2014年12月12345678910111213141516171819202122232425262728293031

 早いもので2014年も残りわずか。館職員の間では年末の大掃除の話が聞こえてくるようになりました。その大掃除に先駆けて、このたび当館では収蔵庫内の大整理を行いましたので、その様子をご紹介したいと思います。

 日頃たくさんの作品が眠る収蔵庫。普段は関係者しか入ることができない美術館の深層部ですが、このブログではこれまでも、美術館の裏側をご紹介する記事でしばしば登場してきましたので、中の様子をご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
●収蔵庫での作品受け入れ準備 2010年7月16日
●裏方通信 さらしの話3 2010年7月6日
●裏方通信 収蔵庫の話 2009年8月1日

 愛知県美術館が1992年に現在の場所、愛知芸術文化センター内に開館する際には、継続的に作品を収集しコレクションを充実させていくことを考えて、収蔵庫はかなり余裕をもった収納スペースを確保して作られました。それから約20年。この間にあった購入や寄贈によって、美術館の所蔵作品は着実に増えていきました。そのなかには「木村定三コレクション」のように、何千点もの作品が一括寄贈されるという出来事もありました。コレクションの充実は美術館にとって良いことなのですが、ここで問題になるのが作品の収納です。

 作品の収納については他の館でも頭を悩ませているところが多いと聞きます。愛知県美術館は現在、約8000件の作品を所蔵していますが、コレクション展に常時約100点の作品が出ているとしても、残りの数千点の所蔵作品を収蔵庫で収納するために、これまでの収納方法のままでは限界が近づいていました。そこで今回の大整理では、収蔵庫内の一部、箱に入った作品の収納棚の増設と収納方法の見直しを行いました。

 まず、収納されていた作品を全て移動させます。

作品移動後.jpg

▲作品移動後の風景。

 

仮置中.jpg

仮置中2.jpg

▲仮置き中の作品。各作品に付けられたタグには、作品タイトルや作品画像が載っています。作成には友の会サポート部会の皆さまにご協力いただきました。これがあると箱の中身が分かり易くて助かります。

 

点検中.jpg

▲今回の整理にあわせて、作品の点検作業も行いました。約2000点の作品を1点ずつ開梱し、状態を確認します。こうした作業は作品の扱いを学ぶ良い機会になります。今回は桐箱に入ったものが多かったので、真田紐の結びを繰り返し覚えました。

 

 

テトリス.jpg

▲棚の増設が完了すると、作品を元の場所に戻します。いかに効率よく、かつ取り出しやすく収納するかというテトリスゲーム…一番難しかった作業です。(テトリスってまだ通じるのでしょうか?)

 

作業完了!.jpg

▲収納完了!落下防止のためのネットも設置されました。

 

 作品群を移動させてから元の場所に戻すまで約1週間の過密スケジュールでしたが、なんとか予定していた作業を完了させることができました。「これが済まなければ2014年を終えられないからね…!」という(今年度初めからかけられていた)プレッシャーから解放されて、担当職員一同ホッとしています。溢れかかっていた作品がすっきり納まって、しかも収納場所にまだ少し余裕まである様子を見ると、感慨もひとしおです。残るは、今回の収納にあわせて棚にラベルを貼っていく作業。どこに何が収納されているのかが分かり易く目の前に示されている、そんな光景が見られる日も近いはずです…(願望)。


(タイトルS.K、本文N.H)

 

刀剣の手入れ

2014年12月11日

 今回は、学芸員も江戸時代の武士のごとく刀剣の手入れをします、というお話。
 相手を断ち斬る「武器」であり「武士の魂」である日本刀は、美術館や博物館で展示される美術品の一つでもあります。当館の木村定三コレクションのなかにも槍が含まれているのですが、美しく保存しておくためには定期的に手入れが必要。そこで京都国立博物館名誉館員の久保智康先生を講師にお迎えして手入れの方法を伝授いただくことに。
 手入れの内容は大まかには、刀に塗られた古い油を拭い取ることと、新しい油を塗ることです。油が少なくて揮発してしまったり、逆に塗りすぎたまま放置したりするとサビの原因になってしまうので、定期的に古い油を拭い、きれいな油を薄く引いておくことで、研ぎ澄まされた刃文や輝くような地がねの美しさをいつまでも保つようにするのです。

 

maintainswords1.JPG

▲まずは鞘を抜いて状態をチェック。美術品といえども刀は刀。手にしてみると独特の重みが感じられ、なかなかに緊張感があります。

 

maintainswords2.JPG

▲古い油を拭い取ります。昔は和紙を使っていたそうですが、現在はキズがよりつきにくいということでちょっと高級なタイプの極柔ティシューを使用。親指と人差し指で刃を挟んで、すーっ、すーっ、と手を動かして拭っていきます。しかし切れ味鋭い刀剣、ここで手の動かしかたを少しでも間違えると簡単に手を切ってしまうので、注意が必要です。
 

maintainswords3.JPG

▲次に「打粉」を打っていきます。ろうそくを灯した部屋で、口に紙をはさんだ武士が丸いふかふかした玉で刀にポンポンポン…、と時代劇で目にするシーンのアレです。打粉というのは砥石を粉末状にしたもので、これを薄く付けることで油を吸収する効果があります。(ちなみに口に紙をはさむのは、刀に唾が飛んでしまってサビるのを防止するため。)この後、もう一度打粉ごと古い油を拭い、きれいに拭えていることを確認して新しい油をひき、元の通り柄に戻し、専用の袋に仕舞って手入れは完了です。

 一つ間違えると事故になりかねず、緊張しながら手入れをするので、一通り作業を終えると「ふぅ」と一息つきたくなるような疲労感があります。しかしそれだけに、余計なことを考えずに目の前の刀だけに意識を集中して精神を統一する修行、という感じで心がなんとなく落ち着きます。

 

maintainswords5.JPG

▲今回手入れをしたのはこちらの槍。与謝蕪村や浦上玉堂などの江戸絵画、熊谷守一や小川芋銭をはじめとする近現代美術、古代遺物、茶道具、仏教美術…と非常に幅広い時代と地域の作品からなる木村コレクションですが、じつは刀剣類はこの槍が一振りあるだけです。木村氏がこの槍を買い求めたのは、「柄」の螺鈿細工の装飾を気に入ったからだそうです。究極的には人を殺すための道具である刀剣に関心があったのではなく、あくまでも自身の価値基準に照らして美しいと判断したものを収集していったという木村氏らしいコレクションの一つです。一点だけなのでなかなかコレクション展の構成に組み込むのが難しいところですが、いつか展示してご紹介したいと思っています。(S.S.)

▼螺鈿の装飾が美しい槍の柄

maintainswords4.JPG

 

皆さん、こんにちは。街中のBGMがジングルベルに染まりつつある今日この頃、まるで冷やし中華のお知らせのように季節外れなスタイルで始めてみましたが、皆様は如何お過ごしでしょうか。皆さんの中には既にお気づきで、さらに実際に作品をご鑑賞頂いた方も少なくないのではないかと思いますが、今年の4月から当館の10階ビデオテーク内の一室を映像コーナーとして整備し、コレクションなどの映像作品を選んで企画展会期ごとに1作品ずつ上映しております。

 

1.JPG

ここがビデオテークの入口です。入って左側が映像コーナーです。右側はビデオ番組コーナーで、こちらでは美術館のオリジナル番組がご覧いただけます。例えば今回の内容に関するものだと、「中西夏之-絵の姿形-」がおススメです。また学芸員の昔の姿が見られる「美術館学芸員の仕事」も色んな意味でおススメです。


 昨年のあいちトリエンナーレや各地で行われている展覧会などでも明らかなように、美術家による映像作品は、近年の現代美術のトレンドと言って良いほどに盛んに制作されています。それらは映像を撮る/見ることの構造へ向けた視点や、それぞれの問題意識を映像の中で追及する手つきにおいて、映画業界で修業を積んだ映画監督が撮った作品とはまた異なる持ち味を持っています。

こうした傾向に対して、当館でも収集活動を通じて少しずつフォローしていますが、一方で映像の作品をコレクション展示の中に組み込むには難しい問題もあります。一般的に映像に適した上映環境というのは(プロジェクターを用いる場合は特に)、壁やカーテンで仕切られた暗室です。けれどもコレクション展示の中では他の絵画作品などにも照明を当てる必要があるために、なかなかこうした環境は準備しにくく、せっかく所蔵している映像作品についてもお見せする機会をあまり作れていませんでした。

また、昨年度まで文化情報センターが行っていた映像事業を、この春から美術館が引き継ぐことになりました。それに伴って、多数の受賞歴を誇るこれまでの愛知芸術文化センター・オリジナル映像作品を、今後どのように公開していくのかという事も重要な課題となりました。

春から運用を開始したビデオテークでの映像上映は、上記の課題を解決して、コンスタントにコレクションの映像をお見せするためのものです。記念すべき第1回目は、昨年度新たに収蔵された田中功起による《買物袋、ビール、鳩にキャビアほか》(2004)でした。2回目は同じく新収蔵作品の奥村雄樹《ジュン・ヤン 忘却と記憶についての短いレクチャー》(2011)、3回目は牧野貴《Generator》(2011)と続き、デュフィ展開催中の現在は、ダニエル・シュミット《KAZUO OHNO》(1995)を上映中です(《Generator》と《KAZUO OHNO》は愛知芸術文化センター・オリジナル映像作品です)。

 

2.JPG

この銀色のスタンドに作品のキャプションと解説がありますのでお見逃しなく。

ちなみに上映作品のセレクションについては、例えば現在の《KAZUO OHNO》の場合であれば、大野一雄に《ラ・アルヘンチーナ頌》(1977年初演)のインスピレーションを与えたことで有名な中西夏之の作品が近くに展示されていますし、奥村雄樹作品の場合は「あなたのリアル、わたしのリアル。」展で展開されていたリアルとは何かという問いが、オリジナル/オリジンの問題として変奏されているように、他のコレクション展との関わりにも注目して頂けるとより一層楽しんで頂けることと思います。

ちなみに11月23日から行われる第19回アート・フィルム・フェスティヴァルでは、奥村雄樹のもう一つの所蔵作品《善兵衛の目玉(宇宙編)》(2012年)や、愛知芸術文化センター・オリジナル映像作品の最新作である三宅唱監督の《THE COCKPIT》(2014年)の初公開も行われますので、こちらも是非合わせてご覧ください。

 

3.jpg

第19回アート・フィルム・フェスティヴァルのチラシ。上映プログラムについてはこちらを、スケジュールについてはこちらをご覧ください。

(TI)
 

 今期のAPMoA Project, ARCH、末永史尚「ミュージアムピース」では、当館のコレクションに付けられた額縁をテーマにした展示を行っています。この展示についてのお話は、会場で配布しているリーフレットをご一読いただくとして、ここではリーフレットに書ききれなかった額縁をめぐるアレコレのお話をしたいと思います。

 油絵具で描かれた多くの絵画は、物理的には布や紙といった薄っぺらなものを「□」か「田」のようなかたちの木枠にピンと張って、そこに絵具が載っているだけ、という大変壊れやすいつくりをしています。額縁はこのような絵画をがっしりとホールドしてくれるので、絵画を現在の状態で保つためにはとても有用です。同時に、額縁は絵画を取り囲んでいるものなので、絵画を見るうえで否応なく目に入ってきて、よくも悪くも絵画の鑑賞に干渉してきます。ちなみにこの干渉は、日本画の軸装だともっと強いものになります。というのも軸の場合、絵画の部分(本紙)の面積よりもそれ以外の表具の部分の方が面積が広いことがざらにあるからです(もちろん面積の多寡だけで干渉の強弱が決まるわけではありませんが…)。ちなみに、今期の木村コレクションの特集展示では、「表具—掛軸の美—」と題して日本画のコレクションのなかから変わった表具を集めて展示しています。

 ところで、絵画というものはよく窓に例えられることがあります。そうすると額縁は窓枠ということになります。窓から見える景色は(当たり前のことですが)見えない部分も含めた広大な景色のなかから四角形に切り取られた一部分です。これを絵画に戻して考えてみると、絵画の世界は額縁の向こう側にあって、額縁に隠れた部分やその外側にも本当は広がっているんだ、ということになりますよね。もちろん現実には絵画はそこで途切れてしまってそれ以上の部分は存在しないわけですが、絵を見る私たちの想像力は、絵の外側の世界を補う力を持っていることもまた事実です。言い換えれば、額縁はそのような私たちの想像力をかき立て、助けてくれる存在でもあるわけです。

 ですが、全ての額縁が常にそういった想像力に対してプラスに働くというわけではありません。例えば、当館のコレクションのひとつ、モーリス・ルイス《デルタ・ミュー》は、購入時についていた金縁を、数年前に取り外すことにしました。その時の様子はこのブログの別の記事でご紹介しています(モーリス・ルイス 《デルタ・ミュー》 の秘められた部分が露わに!|愛知県美術館ブログ)。ここで「広々とした感覚を害してしまっている」と書かれているように、額縁が絵画の世界の広がりを阻害してしまうこともあるのです。当館では他にも、パウル・クレー《蛾の踊り》やジョアン・ミロ《絵画》の額縁が、保存の観点から不十分な構造である上に、見た目にも作品とうまくマッチしていないという判断によって、新たにデザインし直した経緯があります。また、現在展示室7で展示中の志賀理江子〈螺旋海岸〉シリーズも、あいちトリエンナーレ2010/2013ではパネルにプリントを直貼りしたかたちで展示されていた作品ですが、昨年度当館のコレクションに加わった際には、保存のことを考えて新たに額装を行いました。さらには、やはり近年コレクションに加わったゴーギャンの表裏の作品《海岸の岩/木靴職人》についても、すでに何度か展示はしておりますが、やはり保存上の問題と見た目の問題から、現在進行形で額縁の付け替え計画を進めています(志賀とゴーギャンの額装については、それぞれ直接担当している学芸員が詳しいブログ記事を書いてくれることでしょう、きっと)。

frame001.JPG
▲ クレーの額のためのラフ(すぎる)スケッチ(左)/ミロの額の仕様(右)

 額縁と絵画との関係の良し悪しは、なかなか一概に判断するのが難しいところがあります。ですので、私たちは新たに額縁を作らねばならないときは、画家がどのような額装を望んでいたか、描かれた当初に流行していた額縁はどのような形状か、同じ画家の別の作品はどのような額装がなされているか、などについて可能な限りリサーチした上で、保存と見た目の両方の観点から最善の額縁を探ろうと日々努力しています。
(KS)

空前絶後の熊谷守一展

2014年09月11日

残酷なまでに暑かった夏をようやく乗り越えて、すっかり秋めいてきましたが、皆さんは如何お過ごしでしょうか。私の方はというと先日、岐阜県美術館でオープンしたばかりの「熊谷守一展」を拝見してまいりました。

 

当館からも木村定三コレクションの作品が多数出品されている関係で、初日の開場式にお邪魔してきたのです。熊谷守一といえば岐阜県にとっては、山本芳翠と並んで極めて重要な地元出身の洋画家。当然多数の関係者がつめかけた開場式は熱気に包まれ、古川館長の最初の挨拶からして気合が入っています。曰く10年以上前から、誰も見たことがないような、熊谷の展覧会をいつかはやりたいと考えており、今回それが実現した。出品点数が400点を超える展覧会は空前絶後である、とのこと。これを聞いたときに、何か運命めいたものを感じました。

 

というのも、熊谷の生誕100年を記念した展覧会図録の中で、木村定三氏は今後自分のコレクションはどこにも貸し出さない、故にこの展覧会が絶後の遺作展である、という主旨の言葉を書いているからです。それから20年以上を経て、木村定三コレクションが当館に寄贈され、今やその作品が多くの人の目に触れることになったのは周知の通りです。その中でも80点以上(まさしく空前の規模!)の木村定三コレクションが貸し出された今回の展覧会が、時を超えて二つの「絶後」を結びつけたということに感慨もひとしおです。

 

また岐阜新聞社の杉山名誉会長は、2012年に岐阜県美術館のシャガール展が大成功を収めた頃から、2014年にも何か大きいことを、という思いで企画を進めてきた、と挨拶されていました。それでふと思い出したのが、シャガールも熊谷守一も同じく97歳でこの世を去った長寿の画家だったという事。同じ年に立て続けに長寿画家の展覧会に関わった偶然に、我ながら少しおかしくなりました。ちなみに梅原龍三郎と中川一政も同じく97歳まで生きたそうです。…ハッ!…ということは…!?(かようにしつこく長寿ネタを披露しているのは単なるトリビアではなく、次回のコレクション展の「夭折の画家」特集へのカウンター的ステマだったりします)。

 

出席者の中には県議会の議長もいらっしゃって、この展覧会をもって岐阜の文化振興に寄与したい旨の言葉もありました。熊谷守一の父親、孫六郎がかつて同じ県議会議長を務めたことを思えば、この言葉もまた重みを増してくるように思いました。などと、普段はオープニングにうかがっても聞き流している関係者のご挨拶ですが(ちょっとちょっと!)、展覧会をお手伝いをさせて頂いたこともあって今回は聞き入ってしまいました。

 

IMG_1036.JPG

 熊谷守一のご息女、熊谷榧さんもご出席。

 

さてテープカットが終わり、会場へ足を進めようと思いますが、人が多すぎて中に入れません。なのでまずは、所蔵品展示から先に見始めます。こちらは先頃《裸婦》が重要文化財に指定されたばかりの山本芳翠の絵が多数展示され、さながら特集展示のよう。他にも藤島武二、長原孝太郎、青木繁、藤田嗣治など、熊谷と関係の深い画家の作品が並んでいました。

 

展示写真02.JPG

 展示室入ってすぐの初期作品コーナー。

 

ようやく熊谷守一展の会場に入ると、いきなり木村定三コレクションの《朝の日輪》がお出迎え。おお。その後も要所要所で、木村定三コレクションの名品が展覧会を彩っていて誇らしくなるとともに、自分の中で確立させた熊谷守一像に従って、厳格に作品を収集していった木村定三氏の目利きに改めて恐れ入る思いでした。また、それにも増して《母の像》や《熊谷萬病中図》、《ヤキバノカエリ》など、主要な所蔵品を軸にして熊谷守一の死生観に迫っていく展示構成には、作家への深い理解と収集活動が一体となった岐阜県美術館の実力を感じずにはいられませんでした。

 

展示写真05.JPG

 当館木村定三コレクションの猫は下絵(トレース紙)と一緒に。

 

作品数の充実は、会場で様々な気付きがもたらされることを意味します。今回の展示では、1930年代に描かれた様々な裸婦像がグリッド状に配置されたコーナーや、1960年前後に描かれた裸婦がまとめられた壁面などに、特に目を見張りました。前者では同じ裸婦というモチーフながら、絵具によるドローイングのように、異なる表現方法を試行錯誤した跡がありありと見て取れます。また後者では、グリーンとオレンジという色の対比を用いた背景の平面構成に、この時期の画家の関心があることが伝わってきます。これらはそれぞれの時代や主題ごとの作品を、点ではなく面で見せることによって浮かび上がってくる成果と言えるでしょう。

 

また木村定三コレクション以外では、来年秋に画家の故郷にオープンする予定の、熊谷守一付知記念館準備室が所蔵する作品が出品されていました。開館前の今のタイミングだからこそ、集めることの可能だった出品内容といえると思います。単純だけれどもそれだけに奥が深く、一点一点の鑑賞に時間のかかる熊谷作品。それがこれだけ集められているのですから、どうか十分な時間を予定に入れておくことをおススメします。なんといっても他のお客さんから、「えーっ、まだあるのー?」という驚きの(あるいは歓喜の)声が聞こえてきたくらいですから!!

(TI)

藤井達吉の〈継色紙〉

2014年04月26日

 愛知県美術館のコレクションは20世紀以降の国内外の美術を中心としたものですが、その他にまとまったコレクションが二つ含まれています。ひとつはこれまでこのブログでも何度か取り上げてきた「木村定三コレクション」、そしてもうひとつが「藤井達吉コレクション」です。このコレクションは、愛知県碧海郡棚尾村(現在の愛知県碧南市棚尾地区)に生まれた工芸家・藤井達吉(1881-1964)が1953年に愛知県に寄贈した自身の作品と、彼が収集していた美術・工芸作品を含むものです。最近この藤井達吉による〈継色紙〉のシリーズの再調査を行っていますので、その様子を少しご紹介します。

 藤井は岸田劉生を中心としたフュウザン会に唯一工芸家として参加するなど、当時最先端の美術動向を鋭敏に捉えながら近代的な芸術としての工芸を追究した作家で、その作品は螺鈿、七宝、刺繍、染織、金工など多様な技法を自在に組み合わせた非常に斬新なものでした。そんな藤井が晩年好んで行ったのが、平安時代の和歌の料紙(書に用いる和紙)の技法「継紙(つぎがみ)」を継承・発展させた、継色紙(つぎしきし)。色や模様、質感の全く異なるさまざまな紙を継ぎ合わせることで一枚の料紙を作り、そこに墨で歌を書き付け、さらに顔料や箔、螺鈿で植物などの姿を描き出すという、一種の総合芸術です。

tsugishikishi001.jpg
▲軸装された継色紙。赤い円の部分を拡大すると…

tsugishikishi002.jpg
▲…こんな感じで異なる紙が継ぎ合わされています。

 この継色紙が生まれた背景には、愛知県西加茂郡小原村(現在の愛知県豊田市小原地区)で農閑期の副業として行われていた紙漉きとの出会いがあります。1932年、藤井は小原村で野草を漉き込んだ和紙を目にし、染色したコウゾ(和紙の原料)を絵具の代わりにして絵や模様を漉き込む技法を発案し、和紙工芸の指導を行いました。それ以降、藤井は様々な風合いの和紙制作を研究し、さらにそこに別の紙を継いだり布や貝などを貼り付けたりすることで、この継色紙という技法を生み出しました。

 使われている材料が多岐にわたるうえに、藤井独自の技法も加わっているため、作品の基本的な情報である素材や技法を正確に同定するには時間がかかります。いずれまとまった形で皆さんにお披露目することを目標に、今後も調査は続きます。
(KS)

tsugishikishi003.jpg

クリムト Happy Birthday!

2012年07月14日

7月14日、この日が何の日かご存知ですか?

フランス革命記念日が一番ピンとくるでしょうか...

この日は愛知県美術館にとってもとても重要!

というのは、当館のコレクションの顔ともいえる《人生は戦いなり(黄金の騎士)》(1903年)を描いた画家グスタフ・クリムトのお誕生日なのです。

お誕生日おめでと―!!

 

さらに、今年はなんとクリムト生誕150年記念の年にあたります。

このお祝いのため、クリムトの生地ウィーンでは、様々な文化施設で展覧会や関連事業が行われ、都市をあげての祝祭ムード一杯なのです。

当館の作品もまた、レオポルト美術館で開催中の「クリムトの素顔:絵画‐書簡‐内面」という展覧会に展示され、現在ヨーロッパ各国の人から多大な賛辞を受けています。


 

leopold_s.jpg
↑レオポルト美術館でわれらのクリムト「黄金の騎士」が展示されている様子。
 作品に随行したH学芸員が撮影。取材のためのテレビカメラのクルーも入り、注目度高し!

 

一方当館では開館20周年記念として「グスタフ・クリムト『黄金の騎士』をめぐる物語」展を準備中。

生誕150年と開館20周年という記念が重なり、何だかおめでたい展覧会になりそうな予感...

展覧会の内容についてはもうしばらくお待ちください。準備ができ次第、このブログでも随時情報をアップしていきますので、お楽しみに!

(MR.M.)

毎年、趣向を変えて行っている「視覚に障がいのある方に向けたプログラム」。

過去のブログでもお話したように、視覚に障がいのある方と一緒に作品鑑賞をするのがこのプログラムの目的です。

通常は、作品について意見を交わしたりして作品理解を深めるのですが、今年度は手で触れる大型鑑賞グッズを特別に用意しました。

 それがこの「足」です。自立します。ジョージ・シーガルの立体作品《ロバート&エセル・スカルの肖像》の構造を理解していただくために、実物と同じものを実際に作ってそれを触っていただこう、という発想のもと生まれました。
 

004足.jpg

↑ 今年の新作鑑賞グッズ「足」。

 

001シーガル作品.jpg

↑ ジョージ・シーガル 《ロバート&エセル・スカルの肖像》 1965年 愛知県美術館蔵


こちらの「足」を作ってくださったのは、東海地方で活躍中の若手芸術家、宇田ももさんです。モデルとなる人の足の周りに石膏をぺたぺたと貼り付けて、生乾きになったところで足を抜きます。今回はズボンが抜けないのでズボンごと切っていますが、シーガルの作品の場合も、衣服を石膏から抜いたものと石膏の中に残したものがあるそうです。

 

002工程1.jpg


↑ 工程その1

 

003工程2.jpg


↑ 工程その2


 そういえば、当館のO学芸員も過去にシーガルの石膏彫刻を自分で試していますね。その時の様子はこちら→2010年12月3日のブログ記事

 
10月13日と15日のプログラムに向けて、宇田さんはジョージ・シーガルの「足」だけではなく、ルーチョ・フォンタナの作品の模型も作ってくださることになっています。
フォンタナ作品の切れ目部分に指を突っ込みたいという願望が、今、叶えられます・・・!

 

 なお、宇田ももさんご本人の作品は、「秋の小旅行」(瀬戸市、銀座通商店街、末広商店街、11/10?11/20)や「ファンデナゴヤ ぶんのせんともものもの」(市民ギャラリー矢田、2012/1/12?22)でご覧いただけるそうです。こちらも楽しみ。

(F.N.)

所蔵作品の収集

2009年11月22日

愛知県美術館は、国内外の近現代美術を中心に、質・量ともに充実したコレクションをもつことが自慢です。2009年3月現在で、7,400点近い作品を所蔵しており、毎年、その数を増やしています。今回は、こうした所蔵作品の収集の仕組みについてお話します。
作品を収蔵するやり方には、購入(お金を払って買う)と、寄贈(無償でいただく)があります。購入はもちろん、寄贈の場合でも、作品の管理自体にお金や人手がかかり、収蔵庫のスペースも限られるため、制限なく受けられるわけではありません。購入でも寄贈でも、美術館の収集方針にそった作品を選んで収蔵することになります。


愛知県美術館の収集方針は、次のとおりです。
・20世紀の優れた国内外の作品及び20世紀の美術動向を理解する上で役立つ作品
・現在を刻印するにふさわしい作品
・愛知県としての位置をふまえた特色あるコレクションを形成する作品
・上述の作品・作家を理解する上で役立つ資料


21世紀となった今では、20世紀美術はもちろん、「現在を刻印するにふさわしい作品」に力を入れて収集しています。また、3,285点の木村定三コレクションは、愛知県のコレクターである木村定三氏の旧蔵品をご寄贈いただいたもので、これにより美術館の所蔵作品にさらなる広がりが生まれています。作品の収集に当たっては、既に所蔵している作品との兼ね合いや、展示での活用のしやすさなども大事なポイントとなります。


学芸員は、日頃から、美術館で収蔵するにふさわしい作品の情報収集につとめています。毎年、それらを吟味・厳選して、その年に収集する作品の候補を決めます。収集候補作品については、学芸員が分担して、来歴や文献、市場価格などを調査し、愛知県美術館のコレクションの中に位置付けた調書を作成します。その上で、当館としてそれらを収蔵することが適当かどうかを、「収集委員会」を通じて外部の専門家の方々に審議していただく制度をとっています。
昨年度は、新たに25点の作品を収蔵しました。中でも、安井曽太郎《パンと肉》は、日本近代洋画の分野では久しぶりの収蔵です。フランス滞在中の1910年に制作された、安井の自信作です。12月20日(日)まで、所蔵作品展でご覧いただけます。

001安井曽太郎.jpg

↑安井曽太郎《パンと肉》。これで、愛知県美術館にある安井の油彩画は3点になりました。

002川瀬巴水の木版画.jpg

↑川瀬巴水の木版画のコレクション。一昨年度にご寄贈いただいたもので、こちらも12月20日までの所蔵作品展で展示中です。
 

(M.Ma)

 

ピエール・ボナールの《子供と猫》(1906年)という作品、ご存知でしょうか。当館のコレクションの1点、小作品ですが、少女と2匹の猫が描かれたかわいらしい作品です。

この作品が、フランスのラングドック地方にある山間の小さな集落、ロデヴという町の美術館の展覧会へ貸し出されました。

005dsc01137.jpg

↑町の周囲を川が流れる

ボナールのナビ時代から晩年までの作品を70点ほど集めた「ボナール、日常のすぐれた観察者」という展覧会です。

この展覧会は10月29日で終了し、クーリエとしてこの美術館へ出かけました。クーリエとは、作品の搬送に付き添い、作品状態を確認するという仕事です。

ロデヴ美術館に着いて最初に驚いたのは、建物が非常に古い造りだということです。美術館として使用されている建物は、ルイ15世の司祭を務めたフルリー家の邸宅です。中央の庭を四角く取り囲むこの建物は16ー17世紀に建造されたものです。

003dsc01123.jpg

002dsc01105.jpg

 

展示室に入り、ボナールの作品と対面。

001dsc01097.jpg

↑黄色い壁に掛けられて、普段とは少し違った表情

まだ学芸員になって間もない頃、作品の貸し出し業務を担当していたのですが、先輩から「作品を貸し出すときは、自分の子供をよその家族に預けるような気持ちで」といわれたことがあります。こうやって他の美術館で久しぶりに作品を見ると、普段以上に親しみ深く感じます。

感慨にひたるのもつかの間、早速クーリエの仕事に取りかかります。まずは展覧会の担当者の方と展示中の様子を聞きながら、作品の状態チェックをします。それが終わると、作品を運ぶための木箱に納めます。この木箱は今回の輸送のために特別に制作されたものです。的確な素材を用い、寸法も完璧で、安全面でもしっかりしたこの木箱に、ロデヴ美術館のスタッフは感心しきり、「素晴らしい!」と大絶賛でした!

004dsc01124a.jpg 

↑本来はセキュリティー上お見せできない木箱の中身。今回は一部ご紹介。箱の中の銀色のシートは、水漏れ防止、断熱、気密性を保持する優れもの。

さて、今回のクーリエ業務、ここからが大変でした。

朝7時美術館から作品を搬出。そのため早起きしてホテルを出ようとしたら、なんとホテルの玄関が閉まって出られない!受付には人がいないし、美術館に電話しても誰も出ないし、ホテルの中をおろおろ行ったり来たり。ようやく7時になってホテルの従業員さんが出てきて、玄関を開けてもらい、美術館へダッシュ!搬出が終わるとすぐにトラックに乗り、パリへ向かいました。フランスを南北へほぼ横断し、なんと12時間にも及ぶ道のりでした。パリに着いたのは夜の9時、美術品輸送会社の倉庫に作品を搬入し、近くのホテルへ直行、翌朝は6時45分ホテル発という、なんともハードなスケジュール(涙)。再び作品を倉庫からトラックに乗せ、空港へ。ここで飛行機に乗せる荷物と一緒に作品が荷造りされるのに立ち会うのですが、作業が一向に始まらない!結局1時間半も待機状態でした。理由は、飛行機会社のスタッフたちが朝食に出かけていたとのこと…(またまた涙)。12時ごろ作品を飛行機に乗せて、ようやく一息。

翌日関西国際空港へ到着(本当は中部国際空港へ到着したかった…。出発のまさに5日前にパリ名古屋間直行便が閉鎖という不運…)、半日かけて名古屋へ移動。こうして、長い輸送にも耐え、作品は元気に美術館に戻りました。

 このように、とんだハプニングにも遭遇してしまう大変なクーリエ業務ですが、よい事もあります。普段個人では行けないような美術館では、情報の少ない希少なコレクションを知ることができます。ロデヴ美術館には、パスキン、スーチン、キスリングなど特にエコール・ド・パリや、デュフィの作品がありました。また美術館との交流も生まれます。今回はロデヴ美術館館長でフォーヴィスムの専門家マイテ・ヴァレ=ブレッド氏と面識を得ることができました。今後、当館との協力関係にプラスになることと思います。

(MRM)

愛知県美術館…皆さんはどんな印象をお持ちですか?
企画展に足を運ばれることが多い方は、古美術から現代美術まで、時代も地域も幅広く多様な展覧会をお楽しみいただいていると思います。
でもやっぱり、美術館の顔はコレクション!このブログでも、作品の保存や管理から展示の仕方など、学芸員が日ごろより良いコレクション形成のために努力を重ねているところをご紹介しています。
そして、その努力がいくつかの実を結ぶことがあります。その一例として、個人で所蔵されている作品を、美術館に預けていただくこと(寄託)があげられます。美術館の作品管理や活動を評価してくださっているからこそ、所蔵家の方は安心して作品を美術館に預けてくださるのだと思います。私たちはその信頼に答えられるよう、また日々精進していかなければなりません。
さて、寄託された作品は美術館の管理の下で展示され、たくさんの方にご覧いただくことができます。現在所蔵作品展の展示室7では、当館のコレクションにはないモネやシャガールなど、日本で特に人気のあるフランス近代画家の寄託作品が展示されています。当館のコレクションの特徴は、クリムト、キルヒナー、ノルデ、クプカなど、日本ではあまり見られない作家の作品にあります。もちろん20世紀の巨匠ピカソやマティスの作品もありますが、近代美術の展開をたどるならやはり印象派やその周辺もほしいところです。しかしこうしたモダンマスターの作品の入手は困難を極めるため、今回展示されているような寄託作品が、もとあるコレクションの幅を広げてくれるわけです。

thmnl_DSC00872.jpg

↑クロード・モネ 《セーヌ河の湾曲部 ラヴァクール、冬》 1879年
この作品は、かつて松方コレクションに入っていたもの。1878年からセーヌ川沿いの町ヴェトゥイユに移住したモネは、セーヌ川を挟んだ反対側にみえるラヴァクールの町の眺めを描きました。この作品が描かれた1897年の冬は厳しい寒さのためセーヌ川の水が凍ったそうです。作品に描かれたラヴァクールの景色も寒々しい感じがします。


thmnl_DSC00874.jpg

↑マルク・シャガール 《オペラ座》 1953年 
赤く染まったパリのオペラ座と、そこから延びる黄色い花を咲かせた木(幹に見える部分は数人の人物の身体が折り重なるように描かれています)、そして手前には白いコスチュームに身を包んだダンサーが描かれています。この作品を描いた10年後に、シャガールはオペラ座の天井装飾の制作を行いました。

これらの作品が展示されている展示室は、企画展の展示室に比べ空間が小さいので、作品との距離がぐっと近くに感じられます。その分、作品に親しみを持つことができる展示空間で、ゆっくりと作品をご堪能ください!
 

(M.M.)

愛知県美術館では、実に7,500点近いコレクションを所蔵しています。自慢の作品たちを、もっと皆さんに見ていただきたい、ということで、館外での公開も、企画展への貸出や移動美術館、愛知県陶磁資料館常設展での展示など、色々な試みを行っています。企画展への貸出はとても盛んで、昨年度は、海外・国内の約50の展覧会に、延べ300点を超える作品を貸し出しました。貸出によって、より多くの方に見ていただけるのはもちろん、展覧会ごとに違う切り口が示されることで、所蔵作品の新たな顔が見えてくるのも、貸出の大切な意義といえるでしょう。
最近では、コレクションの層の厚さを活かして、作品をたくさんまとめて貸し出す機会も増えています。6月まで平塚市美術館で行われていた「近代日本洋画の華?愛知県美術館所蔵品展?」(4月25日-6月21日)には、日本近代の洋画85点(!)を貸し出しました(5月7日のブログをご参照下さい)。
平塚での洋画に続き、この夏は、二つの展覧会で、愛知県美術館の日本画をまとめてご覧いただけます。下記の、碧南市藤井達吉現代美術館の展覧会に33点を貸し出し、岐阜県美術館の展覧会に24点を出品しています。後者の「岐阜・愛知・三重 三県立美術館協同企画」は、この地方の3県立美術館が協同し、3館の所蔵作品によって展覧会を構成する企画で、今年で4回目となります。写真は、岐阜県美術館への作品搬出作業の様子です。

thmnl_1.点検して調書を作成します.jpg

1.点検して調書を作成します

thmnl_2.裏側も点検します.jpg

2.裏側も点検します

thmnl_3.掛軸の裏側は、巻きながら点検.jpg

3.掛軸の裏側は、巻きながら点検

thmnl_4.1点ずつラベルを貼り、梱包中.jpg
4.1点ずつラベルを貼り、梱包中

thmnl_5.梱包済の作品。運び出しを待ちます.jpg

5.梱包済の作品。運び出しを待ちます

搬出・搬入の際には、開催館と愛知県美術館の学芸員が、1点ずつ作品の状態を点検します。搬出の際には、輸送や展示の方法についても確認します。これだけまとまった数だと、作業も消耗戦になりますが(^^;)、無事展覧会がオープンした、お客様に好評だった、との開催館の学芸員さんのお話を聞けた時の感慨はひとしおです。平塚からの搬入、碧南・岐阜への搬出と、3週連続の大量搬出・搬入作業で、担当者が年齢を感じてしまったこの頃でした。


(M.Ma)

「愛知県美術館所蔵作品展 戦後の日本画」(7月7日-8月30日)碧南市藤井達吉現代美術館 
「岐阜・愛知・三重 三県立美術館協同企画 No.4 時代を創った日本画家たち」(7月17日-8月30日)岐阜県美術館 

 美術館は多くの作品を収蔵しています。所蔵作品展で順次公開していますが、展示スペースや保存上の問題など色々な理由から、実際に目に触れる機会の無い作品も出てきます。そうした作品も含めて紹介するため、ウエブ上で作品を公開しています。著作権の問題などで画像の公開が難しいものもありますが、できるだけ多くの作品を公開できるよう計画的に取り組んでいます。

 利用の仕方も含めコレクション検索の片鱗をご紹介します。
 作品は、「キーワード」「作家」「地域」「時代」「主題」などの項目で検索できます。
 今回は「キーワード」「作家」で作品を探す仕方をご紹介しましょう。

*「キーワード」検索

 コレクション検索のページで、ページ上の「キーワード」ボタンをクリックしてください。
○ 全テキスト
○ 作品タイトル
○ 作家/制作名
などの項目がありますが、全テキストを選ぶと○に印が付きますので、右側の欄に、作家の名前、作品のタイトル、単語、年代など探したい言葉や数字を入力してみてください。
 例えば「パリ」と入れて下の「作家検索」ボタンを押すと、「パリ」という言葉をデータに持つ関連作家が一覧表示されます。

collection001.jpg
図 1キーワード検索・作家

同様に「作品検索」ボタンを押すと、今度は「パリ」に関連する作品が一覧表示されます。

collection002.jpg
図 2キーワード検索・作品

それぞれ興味を持った作家・作品の情報を得ることができます。

*「作家検索」

 次は「作家」ですが、上の「作家」ボタンを押すと「あいうえお」や「ABCD」のボタンの付いた画面になります。それぞれ「あ」なら「あ」で始まる作家が右側に表示されますので、興味ある作家を選んでください。また下段の「作家」欄に名前や苗字だけの入力でも検索できます。選択や入力後「作品検索」ボタンを押して探してみてください。(参考画面では「あ」から浅井忠を選んでいます。)

collection003.jpg
図 3作家検索・作家

 

collection004.jpg
図 4作家検索・作品

他にも色々と工夫した検索方法もありますので、試に検索してみてください。
(HK)

 

 来年のあいちトリエンナーレ2010を盛り上げるために、もっと多くの方に現代美術作品に触れてもらい(残念ながら文字通り手で触れてはいけませんが)、関心を持ってもらおう、ということで、愛知県の本庁舎と県議会に作品設置を行いました。

 美術好きの方にはこれからトリエンナーレのプレイベントが目白押しで楽しんでいただけることだと思いますので、今回は「美術?なにそれおもしろいの?」くらいの、関心をあまりお持ちでない方に向けて、こんな面白いものがあるんですよ、という形でご紹介できるよう、あまり美術とは縁がない庁舎と議会という場所に設置することになったわけです。

thmnl_gikai1.jpgthmnl_gikai2.jpg

 本庁舎は西側の入口に岡本敦生+野田裕示の『地殻―潜むかたち1』という御影石の彫刻を、愛知県議会はロビーに先月芸文センターで大好評のうちに個展を終えた三沢厚彦の『Animal 2008-01』を。庁舎と議会、なかなか行く機会のない方も多いかと思いますが、一般の方でも特に手続きなどなく入れますので、お近くにお立ち寄りの際は是非ごらんください。

 美術館の外に作品を展示する、というのは保存的観点から色々と制約があるので、なんでも展示しようというわけにはいきませんが、今後も美術館の中に閉じこもらずにどんどん外に作品が飛び出していけると良いな、と思います。

 さて、それとは全く別の話題ですが、最近混乱するイランの情勢を刻々と生の声で伝えている、と注目されているTwitterというウェブサービスがあります。1記事140字制限で、いまなにしてるかなど気軽なつぶやきが魅力(イランの件はまったく気軽ではありませんが)のミニブログなんですが、実はアート関係のアカウントもたくさんあります。

瀬戸内国際芸術祭
http://twitter.com/setouchi_art_jp(日本語版), http://twitter.com/setouchi_art(英語版)
2010年7月19日-10月31日に開催される瀬戸内国際芸術祭2010の公式アカウント。応募中のプロジェクトの情報や、参加アーティストが今どこで個展をしているか、など。あいちトリエンナーレ2010は出遅れているカモ...。

アサヒ・アート・フェスティバル
http://twitter.com/AsahiArtFes
2009年6月20日-9月13日、もう始まっていますが、アサヒ・アート・フェスティバル2009の公式アカウントです。

ART LAB OVA
http://twitter.com/downtownart
桜木町を中心に、まちとの関わりを探るアートプロジェクトを行っている非営利団体。上に挙げたアサヒアートフェスの一つ、2009年8月22日-8月30日に開催される横浜下町パラダイスまつり2009の情報です。

淡路島アートセンター
http://twitter.com/aac_staff
NPO法人淡路島アートセンターのアカウント。上に挙げたアサヒアートフェスの一つ、淡路島アートフェスティバル2009淡路島アート不動産の情報です。

アートマネジメント動画 ヒトミテ
http://twitter.com/hitomite
地域のアートマネジメント事例をインタビュー形式で紹介する動画ブログのアカウントです。

TOKYO ART BEAT
http://twitter.com/TokyoArtBeat_JP
東京近郊の方にはいまや定番となっている感のある展覧会情報サイトTokyo Art Beatのアカウントです。シンポジウムやトークイベントの情報もフォローされていて便利ですね。

混浴温泉世界
http://twitter.com/konyokun
もう終わってしまいましたが大分別府で開催されていた別府現代芸術フェスティバル2009 混浴温泉世界のなかで生まれたコンヨクン、だそうです。

101TOKYO Contemporary Art Fair
http://twitter.com/101TOKYO
4月にアキバ・スクエアで行われたアートフェアです。

 もうすぐ始まる越後妻有の大地の芸術祭はTwitterを利用してないみたいですね、残念(見つけられなかっただけかも知れません)。日本のギャラリーのアカウントも発見できず。たぶんやってるところはあると思うのですが...。海外のアカウントもたくさんあります。

Museum of Modern Art
http://twitter.com/MuseumModernArt
いわずと知れたMoMAですね。

brooklynmuseum
http://twitter.com/brooklynmuseum
ブルックリン美術館です。

Whitney Museum
http://twitter.com/whitneymuseum
ホイットニー美術館です。

SFMOMA
http://twitter.com/SFMOMA
サンフランシスコ近代美術館です。

LACMA
http://twitter.com/LACMA
ロサンゼルス・カウンティ美術館です。

Tate
http://twitter.com/Tate
イギリスのテート・ギャラリーのアカウントです。

 展覧会の会期やイベントの詳細など正確さが要求される情報はウェブサイトで、ゆるいコミュニケーションや直接は事業と関係しないけど関心が共有できそうな情報などをTwitterなどを利用してぽつぽつと行っていくというかたちで、広報のあり方が変化してきていますね。ただ日本の美術館で公式にTwitterアカウントを持っているところは、私の知っているかぎりではありません。MoMAやブルックリンがどのような内部的な処理を経てやっているのか分かりませんが、公的機関の場合とくに、あくまで公式な情報発信である以上投稿内容に対する責任の所在など色々クリアしなきゃいけない問題があります。

 実は愛知県美アカウント(http://twitter.com/apmoa)もあるにはあるのですが、昨年の夏にアーティスト、ジミー・キンリーによるストリート・パフォーマンスの実況をしたくらいでその後全く更新していません。何らかの形で活用したいです。

 いずれにせよ上に挙げたように様々な団体が実際に情報発信としてTwitterを利用しており、相互にコミュニケートしているという状況はすでにできあがってきています。皆さんも関心のあるアカウントを是非フォローしてみてください。

 ちなみにアーティストもどんどんTwitterに参加していますが、まとめが追いつきませんのでまた次の機会に。
(KS)
 

華やかな美術館の表側と異なり、裏方にはちょっと変わった世界があります。学芸員(curator)はこの表と裏の両方を行き来する研究者ですが、この美術館には、ほとんどこの裏方ばかりにいる保存担当学芸員(conservation staff)という職種のメンバーもいます。この裏方より、このあまり知られていない裏方の世界を紹介させて頂こうと思います。
美術館の裏方は防犯上お見せできない部分もあり、この裏方通信シリーズには意図的にぼけさせた写真を使わざるえない場合も出てくると思います。そこらへんはどうかお許し下さい。

 

現在、この主に保存業務を中心に頑張っているメンバーは3人います。今日はアートドキュメンテェーションという、これまた裏方チームのアシスタントさん1名にも手伝ってもらい、4人で屋外彫刻の洗浄です。この立体作品がセンターのどこにあるか、ご存知ですか?

まず床面に堆積した泥を集めます。かなりこびりつきが激しいのでデッキブラシでこそげ落とします。thmnl_大地洗浄 1.jpg

 

いよいよ作品にかかりました。まず十分に水で流します。次の段階では洗剤を使って表面を洗うのですが、この時、泥が残っているとかえってその泥が表面を傷つけてしまうので、最初の水洗いは丹念に行います。ここらへんは車の洗浄と同じですよね。

thmnl_大地洗浄 2.jpg

 

次に中性洗剤で洗います。表面のコーティングがかなり弱っているので、優しく、赤ちゃんの体を洗うように・・・、「こする」というより「なぜる」という感覚で、洗ってゆきます。

thmnl_大地洗浄 3.jpg

 

そしてまた水で洗剤を流し、流した洗浄液を排水溝に集めながら、床面も磨いて終わりです。この作品は大きいので丸一日の仕事となりました。

thmnl_大地洗浄 4.jpg

 

翌日には全員(?)ふくらはぎに激しい筋肉痛が起こりました(注:若干1名の筋肉痛は1日遅れましたあ!!)。ツルツルの曲面から滑り落ちないように、かなり筋肉を緊張させていたのですね。
(N.N.)
 

皆さんは、愛知県美術館にお越しの際、屋外展示作品をご覧になる時間がおありですか。屋外展示ってどこ?と思われた方もいらっしゃると思います。当館の屋外展示作品の数は多くありませんが、3つのエリアに分かれて展示されています。

thmnl_IMG_写真1 10階レストラン中庭屋上庭園.jpg

↑10階美術館の入口前のレストラン中庭である屋上庭園

thmnl_IMG_写真2 10階屋外展示スペース.jpg

↑10階入口前の屋外展示スペース

thmnl_IMG_写真3 12階屋外展示スペース.jpg

↑12階の屋外展示スペース

屋外で風雨にさらされることから、作品は材質が金属に限られた立体ですが、景観に合わせて作品が選択されています。普段は、ひっそりとした存在の作品たちですが、夏休みの子ども鑑賞会の時など、プログラムの中でちょっとした気晴らしに屋外に出た子どもたちには、大いに親しみある作品です。


  この連休中には、これら屋外展示作品の中から主に1点の作品を鑑賞する、高校生向けのプログラムが開催されました。有志の高校の先生が企画し、数校の生徒を同時に対象とした鑑賞会「高校生のための美術鑑賞」で、これまでにも、愛知県美術館の所蔵作品展や企画展の鑑賞、また鑑賞を含むワークショップが開催されました。どのプログラムも先生方の発意による独自のもので、学芸員も企画途中でアドヴァイスしたり、作品に関するインフォメーションを提供したりと、協力して実施してきました。今回は、今井瑾郎氏の《大地》を鑑賞しましたが、愛知芸術文化センターの一角に設置され建物に調和したこの作品は、これまで団体鑑賞会ではあまり取り上げられてこなかったものです。
 生徒たちは、初めに10階の所蔵作品展で、学芸員から主に彫刻作品についての解説を受けました。その後、屋外展示スペースに移動し、先生から作品を見るとはどういうことか、イメージするとはどういうことかという問いかけを受け、作品にまつわる話を聞いた後、各自で作品を鑑賞し、グループに分かれてディスカッションしました。

thmnl_IMG_写真4 高校生の鑑賞授業風景.jpg

↑高校生の鑑賞授業風景


 「上まで上ってみたい」「地球の頭がひょっこり出ているようにみえる」「作品に投げかけられている建物の影も作品の一部のように感じる」「この空間に置かれてはじめて完成したと感じる」などと屋外作品と展示環境のあり方を含めた、作品の本質に迫る意見が出され、高校生ならではの一歩踏みこんだ鑑賞会となりました。後日、各生徒は、作者の今井瑾郎氏に手紙を書き、また今井氏も返事を送ることになっていて、広がりのあるプログラムとなりました。この後、今井氏がどのような回答を高校生に寄せられるのかその後の展開も楽しみです。このように屋外作品も鑑賞者にいろいろな問いかけや広がりをもたらしてくれます。皆様も美術館にお越しの際は、是非ともこれら屋外作品にも注目していただければと思います。
  なお最後に付け加えますと、これら作品は、ほこりや酸性雨の影響を免れません。季節の良い折をみて、美術館スタッフが水などを使って洗浄し、皆様に気持ちよくご鑑賞いただけるよう管理しています。

(M.F.)

 

愛知県美術館では、毎年、県内各地で「移動美術館」を開催しています。当館から離れた地域で、多くの方に鑑賞の機会を持っていただくため、平成6(1994)年から始めたものです。今回の開催地は、豊橋市です。先日、今年度初めての打ち合わせがあり、会場となる豊橋市美術博物館に行って参りました。連休の合間の平日でしたが、美術博物館前の広場には多数の遠足の小学生で賑わいをみせていて、美術館見学も予定されていました。

thmnl_IMG_豊橋市美術博物館概観.jpg

↑ 豊橋市美術博物館外観


さて、ご記憶にある方もいらっしゃるかもしれませんが、実は、豊橋市美術博物館開館1周年記念(1980(昭和55)年)に、現在の愛知県美術館の前身である愛知県文化会館美術館の所蔵作品を、愛知県美術館所蔵「絵画名作展」としてご紹介しています。以後、1989(平成2)年までほぼ毎年計9回(1988年は開催せず)、豊橋市美術博物館で、愛知県美術館の所蔵作品による展覧会を開催しました。今年度の移動美術館は、それ以来22年ぶりに豊橋市を中心とする地域で愛知県美術館の所蔵作品を展示する機会となり、展示予定作品には、1992(平成4)年10月に愛知県美術館としてリニューアルオープンするにあたって収集した作品も含まれています。今年は、豊橋市美術博物館が開館して30年目の記念の年になります。そのため、豊橋市美術博物館のご協力を得て、通常の移動美術館よりも規模を拡大して開催します。現在、出品作品を最終調整しているところですが、展示内容は、近現代日本洋画、日本画、彫刻、海外作品、そして木村定三コレクションの作品も含めて約80点の予定です。愛知県にゆかりの作家もご覧いただく予定ですので、お近くの豊橋市地域の皆様はもちろんのこと、県内の皆様にも是非とも足をお運びいただきたいと思います。また、会期中には、ギャラリートークやコンサートなどの関連事業も企画中です。詳しい内容は、ウェブサイトのほか、今後作成されるチラシなどの広報物で皆様にお伝えしていきますので、どうぞ楽しみにお待ち下さい。

(MF)


会 期:平成22年2月20日(土)から3月28日(日)入場無料
 

平塚で愛知県美展

2009年05月07日

4月25日(土)から、神奈川県の平塚市美術館http://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-museで、当館のコレクションによる展覧会が開催されています(6月21日(日)まで)。thmnl_DSC00399.jpg

↑平塚市美術館


「近代日本洋画の華」と題して、明治の高橋由一や黒田清輝から1980年代までの作品70点と木村定三コレクションの熊谷守一15点、合計85点を出品しています。

thmnl_DSC00400.jpg

↑展覧会ポスター 藤田嗣治《青衣の少女》1925年が使われています

開会前の20日(月)にまる一日かけて作品を点検・梱包、翌日トラックを送り出し、22日には展示作業に立ちあってきました。私の到着時には、担当学芸員の江口さんによる章構成の中で、ほぼ制作年順に作品が仮置きされたところ。草薙奈津子館長と館長代理の土方さんも加わり、4人で作品の配置を検討。thmnl_DSC00402.jpg

thmnl_DSC00404.jpg

↑昭和戦前までの作品のあとにガラスケースを開いて棟方志功の版画掛軸《華狩頌》(1954年)を納め、戦後の章は抽象画から始めて、展示の流れに変化がつけられました。

当館の所蔵作品展でこれほど日本の洋画ばかりが並ぶ機会は少ないのですが、予想以上に壮観です。神奈川周辺の方、またはあちらへお出かけの方にはぜひご覧いただきたいと思います。今月9日(土)には当館の牧野館長による講演会もあります。


(TM)

 

 モーリス・ルイス(1912-62年,アメリカ)は、キャンバスに色とりどりの絵具を浸み込ませて、色彩の美しい広がりを表現した画家です。愛知県美術館には、このルイスが1960-61年に取り組んだ「アンファールド」(「広げられた」)というシリーズに分類される《デルタ・ミュー》があります。高さ3 メートル弱、幅6 メートル弱の巨大な作品ですので、見覚えのある方も多いと思います。

 

louis_1.jpg
▲モーリス・ルイス 《デルタ・ミュー》 1960-61年 愛知県美術館蔵 (2008年8月1日撮影)

 

 実はこの作品、1996年に購入した時から、展示の上でちょっとした問題を抱えていました。まず、作品の四側面が板ですべてぴっちりと覆われていました。これは、作品を移動させる時などには、板の部分を持てば作品そのものに直接手を触れずにすむため、作品保護の観点からは良いことなのですが、別の観点からは一考を要する問題でした。というのは、赤や青や黄の色彩の流れはすべて側面部にも及んでいるのですが、その美しい側面の在りようがまったく見えない状態になっていたからです。

 

louis_2.jpg
▲展示室の壁から取り外しているところ。巨大な作品だけに、大変な苦労です。

 

 次に、四側面を覆う板には金色の装飾物が付けられていて、このため、画面はピカピカに縁取られていました。これが、この作品の持つ広々とした感覚を害してしまっているように、私などには感じられたのです。

 そういった個人的な考えを同僚の保存担当学芸員に話した際、彼女は彼女で、《デルタ・ミュー》のストレッチャーの構造やキャンバスの張りに危惧を感じており、機会があればそれらを改善すべきだと考えていたことも判りました。

 それで、アメリカのルイス研究の第一人者の方、ルイス作品を数多く手がけている国内の修復家の方などのご意見をお聞きしつつ、それらの問題点を館内で慎重に議論しました。それと前後して、川村記念美術館さんからこの作品の貸出し依頼をお受けしたので、それを機会として《デルタ・ミュー》に本格的に手術を施そうということになったのです。

 

louis_3.jpg
▲川村記念美術館から帰ってきた《デルタ・ミュー》。大きすぎて、そのままでは当館の建物から運び出せなかったので、ロール状にしてお貸しし、同じくロール状で戻ってきました。

 

 結局、ストレッチャーの裏面にループ状の帯を何箇所か取り付けて、作品を移動させる際にはそこを持てば良いようにすることで、四側面を覆っていた板(そして、それに伴って、画面を囲っていた金縁)をすべて取り外すことにしました。

 

louis_4.jpg
▲作品を動かす時は、この輪っかをつかんで作品を持ちます。

 

 その他にも、さまざまな改良を加えた特製ストレッチャーに取り替えたりしています。今まで以上に美しく生まれ変わった《デルタ・ミュー》がどんなふうになっているかは、ぜひ当館にお越しいただいて現物をご覧になってください。当分の間、所蔵作品展示室の方で展示されていますから。

 

louis_5.jpg
▲新ストレッチャーに張り込む直前の《デルタ・ミュー》。ここで見えているのは、この絵の裏面です。絵具はすべてキャンバスに浸み込んでいるので、裏面にも色彩の美しい流れが現れています。

 

 このたびのモーリス・ルイス《デルタ・ミュー》に対する処置については、なるべく早くに正式に文書にまとめて、同種のルイス作品を所蔵する他館にご参考にしていただけるようにしたいと思っています。(T.O.)
 

  今年度の木村定三コレクションの新しいビデオ番組が出来ました。木村定三コレクションの全貌を紹介するため、毎年テーマを決めて制作しています。今年度は「近代の美術」を制作しました。
  ↓美術館ロビーのビデオテークで見ることができます。

thmnl_室内.jpg

thmnl_ミュージアムシステム画面_メニュー.jpg
↑ 画面メニュー

  これまで制作された木村定三コレクションのビデオには、「木村定三コレクション」「感銘を求める旅」「江戸絵画への誘い」などがあります。いずれもビデオテークで鑑賞できますのであわせてご覧ください。

thmnl_ミュージアムシステム7ページ.jpg

 また、美術館所蔵作品や所蔵作家を紹介するプログラム、その他美術の歴史や現代作家シリーズのプログラムもありますので、こちらも美術鑑賞に合わせ、ぜひご利用ください。

(HK)
 

 愛知県美術館には木村定三氏とその遺族から3000点をこえる収集品が寄贈されましたが、美術館ではこのコレクションを「木村定三コレクション」と名付け、各研究機関や専門家の方々のご協力を得て調査研究や整理、管理運営を進め、必要な保存処置と並行しながらその公開に努めています。展覧会や雑誌などでも紹介されることが多くなりましたので、皆さんの中にも各地の美術館の展覧会や各種の出版物で「木村定三コレクション」という言葉に触れたことのある方たちもおられると思います。

 コレクションの寄贈以来、さまざまな調査研究、保存科学的調査研究、それらに基づく登録管理を進めてきましたが、そうした活動に伴って種々の資料が集められ、作成されて、その数も年々増えてきました。担当されている方たちの努力の賜物でしょうか、作品カード、写真フィルム・紙焼、状態記録、保存処置記録や各種写真、類似作品の資料や写真など、関連する資料は増え続け、キャビネットから溢れてしまうほどでした。

 今度新しくキャビネットを追加して、これまで溢れていた資料を整理していくことになりました。追加に伴い担当の方たちのデスクの配置換えもしました。これまで整理してきたキャビネットの数は倍になりましたが、整理して行くとすぐにいっぱいになりそうです。

thmnl_P1010307.jpg

↑新しいキャビネットの搬入の様子

thmnl_P1010296.jpg
↑以前の資料保存

thmnl_P1010309.jpg

↑キャビネット搬入後。資料整理場所が増え、スッキリ!

 さまざまな方たちの協力の下、今後も寄贈者の遺志に応え、美術館の活動をより広く行っていくためにも、木村定三コレクションの調査研究を進めていこうと思います。

(HK)

ただいまワイエス展真っ最中の愛知県美術館ですが、展示室が美術館の全てではありません。バックヤードでも日夜、さまざまな活動が行われています。

先日は、NPO法人・文化財保存支援機構の装こう師(*注1)の先生方をお招きして、木村定三コレクションの近現代日本画(明治・大正時代の掛け軸など)の調査が行われました。大和なでしこからは程遠い私もちょっと見学!

例えば、かけ軸は箱から取り出して壁にかけるのですが、その過程には細やかな手順があります。軸と箱の向きのそろえ方、圧力をあまり紙にかけない軸の持ち方、特殊な紐のかけ方、等々。全て、かけ軸を最も安全かつ簡潔な手順で扱うために必要なのです。

thmnl_thmnl116.jpg

 一つ一つの所作振る舞いが何だかお茶席みたいだなーと思いきや、やっぱり掛け軸の扱いはお茶と同じ起源をもっているそうです。どちらも、大切なものをできるだけ丁寧に扱う、という心に基づいており、その作法の美しさをより洗練させたのがお茶と言えるかもしれません。

↓きれいに巻いて紐をかけた掛け軸は、それだけで美しいですね!

thmnl_4.jpg

 調査の終わりに、先生方から直接、掛け軸の扱い方を指導していただけました。先生方はすっすっと自然な手つきなのですが、先生の前で緊張している私の場合「あれ、手が足りない…」「紐がびよーんとなっているんですが…」となります。。。
長い時間を超えて受け継がれる作品にはきちんとした作法で接したいもの。そして、そうした作法は日々の鍛錬があって初めて身につきます。時には先生方に基礎から教わり、自分の「手」を見つめなおすことが学芸員として何より大事ですね。


*注1 装こう師とは、掛け軸や屏風など日本の伝統的な形態のものを修理したり仕立てたりする技術者の方です。今回いらした方は、いずれも日ごろは国宝などの修理をされている工房の皆さんばかりです!パパーン!!

(FN)

 

thmnl_klimt.jpg 

↑愛知県美術館の看板作品、グスタフ・クリムト《人生は戦いなり(黄金の騎士)》(1903年)

 

 今年春、この作品を展覧会へ貸し出すため、イギリスのリヴァプールにある美術館まで作品と一緒にでかけました。(←これはクーリエという仕事です。この仕事については、9月21日のブログに詳しい説明があります)
 クリムトに関する作品が世界中から集まり、展示作業には作品を貸し出す美術館の学芸員たちが立ち会いました。《人生は戦いなり》が開梱され、壁にかけられたとき、他の美術館の学芸員たちが作品の周りに自然と集まり、「ビューティフル!!」と称賛の声があがりました。自分のものじゃないけれど、なんだかとっても誇らしい気持ちになりました。

 クリムトといえば、《接吻》のように女心をくすぐる、装飾模様に彩られた甘美な作風が一般的に知られているように思います。

thmnl_klimt_der01.jpg

↑《接吻》(1907-08年)、オーストリア美術館

 一方、《人生は戦いなり》に描かれているのは、金の甲冑を着けた「黄金の騎士」。クールでかっこいい印象です。この作品の制作にあたって、クリムトはアルブレヒト・デューラーの版画作品《騎士と死と悪魔》(1513年)を下敷きにしたと考えられています。
thmnl_durer07.jpg

↑馬に乗った騎士は、彼を邪魔しようとする死神や悪魔を無視して歩みを進めています。

  《人生は戦いなり》のなかで、騎士を邪魔する悪者はヘビ。

thmnl_snaik.jpg

 画面左下にいる金色のヘビが、黄金の騎士の行く手を阻んでいます。けれど、ヘビはまた楽園の象徴でもあります。そう、イヴにりんごを食べさせたヘビのことです。
 小さな花々が咲く楽園を進む騎士。戦う騎士と幸せな楽園…ってなんだかミスマッチですが、この作品には、当時のウィーンの保守的な美術界に戦いを挑みながら表現の自由を探求し、後に《接吻》のような優美な世界の創造にいたるクリムトの歩みがしるされているのかもしれません。
 この作品はほかにもまだまだ見どころ一杯!!作品の近くでよく目を凝らしてみると、馬の美しい毛並みの描写がよく分かります。

 また隠し絵のように、木の幹には怪しげな男の姿が見えます。

a man2.jpg

↑男の顔がどこにあるか分かりますか?
 

 こうやって実際の作品をよく観察すると、いろんな発見があります。

 クリムトの作品を所蔵している美術館は、日本国内ではたった数館。そのうちの3館は豊田市美術館飛騨高山美術館、当館となぜか東海地方に集中しています。この冬、クリムト巡礼の旅なんていかがでしょうか。

(MRM)

(当館と豊田市美術館は2009年3月までの所蔵作品展で展示予定です)

ワイエスの寄贈作品

2008年12月10日

 今回の「アンドリュー・ワイエス 創造への道程(みち)」展に出品されている愛知県美術館所蔵作品は、2006年にアンドリュー・ワイエス夫妻から直接愛知県美術館に寄贈を受けた作品です。

thmnl_dsc00609a.jpg

↑左側が愛知県美術館所蔵の《氷塊I》(1968年) 「アンドリュー・ワイエス―創造への道程」(Bunkamura ザ・ミュージアムの展示風景)

 ワイエス夫妻からの寄贈作品を所蔵している美術館は数多くあるわけではありません。愛知県美術館が寄贈の話をいただいた時、ワイエス・プライヴェート・コレクションの学芸員であり、マネージャーのメアリー・ランダ氏は、「これまでワイエス夫妻が美術館に寄贈したことはなかった!」と述べていました。愛知県美術館へ寄贈を頂いたと同時期にフィラデルフィア美術館にも複数の素描類が寄贈されましたが、それは同年に大規模な回顧展を開いたからだと推測できます。
 では、愛知県美術館へはどうして寄贈されたのでしょうか?愛知県美術館では1995年に大規模なワイエス展を開きました。その頃はバブル景気のなごりで、数多くのワイエスの作品が日本にありました。今から思うと信じられないくらいの質をもった、つまり代表作として数えられるような作品が、それも数多くあったのです。その展覧会後、愛知県美術館はいくつかの所蔵先から寄託を受けました。その数およそ40点。その中には1976年、メトロポリタン美術館で開催された「アンドリュー・ワイエスふたつの世界」展の中心を成したコレクションも含まれていました。また、そうした寄託品を預かるとともに個人所蔵家の作品をアメリカで開催されたワイエスの展覧会に借用する交渉の手伝いをしたりして、ワイエス家との良好な関係を保って来ました。
 そして寄贈を受けた2006年にもアメリカで開かれた「アンドリュー・ワイエス メモリー・アンド・マジック」展への日本からの借用にも力を貸したのでした。今から思えばそうした長年にわたる作品保護や協力関係に対するお礼だったのではないかと考えられます。
 作家やその遺族、あるいは所蔵家との関係は展覧会の時の一度きりの関係ではありません。美術館活動は派手な企画展に目が行きやすいのですが、表舞台には出にくい地道な活動がやがて花開くことのあることをこの作品の寄贈が示しています。
 ただ、あれほどたくさんあったワイエスの寄託品はそのほとんどが現在はアメリカへ売られて戻って行ってしまいました。うーん残念!

(ST)
 

所蔵作品館外公開情報

2008年10月10日

 愛知県美術館では来週17日から「ライオネル・ファイニンガー」展が始まりますが、全国各地の美術館・博物館でも様々な展覧会が開催されています。そしてそんな各地の展覧会で愛知県美術館の所蔵作品をご覧いただくことができます。一部をご紹介します。芸術の秋、行楽の秋、おなかいっぱい幸せな秋になりますように。

 愛知県美術館の所蔵作品をご覧いただける主な展覧会(作品名) *10月9日現在

・群馬県立近代美術館「山口薫?幻影のカンヴァス」展
(作品:山口薫《ボタン雪と騎手》)※10月28日まで 巡回あり

・川村記念美術館「モーリス・ルイス 秘密の色層」展
(作品:モーリス・ルイス《デルタ・ミュー》)※11月30日まで

・東京富士美術館「Happy Mother, Happy Children」展
(作品:ピエール・ボナール《子供と猫》)※12月14日まで

・平塚市美術館「近代日本画の巨匠 速水御舟?新たなる魅力」展
(作品:速水御舟《西郊小景》)※11月9日まで

・静岡県立美術館「十二の旅―感性と経験のイギリス美術―」展
(作品:ベン・ニコルソン《1933(スペインの絵葉書のあるコラージュ)》他)※10月26日まで 巡回あり

・小松市立宮本三郎美術館「家族の肖像」展
(作品:宮本三郎《家族》他)※11月24日まで

・碧南市藤井達吉現代美術館「碧南の空と大地の間展―まちを彩る彫刻たち―
(作品:佐藤忠良《レイ》他)※12月7日まで

・大阪市立美術館「佐伯祐三展―パリで夭折した天才画家の道―」展
(作品:佐伯祐三《自画像》)※10月19日まで その後10月24日から高松市美術館へ巡回

・岡山県立美術館「五姓田のすべて?近代絵画の架け橋?」展
(作品:山本芳翠《月下の裸婦》)※11月9日まで

・木村定三コレクションにつきましては、木村定三コレクション:館外公開情報(http://www-art.aac.pref.aichi.jp/collection/kimura/kokai.html)をご覧ください。

081009check.jpg

各地の展覧会会場へ搬出する前には 必ず作品を点検します。細部まで状態を観察するために、ライトや虫眼鏡を使うこともあります。

(MI)
 

 愛知県美の看板作品、グスタフ・クリムトの《人生は戦いなり(黄金の騎士)》は、5月から8月末日までイギリスのテート・リヴァプールで開かれた展覧会Gustav Klimt: Painting, Design and Modern Life in Vienna: 1900に出かけてお留守でした。

thmnl_klmt001.jpg
▲テート・リヴァプールの外観

 海外の美術館などと作品を貸し借りする場合、所蔵館の人が輸送や展示作業などに立ち会うことがよくあり、その人たちをクーリエ(courier)といいます。このたび私がクリムトをお迎えに行ってきましたので、裏方の仕事としてちょっと詳しくご紹介します。

 9月2日朝セントレアを発ち、飛行機と鉄道を乗り継いでリヴァプールに着いたのは22時半頃(日本時間3日6時半)。翌朝さっそく仕事です。ビートルズ誕生のこの市は世界遺産に登録された港町で、テートはドックにある古い煉瓦造りの倉庫を改造した美術館。展示室の壁の上にも煉瓦が見えます。《黄金の騎士》は黒く塗られた壁にカッコよく飾られていました。日本からもう1点の貸出者、豊田市美術館の学芸員K氏も点検・梱包作業中。

thmnl_klmt002.jpg
▲展示の様子

 テートの保存担当者と一緒に絵と額縁を懐中電灯で照らしながら、貸出し時に作った調書と見比べて新しいキズや絵具のひびなどがないことを確認。壁からはずした作品を包み、輸送用のクレート(木箱)に収めます。箱の中は作品を衝撃や空輸時の温湿度変化から守るため、紙・ウレタンやスポンジのクッション・木製内蓋・発泡スチロール板・断熱防湿シート・摩擦防止シートなどで何重にもなっています。現地の習慣では、クレートも作品も立てたままで作業をするよう。なるほど、キャンバスがたるんでいる場合などは立てたままがよさそうですが、今回はクッションの中に作品をグイグイ押し込んだりしないよう、収納時には水平に寝かせてもらいました。

thmnl_klmt004.jpg
▲木箱に収納された《黄金の騎士》

thmnl_klmt005.jpg
▲収納完了!