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担当させてもらったコレクション展内の企画「出来事――いま、ここ という経験」「黄金伝説」展と同時開催中(5月29日まで)です!コレクション展を初めて一から担当させてもらったのですが、今回はその裏話を少しお話したいと思います。
コレクション展を企画するためには、その美術館の所蔵品をどれだけ熟知しているかが重要なポイントになります。しかし、愛知県美が所蔵している作品は約8000件…私の浅い経験では全部の作品を把握出来ていないため、ひとまずはじめは自分の知っている範囲で展示プランを考え始めました。しかし、それだけではもちろん不十分、と経験豊富な先輩学芸員に「こういうテーマでやりたいのだけれども…」とぽろぽろと相談し始めると、「あれは?」「これは?」と次々知らない作品を教えてもらうことができました。それによってテーマを拡充することが出来るような作品も加わり、だんだんとボリュームが増えていきます。

コレクション展示の作品選定には様々な事情が絡んできます。この作品は久しく出していないからor新収蔵作品だし、このタイミングで出したいね…といったこともあったり、収蔵庫の作品の状態もそれぞれに異なっています。展示に際しては額装が必要な作品、状態を考慮すると今は展示出来ない作品、展示作業が大がかりになるため人員と時間を確保しなければならず今回は難しい作品などもありました。単にコンセプトに合う作品を選ぶだけではなく、このような条件を考慮しながら展示を構成し、作業のスケジュールを計算していきます。

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↑ 時々出して展示方法を代々引き継ぐべき作品パク・ヒョンギブルー・ダイニング・テーブル

第2章にあたる「出来事を共有する」では、1970年に行われた第10回東京ビエンナーレ「人間と物質」展をひとつの出来事として捉えることを試みています。当館に安齋重男、大辻清司の写真があることは知っていたのですが、企画段階で両者が同じ展覧会を撮影していたことに気が付きました。ということは、二人は写真家として、この出来事を異なる形で共有していたといえるのかもしれない…と思い、その視点の違いを対比的に見せてみることにしました。さらに、複数の批評家が記した展評やドキュメントもひとつの展覧会を浮かび上がらせるための記録として展示しています。
実はこの「人間と物質」展、愛知県美術館の前身、愛知県文化会館美術館も当時の巡回先となっていたのです。せっかくなのでその様子もお伝えできればと考え、残されている文化会館時代の資料を漁ってみたのですが、残念ながら今回は関連したものを見つけることは出来ませんでした。しかし、展示を伝える愛知県文化会館ニュース「窓口」(発行は1961-91年。古くから当館をご愛顧していただいている方には懐かしの?)や、毎日新聞の紹介記事を取り上げています。これは愛知在住の作家さんから特別協力を得て実現することができました。この場を借りて改めて感謝します。

 

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↑開催前夜。普段とは違う紙でキャプションを用意したり、全文に目を通してもらえるよう雑誌の他ページをコピーしたりして、ぎりぎりまでかかった展示作業もなんとか終了…。

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↑当時の新聞記事

批評家・中原佑介による企画の先駆性から現在、再び注目されている「人間と物質」展ですが、愛知の他に京都、福岡にも巡回しており、開催期間は短かったものの各地の鑑賞者、作家たちに大いに刺激を与えたことは間違いありません。巡回先のひとつであった愛知の資料はなかなか少ないようですが、個人的にはこれを機にまた調査していきたいと思っています。名古屋は特に縁のない土地でしたが、コレクション展をきっかけにこの土地固有の視点を持てたことはとても嬉しいことでした。黄金伝説展だけでなく、この機会に是非コレクション展にも足をお運びいただければと思います!

*第3章「記憶のなかの出来事」で展示している野田弘志「湿原」シリーズは、1983-85年に朝日新聞に掲載されていた加藤乙彦による連載小説の挿絵として描かれたものだそう。当時、紙面上で読まれていた方はもしかして小説を思い出されるかもしれません。(N.O)

 

愛知県美術館では、開催中の『月映』展が好評を得ていますが、今回は、同時開催のコレクション展をご紹介します。というのも、今回のコレクション展、いつになく豪華な内容となっているのです!

まず、展示室4では、昨年度新たに収蔵した《Girl From the North Country》(2014年)を中心に、当館に寄託されている作品をあわせ、奈良美智の特集展示をしています。

愛知県立芸術大学出身の奈良は、あいちトリエンナーレにも参加するなど、この地域とも強い結びつきのある作家です。当館でも、その作品を収蔵したいとずっと考えていたところ、今回、とてもよい作品にめぐり会うことができました。

今回の展示は、大型の油彩から版画、ドローイングまで18点の作品を通して、作家の魅力を十分に味わっていただける空間となっています。当館に新たに仲間入りした“北の国の女の子”、どんな表情をしているのでしょうか…?ぜひ、展示室に会いに来てください!


さてさて、続く展示室では、なんとも奇跡的な組み合わせが実現しています。

展示室5では、常に当館のコレクション展の核となっている20世紀美術をご紹介していますが、現在このコーナーに、休館中の豊田市美術館からお預かりしている作品を展示しています。

豊田市美術館といえば、近現代美術のコレクションやユニークな企画展を目当てに、愛知県内はもとより全国からお客様が訪れる美術館ですが、今年秋に開館15年を迎えるに当たり、現在改修工事が進められています。この改修のための休館中、コレクションの中でも特に重要な作品を、当館でお預かりすることとなり、せっかくなので、当館の所蔵品とあわせて展示させていただくことになりました。

実は、豊田市美術館の近現代美術のコレクションの中には、当館の20世紀美術のコレクションと強いつながりのあるものがたくさんあります。その一つが、ウィーン分離派とその周辺の作品です。

当館の代表的名品と言えばクリムトの《人生は戦いなり(黄金の騎士)》ですが、豊田市美術館はクリムト後期の作品《オイゲニア・プリマフェージの肖像》(1913/14年)を所蔵されています。

 

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▲グスタフ・クリムト 《オイゲニア・プリマフェージの肖像》 1913/14年 豊田市美術館


1903年に、クリムトが独自の様式とテーマを追求しようと決心した頃の記念碑的作品《人生は戦いなり(黄金の騎士)》に対して、《オイゲニア・プリマフェージの肖像》は、画家の晩年の肖像画のスタイルをよく伝えるものです。国内の美術館に所蔵されているクリムトの油彩画は数点しかないのですが、その中でも特にこの2点は、画家の成熟期に制作されたという意味で特別な価値を与えられています。今回のコレクション展は、この2作品を同時に堪能できる大変貴重な機会となっているのです!

 

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▲このように、クリムトの油彩の名品を見比べることができます。なんて贅沢?


さて、この《オイゲニア・プリマフェージの肖像》を、当館の《人生は戦いなり(黄金の騎士)》と比べてみますと、かなりスタイルが異なっていることが分かります。《人生は戦いなり》が厳格な構図を持ち、金色を引き立てるような落ち着いた色彩で丹念に仕上げられているのに対して、《オイゲニア》の方は、鮮やかな色彩と大胆な筆遣いが目立ちます。

このような晩年のスタイルの変化には、クリムトより若い世代の画家たちの影響があったのではないかと言われています。その代表が、オスカー・ココシュカ(1886-1980)とエゴン・シーレ(1890-1918)です。そして、なんと今回は、同じく豊田市美術館のコレクションから、この二人の画家の作品もあわせて展示しています。ユーゲント・シュティールの影響下から出発し、それぞれ独自の表現主義的スタイルを確立したココシュカとシーレ。彼らのうねるような筆遣いを見ていると、クリムトの《オイゲニア》に通じるところあることが見えてきます。親子ほど歳の離れた若きココシュカやシーレの才能をいちはやく評価したクリムトは、自らの組織した展覧会で、彼らに作品発表の場を与えました。彼らと交わることによって、クリムト自身が新しい方向性を見出していったと言うこともできるでしょう。

クリムトの名品2点と、次世代のココシュカ、シーレの作品に囲まれれば、もう、気分は世紀末から20世紀初頭のウィーン・・・まるでウィーンの美術館を訪れたような気分に浸ることができます。

さらに、豊田市美術館の作品は、シュルレアリスムや現代美術のコーナーでも、当館の作品とあわせて展示させていただいています。当館が作品を所蔵するマックス・エルンスト、ジョアン・ミロ、イヴ・クラインといった作家たちが、豊田市美術館の作品が加わることで、ぐんと深い理解をしていただける展示となっています。こちらもウィーン・コーナーに負けず劣らずの見応えで、皆さんをお待ちしております。

現在の展示は5月31日(日)までとなります。どうぞお早目にお出かけください!

(S.N.)
 

皆さん、こんにちは。街中のBGMがジングルベルに染まりつつある今日この頃、まるで冷やし中華のお知らせのように季節外れなスタイルで始めてみましたが、皆様は如何お過ごしでしょうか。皆さんの中には既にお気づきで、さらに実際に作品をご鑑賞頂いた方も少なくないのではないかと思いますが、今年の4月から当館の10階ビデオテーク内の一室を映像コーナーとして整備し、コレクションなどの映像作品を選んで企画展会期ごとに1作品ずつ上映しております。

 

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ここがビデオテークの入口です。入って左側が映像コーナーです。右側はビデオ番組コーナーで、こちらでは美術館のオリジナル番組がご覧いただけます。例えば今回の内容に関するものだと、「中西夏之-絵の姿形-」がおススメです。また学芸員の昔の姿が見られる「美術館学芸員の仕事」も色んな意味でおススメです。


 昨年のあいちトリエンナーレや各地で行われている展覧会などでも明らかなように、美術家による映像作品は、近年の現代美術のトレンドと言って良いほどに盛んに制作されています。それらは映像を撮る/見ることの構造へ向けた視点や、それぞれの問題意識を映像の中で追及する手つきにおいて、映画業界で修業を積んだ映画監督が撮った作品とはまた異なる持ち味を持っています。

こうした傾向に対して、当館でも収集活動を通じて少しずつフォローしていますが、一方で映像の作品をコレクション展示の中に組み込むには難しい問題もあります。一般的に映像に適した上映環境というのは(プロジェクターを用いる場合は特に)、壁やカーテンで仕切られた暗室です。けれどもコレクション展示の中では他の絵画作品などにも照明を当てる必要があるために、なかなかこうした環境は準備しにくく、せっかく所蔵している映像作品についてもお見せする機会をあまり作れていませんでした。

また、昨年度まで文化情報センターが行っていた映像事業を、この春から美術館が引き継ぐことになりました。それに伴って、多数の受賞歴を誇るこれまでの愛知芸術文化センター・オリジナル映像作品を、今後どのように公開していくのかという事も重要な課題となりました。

春から運用を開始したビデオテークでの映像上映は、上記の課題を解決して、コンスタントにコレクションの映像をお見せするためのものです。記念すべき第1回目は、昨年度新たに収蔵された田中功起による《買物袋、ビール、鳩にキャビアほか》(2004)でした。2回目は同じく新収蔵作品の奥村雄樹《ジュン・ヤン 忘却と記憶についての短いレクチャー》(2011)、3回目は牧野貴《Generator》(2011)と続き、デュフィ展開催中の現在は、ダニエル・シュミット《KAZUO OHNO》(1995)を上映中です(《Generator》と《KAZUO OHNO》は愛知芸術文化センター・オリジナル映像作品です)。

 

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この銀色のスタンドに作品のキャプションと解説がありますのでお見逃しなく。

ちなみに上映作品のセレクションについては、例えば現在の《KAZUO OHNO》の場合であれば、大野一雄に《ラ・アルヘンチーナ頌》(1977年初演)のインスピレーションを与えたことで有名な中西夏之の作品が近くに展示されていますし、奥村雄樹作品の場合は「あなたのリアル、わたしのリアル。」展で展開されていたリアルとは何かという問いが、オリジナル/オリジンの問題として変奏されているように、他のコレクション展との関わりにも注目して頂けるとより一層楽しんで頂けることと思います。

ちなみに11月23日から行われる第19回アート・フィルム・フェスティヴァルでは、奥村雄樹のもう一つの所蔵作品《善兵衛の目玉(宇宙編)》(2012年)や、愛知芸術文化センター・オリジナル映像作品の最新作である三宅唱監督の《THE COCKPIT》(2014年)の初公開も行われますので、こちらも是非合わせてご覧ください。

 

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第19回アート・フィルム・フェスティヴァルのチラシ。上映プログラムについてはこちらを、スケジュールについてはこちらをご覧ください。

(TI)
 

釜か(回文)

2014年10月08日

 今期の木村定三コレクション展示室は、茶釜特集です。茶釜と茶杓が展示されています。え、地味ですか?いやいや、じっくりみるとなかなか面白いものなんです。

 茶釜は点茶でお湯を沸かす必須の道具ですが、その重厚な存在感は、茶席の空間全体の雰囲気をがらりと変えてしまうほどです。室町時代の初め頃に、九州北部の芦屋の鋳物師たちが製造した真形(しんなり)の釜から、利休の時代の侘びた風情のシンプルな阿弥陀堂釜や雲龍釜、そして江戸時代に各地方の城下で製作された釜たち。木村コレクションには、これら各時代・各様式の茶釜がほぼ網羅されているのです。茶碗や茶杓をコレクションする方はたくさんいらっしゃいますが、茶釜のコレクターは非常に珍しい存在です。

 一方の茶杓は、茶入などから抹茶をすくって茶碗に入れるための小さな匙で、竹製のものが一般的です。茶杓発祥の地はお茶のふるさと・中国ですが、中国では金・銀・象牙などのものが一般的で、今回展示されているような筒を伴う竹の茶杓は室町時代末に考案された日本の茶人オリジナルの文化なのです。茶杓は一本一本材料の竹や削り方でその姿が異なります。それぞれに付けられた銘も面白い!(例えば「カマキリ」や「水仙」、「カチカチ山」なんてのもあります)。

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▲展示風景

 さて、これらの茶釜や茶杓等をまとめたカタログ『茶道具—金属工芸・竹工芸を中心に』(税込2,500円)が、昨年刊行されました。同書所収の京都国立博物館名誉館員・久保智康先生による「金工の茶道具:茶湯釜と銅器を中心に」と、竹芸家の池田瓢阿先生による「竹工芸による茶道具について」を併せてお読みいただければ、この奥深い茶道具の世界がより広がって見えてくるはず。

 カタログは10階のミュージアムショップで販売しておりますが、上司から「さらに何か売れる工夫をするように!」と指示を受けまして、販促グッズを開発いたしました。今期の展示期間中限定で、この『茶道具』カタログお買い上げの方に、豊臣秀吉から細川三斎が拝領したという《大耳釜》のオリジナルペーパークラフトをプレゼントします!ペン立てとしても使えます。ただし、作るのにはハサミと糊と手先の器用さと根気と一時間程度のお暇な時間が必要ですのでご注意を。
(KS)

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▲試作品の数々。左から順にver. 1からver. 4まで。

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▲実物と比較する筆者。ちょっと赤みが強すぎました(修正済み)。

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▲カタログと大耳釜(紙)と桐箱(紙)。

夏本番の今日この頃ですが、皆様は猛暑対策にいそしんでらっしゃいますでしょうか。この夏の愛知県美術館は本丸で行われる「これからの写真」展以外にも、各所で同時多発的に熱い戦い、もとい当館所蔵品のお披露目が続いております。既に終了した茶臼山での移動美術館、田原市博物館でのサテライト展示、さらには貸出でご協力した展覧会を含めればきりがありませんが、今日ご紹介するのは大口の陣、もとい大口町歴史民俗資料館でのサテライト展示です。

大口町歴史民俗資料館

 

移動美術館とサテライト展示は、本丸になかなかお越しいただけない方々に、当館の作品をお見せする貴重な機会ですが、同時に日頃あまり名古屋を出ない我々が、様々な地域の文化状況を知る絶好の機会でもあります。また、普段とは勝手の違う空間で、展示に工夫を凝らすのもなかなかの楽しみです。

移動美術館とサテライト展示

 

大口町、私は今回初めて訪れたのですが、昔の市長が企業の工業誘致に力を入れたそうで、資料館に向かう間にも有名企業の大きな工場を目にします。資料館と同じ建物の中にはトレーニングセンターや会議室などもあり、入口は常に人でにぎわっています。曜日によっては館内で市も開かれるようで、展示作業の日には地元で取れた野菜や、焼き立てのパンなども売っていました。ちなみに2005年の移動美術館はここで行われました。

 

今回のサテライト展示は「創作のヒミツ」というタイトルで、制作のプロセスが分かるような資料を集めてきて、作品と一緒に展示しています。現代の美術作品には特殊な技法や素材を使ったものが数多くありますが、一見突飛に見えていた作品も、どうやって作っているのかを知ると、新しい楽しみ方が発見できるのでは?…というのが担当者の目論見です。

 

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展示内容をいくつかご紹介しましょう。まずは今回の目玉と言えるのが、本邦初公開となる浅野弥衛のフロッタージュ台です。実は今年2014年は、浅野弥衛の生誕100年という記念の年。東海地方の戦後美術を支えてきた巨人の偉業を称えるために、この展覧会でもささやかな展示を行っています。それが当館所蔵のフロッタージュと共に展示されている、フロッタージュ台です。フロッタージュというのは凹凸のある所に紙を乗せて鉛筆でこすることで、下の凹凸を写し取るという技法です。2年前のエルンスト展では、ロビーにフロッタージュのコーナーもありましたので、ご記憶の方も多いのでは。浅野弥衛はフロッタージュを作るときに、自分でそのための台を作っていました。この台、勿論作品を作るための単なる道具といえばそうなのですが、台そのものも作品のような魅力を放っているから不思議です。これは是非会場で見てほしい作品ならぬ貴重な資料なのです。

 

今回はエルンスト展の真似をして(それは言うな)、会場にご来場の皆さんにも気軽にフロッタージュを体験して頂けるコーナーを設けました。とはいっても流石に浅野弥衛のフロッタージュ台は使えないので、画家の佐藤克久さんに新たにフロッタージュ台を作って頂きました。浅野弥衛の闘魂を受け継ぐ佐藤さんならではの、素敵な台を用意してもらいましたので、こちらもお見逃し、おこすり逃しなく。

 

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他にも森田浩彰、設楽知昭、山田純嗣、白髪一雄、多和圭三、染谷亜里可、北山善夫、クリストの作品と、資料と共に展示しています。ちなみに大口町歴史民俗資料館は、昨年「アイチのチカラ」展にも出品された倉地比沙支さんの個展を過去に開催したこともあり、館内には倉地さんの作品も展示されています。また、近くには愛知が生んだ建築界の巨人、黒川紀章が設計した大口中学校がありますので、遠目で見学することも出来ます。また、会期中には社本奈美さん(8月24日)、大田黒衣美さん(9月15日)というアーティストによるワークショップ(対象:小学校4年生から中学生まで)もあります。

 

最後に重要な情報を。資料館へはお車が便利ですが、公共交通機関でお越しの方は名鉄柏森駅からコミュニティバス(基幹ルート、もしくは北部ルート反時計まわり)をご利用ください。本数が少ないので事前に時刻表を確認されることをお勧めします。(TI)


大口町コミュニティバス時刻表・乗り換え検索


 

黄金の騎士、北へ

2013年09月10日

 郡山市立美術館は、郡山市街から安達太良山までを一望できる、緑豊かな丘陵地にあります。この美術館は1992年11月の開館ですが、愛知県美術館も同年10月の開館で、ほとんど時を同じくして活動を始めました。建物は、季節によって豊かに変化する周囲の自然と調和し、日常から離れて美術鑑賞のひとときを過ごすには最適の場所です。

 コレクションは、ターナーやバーン=ジョーンズといったイギリス近代美術や明治以降の日本近代美術、郡山市ゆかりの美術などが中心になっています。特に、イギリス近代美術の体系的なコレクションは国内の美術館では他にほとんど例がなく、充実したコレクションとして高く評価されています。

郡山市立美術館ウェブサイト

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 この郡山市立美術館で、現在「震災復興支援 愛知県美術館所蔵品展」が開催されています。

 東日本大震災では、郡山市も建物の損壊などを中心に非常に大きな被害を受けました。美術館も施設面での被害などがありましたが、地域の人々に美術作品の鑑賞を通じて安らぎの場を提供しようと活動を続けてこられています。今回の展覧会は「震災復興支援」と銘打たれていますが、これは郡山市立美術館が震災後に開催した展覧会では初めてのことです。震災から二年半を経た今も、郡山市、そして福島県に住まう方々は、原発事故の影響などもあり将来への明るい希望が持てない状況に置かれています。それゆえにこそ、美術館から復興というメッセージを発信していきたい、という美術館のスタッフの皆さんの篤い思いが込められています。

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 郡山市立美術館から、当館のコレクションで復興支援の展覧会を、というご依頼をいただいた折、私たちはできるだけその趣旨にかなう内容でお応えすることにしました。第一章「日本人と自然」は、古来日本人が自然を畏れ、慈しみ、敬いながら共生してきたことを、与謝蕪村や英一蝶らの江戸絵画から、小川芋銭や熊谷守一、東山魁夷といった近代以降の作品を通じて感じ取っていただけるように構成されています。第二章「そして未来へ」は、今回の震災で多くの尊い生命が失われ、慣れ親しんだ故郷を奪われた方々への鎮魂や祈り、思いを託すことができるような作品、クリムト《人生は戦いなり(黄金の騎士)》など、明日に向かって歩む力を得ていただけるような作品で構成されています。愛知県美術館のコレクションが、このようなかたちで郡山市の、そして福島県の方々にご覧いただけることを、心から嬉しく思っています。
(MM)

 「皆さんこんにちはでござる」と、ナントカザえもんみたいに始めてみましたが、現在、小牧市まなび創造館では、移動美術館を開催中です。

平成25年度 愛知県美術館・愛知県陶磁美術館 移動美術館織田信長公 小牧山城築城450年連携事業「もののふの絵姿と茶の湯のうつわ」(2013年8月13日-9月8日)

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 これは、毎年県内各地で愛知県美術館と愛知県陶磁美術館のコレクションを公開しているプログラムで、言ってみれば美術館の「出前」のようなものです。これまで開催してきた移動美術館の多くは、「出前」をする美術館側が「メニュー」を決めてきましたが、今年はやや様子が違います。小牧市が、小牧山城築城450年ということで盛り上がるなかで、展覧会も何かしらそれに関連した内容で開催したい、という「メニュー」にはない注文をいただきました。むむむ。しかし、そこで「出来ません!」とは言えないのがこの板前稼業、ならぬ美術館稼業。無い知恵を絞り、所蔵品目録をひっくり返し、ひねり出したのが今回の展覧会「もののふの絵姿と茶の湯のうつわ」というわけです。

 まずは信長の描かれた絵画を中心に、平安時代後期から桃山時代までの武士を主人公にした作品が並びます。さらに、信長にまつわる書状や、桃山時代の武将たちが好んだ茶の湯のうつわも加わり、こう言ってはなんですが、けっこう見ごたえのある展示になりました。

 東京美術学校の設立に携わったことでも知られる岡倉天心は、『茶の本』という著書の中で、戦で人を殺す武士道を「死の術」、茶の湯を「生の術」と言い表しています。この展覧会では、図らずもその両方を同じ空間に並べることができたのではないかと思います。

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 会場の小牧市まなび創造館は、小牧駅からすぐ近くの複合施設、ラピオの4階にあります(下の地図をご参照ください)。また、「世界の名画を見ませんか?」展を開催中のメナード美術館も徒歩圏内ですので、ぜひ一緒にご覧いただければと思います。さらに、この移動美術館の弟とも妹ともいえる「モバイル・トリエンナーレ」も要注目です。というわけで、今年の夏は、県内各地で「お待ちしているでござる」(笑)。


大きな地図で見る

(TI)

 コレクション展示室では、会期毎に木村定三コレクションの作品をさまざまな角度からご紹介しています。そして、なんと今年2013年は、木村定三氏の生誕100周年にあたるとともに、作品を美術館にご寄贈いただいてから10年という、コレクションにとって記念すべき年なのです。さらに、このたび新たに『仏教美術』の図録が完成しました!

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 愛知県美術館はこれまでに、木村定三コレクションに関する調査を継続して進めてきました(参照:コレクション調査進行中)。今回の図録には、専門家の先生方のご協力のもと、仏教美術に分類される彫刻、工芸、絵画、書跡を収録しています。少し中身をのぞいてみると…

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 こんな感じで、密教法具や仏画などをカラー図版でご紹介しています。その他にも、タイやミャンマーなど東南アジアの仏像や、刺繍による曼荼羅など、幅広い作品が解説とともに掲載されており、木村コレクションの新たな側面を感じていただける内容になっています。館内のショップにて販売中ですので、ぜひ一度お手に取ってみてください!

 さて、現在のコレクション展示室では、木村定三コレクションの中から「岡本柳南」の作品を公開しています。岡本柳南(1848-1934)は、江戸時代後期から昭和にかけて、名古屋で活動した南画家です。いわゆる「職業画家」ではなく、土木建築の仕事に携わる一方で、福島柳圃(1820-1889)に南画を学んだり、名古屋の南画家・山本梅逸(1783-1856)の画風を研究したりと、地道に絵に対する関心や技術を磨いてきました。

 あまり知られていないことですが、木村コレクションの中にはこの岡本柳南の作品が57点も含まれていて、木村氏がとりわけ熱心に蒐集した作家の一人なのです。愛知県に生まれ、仕事の傍ら美術に情熱を注いだ木村氏は、自身と柳南の経歴を重ね合わせ親近感を抱いていたのかもしれません。茶会記には、木村氏自身が催した茶会にて柳南の掛軸が公開されたことが記されており、木村氏の柳南作品との関わりの一端が窺い知れます。

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 今回の展示では柳南作品を17点まとめて展示しています。プーシキン美術館展でフランス絵画を鑑賞された後には、ぜひコレクション展示室へ!ほっと一息つける空間になっているかと思います。
(KM)

 既に展示室でご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんが、現在木村定三コレクション室(展示室8)では、新しい小冊子を配布しています。かわいらしい表紙が目に付くこの冊子の名前は「拝啓、木村定三さま」。その名の通り、コレクターの木村定三氏をご紹介する内容です。

 当館では木村定三コレクションの受入れ以来、様々な調査研究や展示を行ってきましたが、来館者の方々から「木村さんはどういう方だったのですか?」という質問を頂くことがしばしばありました。今年2013年は木村氏の生誕100年にあたりますので、それを記念して木村定三氏その人に焦点を当てた印刷物の発行を企画したわけです。内容については実際にお手にとって頂くこととして、ここでは編集中の裏話をいくつかご紹介しようと思います。

 この冊子は当初から、幅広い年代の読者を想定して、小中学生でも楽しみながら読めるものにしたいと考えていました。そのため、堅苦しくない雰囲気を出すために、当館の他の印刷物では「木村定三氏」と呼ぶところを、あえて親しみをこめて文中では「定三さん」と呼んでいます。さらに様々なエピソードにはイラストを添えて、楽しみながら読み進められるようにしました。

 このイラスト、どなたに頼もうかと思案したのですが、若い作家を支援した木村氏にならって、若いアーティストにお願いすることにしました。イラストを使った作品も発表している、板谷奈津さんです。彼女は小さいお子さんを持つお母さんでもあるので、子どもたちの共感を得られるのでは、という予感がありました。結果としてこちらの期待を上回る内容に仕上げてくれたのではないかと担当は思っていますが、皆さんの感想はいかがでしょうか。板谷さんの娘さんも登場していますので、是非実物をご覧になってみてください。

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 ちなみに彼女の本業の方の作品では、イラストの温かいテイストはそのままに、もうちょっとハードな感じ(意味深)になっているので、そのギャップもまた興味深いです。一番の驚きだったのは、イラストだけではなく定三さんのアップリケも作ってくださったこと。その出来の良さに、迷わず表紙に使わせていただきました。
(TI)

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東松照明をめぐる夕べ

2013年03月23日

愛知県名古屋出身の写真家、東松照明氏(1930-2012年)。
戦後日本を代表する写真を数多く生み出した東松氏ですが 、惜しくも昨年亡くなられました。


そこで、近年、東松氏の大規模な展覧会を開催した愛知県美術館と名古屋市美術館の担当学芸員が、東松について語る特別対談「追悼 私が出会った東松照明」を3月22日の夜、行いました。

愛知県美術館からは古田浩俊企画業務課長、名古屋市美術館からは竹葉丈学芸員、企画と司会は愛知県美術館の中村学芸員です。

 

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↑ コレクション展の中の東松特集コーナーを、特別にしつらえました。


展示室にて対談、というこれまでにない趣向で行ったところ、作品を前にしているためか、会話も徐々にヒートアップ。

名古屋市美術館と愛知県美術館が東松の展覧会を開催するにいたった経緯の裏話から始まり、東松が1968年に「写真100年ー日本人による写真表現の歴史」展の企画に関わった際のエピソードなど、ここでしか聞けないお話ばかりでした。

 

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また、作品ばかりでなくこういった活動を振り返ると、東松氏が一枚、一枚の写真を生み出すだけではなく、歴史やジャンルといった広い視座から写真を眺め、その視座自体を作り出す能力にも恵まれていたことが分かります。

 

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↑ 穏やかな古田さん(右)と、熱く語る竹葉さん(中央)。


戦後の日本を切り取った硬質なモノクローム写真から、デジタルのカラー写真まで、実に多彩な表現を行った東松照明。あらためてその存在の大きさが痛感されるイベントとなりました。 


そして、名古屋市美術館から愛知県美術館までお越しくださった竹葉学芸員、ありがとうございます。何か次なる研究目標もおありの様子。また、色々とお話くださいね。

(F.N.)

先日、ウエスティン・ナゴヤキャッスルのレストラン「クラウン」にて、クリムト「黄金の騎士カレー」の試食会が開催されました。

 

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このオリジナル・ビーフカレーは、12月21日から開催する「生誕150年 クリムト《黄金の騎士》をめぐる物語」展の開催に合わせて、愛知県美術館とナゴヤキャッスルとで共同開発したものです。

クリムトの絵画に見られる官能的な世界、そして愛知県美術館の所蔵する《人生は戦いなり(黄金の騎士)》(1903年)に込められた強い意志をカレーで表現してください、という美術館のリクエストに応え、腕利きのシェフが試作を重ねて完成させてくださったものです。


当日は、名古屋城が一望できる部屋に、ご応募いただいた皆さんにお集まりいただきました。

 

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試食に先立ち、横尾副総料理長から「美術館のリクエストに応え、甘くまろやかさの後にスパイスが追いかけてくるオリジナルカレーを作り上げました。」という説明をいただきました。

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そして、いよいよ試食がスタート。

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実際に食べてみると、まず、まろやかで、ちょっと甘い上品な味が口に広がります。

そして一呼吸、いや二呼吸ほどしてから、スパイシーな心地よい刺激がやってきます。

クリムトの官能的な世界を「まろやかな甘さ」で、その強い意志を「スパイス」で表現した絶妙の味わいです。

 

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試食会に参加いただいた方からは、

「後から口の中に広がるスパイシーな風味が大人のカレーらしく期待以上の味で大満足です。」

「『最初はまろやか、後からスパイスが追いかけてくる』というイメージの再現率の高さに驚きました。」

「大変上品な奥深い味のカレー、おいしかったです。まるでクリムトの絵に出てくる色とりどりのモザイクのように色んな味わいが楽しめました。」

といった感想をいただきました。


試食会では、カレーの話はもちろん、クリムト《人生は戦いなり(黄金の騎士)》にまつわる話などもまじえて、ご参加いただいた皆さんと、和やかで楽しいひとときを過ごすことができました。

レトルトパックの「黄金の騎士カレー」は、展覧会にあわせて、12月21日から愛知県美術館のショップと、ウェスティン・ナゴヤキャッスルでお買い求めいただけます。

ぜひ一度ご賞味ください。

(M.M.)

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一人前200g、500円(税込)です!


 

ニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催されている展覧会「TOKYO 1955-1970―新たなる前衛」展に愛知県美術館の所蔵作品、中村宏《内乱期》)を貸し出すため、クーリエに行ってきました。

「クーリエ」とは、これまでもこのブログをご覧の方はご存知のとおり、貸出作品が安全に取扱・輸送されているかを監督し、無事に展示される(返却される)までを見守る、作品の随行者のこと。


しかし今回のクーリエ、初冬のアメリカ東海岸を襲ったハリケーン「サンディ」に巻き込まれるという前代未聞の事態になってしまいました・・・。

 

展覧会の始まる数週間前、作品と私を乗せた飛行機はひとまず無事ニューヨークに到着。

空港から美術館まで作品を運ぶトラックに積み替え作業を終えたところで、現地の輸送業者の方から「ハリケーンが来ているから、今日の夕方から地下鉄とか止まるよ」という一言が。

事前にニューヨークの天気予報で、「雨」になることは確認していましたが、まさかそんな大規模なハリケーンとは・・・。

とにかく作品を美術館内に搬入して、その日の作業は終了。


その日の夕方からは交通機関も運行休止、街のお店も閉店しただけでなく、NY証券取引所も翌日から2日間休場するなど、ニューヨークの都市機能はほぼストップ。

 

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▲MoMAも臨時閉館。エントランスのシャッターが閉まってます。

 

 

美術館の職員さんも集まることが難しい状況で展覧会の展示作業はできず、翌日の作業は中止が決定。

私もどこに出かけることもできず、とにかくホテルで待機しながらハリケーンの通過を待つのみでした。

 

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▲普段は写真撮影する人々でにぎわうロバート・インディアナ《LOVE》。周囲に人の姿がありません。

 

 

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▲「世界の交差点」と呼ばれるタイムズ・スクエアもこの日ばかりはご覧のとおり寂しい人通り。

 

 

上陸から一夜明けたNYでは、各所でその爪あとが見られました。

 

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▲メトロポリタン美術館やグッゲンハイム美術館など、NYでも屈指の美術館が並ぶ「ミュージアム・マイル」と呼ばれる道路でも数箇所で倒木がありました。

 

 

 

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▲建設中の高層ビルのクレーンが強風のため崩壊してだらりとぶら下がっています。
  落下の危険があったので、周辺の道路は封鎖されて異様な雰囲気です。

 

 

幸いにして、愛知県美術館から輸送した作品を搬入し保管していたMoMAでは、浸水や停電などの被害はありませんでした。

しかし、もしそのような危険が見受けられた場合、安全な場所に作品を移動させるなど、被害を未然に防ぐための何らかの対応をとらなければならなかったかもしれません。


とにかく何とか作業が再開できるほどには状況が落ち着き、展示作業そのものは無事に終了、貸出のクーリエの役目は終わりました。

 

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▲輸送中に傷みなどが出来ていないか、作品木箱から開けて点検中の様子。

 

 

しかし、美術館の担当者の方の一人は、ハリケーンの被害の酷かった地域に住んでいらっしゃったそうで、何日か自宅に帰れず、館内に泊まっていらっしゃったそうです。

また、NYのギャラリー街として有名なチェルシーなどでは、ギャラリーも軒並み浸水の被害がありました。


▼チェルシーの被害状況についてのニュース記事。

http://www.artinfo.com/news/story/837978/all-of-chelsea-has-to-rebuild-galleries-face-grueling-recovery

http://www.artinamericamagazine.com/news-opinion/news/2012-10-31/chelsea-galleries-hit-hard-by-storm-sandy/

 

 

作品を貸し出すためには、貸出契約の事務手続きや輸送の現場作業など、それだけでも多くの人々の手間と長い時間が必要になります。

展覧会の準備にトラブルはつきものとはいえ、今回はこのような出来事が重なり、スケジュール変更などのためにさらに多くの苦労が払われることになりました。

また、自然災害から美術品をどのようにして守っていくべきか、という危機管理の問題が重要なものになっているのは昨年3月11日以降の日本でも同じことだな、と考えながらニューヨークをあとにしたのでした。

 

 

今回愛知県美術館の作品を貸し出している「TOKYO 1955-1970―新たなる前衛」展は、来年2月25日まで開催。

ニューヨーク旅行へ行く機会のある方など、どうぞご覧下さい。

(S.S.)

 

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▲MoMAも開館し、多くのお客さんが作品を楽しむ普段どおりの展示室に。

愛知県美術館のコレクションを県内各地で公開し、これに講演会やギャラリートークなども実施する移動美術館

本年度は東浦町郷土資料館(うのはな館)での開催です。

 

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↑ 東浦町郷土資料館(うのはな館)の入り口。

 

「日本洋画と近代陶芸の名品」と題して、当館のコレクションに愛知県陶磁資料館からの作品も加えて、名品の数々によって日本の近代美術の特質とその魅力に触れていただけるよう構成しています。

岸田劉生や大沢鉦一?などの写実的な表現の作品から、林武や里見勝蔵といった、より自由で個性的な作品へと、近代美術の展開をごく概略的にご覧いただけるものです。

 

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↑ 開会式の様子。 

 

開会式後に開催した記念講演会「美術の楽しみ」では、展示作品を中心に、写実的な絵画が対象の色や材質感、空間の再現などを基本としていたこと、それが印象派以降、しだいに再現することから自由になり、フォーヴィスムの絵画などが生み出されていったことなどをご紹介しました。

つまり、20世紀の絵画は、何が描いてあるかを気にしすぎないで、どう描いてあるかという面からアプローチすると、意外に楽しく鑑賞することができるということです。

会場は、東浦町の歴史資料などを展示している場所で、パネルの上から屋根瓦が見えていたりして、ちょっと面白い空間になっています。

 

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↑ 会場内の様子。 愛知県美術館とは違う雰囲気。

 

そんなこともあってか、美術館の展示室で観るより、作品が身近に感じられるようです。

東浦町をはじめ近隣の皆様はもちろん、知多半島にお出かけの時には、ぜひお立ち寄りください。

(M. M.)
 

ようやく秋も深まってきましたが、書斎で静かに読書を楽しむ方もいらっしゃるでしょうか。

今回は、現在コレクション展の木村定三コレクション室でご覧いただける文房具たちをご紹介します。

木村氏は文人と呼ぶにふさわしい方で、文人には欠かせない文房具についても豊かなコレクションをお持ちでした。

文房具とは文房=書斎で使うものという意味であり、文房具の中心をなす四つを指して、文房四宝と呼びます。

それは、筆 墨 硯 紙 のことで、このうち硯が最も重んじられ、文人の愛玩の対象となりました。

硯の中でも中国の端渓の石で作られたものが有名です。

 

では、展示しているものから2点の硯をご紹介します。


まずは、端渓の《日月硯》です。

 

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「眼」(がん)と呼ばれる石の中の斑点を太陽と月に見立てた硯です。

カメラマンの腕が悪いため良さが伝わりませんが、石眼を含めて石の材質感や右下の凸凹としたところの様子などがとても素敵な硯です。

 

この硯には、もう一つ素敵なポイントがあります!

それは硯箱です!

 

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整った瓜の形をしており、よく見ると蛍がとまっています。

なぜホタル・・・・・?

この硯箱の作者は石眼を蛍の光に見立てたため、硯箱の蓋に蛍を登場させたのでした。

硯では太陽と月に見立てられている石眼を、硯箱では蛍の光に見立てるとはなんと面白い演出でしょうか!

文人はこうした演出を好み、仲間とともに愉しみました。

 

次に紹介するのは、猿面硯です。

 

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こちらは和硯の一つで、陶硯といって陶器に漆を塗って硯にしたものです。

日本風の呼び名は、「さるおもてのすずり」といいます。

確かに猿顔ですね!

この硯の周りには螺鈿が施されており、装飾的な美しさも兼ね備えています。

 

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陶硯には硯にすることを目的に焼かれた陶器を用いたものの他に、甕や食器といった須恵器を整形・研磨して硯に仕上げたものがあります。

これらは転用硯と呼ばれます。

 


今回の文房具の展示では、硯の他に水滴(硯に水を注ぐための容器)や硯箱も展示しています。

 

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↑ 水滴たち

 

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↑ 水滴を収める箱

 

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↑  硯箱

 

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あっ!かまきりが水滴を狙っている!!

 

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実はこれは工芸品の一つで、自在置物といいます。

本物そっくりの形は当然のこと、関節部分も本物同様に動かせるよう精巧に作られたものもあります。

江戸時代に入って戦がなくなると、武具などの需要が減少したため、甲冑師の中にはこうした精巧な工芸品に自らの技を活かす者もいました。

写真には写らない美しさがあります。

どうぞお越しいただき、間近でご覧いただきたいです。

 

今回の文房具の展示をご覧いただいた方から、「木村定三さんって本当に広い見識を持っていらして、コレクションの底が知れないね」というお言葉をいただきました。

みなさんも木村定三コレクションの世界に足を踏み入れてみませんか?

さあ、恐れないで・・・。

(Y.H.)

 愛知県美術館では、視覚に障がいのある方たちを対象とした鑑賞会を開いています。スタートは10年以上前になります。はじめは外部からの要望にお応えすることから始まりました。
 健常者と同じ方法で鑑賞することのできない人たちに、どのように美術作品を鑑賞していただくかという難しい課題に対して、美術ガイドボランティア「アートな美」や点訳グループ「六点会」をはじめとするボランティアのみなさんの協力を得ながら、鑑賞会を開いてお応えしています。

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 (ボランティアの方とペアでの鑑賞です)


 美術館ホームページの「教育プログラム」のなかに「視覚に障がいのある方へのプログラム」でもご案内していますが、18日木曜日と20日土曜日に鑑賞会を開催しました。

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 普段は一般の方にはさわっていただけない彫刻作品をさわって(事前に手をきれいに洗っていただき、やさしくさわって)いただいたり、ボランティアの方に絵画作品を言葉で説明していただいたりして鑑賞をすすめています。ときには立体コピーといって、平面である絵画作品の構図がわかるようにするために、熱を加えるとふくらむ特殊なインクを使って、簡単に図式化された作品のコピーをさわりながら、鑑賞していただいたりしています。

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(新収蔵のゴーギャンの作品を鑑賞中)


 リピーターも多く、参加された方たちは「参加してよかった」と喜んでいただいています。先日の特別講演会での廣瀬さんのお話にもありましたが、健常者でもさわることで初めて感じることもありますが、美術鑑賞の方法は一通りだけではないということだと思います。(ST)
 

 

9月28日から愛知県美術館、秋の展覧会が始まりました。
  

 涼しくなり始めたこの秋にぴったりの展覧会が始まりました。その名も「美しき日本の自然」!

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 現代生活では自然と直接触れあう機会が減少しており、自然との関係が薄れてきています。本展では作品に登場する風景や草花、動物などを日本の作家たちはどのように表現してきたのか。またどのように図様化してきたのかをご紹介します。先人たちが感じていた自然の力や動植物への眼差しを共有し、自然を見つめ直す機会としたいと思います。

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 日本人の古来持っている自然観に裏打ちされた作品群を近世絵画を中心に、瀬戸市にある愛知県陶磁資料館の陶磁器も加えて構成されています。趣は普段とは違ってかなり和のテイストが色濃い会場となっています。

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 絵画だけの展覧会と比べると陶磁器と一緒に並べられると茶室に入ったような空気が流れるのが不思議ですね。

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 展示には、陶磁資料館からも担当の学芸員ふたりに来てもらいました。愛知県美術館長も展示作業に加わり、陶磁資料館の学芸員から展示指導?を受けていました。
 
 浦上玉堂の重要文化財などを含む出品作品は、全体では65点でそのうち陶磁器は19点出品されています。掛け軸、屏風などの作品の他、近代洋画の黒田清輝や坂本繁二郎らの風景を描いた油彩も見られます。さらなる内容については後日またブログでご紹介の予定です。

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この秋、是非愛知県美術館に足を運んでみてください。(ST)

 

 

先週、海外出張でウィーンに行ってきました。ウィーンに出張だなんて優雅ねえ、と思われる向きもあるでしょう。しかし、それは全くもってノーです!ブログで旅の模様を少しお伝えいたしましょう。

今回の出張の目的はクーリエです。ウィーンのレオポルト美術館に貸出していた愛知県美術館の作品グスタフ・クリムト《人生は戦いなり(黄金の騎士)》を、当館に返却してもらうにあたり、ウィーンから名古屋への作品輸送にずっと付き添うのがクーリエの仕事。作品の安全管理が何よりの優先事項となります。 

月曜日、名古屋から飛行機を乗り継いで夜ふけにウィーン到着。そして、翌火曜日。移動の疲れをとってゆっくりと、というわけではなく、さっそく仕事です。レオポルト美術館へ行き、作品の撤収、梱包作業、および状態のチェックを行います。海外のスタッフに見つめられながらの作業は、けっこう緊張します。
 
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水曜日。もう早朝にはウィーンとはお別れです。この日のうちに作品はフランクフルト空港から日本に向けて飛びたつ予定。そこで、飛行機に間に合うよう、トラックに作品を乗せてウィーンから一路フランクフルトへ向かいます。
 
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↑朝5時に郊外の倉庫前に集合しました。暗い・・・。 
 
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↑大型トラックの車窓から牧歌的な風景をのぞみます。
 
9時間におよぶトラックの移動をへて、ドイツ、フランクフルト空港に到着。空港では作品をカーゴ便(貨物を空輸するための飛行機)に積み込みます。こうして水曜夜8時過ぎ、飛行機は無事に作品と私を乗せてフランクフルトを飛び立ちました。ヨーロッパの滞在は結局、約48時間で終了です・・・。
 
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↑ルフトハンザのカーゴ便。旅客用の席がないので、クーリエは操縦席の後ろのスペースに乗ります。わくわく。 
 
飛行機が成田空港に着いたのが木曜日の夜。それから再び作品を飛行機から降ろし、トラックに乗せて倉庫へ移動。金曜日の朝に東京を再びトラックで出発、ようやくこの日の午後に作品を乗せたトラックは名古屋の愛知県美術館に到着。はあ、長かった!
 
海外から作品を借りる、貸す、というのは、展覧会の開催にあたって今や珍しいことではありません。しかし!実際にクーリエとして作品と一緒に動いていると、海を越えての移動がどれほど作品にとって大変なことかが身をもって分かります。そして、大勢の方々のご協力、ご理解があって初めて作品輸送が可能になるということも実感・・・。
今後、海外から来た作品が展示されていたら、心の中で「よくきたね」と、ねぎらってあげてください。
(F.N)

 現在愛知県美術館のラウンジ(エルンスト展を出たところ、コレクション展の入り口手前で八角形の空間)では、庄司達《黄色い布による空間(糸の柱)》を展示しています。この場所は自然光が入ってくる場所で、晴天のときは大変明るい空間となります。その明るさに負けない、鮮やかな黄色の布を使った立体作品が吊るされています。

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 この作品は1998年に開催した企画展「久野真・庄司達展」のときに、この場所、この空間を見て作家が新たに制作したものです。展覧会後、愛知県美術館の所蔵品となりました。数年に一度となりますが、ときどきこの空間に戻ってきます。
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 布を素材としたこの作品は軽やかで、無数の糸に引っ張り上げられた布が作り出す造形美と場所を意識して選定された色合いとによって、魅力的な空間が創出されています。作品自体は緩やかに凹面を形作り、光を掌で受けているようでもあります。近づいてみると布が織りなす襞が山並みを上空から見下ろすようでもあります。
 最初にこれを展示したときは、当時の写真をご覧になるとわかると思いますが、たくさんの人の手と長い時間をかけて吊り上げられました。

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 庄司さんのこうした立体作品は、量塊や自立する垂直性といった伝統的な西洋彫刻が目指したものから解き放たれた、柔軟で設置される空間をも作品化するインスタレーションに近いものとも言えます。美術館のロビーに入るとまっすぐ正面に見えますので、是非来館の際は、遠くからと近くからとで鑑賞してみてください。(ST)

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 現在コレクション展では展示室4で梅原龍三郎と安井曾太郎の特集をしています。昨年度の新収蔵作品に梅原の《北京紫禁城》(1939年)が加わり、これまでのコレクションに一段と厚みが増しました。これまでの収蔵品には、どちらの作家もフランス留学時代の重要な作品がありましたが、帰国してから両画家が自分のスタイルを極めた時期の作品については、安井の《承徳喇嘛廟》(1938年)はありましたが、梅原は未収蔵でした。梅原のこの時期の作品を機会があればコレクションに加えたいと常々考えていたのですが、なかなかチャンスがありませんでした。しかし昨年度ようやく好機が訪れ、コレクションに加えることが出来ました。北京紫禁城は梅原の大好きなモチーフで、同じホテルの部屋から描いた何点もの作品が残されています。


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 22日の日曜日には、この梅原と安井の特集について、展示室で担当学芸員のコレクション・トークを開催しました。トークは11時から40分ほどの立って聞くには疲れない程度の時間です。実際の作品を前にしての話ですが、担当学芸員は最新のツール、タブレット型のコンピュータを使って、展示室には出ていない作品や他の美術館にある作品、あるいは梅原や安井が写された古い写真などもモニターで見せながら話を進めていきました。ギャラリーでのトークも時代の流れを感じずにはいられません。(以前は必要であれば画集のコピーだったり、重い画集そのものを持って行ったのですが・・・)

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来館者もその場でモニター画面と作品とを見比べるように熱心にご覧になっていました。


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 今回の特集には、特別出品として愛知県内の個人コレクターの方から、この特集のためにお借りした梅原と安井の使ったパレットも展示されています。色の置き方やパレットの使い方に二人の性格までもが感じられると好評です。是非来館して実物をご覧になって下さい(ST)

エルンスト展開幕

2012年07月12日

 

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本年度の企画展第2弾「マックス・エルンスト フィギュア×スケープ」展が始まりました。

7月12日あいにくの雨模様でしたが、共同でこの展覧会を企画した横浜美術館の学芸員や宇都宮美術館の館長をはじめ250人ほどの招待客を迎えて開会式が開かれました。

 愛知県美術館の村田館長の挨拶では、これまでのシュルレアリスムの作家という視点だけでなく、エルンストの創り出した世界を「フィギュア(像)」と「スケープ(景色)」というキーワードで読み解いて、この作家の豊かな世界を紹介する展覧会であることを中心にわかりやすく話されました。

 

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会場はじっくりと鑑賞しようとする大勢の人たちで熱気に包まれていました。


 

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同時に始まったコレクション展の展示室では、新収蔵品である梅原龍三郎の《北京紫禁城》が初公開となり、安井曾太郎の作品とともに近代洋画のふたりの巨人を特集しています。

(梅原と安井については、7月22日のコレクション・トークで学芸員がお話します。)

また、併せてほかの新収蔵品もお披露目していますので、是非ご来館ください。

(S.T.)
 
 


 

梅雨が明けず蒸し暑い日々が続きますが、いかがお過ごしでしょうか?


現在、美術館は展示替え中です。

普段立ち続けているロバート・スカル氏も休憩中です。

「7月13日からはまたソファに座った妻の後ろで皆様をお待ちしております」とのことです。

 

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↑ 休憩中のロバート・スカル氏

 

さて、今回は木村定三コレクションについて皆様にお知らせです。

木村定三コレクションの『作品目録 I 』が完成しました!

 

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↑ 『木村定三コレクション 作品目録 I 』表紙


木村夫妻にご寄贈いただいてから継続的に進めておりますコレクションの調査により、不明だった作家が判明した作品、名称がより正確なものに変更された作品などが出てきました。

そこで、これまでの調査・研究の成果を反映させた目録を作成しました!

分野ごとに掲載していますので、コレクションの全体像がわかりやすくなっていると思います。

木村定三コレクションをより身近に感じていただければ幸いです。

 

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↑ 『木村定三コレクション 作品目録?』内容

 

残念ながら販売の予定はありませんが、愛知芸術文化センター内のアートライブラリーでご覧いただけるようにいたしますので
いましばらくお待ちください。

 

“ I ”となっていることでお気づきの方もいるかと思いますが、まだまだコレクションの全貌とまではいきません!

みなさまに木村定三コレクションの魅力をお伝えすべく、今後も継続して調査・研究を続けて参ります。


調査と並行して作品の修理も行っております。

修理後の作品のお披露目についてはまたお知らせしたいと思います。

お楽しみに!

(Y.H.)


 

前回に続き、愛知県美術館のある愛知芸術文化センター内の見どころをご案内します。

現在の愛知県美術館の収蔵品は7000点を超えていますが、これは1992年に開館した現在の愛知県美術館が収集したものだけではありません。前身である愛知県文化会館美術館時代に集められた作品も多く含まれています。その中でも特に早い時期(1959年)に収集された作品で古い美術館時代にロビーに展示されていたブールデルの作品をご記憶の方はあるでしょうか。ひょっとしたら文化会館時代に展示されていたのを記憶されている方は少なくなっているかも知れませんね。b施設写真034.JPG 

 写真をご覧いただくと、1992年に現在の愛知芸術文化センターが開館した時点ではすぐ目の前、現在のオアシス21のところに古い文化会館があるのが見られます。ほんの一時期ですが旧館と新館が同時に存在していました。この文化会館美術館は30年ほど県民のみなさんに親しまれました。その一階のロビーに入るとそこには当時としては珍しいフランス近代彫刻エミール=アントワーヌ・ブールデルの作品が展示されていたのでした。ブールデルは師ロダンやマイヨールと並んでフランス近代彫刻の重要な作家の一人です。
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 現在芸術文化センターの二階フォーラム部分ちょうど階段を上がったところにそのうちの《自由》の像が展示されています。この彫刻を見て旧館を懐かしく思い出す方もあるでしょう。


 この像は、もともとアルゼンチン共和国の建国の父アルヴェアル将軍(1788-1852)をたたえる記念碑のためにつくられた像です。記念碑全体は1912年に注文を受けてから13年後の1925年にブエノスアイレスで除幕式が行われました。その3年前、サロン・ド・チュイルリーにはじめて発表した際、多くの芸術家たちがこの作品が南米に運ばれてしまうのを惜しんだと言われています。アルゼンチンの首都ブエノスアイレスにある《アルヴェアル将軍の記念碑》の中央の高い台座の上には将軍の騎馬像が掲げられ、その台座の下方四隅に置かれたのが、《力》、《勝利》、《自由》、《雄弁》と名づけられた4体の像でした。 
 ブールデルは将軍をたたえる徳を4つの人物像にあらわしました。持ちものや身につ
けるものがそれぞれの像の特性を象徴しています。すなわち、《自由》は樫の木を、《力》はライオンの毛皮を身にまとい、《勝利》は剣と盾を、《雄弁》は巻物を持っています。
 4体の像の大きなヴァージョンは箱根の彫刻の森美術館で見ることができます。また、アルヴェアル将軍の騎馬像のほうも日本には「馬」だけがあります。高崎市の「群馬の森」のなか、群馬県立近代美術館の正面入口近くに置かれている《巨きな馬》がそれです。将軍は乗っていません。高さが4.5mとブロンズの馬の彫刻としては日本一の大きさだとのこと。どちらもそれぞれのウェブサイトで写真を見ることができます。芸文センターの2階フォーラムで《自由》をご覧になるとともに、ウェブサイトを検索してみては如何でしょうか。

(S.T.)

 展覧会を目当てに芸術文化センターへ来られるみなさんは、美術館(8階、10階)へ直行される方が多いと思いますが、芸術文化センターの建物の中にはモニュメント的に置かれた美術品(愛知県美術館の所蔵作品ではありませんが)があちらこちらにあることをご存知でしょうか?

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 正面2階のペデストリアンデッキには、彫刻家の速水史朗さんの作品「阿吽」が大きく構えています。芸術文化センターの建物が巨大なので一見すると大きく感じられないかも知れませんが、近づくと大きな黒御影石の存在感が迫ってきます。速水史朗さんは1927年香川県生まれです。徳島大学工学部卒業ですが、瓦づくりの技法を使った陶の作品や石彫を造られています。芸術文化センターのようにモニュメンタルな作品も多く、インターネットで検索するとここの「阿吽」の写真が出てきます。

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 設計段階では何を置くかは定まっていませんでしたが、建設前の模型を見ると丸いものが据えられています。芸文模型2.JPG

この模型も芸術文化センターの2階フォーラムで見ることができます。今度来館されるときには一寸足を止めてみてください。

(S.T.)

 

 

 

 

 

「うつし、うつくし」展のなかで展示されていた銅鐸(木村定三コレクション)をご記憶の方もいらっしゃると思います。この銅鐸には興味深い事実があります。展覧会は終了しましたが、ここでご紹介いたします。

 

ご承知のとおり、銅鐸は弥生時代に特有の金属器で、近畿を中心に、中部地方以西に分布することが知られています。そして、祭祀の時などに、特殊な目的で用いられたものと考えられています。もともとは音を鳴らすための鐘としての機能をもつものだ

ったようで、初期のものは小型で、上部の吊り手部分の「鈕(ちゅう)」にひもを通して吊し、本体部分「身(しん)」の内側に「舌(ぜつ)」を付けて、鈴のように鳴らしたものと推測されています。

さらに、銅鐸は集落跡などの遺跡発掘ではほとんど確認されることはありません。工事などの際に偶然発見されることが多く、これも大きな謎となってきました。

銅鐸は、やがて本来の鳴らすという機能を失っていき、時代を経るに従い装飾的で大型のものが作られるようになっていったとされています。

 

木村定三コレクションの銅鐸は「四区袈裟襷文銅鐸(よんくけさだすきもんどうたく)」という型式です。編年的には第三段階「扁平鈕式(へんぺいちゅうしき)」と呼ばれるもので、弥生時代の中期、紀元前1世紀頃に制作されたものと推定されています。銅鐸の時代を推定する編年研究のポイントは、「鈕」の形態の変化を一つの指標としていて、「扁平鈕式」というのは、もとは「紐」の断面が菱形だったのが、扁平になった段階のものという意味です。

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↑ 木村定三コレクションの《四区袈裟襷文銅鐸(よんくけさだすきもんどうたく)》

 

ところでこの銅鐸を納めた箱には「唐物喚鐘花瓶(からものかんしょうかびん)」と書いた紙が貼られています。つまり、この銅鐸は、ある時期、花瓶として使われていたと言うことです。

 

細部を観察してみましょう。

まず、上部の平らな部分、銅鐸としては「舞(まい)」と呼ばれるところですが、ここが大きく切り取られていることが判ります。もともと、この部分は銅鐸を鋳造するときの技術的な事情から、小さな穴があることが多いのですが、ここでは明確に手が加えられています。また、よく観察すると「鈕」の内縁も少し削り取られていて、花が生けやすいように改造されています。

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↑ 花を生けるため「舞(まい)」の部分が大きく切り取られています。

 

その他にも花瓶としての改造部分はあります。背面(本来銅鐸には表裏はないので、花瓶としての裏側という意味)には、これを懸けるための金具が取り付けられています。さらに、銅鐸の「身」の部分にもともとあった穴はふさがれて、水が漏れ出さないように手が加えられ、もちろん、内部には、花瓶として使えるよう底板が取り付けられています。

つまり、この銅鐸は、弥生時代の考古資料であるばかりか、茶の湯などで用いられた「掛花生(かけはないけ)」でもあったわけです。

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↑ 背面に金具が取り付けられています。金具の両側には穴が塞がれた跡が見えます。

 

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↑ 花瓶として使えるように、底板が取り付けられています。

 

このような銅鐸の道具などへの転用については、難波洋三氏が「花入などに転用された銅鐸」と題して、その概要を報告されています(『京都国立博物館だより』149号、2006年)。

それによれば2006年段階で、難波氏が何らかの転用を把握していたものが43個あり、実際には50個以上あるのでは、と推定されています。それは出土総数の一割以上になるとのことです。そして、このような転用は、その多くが花生であるということ、そして、それは江戸時代を中心に行われていたということを紹介されています。

 

銅鐸に限らず、長く伝世したものには、本来とは違った目的で用いられたり、そのために手が加えられたりすることがあります。この銅鐸は、その典型的なものということができます。

(M.M.)

うつし、うつくし展が始まって1ヶ月を過ぎ、展覧会をご覧になられたお客様からは、たいへん好評をいただいております。


「うつし」ということに焦点を当てて展覧会を構成するという発想のもとになったのが銅鏡だというと驚かれるかもしれません。
木村定三コレクションにはまとまった数の銅鏡があり、現在7面を展示しています。

(木村コレクションの銅鏡については、2012年2月21日のブログ記事でも紹介しています。)

 

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↑ 展示中の銅鏡(一部)


門外漢ながら銅鏡のことを調べていく中で、鏡背が同じ図柄のいわゆる同型鏡の中に「同笵鏡」と呼ばれる類の鏡があることを知りました。

「同笵鏡」というのは、同じ雌型から鋳出された鏡のことで、展示中の三角縁神獣鏡にも同笵鏡が一面あることが確認されています。

 

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↑ 三角縁神獣鏡(部分)。いちばん外側の縁の断面が△の形をしています。


この「同笵鏡」をつくるのと同じような工程・作業が、近代彫刻の世界では石膏原型からブロンズ彫刻をつくる場合でもおこなわれていることに気がつきました。  

(  ブロンズ彫刻の鋳造については、2012年3月5日のブログ記事で詳しく説明しています。)

 

考古遺物としての銅鏡も近代の美術作品としてのブロンズ彫刻も、つくられる過程で「うつし」という行為が介在しているという点で共通しているのです。

 

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↑ 戸張弧雁の石膏原型(真中の2体)とそれぞれのブロンズ作品


これを出発点として、版画はもっともわかりやすい「うつし」の例になるとか、絵画の場合はどのような「うつし」があるのかとか、発想を広げていってできたのがこの展覧会です。


昨年島根県立美術館で開催した「ふらんす物語」や杉本健吉による「新・平家物語」挿絵も展示していますが、すべてがワンコイン(500円)でご覧いただけます。

 

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あと2週間で終了しますので、早目のご来館をお待ちしております。


(H.F.)

現在、当館で開催中の「フランス物語 ふたたび」では、オーギュスト・ロダン(1840-1917)の《歩く人》を展示しています。

今回は、主としてブロンズ鋳造という側面からこの作品をご紹介しましょう。

 

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↑ オーギュスト・ロダン 《歩く人》 1900年

 

ロダンの作品の多くは、彼自身が制作した石膏像(石膏原型)をもとに、そこから金属に移し替えた「ブロンズ鋳造作品」です。

その工程をごく簡単に説明しますと、まず、石膏原型から雌型(外型)と呼ばれる凸凹逆の型を取り、これに溶けた金属が流れ込む隙間ができるように中型(中子)を作って組み合わせます。ここに高温で溶かした銅合金を流し込み、冷えて固まったら型を壊してブロンズ像を取り出します。これに細部を調整を行った後に、パティナと呼ばれる着色をしてブロンズ像ができあがります。

そのため優れたブロンズ作品を作るためには、実際に鋳造ならびに着色に携わる人たち高度な技術が必要になります。当館所蔵の《歩く人》は、この鋳造と着色が特に優れたものとして高く評価されています。

美術館での収蔵以前にこの作品に添えられた鑑定書(1991年作成)で、エルセン(A.Elsen)という著名なロダン研究者が「《歩く人》のオリジナル・サイズの最も優れた鋳造の一つ」と評価し、「生前鋳造の可能性が高い」と言って賞賛しています。

生前鋳造という意味は、ロダンのブロンズ鋳造作品は、現在でも国立ロダン美術館での管理の下で、作品ごとに鋳造可能な数を決め、厳しい管理のもとではありますが新しい鋳造が行われています。

ですから、同じ作品のブロンズ鋳造でも、ロダンの生前のものから没後の、それも近年のものまで、さまざまな時代に鋳造されたものがあるわけです。

それを専門家は区別し、また、没後のものでも、何時ごろどこで鋳造したかを留意しています。

 

では、この《歩く人》の鋳造に関する幾つかの特徴をご紹介しましょう。


まず、作品の台の部分には「Alexis.Rudier.Fondeur.Paris」という鋳造銘があります。

 

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↑ 《歩く人》の台に見られる鋳造銘。


このアレクシス・リュディエ鋳造所は、ロダン生前から親子二代に渡り、彼の作品の鋳造を中心的に行ってきたことで知られています。この銘があることでロダンの生前から、没後の1952年までの間に鋳造されたことが確実になります。


次に、台の裏側には「A.Rodin」という文字がレリーフとしてつけられています。

 

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↑ 《歩く人》台の裏面に見られる「A.Rodin」の銘。


これはロダン没後まもなくの1918年から19年にかけて、不法な鋳造が横行したために、それと区別するためにアレクシス・リュディエ鋳造所で付けるようになったと言われていますが、それ以前のものにもこの「A.Rodin」の付けられたものもあるとのことです。

 

そして、このブロンズ鋳造作品の顕著な特徴として、《歩く人》を表した身体部分(立像部分)と、台の部分が、実は分割して鋳造され、後に金具で接合されているということです。

 

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↑ 《歩く人》台の裏から見たところ。

 

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↑ 左足が台と接合されている部分を拡大。


通常のブロンズ鋳造では、身体部分(立像部分)と台は一体のものとして鋳造されます。

ところが、この《歩く人》は、このように、とても手間がかかり高度な技術が必要な鋳造方法が採用されているのです。

それは像の脚部と台の接合部を強化し、取り扱いの際などに力のかかるこの部分に、長い年月を経ても亀裂が生じないための配慮だと思われます。

この接合部分は、おそらく鋳造されてから1世紀近い時間を経ていますが、それでもなお外からの観察では、ほとんど痕跡すら見つけられないほどの仕上がりなのです。

このような台と身体部分を接続する技法は、1920年代までに鋳造されている国立西洋美術館、松方コレクションのブロンズ鋳造作品と共通するとのことです。

そしてパティナと呼ばれる着色も、やはり松方コレクションのなかでも、優れた着色のものと同じような色合いや質感をそなえています。

以上のことから、この当館所蔵の《歩く人》は、ロダンの生前か、没後もそれ程時間を経ていない、1920年前後に鋳造されたものと推定できるわけです。

 

現在開催中の「うつし、うつくし」展では、戸張孤雁の代表作《煌く嫉妬》の石膏原型とブロンズ鋳造作品が比較していただけるように展示されています。

それも参考にしていただき、この機会に当館自慢のロダン《歩く人》を、ぜひご覧ください。


(M.M.)
 

2009年に「あいちトリエンナーレ2010のプレイベント」のひとつとして、芸術文化センター内で開催された「アニマルズ in AAC 三沢厚彦の世界」展で展示されたライオン《Animal 2008-01》は、その後、愛知県美術館の収蔵品となりました。

しかしながら三沢さんの展覧会が各地で開かれたこともあって、貸し出されることが多く、なかなか美術館内で展示することができませんでした。

 しかし、先週ようやく貸し出されていた米子から戻ってきました。昨年から金津創作の森(福井県)や米子市美術館(島根県)などで開かれた”Animals ‘11”という個展に出品していたのです。


ライオンには収蔵庫へ入ることなく、ロビーに直行してもらいました。

 親しみやすい三沢さんの作品は、どこでも人気が高くとくに子供たちには好評です。今回の展示は美術館ロビーに入ってすぐのところで皆さんをお迎えしています。これからの時期は小学校の団体鑑賞が増えてくる時期です。多くの子供たちが喜んで見てくれることでしょう。

 

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↑ ライオン君、ロビーに到着。

 

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↑ だんだん姿が現れてきました。

 

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↑ 設置完了!ロビーで皆さんをお迎えしています。

 

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↑ アートショップでは、ライオン・グッズも豊富に取り揃えています!

(S.T.)
 

*ブログ編集担当者より

側を通るたびによじ登りたくなります。(絶対にしてはいけません!)

現在当館では「生誕100年 ジャクソン・ポロック展」を開催中ですが、今回は所蔵作品についてのお知らせです!


昨年度から試行実施としまして、愛知県美術館の所蔵作品をサテライト展示という形で県内の美術館や博物館へ出品をしております。

サテライト展示とは、愛知県美術館のコレクションを県内において広く公開する事業の一環であり、
実施館の企画内容に合わせ、当館のコレクションをテーマ性を持たせてご紹介するものです。


現在は、当館所蔵の藤井達吉作品の中から《大色紙梅百題》を出品し、碧南市藤井達吉現代美術館の展示室3におきまして展示していただいております。
梅を様々な技法で描いた晩年の代表作のひとつです。

この作品は「題」と「あとがき」を含め102点にも及ぶのですが、ここでその一部をご紹介いたします。

 

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↑ 〈第二十二題〉

 

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↑ 〈第三十六題〉

 

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↑ 〈第四十二題〉

 

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↑ 〈第五十三題〉

 

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↑ 〈第七十三題〉

 

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↑ 〈第百題〉

 

ここでは6点だけをご紹介しましたが、どうでしょう、100点全部を見てみたくなりませんか。
続きは、碧南市藤井達吉現代美術館でご覧いただけますので、ぜひお出かけいただければと思います。
《大色紙梅百題》は、展示替えを繰り返しながら2012年4月1日まで展示されます。観覧は無料です。

 

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↑ 展示室の様子。


また、碧南市藤井達吉現代美術館では現在「やきものを愉しむ 愛知県陶磁資料館名品展」と題して愛知県陶磁資料館の名品を展示する企画展もされており、そちらも是非お楽しみいただければと思います。こちらは観覧料が必要です。

詳しくは、碧南市藤井達吉現代美術館のホームページをご覧ください。

 

(Y.H.)

 

*ブログ編集担当者より

年賀状デザインのアイデアを探している方にもおすすめ!

水野勝規展の見どころ

2011年11月28日

ポロック展と並行してテーマ展「水野勝規 ライトスケープ」も現在、開催中です。この展覧会は、若手の映像作家、水野勝規さんの作品を所蔵作品展内の空間を用いて紹介するもの。所蔵作品展のチケットはもちろんのこと、ポロック展のチケットがあればご覧いただけます。


 この展示の見どころは主に三つあります。まずは水野さんの作品をまとめて見られること!!82年生まれの若い作家さんですので、この展覧会が公立美術館では初の個展形式の展示となります。瑞々しい表現をどう見るかはあなた次第。作風の変化もふくめ、今後も見守っていくという楽しみもあります。


 その次に、ポロック展や所蔵作品展の展示作品との繋がりの中で水野さんの映像を見られることがあげられます。ポロックをはじめとする抽象表現主義の絵画や、近代日本画などを見た後で水野さんの映像を眺めると、何故か近しいものを感じるはず・・・。水野さんの映像が、古今東西の絵画等、豊かなイメージの地層に支えられていることが分かります。愛知県美術館でしか味わえない贅沢な鑑賞体験です。

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↑出展作《lightscope》。円窓みたいですね。
 
 最後、今回の展覧会の最大の見どころは、映像と空間、光の相互作用でしょうか。照明をつけたままの部屋や、自然光のある公共空間で映像を流したりもしています。映像内のイメージだけではなく、その空間全体へと意識を向けてみると面白みが増しますよ。例えば、10階チケット売り場横のガラスに投影された映像は、昼と夜とではこんなに表情に変化が。水野さんご本人は、この作品について「ポロック展を見た後、夕日が沈みかけの時刻に眺めるのがベストかな」とおっしゃっていました。ロマンチックですね。
 

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 ↑↓昼と夕方とでこんなに変わります。後ろの紅葉も良い感じですね。

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 12月3日に行われる「アーティスト・トーク」では、水野さんご本人から作品について語っていただきます!お気軽にどうぞご参加ください―。

(F.N.)

さて、前回も所蔵作品展の魅力についてお話したこのコーナー。

今回、「棟方志功 祈りと旅」展と同時開催の所蔵作品展も、やっぱりおまけなんかじゃない(!?)充実のラインナップとなっています。


 見どころの一つは5室で行われている特集「フランス美術の流れ」でしょうか。
所蔵作品と寄託作品によって、印象派、エコール・ド・パリなどフランス美術をご紹介しております。展示されている作家の名前をあげさせていただきますと、モネ、ロートレック、モディリアーニ、マティス、デュフィ、ピカソ、シャガール、藤田嗣治などなど・・・。予想以上に豪華な面々と感じた方も、少なくはないのではないでしょうか。

とりわけ当館に寄託されているマルク・シャガールの《オペラ座》(1953年)は、この機会にぜひご覧頂きたいものです。舞台が終わっても夢覚めやらない私たちの前へ、白いバレリーナがひらひらと舞い出てきます。シャガール独自の幻想的な幸福感がたっぷりと味わえる本作品、実物はどうぞ所蔵作品展でご覧ください。

 

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↑左がシャガール《オペラ座》。右はアンドレ・ボーシャン《フィアンセを訪ねて》。


また、所蔵作品についてもっと知りたい方に朗報です!

当館では所蔵作品展について学芸員がお話する「コレクション・トーク」というイベントを定期的に行っています。
9月2日には副田学芸員が「とても不純で矛盾な絵画」と題しましてミロやエルンストなどシュルレアリスムの絵画について語る予定です。

夜6時からのスタートとなりますので、お仕事帰りの方もお気軽にご参加くださいね。


(F.N.)

この秋、島根県立美術館で当館所蔵作品による展覧会の開催が決定しました。

現在、当館で開催中の「棟方志功 祈りと旅」展は、東日本大震災の影響で開催を中止した「プーシキン美術館展」に代えて開催することになったことはご存じのとおりです。震災の影響は、全国各地の美術館に及んでいて、島根県立美術館でも、予定していた「マルセイユ美術館展」が震災の影響で開催できなくなりました。そこで、当館のコレクションによる展覧会を急遽準備し、震災復興支援として開催していただくことになりました。

内容は、ピカソ、マティス、ボナールといったフランス近代の美術と、フランス美術に憧れ、その影響を受けた黒田清輝や安井曾太郎など洋画家たちの作品をまとまったかたちでご紹介するものです。この展覧会では、復興支援のためのチャリティーグッズの販売なども行われます。

宍道湖畔にたつ島根県立美術館で、当館の作品たちが、また、新しい魅力を発揮してくれると思います。この秋には、ぜひ島根県立美術館にお出かけください。

 

ところで、島根県立美術館は3月から9月の間、閉館時間が日没後30分というユニークな美術館です。(展示室入場は日没時刻まで)

下の写真のように宍道湖に沈む夕日はとても素敵です!!

 

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↑ 島根県立美術館 外観 

 

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↑ 島根県立美術館内から 宍道湖に沈む夕日

 

 (もっと写真をご覧になりたい方は島根県立美術館のフォトアルバムへ)

 

日没後30分という閉館時間をぜひ体験してみてください。

島根県立美術館のホームページには日没時刻も載っています!

10月から2月の閉館時間は18時30分です。(展示室入場は18時まで)

(M.M. / Y.H.)

 

 

 

 

どうしても「企画展のおまけ」的な見方をされてしまう所蔵作品展。しかし、その美術館らしさが最も出るのが所蔵作品展です。なんと言っても、その美術館が様々な検討、調査の末に所蔵した作品で構成されているのですから。今回は所蔵作品展についてお話します。

さて、愛知県美術館の所蔵作品は約7600点以上。そこから百数十点の作品を選択し、所蔵作品展とします。

 

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↑所蔵作品展の展示室の様子です。クリムトなど欧米絵画作品から日本画、陶芸、現代アートまで展示作品は多様です。

 

今回の所蔵作品展の特徴は第4室にあります。館長自らブログでお話ししているように、この度の大震災を受けて急遽予定を変更、特別に被災地へ思いをよせた展示内容としています。災いを断ち切ると言われる密教法具から始まり、村上華岳の『散華』、そして東北地方ゆかりの佐藤忠良、舟越保武などの彫刻が並んでいます。
実はこうした展示に対して、時期尚早ではないか、美術館は実社会とは違う空間だから魅力があるのでは等々様々な意見も美術館内からあがりました。それでも、この時期に美術館が出来る事は何かを考えた結果、この展示に踏み切りました。所蔵作品展にはいつも、美術館で働く人たちの思いが込められているのです。

 

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↑第4室の様子。心静かに作品と向き合える空間にしています。

 

おまけなんかじゃない(!?)所蔵作品展。企画展を見るとついつい疲れてしまって、という方には、10階のレストランで一休みしてからご覧いただくことをお薦めします。優雅な一日を過ごせること間違いなしです。
あと、6月4日には、所蔵作品について学芸員がお話しするコレクション・トークも行われますー。
(F.N.)

 

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↑企画展の感想を話しつつカフェで一休みしたら、所蔵作品展に行ってみましょう。

 

みなさん「ツタンカーメンのエンドウ豆」って聞いたことありますか?

「ツタンカーメン」といえば、もちろんエジプトの王家の谷から発掘された古代エジプトの王様の名前です。1922年イギリスのカーナヴォン卿の支援を受けた考古学者ハワード・カーターにより発見、発掘されたのですが、ツタンカーメン王の墓は三千年の時を経ても副葬品がほとんどそのままに発掘されて、とくにその黄金のマスクによって世界的に有名になりました。

そして「エンドウ豆」というのは、その墓からはエンドウ豆も発見されて、発見者カーターが持ち帰って、発芽・栽培に成功したと言われているのです。人によっては三千年もの長期間ののちに豆の種子が生存することに疑義を呈し、「豆自体もエジプトで自生している野生種であり、直系の種と言われても判別はつかない」という夢のない話もありますが・・・。日本には戦後に伝えられ、古代ロマンの夢を託しておもに小学校や教育センターを通じて広がったそうです。ムラサキエンドウとも呼ばれ、葉は普通のエンドウとよく似ていますが、花やさやが紫色になります。

 

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そしてこの豆を使って、豆ご飯を炊くと炊きあがりは普通と変わらないのですが、保温しておくとアラ不思議!赤飯のような色になるのです。とてもおいしかったですよ。

 

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さて、現在愛知県美術館のロビーには《ツタンカーメンのえんどう豆》という彫刻作品が展示されています。

この作品の作者は愛知県瀬戸市出身の加藤昭男さんです。加藤さんは1995年に心臓病のために倒れ、救急車で運ばれて入院、そして療養生活を送るという生命の危機を体験しました。この体験はそれまで彼が主題としてきた人間と自然、生命というものを見つめ直す機会ともなりました。偶然の事ながら加藤さんの家では副葬品の「ツタンカーメンのエンドウ豆」の子孫の種子を譲り受けたのでした。永い眠りの年月を経て発芽したエンドウ豆に生命の復活を見、生命の危機を乗り越えた自分と重ね合わせて、退院後しばらくしてから、この作品を制作したということです。

 

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愛知県美術館は、現在の所蔵作品展で東日本大震災で被災した地域の人々に寄り添う気持ちを込めた展示を行っていますが、「危機を乗り越える」という主題のあるこの作品を展示に加えることで、東日本の復活、復興の願いを込めました。もちろんそうした意味ばかりでなく、エンドウに留まった蝶々のゼンマイ状のくちとエンドウ豆の巻いている蔓、羽と葉という造形的な響き合いなども鑑賞していただけたらうれしく思います。

(S.T.)

 ウィーンのリンクシュトラーセ(環状道路)に面してウィーン大学が建っています。クリムトは1894年にマッチュとともに、そこの講堂天井画の依頼を受けます。

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△リンクシュトラーセ越しのウィーン大学(右端の方形の屋根のあるところが正面入口、講堂はこの写真の真正面の場所にある)

 クリムトが担当したのは《哲学》《医学》《法学》で、それらは1900年から1903年にかけて分離派展で順次公開され、大論争を引き起こしました。

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《哲学》

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《医学》

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《法学》

 ちなみに《法学》が初出品されたのは1903年の第18回分離派展で、すでに公開済みの《哲学》や《医学》もこの展覧会で同時に出品され、愛知県美術館の《人生は戦いなり(黄金の騎士)》も初めて公開されています。

 最終的にクリムトは1905年に《哲学》《医学》《法学》の3点を買い戻すことになります。しかし、それらは第二次世界大戦中に疎開先の戦災で焼失してしまい、現在ではモノクロの画像しか残されていません。

 ウィーン大学入口の受付でクリムトの天井画を見たいと申し出れば、場所を教えてもらえます。講堂の天井には現在、所定の場所にモノクロの画像がはめ込まれています。マッチュによる周りの絵に比べて、クリムトの作品がいかに前衛的であったか伺い知ることができます。
(H.F.)

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左下《医学》、右下《哲学》 ウィーン大学講堂

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左下《医学》、右下《哲学》、右上《法学》 ウィーン大学講堂

 

作品の裏には・・・

2010年12月24日

美術館では今日も作品の点検を行っています。三重県立美術館で開かれた愛知・岐阜・三重三県立美術館協同企画展「ひろがるアート」の展示作品が、愛知県美術館に戻ってきたからです。お貸し出しする前と後とで、作品に何か変化はないか入念にチェックしています。

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 こうしたチェックの過程では、普段は見られない作品の側面を見ることもできます。例えば、原裕治の〈アポクリファ〉シリーズ。白く隆起した円が鮮烈な印象を残す抽象的な作品ですが、その裏は・・・。
 
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 なんと石膏デッサンが!どのデッサンからも生真面目な手の痕跡がうかがえます。
これらデッサンは、原裕治本人ではなく彼の教え子たちが描いたものとも言われていますが、実際のところはよく分かりません。しかし、誰が描いたかも分からない愚直な素描の数々が影となって、一つの作品を支えているようにも見えます。白と黒。抽象と具象。そして、作家による作品と匿名の作品。まさに作品のネガとポジですね。作品を作品たらしめる地層の厚さをしみじみと感じさせられました。
 
(F.N)

 

愛知県美術館では現在、当館の約7,600点の所蔵品の中から選りすぐりの名品約300点を展示した「美の精髄 愛知県美術館の名品300」展を開催しています(2011年1月23日まで)。

この展覧会の会期中は、「学芸員おすすめの1点」と題された特別なギャラリー・トークを行っています。これは当館のM副館長以下、全13人の学芸スタッフが出品作の中から1人1点を選び、日を変えて順番に作品解説をしていくというものです。1番手のM副館長(横山大観《飛泉》)、2番手のT企画業務課長(アンドリュー・ワイエス《氷塊I》)のトークは既に終了していて、いずれもそれぞれの専門性がフルに発揮された奥深いものだったと聞きました。
 

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△ ジョージ・シーガル 《ロバート&エセル・スカルの肖像》 1965年
油彩・画布、石膏、木製布張り椅子 181.0 x 143.5 x 143.0 cm 愛知県美術館蔵


私が選んだ作品は何かと言えば、ジョージ・シーガルの《ロバート&エセル・スカルの肖像》です。私は別にシーガルの専門家でも何でもないのですが、たまたま今年の春にクーリエとしてこの作品を苦労してニューヨークの展覧会に持って行っており、そんな縁で少々愛着があったので選んでみました。

それで、独特の技法によるシーガルの石膏彫刻についてお客様にご説明する前に、自分自身でその技法を試してみたくなりました。シーガル独特の技法とは、医療の場で使われている石膏を含んだ特殊な包帯による人体の形どりです。詳しくは12月4日(土)の午前11:00-11:30に行われる私のトークの時にご説明させていただきますので、ここでは事前の実験の様子だけ簡単にお伝えさせてください。
 

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△ まるで医者の治療を受ける患者のよう。

シーガルが用いていたのはジョンソン&ジョンソン社製の医療用石膏包帯でしたが、それと同一の物は、あいにく時間の都合で入手できませんでした(この実験を思いついたのは一昨日のこと)。でも、幸い似たような物が近場で手に入りました。その包帯も石膏を含んでいて、そのままの状態では柔軟性に欠けるのですが、水で湿らせてやると顔にピタッと貼りつきます。それで、適当な大きさに切りつつ、顔の凹凸を考慮しながら一枚一枚貼りつけていきました。
 

 

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△ 作業中は神妙にしていないといけません。しゃべったり笑ったりして顔の皮膚が動くと、包帯の形が崩れてしまいます。

今回は、私自身がモデルになりました(シーガルが初めてこの技法で石膏彫刻を試みた時も、彼自身がモデルになっています)。そして、作家役は当館保存担当アシスタントのNさんが引き受けてくれました。ところで、包帯片を貼りつける時には気をつけることが2点あります。まず、事前にニベアをよく塗ること。これを怠ると、包帯を顔から剥がす時にスムーズに行かず、痛い思いをすることになります。別にニベアでなくてもいいのでしょうが、シーガルはニベアを愛用していたそうなので、今回の実験でもわざわざニベアを用意しました(こちらはジョンソン&ジョンソン社製の石膏包帯と違って、簡単に手に入りますね)。そして、こちらはもっと深刻ですが、鼻を覆う包帯片については、鼻の穴の部分をあけておくこと。これを忘れると、口も塞いだ時点で窒息します。
 

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△ 実験終了。トークを前にマツ毛やマユ毛が抜けるのが恐かったので、今回は顔の下半分だけにしました。あごや首に石膏がちょっと残っていますね。

いったん湿った石膏成分は、15分もあればまた乾いて固まってきますので、頃合を見計らって包帯を顔から剥がします。そうすると、顔の形が見事に石膏包帯に移し取られていました。今回は、石膏包帯の使用説明書を見ながらのたどたどしい実験でしたが、結果はとてもうまく行きました。また、シーガルのモデルとなった人たちの気分が少し分かったような気がしました。

この実験の収穫は、12月4日(土)のトークでもっと詳しくお話ししたいと思います。お時間のある方は、ぜひトークの方にいらしてください! (T.O.)


「学芸員おすすめの1点」
金曜日=19:00-19:30     土・日曜日=11:00-11:30
聴講無料。ただし観覧券が必要です。美術館ロビーにお集まりください。

11月27日(土) 横山大観《飛泉》 村田眞宏  【終了】
       28日(日) アンドリュー・ワイエス《氷塊I》 高橋秀治  【終了】
12月 4日(土) ジョージ・シーガル《ロバート&エセル・スカルの肖像》  大島徹也
        5日(日)  舟越桂《肩で眠る月》 中村史子
      11日(土) アンリ・マティス《待つ》 鯨井秀伸
      12日(日) 竹内栖鳳《狐狸図》 長屋菜津子
      18日(土) 高橋由一《不忍池》 深山孝彰
      19日(日) ポール・デルヴォー《こだま》 藤島美菜
   1月7日(金) フランク・ステラ《リヴァー・オブ・ポンズIV》 塩津青夏
        8日(土) グスタフ・クリムト《人生は戦いなり(黄金の騎士)》 古田浩俊
        9日(日) 浦上玉堂《秋色半分図》(木村定三コレクション) 馬渕美帆
      14日(金)  ジョアン・ミロ《絵画》 副田一穂
      22日(土)  オスカー・ココシュカ《夢みる少年たち》 森美樹

 

あいちトリエンナーレ2010も盛況のうちにあと数日で終りです。さて、このトリエンナーレを盛り上げるために愛知県庁や県議会などに設置していた美術館の現代美術作品が、お役目を終えてひと足先に美術館に帰ってきます。今週始めには県図書館からふじい忠一の太い丸太をグニャっと曲げた作品が戻り、今日は知事公館から庄司達の白い布がふわりと浮いた作品を片付けました。


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↑知事公館に展示された庄司達の作品

 

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↑布が波のように浮かんでいます

 

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↑布は専用の箱に収納してペタンコに

 

この週末には県庁正面玄関に置かれた岡本敦生+野田裕示の御影石の彫刻を撤収します。これらの作品は、いずれまた所蔵作品展の中でご覧いただけることになるでしょう。次回の全館所蔵作品展「美の精髄 愛知県美術館の名品300」に出るかどうかは、見てのお楽しみです。
(HF)
 

愛知県美術館が所蔵しているピカソの「青の時代」の作品《青い肩かけの女》(1902年)が、スイスのチューリヒに行っています!

 

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△ チューリヒの街並み
 

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△ チューリヒ美術館

 

先週15日にチューリヒ美術館で始まった「ピカソ――1932年の初美術館展」に貸し出しています。このピカソ展は、単なるピカソ展ではありません。1932年にピカソ自身が、それまでの自分の仕事の各段階を代表するような作品を選定し、それらがその年、チューリヒ美術館でまとまって展示されたのですが、それはピカソにとって、美術館という場での最初の個展となりました。その歴史的な展覧会を、チューリヒ美術館が開館100周年の機に再現しようとした注目の展覧会なのです。愛知県美術館所蔵の《青い肩かけの女》も1932年のピカソ展に含まれていたため、今回チューリヒ美術館から貸出依頼を受け、とても有意義な展覧会ということで、貸し出すことにしました。 

 

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△ 《青い肩かけの女》の展示作業


今回のピカソ展には、1932年に出品されていた約230点のうち、全部で76点が来ています。ちょうど1/3が集まった計算ですから、大したものだと思います。貸出館には、ニューヨーク近代美術館、メトロポリタン美術館、ワシントン・ナショナル・ギャラリー、テート、パリ国立近代美術館など、世界の大美術館がいくつも名を連ねています。日本からは、当館のほかに川村記念美術館、大原美術館も、それぞれ1点貸し出しています。
 

 

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△ 《青い肩かけの女》の裏面に貼付されている1932年のピカソ展のラベル

 

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△ 新たに貼付された今回のピカソ展のラベル


今回の貸出しに際して作品の裏面をチェックしたところ、1932年のピカソ展のラベルがあることが確認できました。ピカソに限らず、展覧会に作品を貸し出すと、その展覧会とその作品の情報(展覧会名、会期、会場名、作者名、作品名、制作年 etc.)の入ったラベルを貸出先が用意していて、それを裏面に貼ることがあるのですが、こういったラベルを見ると、その作品が背負っている歴史が、生々しく、そして重々しく伝わってきます。今回の出品に際してもラベルを貼り付けました。今はまだ真新しいですが、これも何十年かすれば貫禄が出てくることでしょう。

 

 

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△ チューリヒ美術館 現在ピカソ展が開催されている棟


「ピカソ――1932年の初美術館展」は、チューリヒ美術館で来年1月30日まで開催されています。チューリヒに行かれる方はお見逃しなく!  (T.O.)


展覧会記事:
http://www.tagesanzeiger.ch/kultur/kunst/Beim-Aufhaengen-von-Meisterwerken-/story/25801764?dossier_id=737

 

 クリムトが学んだのは、美術アカデミーではなく工芸美術学校でした。前者が画家や彫刻家といった芸術家を輩出する場所だとしたら、後者は一人前の職人を養成する学校です。そこを卒業したクリムトは、仲間と3人で芸術カンパニー(小さな工務店のようなもの)をつくり、建築装飾を請け負います。当時のウィーンは近代化の只中で、古い城壁を壊して環状道路(リンクシュトラーセ)を作り、その道路沿いには公共建築物などが次々と建てられていきました。その中でクリムトが関わったのは、ブルク劇場と美術史美術館の装飾でした。今回は美術史美術館を覗いてみましょう。

 

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↑美術史美術館正面

 

 正面から入り階段を上った2階の部分にその壁画があります。〈古代ギリシア美術〉や〈エジプト美術〉などを寓意的・擬人的に描いたものです。居並ぶ泰西名画を目当てにこの美術館を訪れる多くの来館者には、ほとんど気付かれることはありません。

 

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↑開口部のあるアーチによって生じたスパンドレル(三角小間)と呼ばれる壁面を中心に描かれています。

 

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↑〈初期イタリア美術〉:フィレンツェのクアトロチェント(アーチ左側)、聖告の天使(アーチ右側)、ダンテの胸像と少年(柱間)
*上の画像は実写、下は複写(以下同じ)

 

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↑〈エジプト美術〉:少女とホルスとトト(左柱の左)、ミイラ、彫像、壁画断片(柱間)
〈初期イタリア美術〉:フィレンツェのクアトロチェント(右柱の右)

 

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↑〈初期イタリア美術(ヴェネツィアのクアトロチェント)〉:総督の姿で(左柱の左)
〈古代ギリシア美術〉:タナグラの少女(柱間)、ゴルゴンを付けニケをもつアテナ(右柱の右)

 

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↑〈初期イタリア美術(ローマのクアトロチェント)〉:ティアラを持つ女性(アーチ左)

 

 この他にも〈初期イタリア美術(フィレンツェのクアトロチェント)、(フィレンツェのチンクチェント)〉の壁画もあります。特別に照明をしているわけでもなく、近寄って見ることもできない(フラッシュも届きません)ので、しっかりと見ようと思ったら双眼鏡を持参しましょう。
 (HF)

前回のブログ「所蔵作品はどこに?」に書いたとおり、トリエンナーレの期間中、当館の所蔵作品であるクリムトとピカソはそれぞれ海外に貸し出されます。クリムト《人生は戦いなり(黄金の騎士)》はハンガリーのブダペスト美術館で行われる展覧会「ヌーダ・ヴェリタス:グスタフ・クリムトとウィーン分離派の始まり1895−1905」に、ピカソ《青い肩掛けの女》はスイスのチューリヒ美術館で行われるピカソ展に出展されるのです。ともに世界中から高い注目を集める展覧会です。

 作品輸送の具体的な方法についてはクーリエ記事ですでに何度かご紹介していますが、じゃあ、どんなふうに貸し出しが決まるのか、その辺りは美術館外の方々にとって謎に包まれているのではないでしょうか。そこで今回は、作品貸出しの決め方についてQ&A形式でお話ししましょう。
 
Q.どんな作品なら貸し出し可能なの?
A.先方から借用依頼状を受け取って、とにかく最初に考えるのは作品のコンディションです。作品が修復中だったり非常に脆い状態だと館外には出せません。また、他の場所への貸し出しや愛知県美術館での展示がすでに決まっている場合も、残念ながら貸し出しはお断りさせていただきます。
 
Q.借りる側にはどんな条件がありますか?
A.当然ながら、借用を希望する側についても色々確認させていただきます。例えば施設面。大事な作品ですのでどんなところに展示されるのかはやっぱり気になります。展示室の温湿度の管理や防犯対策、防災対策、搬入経路などをチェックします。
 
Q.展覧会内容も無視できないですよね。
A.展覧会内容が最も大事といえるかもしれません。所蔵作品を貸し出すのに値する企画内容かどうかみんなで検討します。例えば、今回のクリムト展のようにきちんとした研究に基づいた展覧会に出品すると、所蔵作品自体の価値も高まります。私達としても世界中の名画と共に所蔵作品が並べられる事はとても誇らしいですね!
 
 と、こんなふうに諸条件を検討して作品の貸し出しは決まります。しかし一番大きな意味を持つのは「なんとしてもこの作品を借りたい!」という企画を担当する学芸員の熱意かもしれません。また「○○を借りるには××を貸すべきか」といったスリリングな駆け引きが、所蔵作品をめぐって起こることもしばしば。その辺については、いつかまた、お話することにしましょう。
(F.N)

 現在、あいちトリエンナーレ開催中の愛知県美術館。トリエンナーレの展示のために、所蔵作品は収蔵庫に仕舞われていますが、それでも「今、所蔵作品はどこで見られるの」というありがたいお問い合せをいくつかいただいております。そこで今回は、トリエンナーレ期間中も見られる愛知県美術館の所蔵作品についてご紹介します。


 まず、田原市博物館のサテライト展示「愛知県美術館 所蔵作品による川瀬巴水展」(9月20日まで)がおすすめです。巴水は日本の津々浦々を訪ね歩き、その光景を美しい版画で表現した版画家です。大正から昭和にかけて活躍した巴水は「昭和の広重」とも呼ばれています。秋の田原で日本の名所巡り、いかがでしょうか。

 

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 また、10月23日から12月19日にかけて三重県立美術館で「愛知・岐阜・三重三県立美術館協同企画展 ひろがるアート」が開催されます。三重県立美術館、岐阜県美術館、そして愛知県美術館の所蔵作品で構成される展覧会です。三重県立美術館の学芸員さんの手腕が発揮されるこの展覧会、当館で行う所蔵作品展とはひと味、ふた味も違うかたちで愛知県美術館の所蔵作品が展示されます。大型の現代美術作品が数多く展示される予定ですので、愛知県美術館としてもどのようになるのかドキドキです。

 

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↑ニーヴェルソンの巨大なオブジェも解体され、三重への輸送を待つばかりです。

 

 もちろん、これら以外にも全国各地の美術展に愛知県美術館の所蔵作品が出展されています。しかし、やっぱり気になるのは当館の代表作品であるクリムトやピカソの行方ではないでしょうか。実はクリムト《人生は戦いなり(黄金の騎士)》もピカソ《青い肩掛けの女》も、トリエンナーレ期間中は海外に貸し出される予定です。これについては、次回のブログでお伝えします。
(F.N)
 

熊谷守一ビデオ制作中

2010年09月09日

現在、木村定三コレクションの中から熊谷守一を紹介するビデオを制作中です。


15分弱という短い番組ですが、ビデオ原稿をもとに編集者やレポーターの意見も取り入れて編集し、展示室等での撮影も行いました。次の段階はナレーターによるスタジオでの録音となります。

 

今回の番組は、岐阜県美術館をはじめご遺族の方からも資料を拝借して番組に盛り込むことができました。ご遺族のご自宅をお訪ねし、貴重な資料の中から当館のコレクションに関係あるものを選んで取り上げています。木村氏と熊谷との交友の一端を垣間見ることのできるものも含め、これまで紹介されていなかった資料もあるため、興味深い番組になると思います。

 

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↑初期の日本画展の会場風景(個人蔵)

 

番組は、来年の春には芸術文化センター10階の美術館ビデオテークで御覧いただける予定です。

(HK)

 
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↑これまで制作した番組のDVD
 

ニューヨークのアクアベラ画廊での「ロバート&エセル・スカル――コレクションのポートレート」展(2010年4月15日の当ブログ「スカル夫妻のニューヨーク出張」参照)に貸し出していたジョージ・シーガルの《ロバート&エセル・スカルの肖像》が、展覧会を終えて愛知県美術館に無事に帰ってきました。

 

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▲ ジョージ・シーガル 《ロバート&エセル・スカルの肖像》 1965年 油彩・画布、石膏、木製布張り椅子 181.0 x 143.5 x 143.0 cm 愛知県美術館 (アクアベラ画廊「ロバート&エセル・スカル」展での展示)


 

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▲ 日本への輸送のため、再び梱包されるエセル像


ニューヨーク近代美術館、メトロポリタン美術館、ホイットニー美術館、フィラデルフィア美術館、デトロイト美術館など、名立たる美術館から作品を集めたこの展覧会はとても盛況だったようで、『ニューヨーク・タイムズ』、『アートニューズ』、『ヴォーグ』など、メディアにもたくさん取り上げられました。そんなニューヨークのスカル展で、当館のシーガル作品は広報面でも大活躍しました。

 

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▲ スカル展図録

まず、以前にもお知らせしましたが、展覧会図録の表紙になりました。また、アクアベラ画廊のほか、メトロポリタン美術館、グッゲンハイム美術館、ホイットニー美術館なども集まるマンハッタンのアートなエリアに設置された数十本のバナー広告にも使われました。

 

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▲ メトロポリタン美術館のすぐそば、五番街と79丁目の交差点 (画像提供:アクアベラ画廊)
 

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▲ ホイットニー美術館のあるマジソン街 (画像提供:アクアベラ画廊)


その他、同様のポスターなども作成されました。今回のシーガル作品貸出しで、Aichi Prefectural Museum of Artも、ニューヨークで少しは有名になったことと思います。スカル夫妻、お疲れ様でした! (TO)
 

ライオンのお出かけ

2010年07月13日

こちらのライオン(本名は《ライオン(Animal 2008-01)》、三沢厚彦の作品です)は、去年の春にアニマルズinAACで愛知芸術文化センターに初めて来て以来、愛知県の議事堂へも出張展示に行ったりと大忙しでした。
そしてこのたび、またもや遠くへお出かけする事になりました。行き先はなんと九州、鹿児島県。霧島アートの森で開かれる「ANIMALS in KIRISHIMA 三沢厚彦展」への出展が決まったからです。

 

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↑「ぼく、鹿児島の展覧会に行くんだよ」と嬉しそうなライオン。

 

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↑ライオンを無事に鹿児島までお送りするため、様々な機材が用意されます。 

 

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↑さあ、お出かけに向けてお着替えしますよ。(梱包、とも言います)

 

鹿児島へ向けて輸送の準備をしていると、それを見ていた周りの方々から「ライオン、行っちゃうんだ、寂しくなるなあ」という声が聞かれました。けれども、鹿児島に行けば会えますし、8月後半より始まるあいちトリエンナーレではたくさんの動物達がよりパワーアップして当館に登場する予定です。どうぞ会いに来てくださいね。  (F.N)

6月12日(土)から、安城市民ギャラリーで移動美術館が始まっています。安城市民ギャラリーは、安城市東部に位置する安城城址と安城城址公園に隣接しています。この一帯には、安城市歴史博物館、安祥公民館、安城市埋蔵文化財センターがあり、「安祥文化のさと」として、歴史と美術を楽しむ文化ゾーンとなっています。
 

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↑安城市民ギャラリー外観
 

愛知県美術館のコレクションを、広く県民の皆様にご紹介する移動美術館は、今年で17年目にあたり、年に一度、県内各地で開催してきました。今年は、「近代絵画に見る人と自然」をテーマに、愛知ゆかりの作家を含む近代日本洋画から現代美術までの洋画、日本画、版画、彫刻の国内外の作品52点をご紹介します。(出品作品リストは、愛知県美術館ウェブサイトでご確認できます。)

 

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↑展示会場入口
 

明治期に外光派として新しい絵画の作風を広めた黒田清輝や久米桂一郎といった近代日本洋画家たちを始め、愛知県ゆかりの伊藤廉、鬼頭鍋三郎、荻須高徳などの洋画家たち、また、山本鼎や恩地孝四郎らを始めとする近代から現代に至る版画作品をご紹介しています。今回の移動美術館では、版画作品を多く展示しています。これは、これまで安城市民ギャラリーに併設する創作実習室で、版画制作のワークショップが多く行われてきた経緯を踏まえたもので、普段から鑑賞や制作で市民ギャラリーを利用されている皆様に、版画作品により親しんでいただく機会になればと特集しました。また、日本画をご紹介する会場では、安城市出身の石川英鳳を始め、中村正義、星野真吾など愛知ゆかりの日本画家を紹介しています。石川英鳳の作品の前では、多くの方が足を止めて話に花を咲かせている様子が見られました。


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↑展示室A 海外作家の作品も展示

 

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↑展示室B 版画の様々な技法による作品を展示

 

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↑展示室C 愛知ゆかりの日本画家の作品を展示


展示期間中は、学校団体鑑賞会や展示室での展示解説会(ギャラリートーク)、子供から一般向けのワークショップなど様々な事業を行います(お問い合わせ:安城市教育委員会生涯学習課文化振興係TEL(0566)75-1151)。先日の20日(日)には、隣接する歴史博物館のロビーで、オペラ歌手を招いてのピアノ伴奏によるコンサートが行われました。プッチーニのオペラ「蝶々夫人」からの曲目など、愛知県ご出身で国内外で大いに注目されているオペラ歌手による歌声に、実に200名を越える方が酔いしれました。その興奮冷めやらぬなか、聴衆の皆様には、展示室に足を運び作品を鑑賞していただきました。


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↑ロビーコンサート(左)テノール宮崎智永 (右)ソプラノ二宮咲子 ピアノ西尾由希 広々とした歴史博物館ロビーに美声が響き渡りました
 

また、展示会場の外には、出品作品の人気投票が行われています。鑑賞した後、どんな作品がお気に入りか、投票者の年代別のシールを貼って投票するものです。一番人気は、いまのところ、久米桂一郎《秋景》のようですが、愛知県ゆかりの鬼頭鍋三郎や石川英鳳の作品も健闘しており、どの作品が安城市民の皆様の一番のお気に入りになるのか最終日まで楽しみです。

 

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↑久米桂一郎《秋景》(油彩1892年)
 

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↑お気に入りの作品の投票


まだ会場をご覧になられていないかたは、是非とも足をお運びいただき、お気に入りの作品を見つけていただければと思います。何度ご鑑賞いただいても無料です。皆様のご来場をお待ちしています。(M.F.)
 

先日6月19日(土)、現在の所蔵作品展に展示されているアンリ・マティスの『ジャズ』について、コレクショントークしました。

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↑コレクショントークの様子

 

マティスの制作において非常に重要とされるこの『ジャズ』は、主に晩年に制作するようになった切り紙絵の手法を用いたオリジナル作品を、1947年にステンシルで印刷して発行した挿絵本です。なかには20点の挿絵があります。

切り紙絵というのは、助手が色を塗った紙をマティスが切り抜き、それを紙の上で構成して貼り付ける手法です。この制作方法は、もともと1910年代のバレエの舞台装飾や、1930年代のバーンズの壁画など、大規模な作品を制作する際に用いられました。その後この『ジャズ』の制作を機に、切り紙絵はマティスの主な制作を担うようになりました。

作品のタイトルは『ジャズ』というタイトルがつけられていますが、もとは『サーカス』というタイトルが考えられており、20点の挿絵のうちの多くが、空中ブランコ、曲馬、綱渡りなど、サーカスを題材にしています。

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↑ 《道化師》(右)、綱渡りをする人物を表現した作品(左)

 

トーク中、「数点の作品には白い空白がありますが、これは何ですか?」という質問がありました。

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↑空白のある作品、右の挿絵は《イカロス》

 

この空白に、マティスは自分で書いた文章を入れました。展示しているのは挿絵だけがセットになった版ですが、画家の手書きの文章が全て入った版もあります。
マティスは切り紙絵の制作と平行して、1930年代からたくさんのデッサンや、デッサンによる挿絵を制作しました。それまで色彩表現を重視していたマティスですが、この時期のデッサンには豊かな表現力が花開いています。

切り紙絵は助手によって彩色され、それを画家が切り抜くという手法なので、マティエール感や、消したり書き足したりした制作の痕跡を残す油彩に比べると、どうしても画家のオリジナルの制作行為が見えにくいものです。『ジャズ』では、そうした切り紙絵の手法に、マティスのみずみずしい筆跡を加えることで、全体としてより豊かな表現を獲得しています。

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↑個人的なお気に入りは、マティスが手書きした図版一覧。個々の作品の図柄とタイトルが記されています。ゆるーいにょろにょろと書かれたような図柄は、なんともいえない味わいがあります。

 

さて、今回のコレクショントークでは、最後に展示室を移動し、アルプやミロのシュルレアリスムの作品が展示されている部屋にご案内しました。アルプやミロの生命体的なフォルムを示す作品と、当時アンドレ・マッソンなどのシュルレアリスムのアーティストともの交流を持っていたマティスの作品には共通性を感じることができます。

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↑ミロとアルプの作品

 

マティスの『ジャズ』は個人的にとても好きな作品です。華やかな色彩構成、有機的なフォルムの重なり、繰り返されるリズミカルな装飾モティーフなど、まさに音楽を聴くような心地で楽しく見ることができます。

マティスは『ジャズ』に添えた手書きの文章のなかで、次のように書いています。

喜びを空のなかに、木々のなかに、花々のなかに見出すこと。見ようとする気を起こしさえすれば花はいたるところにある。

マティスの『ジャズ』のなかに、皆様のちょっとした喜びが見つかればうれしく思います。
最後に、雨が降る悪天候にもかかわらず、このコレクショントークにお越しくださいました皆様、ありがとうございました。まだご覧になられていない方もぜひ!美術館に足をお運びください。
(MRM)
 

「愛知県美術館のブログを読んでいるけど、愛知県美術館って遠いから行きづらい・・・。」と思っていらっしゃった田原市近郊の皆さん、今週末より田原市博物館でサテライト展示が始まります。

サテライト展示とは、愛知県美術館まで来るのが難しい地域の方々にも当館の所蔵作品をご覧いただくため、今年度より実験的に始まった企画です。第一弾である今回は、当館が多数所蔵している北川民次(1894-1989)の作品が田原へと運びこまれました。北川は、田原市博物館で個展開催中の杉浦正美(1926-)の先生の1人なのです。

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↑北川作品の中には、母子像を描いたものが多くあります。

 

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↑焼き物の町、瀬戸をモチーフにした版画のシリーズも並びます。

 

油絵、版画など多くの北川作品が展示されるのですが、見逃してはいけないのは《メキシコ三童女》(1937)でしょう。この作品、破損をさけるために愛知県美術館の外へ出ることはとても少ないのです。(非常に作品の表面がもろく、ちょっとした移動や湿度の変化で影響を受けてしまうデリケートな作品なのです・・・)。そのため、今回のサテライト展示は、愛知県美術館以外の場所でこの作品がご覧いただける貴重なチャンスとなっております。ぜひ、お立ち寄りください。

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↑久しぶりに愛知県美術館の外へ出た三童女さん。独特のぬめりのある表面をご覧ください。

(F.N)

当館が所蔵するジョージ・シーガル(1924-2000年)の立体作品《ロバート&エセル・スカルの肖像》(1965年)が今ニューヨークに行っています!

 

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▲ ジョージ・シーガル 《ロバート&エセル・スカルの肖像》 1965年 油彩・画布、石膏、木製布張り椅子 181.0 x 143.5 x 143.0 cm 愛知県美術館

 

ニューヨークでも指折りの大画廊アクアベラで、「ロバート&エセル・スカル――コレクションのポートレート」という展覧会が開催中で(2010年4月12日-5月27日)、それに出品しています。他の都市の例はよく知りませんが、ニューヨークではある程度のレベル以上の画廊だと、国内外の美術館から作品を借りて企画展をすることも別に珍しくはありません。

 

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▲ アクアベラ画廊。メトロポリタン美術館のすぐ近く、79丁目の5番街とマジソン街の間にあります。

 

ロバートとエセルは現代美術の重要なコレクターだった夫妻で、今回のアクアベラ画廊のスカル展は、彼らが所有していたけれども今は散逸しているいろいろな作品を一堂に集め直そうという興味深い企画です。シーガルの作品はかなりもろいので、貸し出すかどうかについては館内で慎重に議論がなされましたが、展覧会の意義や、単にスカル夫妻蔵であっただけでなく彼ら自身がモチーフとなっている当館のシーガル作品がその展覧会において果たす中核的な役割、また、輸送や展示についての相手方の信頼できる対応などを考慮し、お貸しするという結論に至りました。

 

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▲ 輸送用の箱に収まったロバート像

 

作品の梱包に際しては、当館の保存担当のN学芸員と美術品輸送業者のYさんとYさんとMさんが苦労して知恵を出し合い、さまざまな制約のもとで可能な限り安全な方法を探りました。作品はロバート像、エセル像、赤の絵、ソファーの4ピースから成るのですが、特に注意が必要なのは石膏製のロバート像とエセル像です。立像であるロバート像は、背面の起伏に合わせていくつもクッションを当てて横に寝かせ、比較的固くてしっかりしている胸と太ももの2ヶ所にベルトを締めて固定しました。

 

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▲ 輸送用の仮の椅子に固定されたエセル像

 

衣服の端などあちこちに薄い出っ張りがあり、さらに、足を組んで座っているというかなり複雑な形のエセル像には、ロバート像以上に神経を使いました。ソファーに座って安定している普段の状態になるべく近づけるため、輸送用の仮の椅子を作り、そこに座らせることにしました。そして、グラつき防止のため、ちょうど飛行機の客席のシートベルトのようにして、こちらも2本ベルトを締めました。こうして神経の磨り減るようなエセルの据え付け作業を終えて疲労コンパイした私たちの目には、サングラスをかけてすまし気取った彼女が、「あなたたち、よくやってくれたわね。ありがとう♥」と優しく微笑みかけてくれているように見えたものです(たぶん錯覚ですが)。

 

そして、梱包を終えたシーガル作品全4ピースが、ニューヨークへ向けて旅立っていきました。成田空港やJFK空港での作業の様子などもできれば画像でお見せしたいのですが、セキュリティ上の都合でそのあたりは割愛させていただきます。どうかご容赦を。

 

今回の貸出しで梱包からすべてクーリエとして立ち会った私は、作品の安全のことを最後まで本当に心配していたのですが、みんなで心と力を合わせた結果、無事にアクアベラ画廊での展示を終えることができました。5月末には今度は作品をアクアベラ画廊から持って帰ってこないといけませんが、ひとまずはめでたし、めでたしです。有意義な展覧会にご協力でき、さらには、その作品がその展覧会で中核的な役割を担っているということで、当館としても大変に意味のある貸出しだと思っています。

 

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▲ アクアベラ画廊での展示(照明等は未完了)。壁面や床面が違うので、当館でのいつもの展示とはいくぶん異なった趣を見せています。

 

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▲ スカル展の図録。当館のシーガル作品が表紙になっています。

 

スカル展はアクアベラ画廊(Acquavella Galleries,  18 East 79th Street, New York, NY 10021 USA,  http://www.acquavellagalleries.com)で5月27日まで開催中です(日曜閉廊)。展覧会はまだ始まったばかりですが、さっそくニューヨークの美術界で評判になり、『ニューヨーク・タイムズ』紙にも大きく取り上げられています(http://www.nytimes.com/2010/04/10/arts/design/10scull.html?scp=1&sq=scull%20acquavella&st=cse)。会期中にニューヨークに行かれる方は、ぜひアクアベラ画廊出張中の当館のスカル夫妻の仕事ぶりをご覧になってきてください!
(T.O.)
 

 

2月20日(土)から、豊橋市美術博物館で移動美術館が始まっています。愛知県美術館のコレクションを、広く県民の皆様にご紹介する移動美術館は、今年で16年目にあたり、年に一度、知多半島、三河山間部・海浜部などの県内各地で開催してきました。今年は、「ひかり・いろ・かたち」をテーマに、愛知ゆかりの作家を含む近代日本洋画から現代美術までの洋画、彫刻、日本画の国内外の作品74点をご紹介しています。

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↑ 会場入口

近代の洋画を拓いた高橋由一を始め、明治期に外光派として新しい絵画の作風を広めた黒田清輝、久米桂一郎などの近代日本洋画家、抽象的な表現を追究した斎藤義重や元永定正、現代の日本画壇を代表する平山郁夫や東山魁夷、豊橋ゆかりの中村正義や高畑郁子など、また海外作家では詩情豊かな作風で知られるパウル・クレーや幾何学的な表現で描き続けたアド・ラインハート等々、豊橋市美術博物館の開館30年を記念して、通常よりも規模を拡大した開催となっています。

(→出品作品リストはこちら)


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↑第1展示室

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↑第2展示室

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↑第3展示室


愛知県美術館と豊橋市美術博物館の交流は古く、豊橋市美術博物館の開館1周年記念(1980(昭和55)年)に、現在の愛知県美術館の前身である愛知県文化会館美術館の所蔵作品による展覧会を開催したことにさかのぼります。以後、1989(平成2)年までほぼ毎年(1988年は開催せず)、愛知県美術館のコレクションをご紹介してきた経緯があり、今回は、実に20年ぶりの開催となりました。今回の展覧会には、木村定三コレクションなど最近の収集作品まで展示しておりますので、以前の展覧会のご記憶があるかたにも、新しい印象を持って愛知県美術館のコレクションをご覧いただくことができるでしょう。

さて、展覧会初日には、愛知県美術館長と豊橋市美術博物館長による記念対談が行われました。記念対談は、愛知県美術館長が、愛知県文化会館美術館時代に始まる作品収集の歴史を作品をご紹介しながらお話し、時折、豊橋市美術博物館長がご質問されるといった形式で進められました。愛知県美術館のコレクションが、理念をかかげ美術館を建設した桑原元知事の知見により始められたという話に、あらためてこれまで関わってきた方々の努力に感謝したいと思いました。
展覧会場では、今回の出品作家で、豊橋市在住の日本画家の高畑郁子さんの姿がありました。高畑さんは、記念対談の会場でも、最前列の席で、熱心にご聴講されていました。

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↑講演会風景

 
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↑ご自身の作品の前のお元気な高畑郁子さん


会場外には、子ども向けのコーナーを設置しています。キッズガイドやワークシートなどの鑑賞補助資料やぬり絵をご用意しています。実は、今回の展覧会にあたって作成した2種類のキッズガイドは、昨年12月から1月に数回わたって、豊橋市の教員の有志の方々にお集まりいただき、ご意見をいただいて作成したものです。教員の方々の現場での経験が活かされた内容で、クイズや質問形式に楽しんで読んでいただけることでしょう。お子様にはお手にとって、会場を回っていただければと思います。ご協力いただいた先生方どうも有難うございました。
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↑キッズコーナー 出品作品のぬり絵もできます。

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↑有志の教員による、キッズガイド作成ワーキンググループ


移動美術館では、これから様々なプログラムが開催されます。平日には、学校団体の児童・生徒に、愛知県美術館の学芸員が解説を行っていますが、一般の方にも7日(日)、14日(日)の午後2時から、愛知県美術館学芸員と豊橋市美術博物館学芸員の対談形式による、会場での解説会を開催します。こうした形式での初めての試みに、いまから担当学芸員は少し緊張気味です。
また、春休み期間中には、ロビーコンサート22日(月・祝)も開催します。音楽に関連した出品作品に合わせて、プロのチェロ奏者による演奏が行われます。小学生対象のワークショップ(20日(土)、25日(木))も予定されており、盛りだくさんです。詳細については、ウェブサイトやあるいは会場の豊橋市美術博物館に直接お問い合わせをしてご確認のうえ、ご参加ください。(電話0532-51-2882)
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↑グッズ売れ行き好調  図録、絵葉書、ストラップなど

開会してすぐの週末2日間で来館者が1000人を超え、この一週間でも3200人余りの方の入場者となり、豊橋市民の皆さんの高い関心がうかがわれます。何度ご入場されても無料ですので、春めいてきた豊橋公園のお散歩の折にでも、是非ご来館ください。

(M.F.)

愛知県美術館のお宝は、なんといってもグスタフ・クリムトの《人生は戦いなり(黄金の騎士)》です。ということで、ウィーンに生まれてウィーンで活躍したクリムトにゆかりの地を何回かのシリーズに分けてご案内しましょう。

クリムトは父エルンストと母アンナの2番目の子供として1862年にウィーン郊外で生まれました。クリムト関係の本やカタログの年譜を見ると、生まれた所は「リンツァー通り247番地」と記されています。

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↑かつての生家

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↑生家にかつてつけられていたプレート

今でもこの通りや番地は存在するのか、存在するとしたら今どうなっているのかを確かめてきました。

まずはインターネットの地図検索で ”linzerstrasse 247 wien” と入力すると、あっという間に場所が特定できます。今でもその通りや番地が存在していることがパソコンで確認できました。最寄り駅は地下鉄のウンター・ザンクトファイトだということもわかります。市街地からはU4(地下鉄4号線)のヒュッテルドルフ方面行きに乗り、有名なシェーンブルン宮殿のあるシェーンブルン駅の次の駅になります。カールスプラッツ駅からは7番目です。ここまでわかればあとは実際に行ってみるだけです。

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↑ウンター・ザンクトファイト駅
 ウンター・ザンクトファイト駅を出たら左に向かいます。地下鉄と平行して流れる大きな側溝のような川を渡り、電車の高架を二つくぐり、少し行くとリンツァー通りと交差します。一昔前の写真を見るとリンツァー通りには路面電車が走っており、今でも路面電車が通る広い通りです。さて、交差点を左折して少し行くと、ありました! 予想していた通り、壁に生誕地を示すプレートが付いていました。

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↑リンツァー通り、オレンジの建物がクリムト生誕の地

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↑「リンツァー通り247番地」の表示と生誕地を示すプレート

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↑プレートの中央にはGVSTAV KlIMTの名前が彫られ、下の部分には「ウィーン分離派の協同設立者の画家グスタフ・クリムトが1862年7月14日に生まれた家が此の地に建っていた」と記されています。

名前の文字も地の装飾もクリムトっぽいでしょ。単に活字を並べただけの素っ気ないかつてのプレートとは一味違いますね。クリムトの名前はサインをもとにしたもので、地の渦巻き模様や鳥のモチーフは〈ストックレー・フリーズ〉から採ったのでしょう。
生家は1968年に取り壊され、現在は別の建物が建っていますが、プレートがクリムトの生誕の地であることを示しています。しばらくあたりをうろうろしてみましたが、そこに暮らしている人たちはみな、このプレートを見ることもなく通り過ぎていきます。よほど物好きな人くらいしかここを訪れることはないのでしょう。

(HF)

*モノクロ画像出典:クリスティアン・M・ネベハイ『グスタフ・クリムト ドキュメンテーション』ウィーン、1969年。

皆さんにコレクションの魅力をお伝えしよう!と、昨年から始まったコレクション・トーク。
第4回は、現在展示されている西洋絵画から数点と写真についてお話しました。作品の背景や別の作品との関係も含め、個々の作品をできるだけ掘り下げられるようにご紹介しました。
西洋絵画については、普段はクリムトやピカソなどの陰に隠れて、あまり取り上げられることのないフランス人画家のラウル・デュフィ、アルベール・マルケ、ジャン・デュビュッフェの作品をご説明しました。デュフィとマルケはフォーヴィスムの画家仲間、デュフィとデュビュッフェは同じル・アーヴル出身です。

デュフィの1906年に描かれた《サン=タドレスの浜辺》。

彼はこの浜辺の眺めを何枚もの作品に描いています。それらの作品を見比べていると、ちょっとした発見が!当館の作品では浜辺沿いの道を2人の通行人が歩いています。が、よく見ると画面右下に黒い足が2本!!これは別の作品の傘をさした人物の表現と似ています。気に入らなかったのか、構図上の問題なのか、デュフィはこの人物を描いた後、上から塗りつぶしてしまったようです。

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↑画面右下を見てください!

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↑緑の絵具のしたから足がみえる!?

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↑これはデュフィがサン=タドレスの眺めを描いた別の作品に登場する人物

上の消されてしまった人物の足と似てるような・・・

 

次に写真の展示室ですが、「芸術家たちの姿」と題し、アーヴィング・ペンによる芸術家のポートレート、アンディ・ウォーホルのセルフポートレート、制作する芸術家たちの姿をとらえた大辻清司と安斎重雄の写真が紹介されています。

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↑アーヴィング・ペンの写真 右からフランシス・ベーコン、ピカソ、ヘンリー・ムーア、ジャスパー・ジョーンズの肖像


特にアーヴィング・ペンの肖像写真は、さすがファッション写真家!どの作家も非常にかっこよく、ダンディです。特にピカソの肖像は絶品で、口元は襟で、額は帽子で隠れ、右目は影になって見えず、左目だけが大きく見開かれています。鋭い眼光とその周囲に刻まれた深いしわは、天才画家の強い個性を、緊張感を持って伝えます。


またフランシス・ベーコンの肖像は、通常何もない無機質な背景にモデルを置いて撮影するペンには珍しく、背景の壁に何かが貼ってあります。ひとつはレンブラントの自画像が掲載された印刷物のようです。

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↑ベーコンの参照資料に掲載されていたレンブラントの自画像

ベーコンは過去の巨匠たちの作品を自らの作品に引用して制作しました。そのため、このレンブラントの印刷物のように、絵の具で汚れたりしわくちゃになった資料が、彼のアトリエに山のようにありました。ペンの写真は、レンブラントとベーコンの自画像という2重構造になっています。

さらに、ベーコンがなくなった後、アトリエからペンが撮影した写真が発見されました。

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↑ベーコンのアトリエから発見された写真

面白いことに、この写真は、レンブラントの印刷物のように、絵の具が飛び散りしわだらけになっていました。ペンの写真はもはや肖像写真ではなく、レンブラントの印刷物と同じ資料になってしまったわけです。そこには自画像というイメージではなく、資料という物質としての2重構造が示されているようです。

作品には制作過程があり、作家の意図があり・・・と、さまざまな情報が隠されています。鑑賞するだけでは分からない情報を、少しでも皆さんにお伝えし、作品や作家、美術にもっともっと関心を持っていただけるようにしたいと思います!
今回のコレクション・トークにご参加くださいました皆様、ありがとうございました!

(MRM)

 企画展の陰に隠れがち(?)な所蔵作品展ですが、当館では「常設展」という言葉を避けて、企画展ごとに大幅な展示替をしています。今年度最後、第5期の見どころをご紹介します。

 幸い「大ローマ展」のお客様は7割以上が所蔵品展もご覧です。入口でお迎えするのは、19世紀末のアカデミー系画家が古代ギリシアへの憧れを描いた作品。ギリシア・ローマ文化の光が近代にも輝いていることをお感じいただけるでしょう。

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↑エドワード・ジョン・ポインター《世界の若かりし頃》1891年

展示室4「日本画―冬から春へ」
 新年は日本画から。戦後から平成にいたる作品で、冬と春の風物を題材にしたものを集めています。雪景色から桜までの季節感とともに、作者や年代による日本画表現の変化をご覧いただきたいと思います。1978年作の山本丘人《幻雪》は、写生画のようでありながら雪景と満開の梅が両立し、さりげなく松竹も組み合わせています。
 今回は展示室8の木村定三コレクションでも「京都の近代日本画壇」を特集。こちらは明治から昭和前半までの掛軸を主としています。

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↑山本丘人《幻雪》

展示室5 20世紀の絵画
 一番大きな展示室はコレクションを代表するクリムトやピカソから始まりますが、今回は特に抽象絵画をみる楽しさをお味わいいただきたく、20世紀後半からのスペースを広くとりました。絵具を盛上げた材質感や大きな色面の力が空間に広がっています。

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↑展示室5後半部

 昨年度に収蔵した現代日本の大型絵画3点を初披露。吉田作品の黒は黒鉛の粉末を手指でなすりつけて描いたもの。野田はキャンヴァスを2重に張り、黒っぽい形は画布を切って三角形に折り返しています。絵に近寄ってもご覧ください。

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↑吉田克朗《触 “湖底”?13・14》(1992)と野田裕示《WORK-984》(1995)

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↑中上清《無題》(2007)
遠山や雲の向こうから光が射してくるような幽玄な空間に、多くのお客様が足をお止めです。

 展示室6 渡辺豪[白い話 黒い話]
 あいちトリエンナーレのプレイベント「現代美術の発見」第6回の渡辺豪さんはコンピュータ・グラフィックによるアーティスト。恋愛感を話す女性の声に、唇や髪も白いCG女性の動画をつけた《emo》と、暗闇から浮かび上がる書棚の本の背表紙による作品が、不思議な世界へ誘います。

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↑展示室6 渡辺豪[白い話 黒い話]

展示室7 「写真―芸術家たちの姿」
 美術作家の顔って案外知られていないもの。右からフランシス・ベーコン、ピカソ、ヘンリー・ムーア、ジャスパー・ジョーンズです。『ヴォーグ』誌で有名だった写真家アーヴィング・ペンが撮った芸術家たちはかっこいいですね。日本の写真家安斎重男や大辻清司が1970年の第10回東京ビエンナーレなどを撮った写真も、あいちトリエンナーレへの期待を盛上げてくれます。

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↑展示室7 「写真―芸術家たちの姿」

16日(土曜)11時から森美樹学芸員による所蔵作品展ギャラリー・トークがありますので、ぜひご参加を。
                                   

 (TM)

コレクション・トーク

2009年11月14日

 愛知県美術館では、企画展ごとにギャラリー・トークを行っていますが、所蔵作品展に関するギャラリー・トークも「コレクション・トーク」と題して今年度から始めています。

 11月14日(土)に本年度の3回目として、今回の所蔵作品で特集展示をおこなっている『川瀬巴水の版画』を中心にお話ししました。

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 はじめに、展示室4で当館が誇るグスタフ・クリムトの《人生は戦いなり》を含めた20世紀の西洋絵画コレクションと当館の収集方針についてお話しし、次の展示室5では明治以降の日本の洋画家の多くがフランスに学んだことを黒田清輝、久米桂一郎や梅原龍三郎らを取り上げてお話ししました。実はここでのお話に黒田らが帰国後結成した白馬会の話を少ししました。それは、今回のお話の中心である川瀬巴水が日本画家の鏑木清方に入門する前に、白馬会葵橋洋画研究所で学んだ経歴のあることとつなげたかったからです。

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 当館の川瀬巴水のコレクションは2006年に小川潤三・郁子夫妻から寄贈されたもので、今回はその中から39点の作品をご紹介しています。

 近年川瀬巴水らの新版画は注目度が高くなっています。浮世絵版画の伝統を引き継ぐ巴水の精緻な木版画は、多いもので40版も使って摺られています。その結果深い色合いの仕上げを堪能することができます。ぜひ会場へお出かけになってごらんください。
(ST)

 愛知県美術館の所蔵品展示のお話です。愛知県美術館では常設展という表現をしていません。それは展示されている作品が固定的ではなく、企画展の会期にあわせて、大幅な展示替えを行い、そのつど特集展示やテーマ展などもしているからです。ルーブル美術館のように、モナ・リザはこの展示室、といった固定的な展示ができる作品ばかりになればうれしいのですが、また、展示室の数もたくさんあればいいのですが、そういうわけにも行きません。作品保存の観点からも、日本画のように出しっぱなしにすることが難しい作品が多いのも、展示替えを必要とする理由のひとつでもあります。
 さて、現在の展示(12月23日まで)ですが、所蔵作品展とはいいながら、愛知県美術館の所蔵品でない作品が、たくさん展示室に並んでいます。どうしてかって?それは、現在開館20周年を過ぎて改装工事をされている小牧のメナード美術館の作品を預かっており、そのなかからの選りすぐりを、愛知県美術館の所蔵品と一緒に展示しているからです。
 以前にも、東京国立近代美術館が工事のときにその所蔵品を預かり、また三重県立美術館の工事のときも作品を預かって、愛知県美術館の所蔵品展示室で公開しました。作品を預かることになるのは、やはり愛知県美術館の日ごろの活動と収蔵設備の充実、他館との人的ネットワークが大きな要因でしょう。


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 今回も同じように普段ではなかなか見ることのできない、組み合わせで展示室を一段と豪華にしています。たとえば、愛知県美術館が誇るクリムトの《人生は戦いなり》の壁を隔てて隣には、メナード美術館の白眉、ジェームス・アンソールの《仮面の中の自画像》が見られますし、近代日本洋画の展示室では、中村彝の俊子像が3点(愛知県美術館の《少女裸像》、メナード美術館の《婦人蔵》、《少女像》)もそろい踏みをしていたり、小出楢重の典型的な静物(愛知県美術館蔵)と裸婦(メナード美術館蔵)が、あるいは、安井曽太郎の油の乗った時期の風景画(《承徳喇嘛廟》愛知県美術館蔵と《焼岳》メナード美術館蔵)が競演しています。

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 さらに、前室2には舟越桂の作品《肩で眠る月》(愛知県美術館蔵)と《長い休止符》(メナード美術館蔵)が静かな雰囲気を醸し出しています。
 

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 ロビーにあるのはメナード美術館の守護神?マリノ・マリーニの木彫の代表作《馬と騎手(街の守護神)》です。ちかくにある愛知県美術館のルイーズ・ニーヴェルソン《漂う天界》の黒とよい対照を成しています。
 このように普段の見慣れた愛知県美術館の所蔵品が、比べて見られる作品が一緒にあることで、また別の側面を見出すことができる展示になっています。企画展のファイニンガー展とともにこの機会に是非、所蔵作品展も楽しんでください。

(ST)

メナード美術館 リニューアル・記念特別展
島田鮎子―たおやかな色と形
2009年4月25日―6月28日

移動美術館

2008年11月21日

 11月20日から、移動美術館が始まりました。今年は武豊町のゆめたろうプラザ(武豊町民会館)で、今月30日まで、この連休中も開催しています(25日(火)は休館日なのでご注意を)。愛知県美術館から離れた地域で、多くの方に鑑賞の機会を持っていただくために、平成6(1994年)から始まったものです。県内各地、三河山間部や渥美半島等々でおこなってきましたが、知多半島には、記念すべき第一回に南知多町で開催して以来、実に15年ぶりに戻ってきました。

 これまで、体育館や地域の美術館で開催してきましたが、今回の会場は、コンサートホールも使うという初めての試みで、安全にどうやって展示するかが最大のポイントとなりました。何度となく会場に足を運んで、武豊町の方のお知恵も拝借して、プランを練りました。また展示する作品も、ホールという性格に合った、舞台芸術に関連した作品も並べています。今回は照明も舞台照明を使用してとのことで、もっていった彫刻たちも、華やかな舞台照明にあてられて、ドラマチックに見えてきます。特に、ベートーヴェンの肖像は、本当はこういうコンサートホールに飾られたかったんだという声が聞こえてきそうで、その場の雰囲気ににぴったり合っているのです。

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 またもう一つの会場のギャラリーは、少々台形というスペースなのですが、グレーの壁に小品の絵画と彫刻たちが、しっくりとなじんでしまい、驚きました。展示室の外には、地元の学校の先生方の発案で、「あなたの選ぶベストワン」のコーナーがあります。武豊町民会館に飾りたい作品は?家で飾りたい作品は?を選ぶ人気投票です。このまま飾っておいてもいいような気がしてくるほど、作品たちがなじんでいるので、投票にまよってしまうかもしれませんが、ぜひ投票してみて下さい。また、先生がたが、展示作品の1点を使っての、子供向けのぬり絵も用意してくださり、子どもたちのぬり絵も会場をにぎわしています。こちらの作品もぜひ楽しみにご覧ください。

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 期間中はギャラリートークやワークショップなど盛りだくさんで、お近くの方はもちろん、なんども足を運んでみて下さい。おなじみのコンサートホールやギャラリーがいつもと違う顔をして待っています。
(MF)

 企画展ごとに開催している学芸員のギャラリー・トークを、所蔵作品展でもスタートしました。これまでも特集展示のおりや学校などの団体様向けにはよくやっているのですが、ふだんの美術館にももっと親しんでいただきたいとの願いからです。第1回は11月14日(金)の夜間開館時におこないました。

 開催日時について、美術館友の会会員の皆さんへはお知らせできましたが、一般の方々への告知はHPの「イベント」→「その他のイベント」内でしたので、ほとんどお集まりいただけないのではと・・・・。意外なことに(?)30人以上のお客様がおいでになり、感激とともに珍しくドキドキ。

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 今回はいくつか小道具を用意してみました。高橋由一の《不忍池》では私が上野で撮影した実景写真をご披露。無風状態の写真と比較すると、絵の上方では左から右に、下方では右から左に風を吹かせていることに気づかれます。

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▲高橋由一 《不忍池》 油彩・画布、1880年頃

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 赤と緑の色の交響が美しい、小出楢重の《蔬菜静物》では、野菜や果物が黒塗りのテーブルに映った様子も見どころです。この作品図版の蔬菜本体に切り込みを入れて折り上げ、テーブルの縁や壁も折り曲げると、立体画像のできあがり。ミュージアム・ショップの絵葉書(70円)で作れますのでお試しあれ。

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 このほか、ファイニンガー展に関連させての特集〈キュビスムとその周辺〉の部屋では、「さまざまな方向から見た物の形を、一つの平面上に重ねて描く」ということを感覚としてご理解いただこうと、8つの立方体が重なる〈四次元立方体〉の模型を透明シートで作ってみました。

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 初回としては、お客様とご一緒に楽しい時間が過ごせたように思います。第2回は12月6日(土)午前10時30分からですが、担当学芸員がかわります。お話しする作品の選定や内容もガラリと変わるはずですので、そうした違いも含めてご来館の楽しみに加えていただければ、と思います。
(TM)

 今、所蔵作品展の展示室8で特集展示「受け継がれる木村定三コレクション」を開催しています。これに関係する3つの催しが終わったところですが、その裏話をちょっぴりさせて頂きます。

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 いやあ、シンポジウムというのは、やっぱり難しい。これで2回目になりますが、今回もまた担当としましては不完全燃焼で終わってしまいました。でも皆様から伺うお言葉やアンケートには、熱心なご感想やら励ましの言葉が多く、普段はあまり紹介されない美術館の裏方活動というか基礎研究の部分に、こんなに興味を持っていらっしゃる方々が多いのだなあということを、今回もまたつくづく感じたのでした。
 ただこの手のものをまともにやると、ただ「小難しい話」になってしまい、またどうしたって「地味」であることには間違いなく、それを少しでも「分かりやすく」「面白く」というのが、毎回、担当が苦しむところなのですが・・・。ああ、やっぱり、難しい。
 

 前回のシンポジウムで何より残念だったのは、日本画の独特の技法、裏彩色(うらさいしき)や裏箔(うらはく)といった技法についてお伝えしきれなかったこと。もちろん講師の先生は、これ以上はないだろうという写真などをご準備下さいましたが、やはり写真では限界があり、またそれを見越して見本までもお持ち下さったのですが、それはそれで極わずかな方にしか見て頂けない・・・、そこを担当としましては、なんとかしたいという思いにかられたのでした。今回の特集展示ではサンプル資料を展示しました。日本の伝統的な顔料そのものの美しさや、それを絹の表と裏と両面から彩色した「透ける」色の重なり・・・その立体的な色彩の妙を、実際に見て頂きたいと思ったからです。その上で作品をご覧いただけると、また違った目で作品の美しさ、神秘さに触れて頂けるのではないでしょうか。サンプルを制作して下さっているところも、一部ですが撮影させて頂きました。またいずれ、そういうものも参考資料として展示に取り入れていこうと思っています。

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  さて、今回の展示で担当が一番ふんばったのは、作品とお客様の距離。これはいささか自慢したいことなのです。なんたって作品が展示ケースのガラスから10cmの距離にあるのですから!! 特に今回のシンポジウムのテーマにもなった阿弥陀三尊来迎図の衣類を表現している「きり金技法」は、虫眼鏡で見たって「凄い」の一言。この、とてもこの世の人の手によるものとは思えない精緻なるものを、展示ケースの奥の壁に展示したって、とても見ることはできません。だから担当はまず展示の仕様に精一杯の知恵を絞りました。でも・・・、それより何より語りたいのは、展示の前のガラス磨き。これだけ作品が近いと日頃はあまり気にならない程度のガラスの曇りも致命的です。だけどこれがこれが・・・!! 最初はもちろん普通にワイパー方式。だけど寄る年波か、段々と腕が上がらなくなってくるのです。だったら今度は両足開きのガニ股スクワットで!! それこそ髪を振り乱し、なりふりかまわず、執念の鬼婆の如く! ああ、こんな姿はとても亭主、子どもにも見せられないわあ・・・と思っていたら、ガラスの向うで先輩学芸員がニコニコ手を振っているではないか。「力、入ってるねえ」。「うー、なんのこれしき、主役は作品よお。学芸ではないのよお」なぞと訳のわからないことを口走りながら磨くこと1日半。腰は痛いし、時間は迫るし、でもやっぱり「最高の状態で見て頂きたい!!」。おかげで(??)、ちょっとどこの博物館でもやってない、迫力の展示になったと悦に入っていますが、いかがでしょうか? あっ・・・いえ、ガラスではなく作品を見てくださいね。

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 スライドトークの方も非常に盛会。竹上先生の「使える糊になるのに10年、1人でできる職人になるのが10年、だから弟子入りして最初の年に作った糊をもらって、暖簾(のれん)わけさせてもらう」という話には、会場からため息が。また豊橋市出身の加藤先生には「頑張って下さいね」と、逆に先生を励ますお客様もいらっしゃり、シンポジウムとはまた違う小規模の会ならではの良さを再認識致しました。

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 スライドトークはもう一度、11月29日に行われます。

(NN)

 ただ今開催中の「タイムスケープ」展には、さりげなく名品の数々が展示されています。サム・フランシスシャガールから、奈良美智杉本博司などのコンテンポラリー・アーティストまで幅広く「時間」というテーマのもとでご紹介しています。
 とは言え、いくら素晴しい作品でも「どこがどう良いのかわからないんですが…」という人は必ずいるもの。
 そこで特別に「アートの切りふだ」という美術鑑賞キットを作ってみました。

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  「現代アートってなんでこんなに難しいの?」「自分でも簡単に作れてしまいそうな作品があるのはどうして?」といった疑問に、カード形式で分かりやすく答えています。しかもバック型で持ちやすい!
 全員に無料で配布しているので、ぜひ、手にとって楽しんでください。

(FN)