として充実させること。出展作家の解説・作品画像以外のコンテンツも充実させ、展覧会を見ていなくてもカタログ単独で楽しめる本を目指したのです。そういうわけで、今回はカタログのお勧めポイント等を勝手ながら紹介します。

〇参考文献
今回は「写真について学びたい人」向けの参考文献一覧を付けてみました。というのも、私が大学に入って美術の勉強を始めようとしたとき、さて、何から読んだら良いのか分からん…という事態に直面したためです。インターネット等で「美術」「アート」と検索すると、もう古今東西の本や言葉が山ほど出てきますね。勉強する以上、年代順に最初から学ばなくちゃいけないのか、となると、洞窟壁画からで!?ギリシャ哲学から!?となってしまうわけです。
そこで、今回のカタログでは、写真に関する学術書を整理して紹介文とともに掲載しています。オーソドックスな写真史、スーザン・ソンタグやロラン・バルトなどの写真論はもちろんのこと、ファッション写真や報道写真といった社会の中での写真の位置づけについても目を走らせつつ、デジタル以降の動向もおさえる!それぞれの領域、分野ごとにおすすめの本が載っており、それらの紹介文をまとめて読むだけで、写真研究の現在がマッピングもできてしまいます。参考文献は、関西で写真の研究をしている林田新さんを中心に編集していただきました。
 

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↑あまり関係ないですが、色校正の様子。鈴木さんとは、夜の12時にセブンイレブンの前で待ち合わせて色校正をしたのでした。スポンジ一つ一つの色を確認する作業…。

 

〇写真関連年表
人間は、地図を見るのが好きな人と年表を見るのが好きな人に分かれると聞いたことがあります。私は断然、年表派です。とりわけ、一見すると無関係な出来事が同時期にそれぞれ起きているのを眺めるのが好き…。
また、芸術としての写真は、写真全体からするとごく一部で、それ以外の多様な目的のもと、日々、大量に生み出され眺められています。そこで、芸術写真以外の社会の変遷も視野に入れた年表にしました。この難事業を主に進めてくださったのは、写真研究家、冨山由紀子さんです。
川内倫子と松江泰治の両氏が木村伊兵衛賞を受賞した2001年、Google社が日本法人を設立してブロードバンドも普及。その年に横浜トリエンナーレがスタート。とか、土門拳賞を土田ヒロミが受賞していた2008年に秋葉原通り魔事件で監視カメラの設置が進んだ、等々、改めてみると発見がたくさんあります。

なお、最初、冨山さんが作ってくださった年表は、プリントするとA3にして12枚以上におよぶボリュームで、ページのレイアウトを担当したデザイナーの見増勇介さんも頭を抱えてしまい、泣く泣くみんなでデータを削りました。

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文字通り、関係者の汗と涙といろいろなモノの精華であるこの一冊、ぜひ、皆さんも手にとってみてくださいね。

(なお、芸術文化センターではネットによる販売はしていません。名古屋には足を運べないけど郵送で購入希望の方は、052-971-5511(愛知芸術文化センター代表)にお電話いただき、「写真展のカタログ購入希望」とお伝えください。担当部署までつないでくれます。そして、最後がテレフォンショッピングな〆方ですみません…)。

 (F.N.)

 

さて、前回はカメラ・オブスキュラについてご説明しましたが、続いて今回はヨウ化銀を塗った金属板を露光させてイメージを直接、板に刻み込むダゲレオタイプについてです。企画展「これからの写真」では、新井卓さんがダゲレオタイプを使った作品を出展しています。

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 ↑新井卓《2012年1月16日、新田川、南相馬市》2012年
光の当て方や眺める角度によって、見え方が変わるのが面白いですね。驚くほど細かいところまでしっかりと写っているところも特徴です。新井さんの詳しい制作過程は、10階ショップのモニターにて紹介しています。

さて、このダゲレオタイプ、もっとも古い写真技法の一つと言われています。カメラ・オブスキュラ等に写し出される像を何とかそのまま固定したいと考えた多くの人々が試行錯誤を繰り返し、ついに、フランスのルイ・ジャック・マンデ・ダゲールが、感光性を持つ金属板の露光、現像、そして像の定着に成功します。1839年にダゲールはこの技術をパリの科学アカデミーに報告し、この技法は「ダゲレオタイプ」という名前で世に広まりました。

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↑テオドール・モーリセ《ダゲレオタイプ狂》1839年
Henisch, Heinz K., POSITIVE PLEASURES (The Pennsylvania State University Press,1998)より転載

 上記の絵からも伝わるように、ダゲレオタイプは熱狂的に社会に受け入れられ人気を博したようです。ダゲールは早くも同年に市販用のカメラも発表し、名誉と報酬を手にしました。

しかし、実際のところ、ダゲールただ1人が写真技術を発明したわけではありません。同時多発的に各地で写真技術は追求され、少なからぬ人々が一定の成功をみていました。例えば、イポリット・バヤールはダゲール同様、1839年には紙陰画による写真技術の発明に至ります。しかし、ダゲールのダゲレオタイプが公式に認められた後だったため、バヤールはダゲールほどの評価を得ることはできませんでした。
そこでバヤールは翌年、抗議の意味を込めて一風変わったセルフ・ポートレートを撮影、発表します。

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↑イポリット・バヤール《溺死者に扮したセルフ・ポートレート》1840年
ジェフリー・バッチェン『写真のアルケオロジー』(青弓社、2010年)より転載。

自分の発明が軽視されていると悲嘆したバヤールは、自ら溺死者に変装して写真を撮り、それを科学アカデミーに送ったのでした。すごい当てつけ・・・。写真技術誕生からわずか1年、演劇性、自意識、ロマン主義、宣伝効果など写真の様々な力が(非常に奇妙な形で)すでに発揮されているようです。
(F.N.)

 

先日、オープンした企画展「これからの写真」。9名の出展作家による力の入った個展形式の展示となっています。個々の作品については、会場のパネルやカタログ等でお話しているので、ブログでは、コラム的なお話をしていきたいと思います。
さて、「これからの写真」と銘打ちながら、実は、過去の写真技法に関する作品も少なくはない本展覧会。今回は前編と後編に分けて、それら紙にプリントされる以前の写真について振り返ってみましょう。

まずは、田村友一郎の茶室型の作品のモチーフともなっている「カメラ・オブスキュラ」についてご説明しましょう。

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↑田村友一郎《T氏の部屋》。 T氏とは今回のモチーフである徳川慶勝の名字のTであり、田村のTであり、さらに英語にするとT's Roomとなって茶室(Tea Room)とダジャレになっているという・・・。

カメラ・オブスキュラは、小さな穴から暗い箱に光が差し込むと、外側の風景が逆さまになって映る仕組みを利用した視覚装置です。この仕組みは、写真技術が誕生するはるか昔 の紀元前には発見されていましたが、ルネサンス期に改良されて広まったそうです。このカメラ・オブスキュラがカメラの原型になったと言われています。

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↑こちらが携帯用のカメラ・オブスキュラ。画家はカメラ・オブスキュラに現れるイメージをなぞって描きました。手でなぞって描く代わりに、感光によって像を焼き付けようとしたのが写真の始まりです。
 

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一方、大きなカメラ・オブスキュラの場合、箱の中に人が入って風景を楽しむことができました。エンターテイメントとして人気があったようです。

今回、田村友一郎の制作した茶室も、人が入室できるタイプのカメラ・オブスキュラを彷彿させる作りとなっています。

なお、国内だとなんと東京○ィズニー・シーの火山のふもとに人が入れる大型のカメラ・オブスキュラがあります。しかし、東京○ィズニー・シーで「なるほど、レンズをはめ込んでカメラ・オブスキュラに写る像を明るくしたのはルネサンス期のミラノの数学者、カルダノと言われているので、それが大航海時代をテーマの一つにしたこのテーマパークに設置されているのは合点が行くね。ところで大航海時代とカメラ・オブスキュラと言えば、当然、フェルメールが想起されるわけだが云々」と語り始めると、絶対、モテません!
(F.N.)